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どうにか俺の肩からハルをどけ、反対側の窓に寄りかからせた所で、俺はとうとうこの話題を口にした。
「ハルの魔法の樹、どうやって取り戻すんだよ」
どうしても少しつっけんどんな感じになってしまう。しまった、と思うが、今更言い直す事も出来ない。
俺は翠に話し掛けたつもりだったのだが、答えたのは竜二の方だった。
「相手がカタリーナさんって言うのが、色々厄介だよなあ」
どうやら、もう誰がハルの魔法の樹を奪ったのかは解っている風だ。
「お前もあいつの事知ってるのか」
「まあ、有名人だからね」
前にも翠が同じ様な事を言っていた。そして、さっき目の当たりにした彼女の魔法も、噂に違わなかった。見たもの聞いたものすべてが、これからやろうとする事を難しく見せている。いや、確かに難しい事に変わりはないんだけど。
「正直、私たちの魔法だけじゃどうしようもない」
翠の一言は静かだが、苛烈なまでに辛辣だ。
「私のエメちゃんが二人を助け出せたのだって、土の魔法を使って不意打ちしたからだし。今回の事があったから、多分あのばあさんは、今までよりもっと注意深くなってるはず。真っ正面から行ったんじゃ、絶対に勝ち目は無いよ」
静かなまま、翠は続ける。いつの間にか高速道路に入っていたワゴン車が、ごう、と音を立ててトンネルへ入った。オレンジ色の水銀燈が、絶え間なく室内をちらちらと照らして行く。
「そもそも、解ってない事が多すぎるんじゃないのかな。クラウゼヴィッツのばあさんが魔法の樹を奪ったのは解った。でもね。
どうやって奪ったのか、どうして奪ったのか。どっちも解らなかったら、私たちは魔法で片をつけるしか無いの」
俺は今、確かに魔法使いの言葉を聞いている。そんな事は解っていた。なのに。どうしてか、それを信じられない俺も、確かにいるのだ。
トンネルが一瞬途切れ、冬の広い空が窓ガラスを埋める。トンネルとトンネルに切り取られた空は、やがて訪れた暗闇に、すぐにぬぐい去られた。
「言葉が通じる相手かどうかも解らないけどね」
竜二の言葉の調子は変わらない。元から、あまり感情の起伏が大きい奴ではないが、こいつはこいつなりに思う所があるんだろう、と言う事位は解る。
俺はちらりとユリウスさんの方を見やった。ユリウスさんはさっきからこちらの会話に関わってこない。俺達の会話は聴こえているんだろうし、何か考えている事もあるはずだ。何しろ、自分の娘の事だ。それでも話に加わらないと言う事は、まあ、ユリウスさんなりの理由があるのだろう。




