凶悪!! 惑星滅菌計画!! その9
時間的猶予が無いとなれば、余裕も無い。
相手がのらりくらりと時間を浪費してくれれば、或いは違うかもしれないが、その保証は無かった。
つまり、事態は一刻を争うという事になる。
組織全員が一眼と成って準備した結果。 なんとか用意はし終わった。
次の問題は、誰が行くかという事である。
ロボットにはそれなりの空間が在り、その気に成れば組織全員を運ぶ事も出来るだろう。
が、逃亡する為に準備した訳ではない。
頑丈な城から出て、攻める為である。
組織の面々を前に、良が立つ。
「おーい! 皆、聴いてくれ!」
新しい基地には、専用の大広間は無く、首領専用の椅子も無い。
それでも、誰もが良の前に集まっていた。
「皆のお陰でなんとか成った! ただ、それだけじゃまだ駄目なんだ」
誰もが、黙って良の声を聴く。
事の次第に付いては、既に皆が聴かされている。
今更、騒ぎ出す者はこの場には居ない。
「逃げ出したって、向こうは追ってくるだろう。 ま、その前に逃げ出す先が無くなるかもしれないが」
軽い冗談に、ほんの僅かだが笑いも周りから聞こえる。
それを、良は両手を軽く上げて止める。
「これから、ちょっと行ってぶちのめして来ようと想う。 でだ……」
そう言うと、良は背後のロボットを親指で示した。
「今の所、乗組員は絶讃募集中なんだ」
首領のそんな声に、僅かに構成員達がざわつく。
如何に巨大なロボットとは言え、ソレはソレである。
果たして、行ったらどうなるかは誰もわからない。
在る意味、地獄への片道キップを買うようなモノだろう。
何せなんの保証も無いのだ。
行ったが最後、帰って来れるとは限らない。
そんな馬鹿げた行動に【はい】と名乗り出るのは難しい。
構成員達にしても、死ぬために組織へ入った訳ではなかった。
「じゃ、俺が乗るか」
そう言って、いの一番で名乗り出たのは、他でもない良である。
機械に詳しいという達ではなく、何が出来るのかもわからない。
それでも、誰かに任せて座っているという事は、良の趣味ではなかった。
相も変わらず、我先にと先陣を切りたがる首領。
そんな首領に二人の少女が続く。
「私が行かなきゃ、動かないですし」
先に口を開いたのは、博士だ。
何はなくとも彼女が乗らねばそもそもロボットも動かない。
戦闘が得意でもなければ、戦いが好きだという訳でもない。
しかしながら、やらねばそもそも何もかもが終わる。
重過ぎる責任は、博士を押し潰しそうに成るが、誰かが手を引いてくれれば違う。
博士の隣を歩く愛もフフンと不敵に笑っていた。
「私も行くよ? 焚きつけて置いて逃げたんじゃ格好つかないもん」
厳密に言えば、魔法少女である川村愛は組織の構成員ではない。
自前の魔法を使って逃げ出したとしても、責められる謂われはなかった。
それでも行こうとするのは、少女の中に理由が在る。
時間的には短いかも知れないが、良や彼に続く組織と付き合う内に、いつしか愛も良に似て来ていた。
ロボットの席は、後二つ。
その空きへ足を進めたのは、大幹部二人である。
「首領を御守りするのは、私の勤め故」
元々が本部付き首領直下の幹部であるアナスタシア。
良が首領に成る以前から、彼女の役割自体に変化は無い。
ただ、アナスタシア自身は以前の彼女とはだいぶ違って居た。
その変化に気付いている同僚のカンナは笑う。
「格好付けちゃってさぁ、小娘に預けといたら心配なんでしょ?」
飾らない性格からか、虎女の言葉は在る意味辛辣とも取れるが、逆に言えば下手に本音を隠さないともいえた。
堂々と良を慕うカンナからすれば、はいどうぞと渡すつもりはさらさらない。
それが、例え死地に向かうとしても。
寧ろ、死ぬならば首領と共にという信念が彼女には在った。
「良いでしょ? 首領」「ご一緒させて頂きます」
そう言う幹部二人に、良は苦く笑う。
本音を言えば、女を矢面に立てるのは主義ではない。
が、今更それを云うほど野暮でもなかった。
誰がどうではない。 失敗すれば全員が死ぬ、
男だ女だを言い出す暇も惜しい。
軽く両手を上げ、肩を少しだけ竦める良。
「オッケー、じゃ、パパパッと片付けちゃいましょ」
敢えて、雄々しく叫ぶという事を良はしない。
無理やり気楽に構えるのは、寧ろ余裕の無さでもあった。
「さてと……」
素のままで乗り込むという事せず、良は、構えを取った。
普通の人間ならば、パイロットスーツや宇宙服を着込むモノだろうが、改造人間にその必要は無い。
良の構えに、周りの四人も同調する。
「「「「「変……身!」」」」」
少し溜めを置いた掛け声。
この場に置いて、誰もが良の真似をしていた。
姿を変えた良は、グッと拳を握る。
『行って来ます!』
実に首領らしくない言葉ではあるが、良らしさは在った。
それを咎める者はこの場には居ない。
誰もが、良を首領と信じて付いて来て居る。
その代わり、構成員達からは「首領万歳!」の声が湧いた。
*
ともかくも、見た目派手な5人はロボットへと乗り込む。
中でも、一際目立つ蝦蛄女は操縦室を見て身体を震わす。
『報告では聞いて居たが……ホントに何も無いな』
先ずはと口火を切ったアナスタシアに、虎女も頷く。
「ねぇ、操縦桿とかさ、スイッチも無いんだね」
そう呟いた虎女の視線の先では、一際異彩を放つ博士。
ヘルメットに覆われた顔に、全身桃色のスーツ。
見られて居る事に気づいたのか、ヘルメットがクイと横を向いた。
『なんです?』
「いやぁ、博士がそんな格好してるからさぁ」
虎女の声に、桃色タイツはバタバタと腕を振った。
『誰も好きでこんな格好してません! でも……』
虎女や魔法少女、蝦蛄女に比べれば幾分かは地味である博士。
その視線に、良は兜を傾ける。
『うん? あぁ、に、似合ってる………よな?』
身体に沿うような素材感故か、本人の意志関係無しに肢体は良に見えていた。
年若いからか、些か細い。
言葉を詰まらせる良に代わり、愛がフンと鼻から息を吹く。
「コラ! こんな場所でファッションショーしてる訳じゃないでしょ!」
魔法少女の一括に、博士のヘルメットがピクリと揺れる。
『そ、そうでした……では』
操縦出来るのは、5人の中でも博士だけ。
で在れば、彼女にやる気にやって貰わねば始まらない。
その博士が、操縦室の真ん中に立つ。
『えーと……確か、こう』
以前にやった様に、博士はロボットを動かそうとする。
その途端に、博士の視界は何かに連動した。
*
変な体勢のままで固まっていた巨人。 その目が、再び輝く。
─すみませーん! 皆! 危ないかも知れないから下がって!─
やはりというべきか、巨人の口からは博士の声が轟く。
グインと音を立てて、大きな身体が動いた。
軽く歩くだけでも、ズシッと重さが響く。
巨体が動いたのを確認したからか、残った大幹部である壮年がウンと頷く。
「よぉし、天井開けー! 首領の御出陣だ!」
そんな声に、構成員達が「了解!」と走った。
首領に大幹部達が総出でロボットに乗り込んでいる以上、この場の指揮は残った剣豪に預けられている。
バタバタと慌ただしく成る構成員達に、剣豪は笑った。
「なんだか、昔を思い出すね」
覇気などは当の昔に捨ててきた筈だが、壮年は手を握り直す。
捨てた筈のそれが、戻って来たような気すらする。
そんな大幹部の元へ、女と青年が寄った。
『周りの者にはまだ伝えて居ないが、どうやら此処も嗅ぎ付けられたらしい』
女の耳打ちに、剣豪は頷く。
「知ってるさ。 大砲で叩くにしても、歩兵を送って置けば牽制出来る。 然も、その歩兵達は大砲が狙ってるなんて知らんのだろう」
腕を組み、フゥと息を吐く壮年の目に、開いていく天井が映った。
「アレを送り出したからといって、此方も休んでは居られない……か」
苦く笑う剣豪に、背広姿の青年も倣う。
「少しはお手伝いは出来ます。 ただ、いざという時は私は向こうを手伝わねば成らないので」
申し訳ないという青年に、剣豪は首を横へ振って見せた。
「此処までしてもらって置いてなんだが、組織を抜けた者にムチャは言えんよ」
そう言うと、剣豪はチラリと横目で女を見た。
『昔から、貴方は何を何処まで知ってるか明かさないな』
「さてな……もうろくした爺さ。 何もかもを知ってる訳じゃない」
大幹部が見守る中、巨人が空いた天井を見上げる。
─発進しまーす!─
いまいち締まりに欠ける掛け声ではあるが、巨人の足元から煙が吹き上がる。
ビル程も有りそうな巨体が、少しずつだが浮き上がる。
飛びそうもないモノが、空へ向かって行く。
その様に、大幹部は勿論構成員達も目を奪われていた。
*
奇怪なロボット飛び上がった事自体も奇跡の様なモノだろう。
が、無論無人機ではない。
で在れば、その中では外に負けずに大騒ぎである。
巨体が空に浮かび上がった事もさることながら、問題が無い訳ではない。
その乗り心地は【最悪】の一言であった。
例えるならば、全く体を固定されずに、ろくに整備もされていないジェットコースターに乗せられる。
博士を除いた四人は、そんな感覚に頭を痛めた。
「ちょっとぉ!? こんなに揺れるなんて聞いてないんですけどぉ!?」
そんな愛の悲鳴だが、無理もない。
そもそも、彼女を含めた面々が乗るロボットだが、本来は博士と同じ装備を身に着けた者達を想定している。
巨人を造った者も、まさか改造人間や魔法少女が乗ることは想定していなかったのだろう。




