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それからは、無言で両足を繰り出し続ける。
いつしか、俺達は湖畔にぽっかりと空いた空き地に向かって立っていた。まさか、と思う。
そのまさか、はやっぱりあたっていて、渓は何もない様に見える空間へ、すうっ、と人差し指を走らせた。と、指の動く軌跡には光の弧が現れ、そこを境目にして、景色がまっぷたつに割れた。
まっ二つに割れた景色の狭間に、もう一つ、別の景色が現れる。
やがて、ファスナーが開く様に狭間はどんどんと広がり、徐々にその向こうの状況が解り始めた。
おそらく、今渓が開いたのは何かの結界の一種だったんだろう。そうだとしたら、この結界が張られた意図は明確だ。
つまり、昨日よりも激しいやり合いが、中で行われているのだ。
やがて結界に空いた穴は俺の背丈を超え、それより少し開いた所で穴はそれ以上開く事を止めた。
俺の息が、気付かぬうちに止まっていた。
俺達は、ちょうど二者の争いを横から眺めている格好になっている。だからこそ、争いごとの高揚感からは自由だったが、その分漂う緊張感に身をきつく縛り上げられた。
カタリーナは、色がついて目に見えそうな程の殺気を纏っていた。深い皺と彫りに埋もれた目は、決して大きくは無いのに、ありありと感情が滲み出ている。
その視線は、ただ一カ所を睨みつけている。彼女の目線をたどって行くと、カタリーナと相対するハルたちにぶつかる。ハルも、翠も、竜二も、一様に必死な目をして、カタリーナを睨みつけている。その目は、カタリーナの重圧に負けまいと、一生懸命虚勢を張っている様にも見えた。
突然の闖入者を、カタリーナは首だけを回して、ぎろり、とその目で射すくめた。
「また、面倒なのが来たな」
カタリーナの言葉は、背筋を人差し指でなぞる様な、体の中をぞわぞわと駆け上ってくる冷たさだった。無数の蟲が、地面から俺に取り憑き、そのまま引きずり込もうとする。
俺のなけなしの勇気は、今や空気の抜けた風船の様なものだった。
「魔法が使えないなら、どのみち数にならないだろ」
カタリーナは視線だけで俺を制し、そう続けた。
妙な静けさが訪れる。ついさっきこのやり合いの場に到着した俺も、今は膠着状態である事をすぐに悟った。どちらかが動いた瞬間に、この危ういバランスは崩れてしまう。
本当に、マジで、俺は何でこんな所にいるんだろう。




