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車の外に出ると、空気は完全に冷えきっていた。墨を一滴水に垂らした様に、うすい闇が降り始めている。
「どういう事なんですか、それ」
そう尋ねずにはいられなかった。ユリウスさんは小さく頷くと、ゆったりと歩きながら、訥々と話し始めた。
「僕の妻、いや、ハルの母親の名前は、あずみと言ってね。身内びいきじゃないけど、本当に凄い魔法使いだった。風の魔法使いは普通、あまり影響力の大きい魔法は使えないんだ。土や水と違って、操れる物が本当に軽いからね。それでもあずみは、風だけで、そこらの山の一つや二つはすっぱりとまっぷたつに出来そうだった」
なかなか話が本題に入らないと思いながら、俺は微かな違和感を覚えた。
「出来そうだったって、どういう事ですか?」
ユリウスさんは俺の言葉を聞くと、ふっと、弱々しく笑った。
「そこに気付いたなら、話が早いな。
字面通りだ。それくらい、凄い魔法を使えた、ってだけの話さ。実際に山をまっぷたつにしたわけじゃないんだ。ただ人より大きな物を軽々と切れた、って言うのと、なんかの機会で、すこし大きめの建物を切った事があった、ってだけの話だ。ああ、あと、魔法の樹の大きさを測った、とか言う奴もいたな。まあ、それは、あずみと向かい合えば、はっきりと解る物だった。とにかく、押し潰される程の、強い魔力だった。
でも、だよ。嫉妬って言うのは、どこでも生まれる物なんだ」
ユリウスさんが何を言おうとしているのか、解った。ここまで来て解らないままでいるのは、さすがにまずすぎる。
「あずみの魔法は、嫉妬の的だった。いつも羨望のまなざしを浴びて、たぶんあずみは、疲れていたんだろうな。
嫉妬って言うのは、実力がそう遠く無い者がすぐ上を見上げた時に、抱くものなんだ。自分が相手の立場に立つ姿が、想像し易いからね。遠すぎると、そうはいかない。
あずみを一番うらやんでいたのは、カタリーナさん、彼女だ。彼女はそれまで、風の魔法使いの中で、最強、の肩書きを欲しいままにしていたから、自分より若いあずみが、本当に憎かったんだと思う」
「でも」
俺は、思わずユリウスさんの話を遮った。遮らずにはいられなかったのだ。
「カタリーナさんは、何でそんな強力な魔法を欲しがったんですか? 俺はまだ、魔法使いがどんな存在なのか、解らないんです。
翠とハルは、魔獣の討伐をしていた。でも、それは、魔法が無ければ生まれない災難だった。違いますか?
魔法って、必要な物なんですか? 魔法があって良い事って、あるんですか?」
怒られるんじゃないか、と思う。しかし、ユリウスさんはゆったりと頷きながら、俺の話が終わるのを待って話し始めた。




