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「着きました」
俺はその一言を待ってたぜ……。
「もう、あんな想いは、しなくて良いんだな?」
「ええ、そうです」
俺はふうう、と海よりも深い息を吐き、久し振りの地面の感触を確かめた。やっぱり、地に足がつくのって幸せだ。
辺りを見回すと、ここは、そこまで高くも無い山に囲まれていて、その盆地になった所にある湖のほとりだった。つい昨日同じ景色を見た気がするけど、おそらく同じ所なんだろう。
どうやら、俺が死にそうになりながらもどうにか聞き出した情報によると、竜二は水の精霊を使役する魔法使いで、渓は竜二の魔力によって水の精霊が人の形で顕現した物らしい。相変わらず、魔法って何がなんだかよく解らん。
竜二との馴れ初めとか、竜二の良い所とか、何度も頬を赤くしながら話していた渓だが、俺はそれを聴いている所ではなかった。
渓は俺の家を発つと、長い事ずっと走り続け、多摩川へと向かった。これでもかなりキツかったのに、渓は俺の手をがちり、と掴むと、その上を走り出した。俺はこの時点で、細かい事を気にしない事にした。とにかく俺は鯉のぼりみたいに情けなく引っ張られながら、ただただ恐怖に怯えていた。いや、あれはなかなか怖い。
また走り、別の川に行き、同じ様に引っ張られ、気付けば今いるここへ辿り着いていた。一生こんな事を続けるんだろうか、と思う程長く感じたが、思い返してみれば一時間ほどの間だったとも思う。
「早く、こっちです」
渓は全く疲れた風も無く、またさっさか走り始めた。俺はすっかり力の抜けてしまった膝を叱りながら、よろよろと走り始める。
風が騒いでいた。
湖畔の杉の木立が、ゆさゆさと木立を揺らした。いくら魔力を持たない人間でも、普通じゃない空気だけは、肌が教えてくれた。
風が揺れれば揺れる程、俺の心にはさっきのもやもやが強くかかってきた。
ハルの、翠の、竜二の前にこれから行くと思うと、足の筋肉が全て鉛に置き換わってしまったかの様に、いやに足が重くなって行く。
「なあ。俺が行って、何か出来るのか?」
すぐ目の前の、すらりとした背中へ呼びかける。しなやかな動きで、渓はこちらへ振り向いた。
「何も出来ない人だったら、マスターはあなたを呼びません」
「さよか」
「さよです」
なんだ「さよです」って。下手に真面目な言い方をするせいで、逆におかしく感じてしまう。
でも、あくまでも冷たい渓の声は、いくらか俺の足の筋肉を、鉛からもとの筋肉へと戻した、気がした。いくらか楽になっただけだ。全てが推論の霧の中の話で、俺はそれをみて絶望したり、希望を持ったりするのだ。




