凶悪!! 惑星滅菌計画!! その11
空を見上げれば、月は見えるだろう。 ソレは、手に隠せる程の大きさ。
が、近寄れば近寄るほど、その大きさは実感と成って感じられた。
小さかった筈の惑星は、今や巨大なモノとして其処に在る。
操縦室の壁に映るのは、クレーターだらけの表面。
『映像じゃ見たこと在るが……まさか、この眼で見る事に成るとはね』
自分の目で見ても、まだ実感が湧いてこない良。
だが、見える光景は本物であった。
月に見取れる良だが、そうもして居られない。
何せ、五人はわざわざ月を観光しに来た訳ではないからだ。
『良さん! 呑気な事言ってないで配置に付いてください!』
博士の声に、良も自分の台座に付く。
ロボットの操縦その物は博士が行うが、それ以外に関しては1人では出来ない事もある。
だからこそ、他の四人が乗っている。
とは言え、愛は不安そうな顔を隠さない。
「ねぇリサ。 私達は何をすれば良いの?」
『愛さんだってゲームぐらいしたこと在りますよね?』
「まぁ、そりゃあね。 一応はあるけど」
『だったら、おんなじ様なモンですよ。 良く狙って、撃ってください』
博士の説明に関して云えば【ざっくり】を通り越して居る。
それでも、強ち間違いない。
地球の乗り物の殆どは複雑な操作を介して行うが、五人が乗っているロボットに関して云えば、寧ろ単純であった。
あれやこれやという理屈を抜きで、直感的な操作を可能にして居る。
そうでなければ、操縦するだけで多大な時間を浪費してしまうだろう。
もしそうならば、今頃は組織ごと吹き飛ばされていたかも知れない。
それでも、良達五人は宇宙に居た。
生きる為、そして、己が意地を張り通す為に。
巡航形態に在ったロボットが、再び人型へと姿を変える。
その途端に、巨人の腕や脚、肩から武器が飛び出した。
五人の目に、現れたで在ろう月の周りを回る衛星の正体が映る。
それは、平たく云えば岩石の塊に過ぎない。
が、大きさが数百メートルともなれば、山が目の前に浮いているような錯覚すら覚える。
『たまげたね。 まさか、こんなんドデカいモンが浮いてるなんてさ』
良の声に耳を傾けながらも、博士はソッと衛星に沿ってロボットを飛ばす。
少女は、在るモノを探していた。
程なく、大きな岩石の塊の上に建てられたで在ろう何かを見つけた。
いきなり岩からビルの様な巨大な何かが生えている。
然も、一本や二本などというケチくさい事はなく、下手をすれば街の様な壮観ですら在った。
『なんだ、アレは?』
「さぁ、なんだろうね」
アナスタシアとカンナの独り言とも取れる声に、博士が息を吸い込む。
『見た目がどうであれ、アレは恐らく推進器の類でしょうね』
博士の推測は当たって居た。
星の引力を利用したスイングバイと言う加速方も無くはない。
だが、もしも、月の衛星軌道から地球の在る一点。狙おうとすれば、正確に何かで押してやる方が速い。
無論、そんな推進器が作動するのを素直に待つ必要は無い。
『全火器の安全装置解除……』
操縦士である博士の声に、操縦室にも変化が起きる。
なんと、壁や床が一斉に消えたのだ。
厳密に云えば、物理的に消えた訳ではない。
壁や床、天井には、全て周りが映っていた。 360度、グルッと全てが。
それに連動して、四人個別に照準が与えられる。
聞こえた訳ではないが、ロボットから【狙え】と云われている気分に成る。
『無抵抗の相手を一方的に撃つなんざ、趣味じゃあないんだが……』
そう言いながら、良は岩石を睨んだ。
『でもないか? 今まで散々やられたからな。 大盤振る舞いだ! 撃ちまくれ!』
良の声を合図に、四人がそれぞれ台座から伸びた操縦桿にも似たモノを握り締めた。
*
宇宙に浮かぶロボットから、一気に射撃が始まった。
抵抗らしい抵抗は見えない。
一方的に、岩に貼り付けられた推進器を撃つ。
巨大な建造物が吹き飛び、時にそれは連鎖する様に誘爆を起こす。
街一つ程も在る建造物を、あっという間に蹴散らす。
それは、巨人の力を示していた。
『コレで終わり? 随分とさっぱりし過ぎている』
アナスタシアの懸念は、他の四人にも伝わる。
推進器を壊して終わり。 そんな筈がない。
『こんなモノが浮いている時点で、誰かが浮かせた筈なんですよ。 まさか、急にこんな大きなモノが出て来る筈は……』
推測を語る博士だったが、言葉が止まる。
衛星の大きさ故に気付かなかったが、操縦室からは、奇妙な球体が見えた。
「なにアレ!」
愛が叫ぶが、ほぼ同時に、球体の一部が開いた。
開いた其処は赤く、まるで兎の眼のようにも見える。
そんな眼が、巨人を捉える訳だが、急に操縦室に雑音が響いた。
─やぁ篠原良。 君達には驚かされる─
聞こえて来た声は、余り鮮明ではない。
まるで、無理やり声をねじ込んだ様に雑な音であった。
『テメェか、残念だったな。 隕石の地球観光は無期限中止だ』
今更、声の主が誰なのかを問おうとはしない。
如何なる名前なのかは、もはや問題ではなかった。
─まさか、貴様等が古代のガラクタを出して来るとは予想していなかった。 だが、前にも教えたな? 別に貴様等が初めてではない、と─
響く声と張り合う良以外の四人は、周りに気付く。
いつの間にか、謎の球体が巨人を囲んでいた。
『囲まれた!?』
「洒落臭い! 何処から湧いてきたの!!」
アナスタシアとカンナの焦りも無理はない。
何せ操縦室から見える限り、全周囲から囲まれているのだ。
─君たち今の世代の人間は気付いて居ないが、古代人にも優れた勇敢な者達は多かった。 しかし、何故誰も残って居ないのか─
雑音混じりの声に合わせて、巨人を取り囲む球体の眼が開く。
─答えは簡単だ。 出て来る度に我々が叩き潰したからだ。 そして、今回もそれは変わらない。 家畜の反乱を治めるのは、飼い主の役目だからな─
言い終えたからか、雑音かぷっつりと切れる。
だが、同時に球体が動き始めていた。
どれだけ居るのかを把握するのも難しいが、問題なのは、その一部が衛星に取り付きだした事だ。
球体の一部が開き、まるで兎の耳の様にも見えなくもない。
だが、それは耳ではなく、球体を岩に固定させる為の杭であった。
『とんでもなく物騒な兎が月には居やがるぜ!!』
そう叫ぶ良の目に映ったのは、先ほど岩石に取り付いた球体が一斉に何かを吹き出し、岩を押し始める光景であった。
『不味いです! あいつらもうなりふり構ってませんよ!?』
博士はそう叫びながら焦る。
ロボットを取り囲む球体も問題だが、だからといって岩を押す連中を放置も出来ない。
『良さん! どうしましょう!?』
戦いに不慣れ故、いざという時の状況判断は難しい。
博士の声に、良は兜の中で小さく舌打ちを漏らした。
『たくよぅ、二兎を追うものは一兎も獲ずってか』
選択肢を迫られる良。
だが、この場には博士と良しか居ない訳ではなかった。
『首領! 今はともかく、周りを片付けましょう!』
「そうだよ! コレが落とされたら元も子もなさすぎ!」
大幹部二人の声に、狙いは決まった。
『ええい! サッサと片付けて! 旅行へ行くぞ!』
良の一声に、同乗の四人の気力も増した。
*
少しずつだが、進み始める岩を余所に、巨人は先ずはと周りを飛び回る球体を落としていく。
数が数だけに、中には段幕を潜り抜け巨人へと到達しそうに成る個体も居た。
そんな球体へ向けて、巨人の拳が突き出した。
─とう!!─
無重力に置いては、振動させるモノが無い為に音は伝わらない。
それでも、巨人の口からは気合いが迸る。
手足が在るからこそ、格闘という手段が使えた。
単騎にして、八面六臂の活躍を見せる巨人。
無論、それを駆るのは悪の組織である。
数の不利など一切感じさせず、ロボットは暴れた。
─てい!! たぁ!!─
身体に設けられた砲だけでなく、時には腕や脚までもを武器とする。
その様は、正に無双の巨人であった。
*
五人の活躍故、ロボットに被害は無い。
が、同時に問題も湧き上がる。
周りに気を取られれば、それだけ岩石は加速してしまう。
いち早くその事に気付いたのは虎女が、チィと舌打ちを漏らした。
「ヤバいよ!? もうあんなに離れてる!!」
カンナの声に、博士も頷いた。
『わかってます!』
ロボットだけを護れば良いという訳もなく、そもそも岩石を止めれられなければ帰る場所が消えてしまう。
そうなれば、本末転倒だろう。
其処で、博士は慌ててロボットを離れつつある岩石へと向ける。
しかしながら、それは同時に敵に背を向ける事にも繋がっていた。
今の今まで、体当たりしかして来なかった球体。
その眼とも言える部分がギラッと光る。
球体から、光る弾が発射された。
着弾したソレは、ロボットを焦がす。
「なになになに!? なんか当たったよ!?」
撃たれれば、嫌でもそれは操縦室にも伝わる。
愛の焦った声に、良は後ろを振り向く。
すると、何が巨人を揺らしたのかが見えた。
『野郎、猫被って居やがったか!?』
良の怒声を聴きながらも、博士はロボットを岩石へと進めていた。
自分が出来るのは、操縦だけ。 他の事に関しては余裕が無い。
『皆、頑張って! 止まってる訳にはいかないの!』
博士の声に、巨人の身体の砲は背後へと向く。
今や、岩石は地球へと向かって進んでいる。
これ以上は、一刻の猶予も無かった。




