凶悪!! 惑星滅菌計画!! その12
分の悪い勝負である事は最初からわかってはいた事でもある。
ただ、度を過ぎた場合は話は違う。
「もう!! どんだけ居るのよ!?」魔法少女は、思わず叫んだ。
狙いを付けては撃ち落とす。
単純に云えば、終わらないシューティングゲームを延々とやらされている様な感覚。
此処で問題なのは、そのゲームは重大な意味を持つという事だろう。
テレビゲームでは自機が幾ら撃ち落とされた所で、操作している者には何の影響も無い。
が、今五人が行っている事は違う。
そもそもコンテニューなどという概念は存在しない。
【失敗しました、もう一回やります】という事は有り得ない。
死ねば終わり、失敗しても全てが終わる。
正にそれは、真剣勝負その物であった。
そして五人が必死に成る中、水を差すような雑音が操縦室へ響く。
─何故其処まで意地を張って抗う? 受け入れれば楽に成れるものを─
聞こえた声に、愛は露骨に顔をしかめた。
「あーもうさ! うるっさいんだけどぉ!?」
魔法少女は怒るが、それは大首領には関係が無いらしい。
─我々がやっている事は、君達に取っては非道い事に見えるかも知れない。 ただ、寧ろ人によっては救いとも成るのだ─
凄まじい勢いで弾を打ち出しながら飛ぶロボットの中で、声が響く。
─多少の犠牲者は出るだろう。 が、その石が落ちれば、中には救われる者も居るのだぞ? 特に、世界中の弱者がな─
『はぁ!? 死が救いだと云うつもりかぁ!?』
本来、何かに集中している際に声を掛けられる事は邪魔としか思えない。
それ故に、アナスタシアは吠えていた。
無論のこと、その意味あいもある。 だからこそ、声は止まらない。
─人の世は行き詰まった。 富める者と貧弱が偏り過ぎている。 知っている筈だ。 本当は誰もが心の底から救いを欲してるのだ、とな。 我々はその救いを与えようとして居るだけだ。 誰もが待ち望む、出発点をゼロに戻す事をな。 我々は、その願いを叶えてやろうとしてるだけだ─
如何にも悟った様な声に、虎女の唇が歪む。
「ちょっと博士! この五月蠅いのなんとか成んないの!? 集中出来ないんだけど!!」
カンナの要望は、博士のモノとも言える。
必死にロボット操作する少女にとっても、声は煩いのだ。
『わかってますが……今それを弄る余裕が無いんです!!』
操縦を止め、ロボットの調整を始める事は出来なくはない。
だが、そんな事をして居る余裕は無かった。
─迷う事は無い。 力を抜いて、救世主に任せたまえ。 いや、寧ろ君達も弱者の為に戦う正義の味方に成れるぞ─
如何にもな声に、良は兜の中でギリッと歯を軋ませた。
必死に見える敵へ狙いを定める。
『うるせぇぞアホが!! 誰が正義の味方だ!!』
もしも、良の中に僅かでも大首領に従う気があれば、そもそも此処まで来たりはしない。
とっくに軍門に下っただろう。
『俺たちゃあなぁ! 悪の組織なんだよ! テメェみたいな自称救世主なんて詐欺師に一発ぶっ込みに来てんだよ!!』
元々、良は自分が正義の味方だとは思って居ない。
長らく戦う内に、巷に溢れる【正義】というモノの本質に気付いたからだ。
正義とは、誰もが掲げる事が出来る最も安い旗印だろう。
絶対的に安全な立場から、一方的に相手を打ちのめし、悦に浸る。
それこそが、世の中を跋扈して居る正義の正体である、と。
だからこそ、良はそんな正義の為には戦っては居ない。
あくまでも、自分達の為に戦いに赴いて来た。
正しいかどうかではなく、意地を張るために。
馬鹿げて居ると云えばその通りだろう。
それでも、生きるとはそういう事である。 諦めた先には死しかない。
『待ってろ!! あの石ころの次はテメェだ!』
─そうか。 まぁ、何処までやれるの楽しませて貰おう─
良がそう叫びに、操縦室の雑音も途切れた。
邪魔が入らないとは言え、事態は好転しない。
依然として、岩石は地球へ向けて進み続けて居る。
そして、その速度は徐々に速まりつつあった。
絶対的な窮地に、五人は焦りが募る。
『マズいぞ! このままでは止められなくなる!!』
思わず、アナスタシアは弱音が出てしまう。
必死に追い掛けてこそ居るが、岩を止められなければ意味が無い。
「博士!」
虎女の呼びかけに、博士も『やってます!』と応える。
目一杯飛ばして居るが、邪魔さえ入らなければ、ロボットは岩に追い付けただろう。
とは言え、敵方とタダでは通してくれず、止めようとする。
放たれる全ての弾を避けきれず、被弾した。
重力が無い真っ暗闇の中、バランスを失った巨大がグルグル回る。
激しい遠心力が、操縦室を襲った。
台座から放れた五人は、強かに身体を壁に打ち付ける。
無論、改造人間や魔法少女はその程度では倒れない。
博士にしても、身に纏うスーツが護ってはくれた。
ただ、確実に岩からは離されてしまう。
『あー! ちきしょうめ! 何とかなんないのか!?』
良の焦りに、必死に成る少女は胸の内で願う。
【なんとかしなきゃ】と。
そんな願いに、巨人の目がギラッと光る。
窮地陥るからこそ、生き物はそれに対応し進化する。
巨人もまた、そんな窮地に対抗すべく反応した。
如何なる原理を用いているのかは定かではないが、砲の形が、変わる。
機関銃の様な弾を打ち出していた砲から、線が走った。
それも、一本や二本という事はなく、腕や脚の全てから。
光る線は、まるで蛇の様に自在に曲がりくねって標的を追う。
その光景は、操縦室からも見えていた。
散々悩まされた筈の敵が、瞬く間に爆酸していく。
それを見た良は、思わず『スゲェ』と声を漏らす。
「え、て言うかさ、あんなの在るなら最初っから使いなよリサぁ」
プクッと頬を膨らませる愛に、博士のヘルメットが揺れた。
『いえ、まさか、あんな事が出来るなんて……』
調べる時間が少な過ぎた故に、博士でも巨人の知らない事は多々ある。
もっとじっくりと時間を掛けて調べれば、或いは更なる隠された機能が分かるかも知れない。
が、今はその時間が無かった。
五人は慌てて台座へと戻る。
『皆、掴まって!』
博士の声を合図に、ロボットは岩を追い掛けた。
*
巨人が動けなく成った僅かな間にも、岩石は速度を上げて居た。
単なる石だとしても、速度と質量さえ伴えば凄まじい武器へと変わる。
そんな質量兵器とも呼べる岩石を、良達は追う。
『射程圏です! 撃って!』
博士の合図に、ロボットから光線が放たれた。
それは、岩を押す推進器と化した球体を壊す。
が、それでも問題は解決しない。 何故ならば、宇宙には重力が無いのだ。
つまり、誰かが宇宙空間何かを放れば、それは何かに当たるか、別の何かに引きつけられるまで止まることはない。
そして、今や岩は十分な速度を持って進んでいた。
ある程度の速度さえ出してしまえば、それは勝手に進む。
進む岩石に、何とかロボットは取り付いた。
操縦室の中では、博士が頭を痛める。
数百メートルの岩の塊を、どうやって動かすか。
破壊するには火力が足りない。
映画等では、爆弾を仕込んで中から破壊するのが一般的なやり方ではあるが、実のところ余り意味が無い。
表面を少し削った所で、岩その物には相対的な変化は起こらない。
起こった所で、誤差の範疇に止まる。
『ヤバいぞ! もう直ぐじゃねぇか!!』
操縦室からも、既に地球が見える程に近い。
このままでは岩石は一直線に向かってしまう。
良の声に、博士はロボットを動かす。
岩に取り付いたまま、巨人は推進器を動かした。
『押し返すのは無理でも、軌道をズラすぐらいなら!!』
岩を押し止める事は諦め、博士は反らす事を考えた。
狙撃などに置いても、標的から僅かにズレただけで弾は当たらない。
しかしながら、問題も在る。
巨人が必死に押しているにも関わらず、岩は一直線に地球へ向かってしまう。
「ちょっとリサ! どうなってんの!?」
愛の焦りに、博士はヘルメットの中で唇を噛んだ。
元々が岩を動かすだけでも大量の推進器が使われていた。
それに対して、今岩を押しているのはロボット一機のみ。
『推進力が、足りません……』
追い付くだけならば、巨人のソレでも事足りた。
が、軌道をズラすと成ると話は違って来る。
軽い弾丸では、風ですら反れるが、逆に云えば重ければ重いほどちょっとやソッとではビクともしない。
このままでは、全てが徒労に終わる。
『くっそう……なんかないの……ん?』
何とかせんとする良の目は、遠くに見える何かを捉えた。
地球へ向かう岩の軌道上に居る何か。
以前にも見た事が在る。 黒と白で彩られた身体と、黄色の目。
それは、本気を出した時のセイントの姿であった。
地面の無い空間では、立って居るという表現はおかしいかも知れない。
それでも、まるで地球を護る様に立つ巨体。
巨体と化したセイントの腕が、横へと振られる。
言葉は聞こえないが、何かを伝えんとして居るかはわかる。
『博士! ロボット退けろ!』
『え!? 何でですか!?』
押すことに集中していた博士は周りが見えていない。
そんな博士に、良は再度声を掛ける。
『良いから! 岩から離れるんだ!!』
良の必死な声に、博士はロボットを岩から離脱させる。
それを確認したからか、遠くの巨体は腕を構えた。
交差する様な独特な構えを取った途端『ジェア!!』とセイントは叫ぶ。
巨体の腕から、怪しい色の光線が発射された。




