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悪の組織、はじめました  作者: enforcer
凶悪!! 惑星滅菌計画!!
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凶悪!! 惑星滅菌計画!! その10


 普通のロケットでも、打ち上げの際には多大な揺れを伴う。

 そして、その乗組員は加速の重圧に耐えねば成らない。


 普通のロケットですらそうなのにも関わらず、悪の組織が接収したロボットは、凄まじい速度で空を登って行く。


 その分、中の者への重圧も増す。


 だが、それにも関わらず、良は立っていた。

 無論、用意されていた台座に掴まっては居る。

 それでも平然と立って居られるのは、普通の人間ではない証なのだろう。

 

『スッゲーぜ!! いつかは乗ってみたいとか想ってたけどさ! まさかホントに乗れるなんてな!』


 真っ直ぐに宇宙そらへ飛んでいくロボット。 

 その目で見た光景は、操縦室の壁に映されていた。


 見慣れた地上を離れ、雲を掻き分け、更に高く空へと登る。


 この瞬間だけは、良は戦いを忘れて素直にそれを実感していた。


 派手に空へ飛んでいくロボットだが、ソレを遠目にみた人々は誰もが我が目を疑って居た。

 当たり前だが、巨大な人型の何かが空を飛んでいれば嫌でも目立つだろう。

 

 そんな光景を、誰かが運良く手持ちの機器で捉える。

 

 とは言え、そんな動画や画像が流布された所で、誰も止められない。

 もはや、巨大な人型は空高く舞い上がって見えなくなっていた。


   *


 地上から離れるに連れ、五人を襲っていた揺れも収まっていく。


 壁に見えていた空が、塗り潰した様な黒へと変わった頃。

 操縦室の揺れは、嘘の様にすっかりと消えて居た。


 良を含めた誰もが、壁から見える外へ目を奪われた。


「星? え、じゃあ、もしかしたら……」

 

 真っ暗な筈の空間だが、点々見える小さな光。

 そんな光景に、虎女が肩を竦める。


「凄いね、在る意味、史上初じゃない? あたしら」


 軽く笑うカンナに蝦蛄シャコ女が身体を向けた。

 首が無い以上そうするしかないのだ。

 一応飛び出した目もギョロと動いている。


『何がだ?』

「宇宙へ飛び出た、最初の悪の組織ってね」

 

 幹部の声に、首領が笑う。


『言えてるなぁ……まぁ、強いて言わせて貰えるなら、こんな形じゃなくて来たかった』


 どうせなら、素直な気持ちで宇宙旅行を楽しみたいと良は願う。

 が、それが贅沢な悩みである事も分かっていた。


 追い詰められ、窮地に陥ったからこそ、5人は此処に居る。

 

 首領の声に蝦蛄女は身体を縦に揺すりながら博士へと目を向ける。


『でと、博士。 どの位掛かるんだ?』


 アナスタシアの問いに、ロボットと同じ姿勢で固まっていた博士が身体を緩める。

 肩の力を抜いて、息を吐いた。

 

『アポロが月へ行く際には数日が掛かりましたが、この子なら、もっと速く着けるでしょうね。 でないと、間に合いませんし』

 

 博士の声に、愛が首を傾げる。


「さっきまではさ、ちょー揺れてたけど……わ!?」


 魔法少女の言葉の途中、ロボットがガクンと揺れる。


『何事だ!?』『攻撃!? 宇宙なのに!?』

 

 大幹部二人が同時に身構えるが、良だけは平然としていた。


 五人の中で、唯一良だけは不思議な感覚を味わう。

 どの様な理由かは分からないが、何が起こっているのかを知っている様な気がする。


 偶然か、それとも過去の記憶か、それは定かではない。


 ただ、良の想像通り、巨人はその巨体を変形させていた。

 人型から、より飛行に適した形へと。


 推力が増したからか、僅かに操縦室にもグッと圧される様な感覚。


『なんだなんだ!? 博士、報告しろぉ!?』


 見た目のゴツさに関わらず、甲高い声を発する蝦蛄女。

 そんな声に、博士はヘルメットを傾ける。


『なんていえば、良いのか……トランス、ふぉーむ?』


 改造人間には詳しいが、逆にその他の事に疎い少女に語彙は多くはない。

 なんとなく、頭に浮かんだ言葉を述べる。  

 無論、間違っても居ないが、だからといって蝦蛄女は焦ったままだ。


『とらんすふぉーむ!? なんだそれはぁ!?』


 何処からそんな高い声を出しているのは甚だしい疑問である。

 元々が本部付きのせいか、余り外へ出る機会も無かったアナスタシアにとってみれば、今の状況は正に未知との遭遇と言えた。

 

 緊張感に苛まれるアナスタシアだが、そんな彼女の体をポンと良が叩く。


『落ち着けよう。 大丈夫だ』

  

 静かに諭す様な良の声に、蝦蛄女の殻が赤く染まる。


『だ、しゅ、首領! すみません! お見苦しい所をお見せして』 

 

 落ち着けと云われたアナスタシアだが、別の事で声が震える。

 それを受けて、良は皆を見渡した。


『ちょっとみんな、肩組もう、肩』


 勢いというのは案外強いモノだろう。

 ポンと云われると、人はなんとなくそれに沿ってしまう。

 

 五人は、まるで円陣を組む様に肩を組んでいた。

 その様に、愛はうーわと声を漏らす。


「なんかさぁ、すんごい部活してるみたい………」


 魔法少女である前に、学生が本分故か、愛はそう漏らす。

 少女の声に、良の兜からも笑いが漏れていた。


『はは、まぁ……間違っちゃ居ないさ』


 そう言うと、良は息を吸い込む。

 

『えー、なんだかんだ在りましたが、此処まで来れたのは、皆のお陰です』


 そんな良の声に、虎女の唇がむず痒い様に蠢いた。


「ちょっとぉ、すんごいハズいんですけど」


 虎女の声を聴きながら、良は面々に目を向ける。


『アナスタシア、川村さん、博士、カンナ。 ありがとな?』


 自分以外の四人へと、良は礼を贈っていた。


 そうする事には、勿論理由も在る。

 いざ戦いが始まれば、言葉を交わす余裕が在るのかはわからない。

 で在れば、云っておける内に想っていた事を伝えたかった。


『しゅ、首領……』『良さん』


 如何にも感無量といった声を漏らすのはアナスタシアと博士。

 が、そんな二人とは対照的に、カンナと愛はフンと鼻を成らすと肩を組むのを止めてしまう。


「勘弁してよねぇ? これからドンパチやろうってのにさ……辛気臭い」


 虎女が強がるのは、彼女自身も恐怖を感じているからに他ならない。

 大首領の力がいかほどのモノが、全く分かっていないのだ。

 強がる分、虎の恐れも強いのだろう。


 それは、魔法少女も同じであった。


「そうですよぅ、それに、コレが終わったら、今度こそ旅行ですよ!!」


 自分の中の恐れを吹き飛ばさんが為に、愛は敢えて強くそう言うと、ビシッと良を指さす。

 

 唐突では在ったが、愛の言葉は他の三人にハッとさせた。


『そう! そうでした! ね、良さん!!』

『あたしは、憶えてたけどね』

『勿論、全員で行くのだ!』


 ポンポンと出される三者三様の声。

 そんな声に、良は兜の中で歯噛みをしていた。


 本来で在れば【出来ない約束】はしたくない。

 だが、同時にわかる事もある。

 難しいのは百も承知ながら、良が四人を護り通せば良いのだ。

  

 出来るかどうかだけで言えば、難しい。 が、不可能でもない。


『あいあいさー、ちゃんと最高級を予定して居りますよ。 約束だからな』


 如何にも渋々といった言葉ではあるが、その声色は違う。

 軽い中に、確かな決意を感じさせる声。


 それを聴いた四人の中で、一際小柄な体が動いた。


『やったぁ! 良さん大好き!』


 周りの目もはばからず、なんと博士が良へ抱き付いた。

 生きるか死ぬか、そんな時に本心を押し隠す意味を博士は無くしていた。

 どうせなら、好きな事を云いたい。


『とと、おいおい』思わず、良も博士を受け止めてしまった。


 とは言え、それをするには場が悪い事この上ないだろう。


『何をして居るかぁ!? 反逆者かぁ!? この場で処刑だぁ!?』


 照れとは別の感情にて身に纏う殻を真っ赤に染める蝦蛄女。

 いきり立った気分に任せて、この場で自慢のパンチを披露せんと構える。


「ちょっと博士、あたしの前でソレやるとかさ、良い度胸じゃない」


 アナスタシアとは違い、虎女は派手には怒らない。

 毛を逆立てる事も無ければ、悪戯に吠えない。

 それは、寧ろ本気の怒りを現していた。


 唯一、冷静に見えなくもないのは魔法少女だけ。

 ただ、愛の唇は笑って居るが、眼は笑っていない。

 それどころか、カッと見開かれていた。


「ね、リサ。 終わったら、ちょっと話しましょうか?」


 大幹部に魔法少女という三人に睨まれる博士。

 ヘルメットに覆われ顔は見えないが、実のところ中の少女は恐れては居ない。


『別に良いじゃないですか。 減るもんじゃないし』


 ロボットを操縦出来るのは自分だけですよ、と。

 敢えて言葉にはしていないが強みを持っている博士である。


 当たり前だが、博士が操縦してくれなければ全員がこのまま宇宙を漂流する事に成ってしまう。


 この時ばかりは、いつもは影に隠れる博士が独壇場であった。


   *

 

 五人の中で一悶着が在ったが、概ねロボットは順調である。

 操縦して居るのが、博士ではなくマシンである事も大きい。 

 

 移動はマシンへと任せて、その間に博士はロボットに関してわかる事を他の四人へ説明していた。


『操縦に関しては、私が頑張ります。 ただ、それだけじゃないんです』


 博士がそう言うと、操縦室の壁に図が現れる。

 それは、人型の状態のロボットを現して居た。


『こうして見て貰えばわかると思いますが、この子にはあっちこっちに砲台やら何やらが付いてるんですよ』 


 博士の声に、図の中でロボットの手足や肩が強調された。

 どうやら兵器の類なのだろうが、用いられている言語は地球のモノではない。


『本当なら、もっと時間を掛けて色々と説明しないといけないんでしょうけど』


 その博士の声を受けて、愛がふーんと鼻を鳴らす。

 

「まぁ、仕方ないんじゃない? あんまり時間も無かったし」

 

 皆、色々と云いたい事は在るが、概ね愛の言葉に賛同を示す。

 行き当たりばったりと言えば、正にその通りなのだろう。

 

 それでも、意地を張り通して来た悪の組織は今更引き下がれない。

 

『やれるだけやってみるさ。 そうでなきゃ、生きてる甲斐が無いからな』


 良の言葉に、四人は頷く。


   *


 五人を乗せたマシンは、一路月へと向かう。

 その速度は、今まで人類が造り上げたどの乗り物よりも速かった。

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