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「カタリーナさんは、負けているのがイヤだったんだ。誰にとっても、カタリーナさんより、あずみの方が、大きな魔法の樹を持っている様に見えた。それは確かだった。
でも、カタリーナさんがそれを欲しがるのとは、また別の話なんだ。少なくとも、僕にとっては、ね」
そして。
「みんな、そこに気付けば良かったんだ……。」
そして、また長い静けさが俺達を取り囲んだ。駐車場から続く道は、いつの間にか薄暗い森の中へと差し掛かっていた。すっかり葉の落ちてしまった梢の間から、細く力の無い光が射し込んでいる。
どこへ向かうのだろう。
ただ靴音を鳴らして、急に冷えて行く空気の中を歩いて行く。冬だからか、塵一つない、澄んだ空気の様に感じられた。
辺りから物音も消え、夕闇によって色も失われ始めた頃、目の前が急に開けた。
幾つもの直方体の石が、整然と、見渡す限り並んでいる。色こそ違いはあれど、夕闇の中で、みな同じ様に、そこへ立ち尽くしていた。かげり行く陽の光が反射して、場違いな眩しさをもたらしている。暗さに馴れた眼には、少々明るすぎる。
気付けば俺は息をのんでいた。ここに来て、俺の微かな予想が当たった事を知った。
墓地だった。
もうすっかり藍色になった武蔵野の空の下、墓地はただただ静かだった。
碁盤の目の様に通った道を、ユリウスさんは迷う事無く進んで行った。彼にとっては来慣れた道なんだろう。俺はただ彼の背中だけを見て、歩いて行く。
そして、ユリウスさんはある一つの墓の前で、ふと立ち止まった。
「どうしてもキミには、来ておいて欲しかったんだ。たとえそれが、僕のエゴだとしても、ね」
ユリウスさんは俺を振り返りもせずにそう言うと、墓石の前にしゃがみ込んだ。墓石は、こまめに掃除されているのか、苔ひとつついていない。俺はそこに、「日野家之墓」と言う字を読んだ。
「これは、僕の妻の墓だ」
ユリウスさんはそのまま、墓前へ合掌した。俺も目をつむり、同じ様にする。
しばらくそうした後、ユリウスさんはゆっくりと立ち上がると、俺の方へ向き直った。
「僕の妻は、殺されたんだ」




