表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女と魔性と魔宝の楽園~追放された転生貴族の自由気ままな【蒐集家】生活。ハズレ前世に目覚めた少年は、異世界で聖剣もモフモフも自分の城も手に入れる~  作者: 御鷹穂積
第二部・第二章◇色褪せぬ風景画

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/68

第55話◇思い出の絵の中





「まぁまぁ、あの絵をご覧になりに?」


 慎ましやかな木造家屋を訪ねると、穏やかな老婆が迎えてくれた。

 健全に歳を重ねた者が放つ気品のようなものを纏うその女性は、名をメラードといった。


「はい。私は珍しい品を探して旅をしているのですが、とある町で噂を聞きまして」


「そうなのね。以前、訪ねてきたどなたかから聞いたのかしら。どうぞ入って」


「失礼します」


 家の中は整頓されていて、窓から暖かな陽射しが差し込んでいた。


「ふふ、綺麗なメイドさんをお連れなのね」


「いやぁ、可愛すぎるメイドだなんて、そんな」


 シュノンが照れている。


「そちらのかたは? とても引き締まった体をしてらっしゃるし、護衛の方かしら」


「はい」


 マーナルムが言葉少なに頷く。


「お茶を淹れましょうか? それとも、早速絵を?」


「では、よろしければ絵を」


「よほど楽しみにしていたのね。もちろんお見せするのは構わないのだけれど、あの絵を売ることはできないの」


 メラードが申し訳なさそうに言う。


「承知しました」


 案内されたのは、寝室のようだった。


「人様に寝室を見られるのは恥ずかしいのだけどね、ただ、移動させるのも嫌でねぇ」


 照れたように笑う老婦人。

 朝起きた時と夜寝る前、絵を眺めるのが好きなのだという。


 場の空気が和むが、俺はそれよりも絵に意識を引き寄せられていた。

 イーゼルに架けられたその絵は、風景画だった。


 湖のほとりを描いた、穏やかな雰囲気の絵。


「昔、一度だけ夫と旅行に行ったのだけど、その時の湖がとても綺麗でねぇ。私があまりに言うものだから、あの人が描いてくれたの」


 旅行というのは、とにかく金がかかる。仕事を休むわけだからその間は無給になるし、庶民には敷居が高い。


 夫婦の旅行も、何かの記念に奮発したものなのだろう。


「優しい旦那さんですねぇ」


 シュノンが嬉しそうに言う。他人のことでも我が事のように喜べるのは、シュノンのいいところだ。


 先ほどのプロポーズ騒ぎでは、祝福よりも驚きがきてしまったようだが、それは俺の所為。


「ふふ、ありがとう」


 メラードにとって、特別なのはこの絵の方だろう。


 だが正確には、魔法具は描かれた絵ではなく、キャンパスのようだ。


 ――『旅情のキャンバス』。

 ――記憶の中の風景を描くと、その中に入れる。

 ――描き手にとって大切な思い出であるほど、絵の中の世界は鮮明になる。

 ――このキャンバスは木枠から外れず、また劣化してしない。

 ――雨に一時間晒すことで、絵が消える。

 ――希少度『A-』


「この絵の中に、その、入れるのですか?」


 マーナルムが尋ねると、メラードは微笑んだ。


「信じられないわよねぇ。私も、初めて入った時は夢かと思ったもの」


「旦那さんから、絵のことは聞かなかったんですか?」


 シュノンが不思議そうに言う。


「そうなの。あの人も知らなかったのかもしれないわねぇ」


 彼女の夫がいかなる手段でこれを手に入れたのかは分からないが、俺は知っていたのではないかと思う。

 ただの勘なので口にはしないが。


「メラードさん、入ってみてもよいですか?」


「えぇ、もちろん。扉をくぐるように、まっすぐ進むだけで入れるから、どうぞ」


「……主殿、ここは私が」


 俺が一歩踏み出す前に、マーナルムが主張する。

 メラードを疑っているのではなく、得体のしれないものの中に俺を先に入れたくないのだろう。


「わかった。頼むよ」


「ハッ」


 マーナルムが一歩ずつ絵に近づいていく。

 このままイーゼルに激突してしまうと思った刹那、彼女の姿が絵に吸い込まれるようにして消えてしまった。


「わっ、マナちゃんが消えてしまいました!」


「見ろ、シュノン。マーナルムは消えていない」


 絵に変化が生じている。

 風景だけだったキャンバスに、白銀の長髪をした美女が描かれていた。


 しかもその美女は、動いている。

 しばらくすると、絵の中からマーナルムが出てきた。


「どうだった?」


「その……直接ご覧になっていただくのがよろしいかと」


 マーナルムは中で見た景色を上手く表現できないようだ。


「それではメラードさん、失礼します」


「えぇ、楽しんで」


「シュノンも行きますよー!」


「私はここで待っています」


 絵の外に仲間が一人は残っていた方がよいだろう。

 俺とシュノンは頷き、絵に近づいていく。


 特別、絵の中に入る感覚のようなものはなかった。

 ただ歩いていただけなのに、急に景色が切り替わったような。


 気づけば、俺たちは絵の中にいた。


「……す、すごいですねぇ」


 シュノンが目をぱちくりしている。


「そうだな、これはすごい」


 絵の中とは言うが、現実と遜色ない風景が広がっている。

 まるで空間転移でもしたかのようだ。


 風も吹くし、鳥は囀り、湖面は揺れ、木の葉を踏めば音がする。

 ただ一点、絵の中にもキャンバスがあった。


 こちらには何も描かれておらず、そこに触れれば外に出られる。


「ここの水を飲んで外に出たら、どうなるのでしょう?」


「胃袋の中から水が消える。そもそも、絵の中の世界で摂取したものは吸収されない仕組みのようだ」


 呼吸に関しては、両世界のキャンバスを通して、空気を取り込んでいるようだ。


「なるほど~。では、この絵の中って、どれくらいの広さなのでしょう」


「それは……いや、試してみたらどうだ?」


「そうですね! シュノン、ちょっと走ってきます! とりゃー!」


 シュノンが走り出し、すぐに姿が見えなくなる。

 俺から見て左側に向かって走り出したシュノンだったが、しばらくして、俺の右側から彼女が戻ってきた。


「とりゃーーーーー! って、あれ?」


 シュノンが俺を見つけて立ち止まる。


「わかったか?」


「……端っこと端っこが、繋がってます?」


「そうだな」


 絵に描かれた世界の両端をAとBとして、Aから先へ進もうとすると、Bに飛ばされる。逆も同じだ。閉じた世界をぐるぐる回ることは出来るが、それだけ。

 真贋審美眼ではそういった詳細も分かるのだった。


「もう一つの世界と呼ぶには狭いが、思い出を振り返るには充分すぎる」


「ロウさま、この絵を蒐集するんですか?」


 シュノンが少し不安そうな顔をする。


「いや、これは俺が持つべきものじゃない。体験できただけで、よしとするさ」


 蒐集欲は刺激されるが、これは前世の影響。

 ロウという現世の理性で、これを抑え込むことはできる。


「さすがロウさまです!」


 シュノンがニパッと笑う。


「いい景色だが、俺たちの為の風景じゃない。そろそろ戻るか」


「そうですね」


 白いキャンバスに触れると、俺たちはメラードの寝室に戻った。

 のだが……。


「な、なんだお前達は……!」


 小太りの偉そうな男が、俺とシュノンの姿を見て驚いている。


 一体何があったというのか。


 ◇


「……申し訳ございません、主殿。どうやらこの村の代官のようです」


 マーナルムの端的な説明は、とても助かる。


「お前の所為ではないさ」


「何を話している! どうやってこの絵の存在を知った!」


 口から唾を飛ばしながら叫ぶ男の隣には、護衛と思われる剣士が控えていた。

 マーナルムの相手にはならないだろうが、万が一にもシュノンやメラードに危害が及ばぬよう警戒する。


「申し遅れました。わたくし、クロウと申します。商人をしております」


 クロウというのは、数ある偽名の一つだ。前世クロウ=ハイヤマからとった。


「商人だと!? メラード貴様、儂の申し出を断っておいて、このような輩に絵を売るつもりか!?」


 どうやらこの代官は、メラードから絵を買おうとして断られた過去があるようだ。


「いいえ、この御方はただ絵を見に来ただけですよ」


「その通りです。亡きご主人の愛が込められた、このような品を金に換えるわけには参りません。一目見られただけで充分です」


「ふん! 商人にそのような慎みがあるものか! おい、こいつらをさっさと追い出せ!」


 後半は剣士への命令のようだ。

 剣の柄に手を伸ばした剣士だったが――。


「抜けば、我々も防衛しなければならない。よろしいか?」


 マーナルムが低い声で言うと、剣士の動きがピタッと止まった。


「お、おい! 小娘の脅しに何を動じておる!」


「……代官様。剣を抜かぬことが、我々が無事に帰る唯一の方法です」


 剣士の額には冷や汗が浮いている。

 代官と違い、マーナルムの殺気を感じ取るくらいの能力はあるようだ。


「こ、こんの役立たずが!」


 自分の面子が潰れたと思ったのか、燃えるように顔を赤くした代官だが、剣士は騒ぐだけの上司よりも目の前のマーナルムを恐れていた。

 剣士が動かぬと分かると、代官はメラードを睨みつけた。


「メラード! どのような値をつけられても、その絵を売るでないぞ!」


 捨て台詞のように吐くと、乱暴な足取りで家を出ていく。


「ごめんなさいねぇ。代官様は、どうにもこの絵をお気に召したようで、何度もやって来るの」


「ずっとプンプンしてて、困った人でしたねぇ」


「……主殿への無礼な態度、このような場でなければ血祭りに上げていたところを」


 マーナルム、怖いぞ。


「しかし、あの様子だと何をしでかすか分かりませんね」


 俺の言葉に、メラードが柔らかく微笑む。


「ふふ、心配してくれるのね。でも大丈夫よ、私が死んだら絵は譲ることになっているから。代官様も、無体はなさらないわ」


 なるほど、そのような取引を持ちかけることで、あの代官から絵を守っているわけか。

 しかしあの代官の様子を見るに、そこまで抑制が利く性格とは思えない。


 だがその場で何ができるわけでもない。

 俺たちはメラードの家をあとにする。


「今日はありがとうございました」


「いいのよ。あの絵のおかげで、この寂しい老婆のもとを訪ねてくれる人がいるのだから、むしろ嬉しいわ」


「シュノン、また来てもいいですか?」


「もちろん。いつでも来て頂戴」


 俺たちはそのまま村を出た。


「マーナルム、誰かにメラードさんの家を見張らせてくれ」


「承知いたしました」


「……ロウさまは、あの代官さんが何かすると考えてるんですか?」


「シュノンも、信じてはいないだろ?」


「……ですね。全部自分の思い通りにならないと気が済まない、という感じでした」


 シュノンは善良で心優しいが、貧民窟育ちなので厳しい現実も承知している。

 決めつけはよくないが、警戒して損はあるまい。


「主殿。村の監視は私にお任せいただけないでしょうか?」


 俺とシュノンの会話で、マーナルムはメラードが心配になったようだ。


「わかった。何かあったら、メラードさんを頼む」


「ハッ」


「それと、これを渡しておこう。何かあったら、すぐに連絡を」


 俺は、破格の収納力を誇る『収納上手な革袋』から、あるものを取り出す。

 『お喋りな耳飾り』だ。


 一対のイヤリングで、一人が右耳、一人が左耳に着用することで、距離の制約を受けずに会話することができる。


「ありがとうございます。お借りします」


 マーナルムに監視を任せ、革袋から食料も取り出し、手渡す。


 俺とシュノンは人気のないところでトイグリマーラに拾ってもらい、一旦拠点へと戻った。


 しかし俺たちは、その日の夜に、あの村へ戻ることになる。





-------読者のみなさまへのお願い-------

本作を読んで ほんの少しでも

「面白かった!」「続きが気になる!」と感じられましたら、

・ブックマークへの追加

・ページ下部『ポイントを入れて作者を応援しましょう』項目の

☆☆☆☆☆ボタンを★★★★★に変えて応援していただけると

今後の更新の励みとなります!!!!!

何卒!!!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

◇『魔女と魔性と魔宝の楽園』◇

・コミック版連載中!(コミックノヴァ連載)
%E6%AD%A3%E6%96%B9%E5%BD%A2%E3%83%90%E3%83%8A%E3%83%BC%E9%AD%94%E5%A5%B3%E3%81%A8%E9%AD%94%E6%80%A7%E3%81%A8%E9%AD%94%E5%AE%9D%E3%81%AE%E6%A5%BD%E5%9C%92_672x672.jpg

・書籍版①発売中(サーガフォレスト)大判小説
i798260/

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ