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魔女と魔性と魔宝の楽園~追放された転生貴族の自由気ままな【蒐集家】生活。ハズレ前世に目覚めた少年は、異世界で聖剣もモフモフも自分の城も手に入れる~  作者: 御鷹穂積
第二部・第一章◇五年前のお話

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第50話◇捲れる幌





「ダメだ」


 あれが自分の妹ならば、俺は自制できただろうか。

 それでも今この場で、突撃の許可を出すわけにはいかなかった。


「な、何故ですか……! あの馬車の中に妹が、ハーティがいるのです!」


 マーナルムにはそれが匂いで分かるのだろう。

 血走った目、食いしばられた歯、今にも飛び出しそうな体勢全てが彼女の感情を物語っている。


「妹がいるのなら、あの聖騎士が部隊長のシュラッドなのだろう? 妹を人質にとられて捕縛されたのに、それを繰り返すつもりか」


「では、何もするなと言うのですか!」


「何をするべきか考えろ。今この瞬間も、『最良の未来』への道筋なんだ」


「――――ッ!」


 ハーティは村落襲撃の日、魔獣が出現する未来を見たと偽り、マーナルムを筆頭とする戦士たちを村の外に出した。

 マーナルムたちが戻った時には、村は聖騎士団に占拠されていたという。


 妹を人質にとられたマーナルムは捕縛されたが、逆らった同胞は殺された。

 ハーティにとって、その選択が、最も被害の少ない、最良の未来だったからだ。


 ならば、目の前の妹を助けることもできないという、この現状さえ、最良の未来へと繋がる過程だとは考えられないか。


「…………か、観察に努めます」


 激情を押し殺しながら放たれた低い声に、俺は微笑む。


「お前は立派だよ」


 俺はマーナルムの背中を励ますように撫でた。



 その時だった。



 突如として、太陽が何かに遮られ、大きな影が差す。

 聖騎士のシュラッド含め、周囲の全員が空を見上げた。


 もちろん、俺たちも。


 大地から引っこ抜かれた山が、逆さになって浮いているかのような。

 そんな、わけのわからない光景が頭上に広がる。


 いや、これは山ではない。


「空を飛ぶ大地」


 伝説上の存在であり、マーナルムが目撃したという、幻の大地。

 俺に翼があれば、羽ばたいてあの大地を目指すのに。

 少し飛べれば届くほどの高度に、それがあった。


 ――実在したのか!


 ――『トイグリマーラ』

 ――空中移動要塞。妖精と共に住まう者がいることで、空を飛ぶことができる。

 ――住人が多ければ多いほど、解放される機能が増える。

 ――住人がゼロになると、いずれ墜落する。

 ――墜落からしばらく経過すると、妖精がこの地を見限り、二度と飛べなくなる。 

 ――希少度『S+』


 今の状況を一瞬忘れて、感動と蒐集欲を覚える。

 だが、俺はすぐに我に返った。


「マーナルム、馬車から目を離すな」


 奇跡のようなこの一瞬さえ、ハーティが視た未来の内だとすれば。

 空を飛ぶ大地と俺たち、そしてハーティの乗った馬車が揃っていることには、意味がある筈。


「は、ハッ……!」


 マーナルムは俺の声で慌てて視線を馬車に戻す。


 瞬間、風が吹き、馬車の背面の幌が捲れ上がった。


 ほんの一瞬、瞬きよりも短い時間だが、その奥に見えた。

 檻に入れられ、鎖に繋がれた、白銀狼族の少女が。


 その少女は、俺たちがそこに立っていることを知っていたかのように、こちらを見ていた。

 唇が動くが、あまりに短い間のことで、俺には彼女の伝えんとしていたことが分からなかった。


「構わん! 放っておけ! 狼耳が言うには、まだその時ではない!」


 シュラッドが叫ぶと、馬車はそのまま、屋敷の中に入っていく。

 いくら眺めても、マーナルムの妹の姿は、もう見えない。


「マーナルム」


「――『妖眼鏡』」


 マーナルムが呟く。

 まるで、家庭教師に言われるままに教本の文章を読み上げるような、感情の込めら

れていない言い方だった。


「お前の妹は、そう言っていたのか? 何か心当たりは?」


「聞いたこともないのです。ですが、ハーティはこちらを見ていました」


 マーナルムの顔には怒りも疑問もなく、喜びが浮かんでいた。

 感動している、表現してもいいかもしれない。

 彼女の声が、興奮に上擦る。


「主殿の言う通りだったのです。ハーティはあの瞬間、私がここから門を眺めると知っていた。だから、私にだけ伝わるように口を動かしたのです。ならば、その隣に主殿がいたことも分かっていたことになります」


 ハーティは、見たこともない人物の未来を直接見ることはできない。だから、視たのはあくまでマーナルムの未来だろう。だが、マーナルムが謎の男に救い出され、この街に来ることは分かっていた。


 そして、そのタイミングで、何故か低い軌道を飛ぶ大地が横切った。

 妖精と共に住まう者がいなければ墜落するという、空中移動要塞。


 ハーティが口にした『妖眼鏡』なるもの。

 全てに意味があるとするならば――。


「なるほど、お前の妹はすごいな」


「はい、はい……! そして、妹の考えを読んだ主殿も、凄まじいです!」


「俺が次にすべきは、『妖眼鏡』の蒐集だな」


「……どこまでもお供いたします、主殿」


 マーナルムが地面に片膝をつこうとしたので、それを止めながら、俺は内心で興奮していた。


 ハーティの救出だけでなく、幻の大地の蒐集まで叶うかもしれないのだから。


 ◇


 ハーティには、姉を助け出したロウという男が【蒐集家】であることも視えていた筈。


 あのタイミングで、姉の知らない言葉を口にし、更には高度の下がった空飛ぶ大地が横切ったことによって、俺とマーナルムは一つの未来を予期した。


 その為にまず、俺たちはハーティが言った『妖眼鏡』なる品を捜すことに。


 俺には、ある異能(スキル)がある。


 ――『奇縁』

 ――不思議な巡り合わせに恵まれる。


 といったものだ。


 そして、真贋審美眼のような鑑定能力は、とても特殊なもの。

 つまり、魔法具によっては、人が使い方に気づけぬままに市場に出回り、見た目通りの品として棚に並ぶこともある。


 よって、俺は立ち寄る街で、必ず骨董品店を覗くことにしている。

 この街の骨董品店を巡り、発見した魔法具は以下の通り。


 ――『とこしえの花瓶』

 ――生けた花に一日コップいっぱい分の水を与える限り、その花は枯れることなく咲き続ける。

 ――ただし、花瓶から離した瞬間、花は枯れる。

 ――希少度『C-』


 ――『愛の匙』

 ――この匙を使って口に含んだ食べ物は、作り方に関わらず、最も懐かしき味に感じる。

 ――初めて口に含んだ食べ物の場合、それが『最も懐かしき味』として登録される。

 ――希少度『C-』


 ――『聞き上手な耳飾り』

 ――一対のイヤリング。

 ――一人が右耳に、もう一人が左耳に着用することで、着用者二名は距離の制約を受けずに会話することができる。

 ――自分の声を相手に届ける為には、イヤリングに触れる必要がある。

 ――希少度『A』


 ――『妖眼鏡』

 ――覗き込むことで、妖精が目に映るようになり、妖精の声が聞こえるようになる。

 ――効力は、覗いている間のみ。

 ――ただし、妖精に直接触れることはできない。

 ――希少度『B+』



「見つけた」





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◇『魔女と魔性と魔宝の楽園』◇

・コミック版連載中!(コミックノヴァ連載)
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