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「あ、そうだ、竜二。この猫、預かっててくれるか?」
「ん? 魔獣だろ、それ? お前それ、大丈夫なのか?」
「おう、結構気まぐれな奴っぽい。ダメそうだったら、無理しなくていいから。でも、出来れば逃がして欲しく無い」
「解った。けど、何でだ?」
俺はちらりとカタリーナを盗み見て、それからハルの横顔を眺めた。
「魔獣には、多分ハルの魔法の樹が植え付けられてる。だから、もう一度カタリーナに渡すわけにはいかない」
言葉は足りなかったと思う。しかし、竜二は鷹揚に頷くと、
「まあ、詳しい話はあとで聴く事にして、今は了解しておく」
「ありがとな」
俺は猫を抱えると、後ろにいる竜二へ渡した。
「終わりました、マスター」
渓の鈴を振る様な声がする。恐る恐る背中へ手をやると、さっきまで傷のあっただろう所は、何の痕跡もなく皮膚がくっついていた。着て来た服だけが、ひらひらと破れて、裂け目がほつれている。
「ありがとう、渓」
「どういたしまして。全く、私の言う事を聞いてれば良かったのに」
俺は渓へお礼を言うと、ゆっくりと立ち上がった。竜二が渓へ話し掛ける声が聞こえる。
「こいつは、そう言う事は聞き入れない奴だから」
「それは救いようがないですね、マスター」
激しい立ち回りを続けたからだろう。ゴーレムの動きはふらふらとし始めていて、今にも倒れてしまいそうだった。
あとは、あの荒れ狂った老婆を止める事。そして、あわよくば猫にどうやって魔法の樹を移し替えたのか、聞き出す事。それが、残りの俺達のすべき事だ。
俺の目の前では、まさに今、ゴーレムが倒れた所だった。思考が麻痺している。こんな大きな土塊が地面へ崩れ落ちて来たのに、俺の心は少しも騒がなかった。
ただ、ゴーレムが倒れたと同時に、翠が膝へ手をついたのを見ると、急に動悸がしてきた。遠目にも解る。膝に手をつき、冬の寒い中、止めどない汗を流し、荒い息を吐いている。目だけは、カタリーナから離さない。
「みっちゃん!」
「来ちゃダメ!」
鋭い声が飛び交い、次の瞬間には、翠の体はちゃんと前を向いていた。傍らに、大きなゴーレムが競り上がってきている。
翠は横を向くと、勝ち気な笑みを浮かべた。
「お姉ちゃんに、任せなさいって」
俺はふと、肩越しに後ろを見やった。心配そうに見ている竜二と渓がいる。竜二自身も、もうあちこちに傷を作って、ぼろぼろになっている。
俺に魔力などは感じ取れないけれど、実際のところ、頼みの綱が翠だけだ、と言う事は十分に解った。
翠にしてみたら、幼なじみの魔力を取り戻すために、自分が戦っているのだ。
なのに、投げ出さない。なのに、言い訳をしない。姉貴分として、弱い所を見せない。
俺はふと、あずみさんの言葉を思い出した。




