第54話◇久々の三人
「なんだか、懐かしいですねぇ」
のどかな田舎道を歩きながら、シュノンが言う。
彼女の足どりは楽しげで、弾んでいるようだった。
「えぇ。シュノン殿が任務に加わることは、滅多にありませんから」
マーナルムが同意するように頷く。
彼女がシュノンを見る視線は柔らかい。
旅の初期の仲間同士、二人は仲がいいのだ。
「リアンも来れたらよかったんだが」
「リアンは、トイグリマーラを守るお役目がありますからねぇ」
「聖獣様は、基本的に守るべき地を離れられませんから」
そうなのだ。
緊急時に力を借りることはあるが、今のリアンはトイグリマーラを守る存在。
ちなみに、かつてマーナルムたちの森を守護していた聖獣については、一部の白銀狼族族と共に地上に下ろし、別れた。
助けた全員が俺たちと行動を共にしたいわけではないし、二体の聖獣が同じ地を選ぶことはできないので、仕方がない。
たまに向こうに顔を出して交流は図っており、不仲ではないことを付け加えておく。
「せっかくお呼ばれしたので、活躍しますよー!」
「シュノンは人の懐に入るのが上手いからな、頼りにしている」
「まっかせてください!」
シュノンが堂々と胸を張り、豊満な胸部がメイド服の布地ごと盛大に揺れる。
そんなシュノンの横で、マーナルムが狼をぺたんと垂らして落ち込んでいた。
「マーナルムがいないと、安心して旅が出来ないんだ。いつも言っているが、頼りにしている」
瞬間、彼女の狼耳がピンッと立ち、尻尾がふぁっさふぁっさと揺れる。
「はい! お任せください! 魔獣の群れだろうと砲弾の雨だろうと、必ずや主殿を守り抜いてみせます!」
どうやら元気が出たようだ。よかった。
元気な二人と歩くことしばらく。
「見えてきましたね」
目的の村が見えてきた。
「そうだ、マーナルム。今日はこれを付けてみてくれ」
「なんでしょう?」
俺が取り出したのは、指輪だった。
「プロポーズですか!? シュノンを差し置いて!?」
「そ、そうなのですか!?」
「いや、すまない、これは魔法具なんだ」
それを聞いてシュノンが安堵するように、マーナルムが勘違いを恥じるように、それぞれ顔色を変える。
「そ、そうですよねぇ。プロポーズなら、マナちゃんだけでやくシュノンにも指輪をくれるはずですし」
「し、失礼いたしました。取り乱してしまい」
白銀狼族に結婚指輪の習慣はないが、五年も一緒にいれば他種族の慣習にも詳しくなる。
プロポーズと聞いて慌てる気持ちは理解できた。
「いや、俺こそ説明たらずだったな。これは先日仲間が回収してくれたもので、『化粧直しの指輪』という」
「お化粧直しを自動でしてくれるんですか?」
「はは、そうじゃないんだ。これは、他人から見た姿を少しだけ変えることができる」
「……つまり、指輪を着用するだけで、この耳と尻尾を他者に悟られずに済むのですね?」
「そういうことだ。本来は傷跡やニキビを隠すのに使われていたんじゃないかと思う。毎回『薄影の仮面』を被らせるのもあれだし、よかったらこれを使ってくれ」
「『薄影の仮面』は主殿のお姿を隠す為のもの。お借りすることを心苦しく思っていましたので、こちら、ありがたく使わせて頂きます」
白銀狼族は『八大幻想種』に数えられるほどのレアな亜人なので、普通に出歩けば衆目を集めてしまう。
故に『薄影の仮面』を貸し出していたが、これは俺も使うもの。
貸したり返してもらったりを繰り返していたが、この指輪が手に入ったので、もう大丈夫だ。
「ふむふむ。マナちゃんも女の子ですもんね。仮面で綺麗なお顔が隠れるのはもったいないので、よかったですね」
「そうだな。俺もそう思うよ」
「なっ……! お、お二人ともお戯れを!」
「戯れ?」
「マーナルムが美しいのは本当だろう。これまで何度も言ってきたじゃないか」
「うっ……きょ、恐縮です」
マーナルムが顔を出して真っ赤にして俯いてしまう。
「それよりロウさま、その指輪、どこにはめるんですか?」
「あー……じゃあ、右手でいいか?」
「は、はい」
マーナルムが手の甲を空に向けて差し出す。
俺はそれを彼女の薬指に嵌めた。
この指輪は、着用者に合わせてサイズが変わるので、ピタッと嵌まる。
「あ、ありがとうございます。あの、ど、どうでしょう?」
見れば、マーナルムから亜人の特徴が消えている。早速魔法具の効果を試したようだ。
「あぁ、ばっちりだ」
「すごいです! 耳と尻尾が消えてます!」
俺は彼女の耳があった場所にそっと手を伸ばす。
「んっ」
見た目には何もないのに、彼女の耳のふにふにした感触が伝わってくる。
「すまん。見え方が変わるだけだから、触れることができるんだな」
「は、はい。あの、こちらの方がいいでしょうか?」
マーナルムがどこか不安そうに言う。
「なくても美しいが、俺はありのままのマーナルムが好きだぞ」
「〜〜〜〜あ、ありがとうございます」
「シュノンもマナちゃんが大好きですよ!」
シュノンがマーナルムに抱きつく。
「わたしも、シュノン殿を大変好ましく思っていますよ」
「ではロウさまのことは?」
「……そ、それはもう永遠の忠誠を誓っております」
「そういうのじゃなくて〜」
「シュノン殿、ここはどうかご容赦をっ」
楽しげな二人を微笑ましく思う。
「よし、そろそろ行こうか」
「ハッ……!」
「はーい。それでロウさま、今日をお目当てはなんなんですか?」
「絵画だ」
「絵ですか? あ、中に描かれている人が動くとかのホラーは禁止ですよ!」
シュノンがぶるりと震える。
「惜しい。動くのは俺たちだ」
「どういうことでしょう?」
「その絵はな、描かれた風景の中に入れるらしい」
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