表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空から魔女がふってきた!  作者: 杉並よしひと
エピローグ
PR
79/80

「ほら、乗って」

 で、俺が首を縦に振ると、ハルはホウキに跨がり、その後部座席(?)を俺に勧めてきた。まあ、「ハルの見てきた景色」ってところで、予測はついてたんだけどね。

「その、あんまり引っ付いちゃダメだからね」

「解ってるよ」

「ちょ、どこ触ってんの?」

「どこも触ってねーだろ。俺が乗ったから、ホウキが動いただけだろ」

 なんてやり取りを交わしながら、なんとか、お互いの、文字通り座りの良い所を見つけた。

「じゃあ、飛ぶね」

 ハルは短くそう言うと、

「風よ、風の精霊よ……」

 と、何度聞いたか解らない呪文を唱え始めた。いつも、最後の方は聴き取れないんだよな。まあ、聞かれちゃ恥ずかしい事でも言ってるんだろう。

 と、俺が失礼な事を考えていると、急にふわっとした感覚が襲ってきた。体が持ち上げられるんだから、もっと重力を感じるんだろうと思ったが、そんな事はない。今まで自分を支えてくれていた地面が、どんどん遠くへ言ってしまう。妙な不安感があった。

 やがて、俺達の視線は遊具の高さを超え、家々の屋根の高さを超え、木々の梢の高さを越えた。

「おい、これ、誰かに見られてたりしないのか?」

 俺はついつい不安になって、そう訊いてしまった。だが、ハルは至って普通に、

「そんな馬鹿な事する訳ないでしょ。魔法使いが空を飛ぶ時は、外から見えない様に、いっつも結界を張ってるものなんだよ」

「へえ」

 知らなかった。結界が張ってあるのか。ふうん、確かに、結構スピード出てるのに、向かい風があんまり来ないな、と、ふと下を見てしまったのが間違いだった。もう家々がジオラマの様に見える高さまで上がってしまっている。

 と、ホウキが一瞬ぐらりと揺れた。

「うわあ」

「きゃっ。ちょっ、いきなり何よ」

 情けない声を上げて、ハルの肩にしがみついてしまった。

「長い事飛んでなかったから、最近は感覚が鈍ってるのよ」

「安全飛行でお願いします……」

「解ったから。その手を離しなさい」

「解りました……」

 俺は恐る恐るハルの肩から手を離し、出来るだけ遠くの景色を見た。

 武蔵野は、たいていどこからでも奥多摩の山並みが見える。俺は昔からそれを当たり前に思っていた。夏は湿った空気の向こうに煙っていたし、冬になれば澄んだ空気の向こうに、青さを失った山々が見えた。

 だけど、こうして空中に浮かんでみると、どうもいつもと違う気がする。距離的にはそんなに変わりないはずなのに、どうしてかいつもより近く見える。

 遠くに見えるのは、あれは多摩川だろうか。沈みかけの太陽の最後の光を受けて、銀色のうねりが町中を貫いている。

 だんだん空気が冷えてきた。

 ふと上を見上げると、はっきりしない色の雲が、ぐんぐんと迫ってくる。近付くに連れて、雲は重さを無くし、輪郭がぼやけて行く。ここまで来ると、もうただの霧と見分けがつかなかった。

 ただ、光だけを遮っている。

 俺もハルも、一言も発しなかった。何故だろう、俺は、ハルが何かを話すまで、喋ってはいけない気がした。もしかすると、ハルも同じだったのかもしれない。

 ハルはちらりと下界を見下ろすと、何の躊躇いもなく、ネズミ色の雲の中へ飛び込んだ。結界の中に霧は入ってこられないのか、俺達と少し離れた所で、雲がメチャクチャに踊った。

 雲の中は暗かった。昇っているのか落ちているのか、右に進んでいるのか左へ進んでいるのか、全く解らない。

 ただ、ハルは進み続けた。馴れた道を行く様に、ただ黙々と飛び続けた。

 俺はずっと、そんなハルの背中を見ていた。どこまで言っても変わらない雲を見ているより、何故だかずっと安心した。

 だんだんと、雲の色が明るくなって来る。もうすぐ雲の上へ出るのだろう、と俺が思った、ちょうどその時だった。

 俺たちを乗せたホウキが、分厚い雲から飛び出した。俺は当然、再び太陽の光が出迎えてくれるものだと思っていた。

 しかし、分厚い雲から飛び出た俺達が見たのは、もっと上にかかる鈍色の雲だった。俺達は、ちょうど、二層の雲に挟まれた様になっている。二層の雲は、だだっ広い平原の様に広がり、少し黄色がかった夕方の空が、遥か遠くから覗いていた。

 突然、ハルはこちらを振り返らずに、問いかけた。

「ねえ、もう少し上に行くけど、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ」

 短い会話が終わる。ハルはホウキを上へ向け、またスピードを上げた。今さっき突き抜けた雲がどんどん遠ざかって行き、二層目の雲がどんどん近付いてくる。

 やがて、ホウキは音も立てずに、雲の中へと飛び込んだ。

 今度の雲は、さっきよりも明るかった。さっきまでと違い、雲の蒸気も薄く、その合間を縫って、光が射し込んでいるようだ。

 俺は、ハルの背中越しに、前を見続ける。

 ホウキは更に加速を続け。

 やがて、再び雲の外へ飛び出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ