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誰が来たんだ、と思っていると、ついつい、と袖を引っ張られた。振り返ろうとすると、ハルが耳元に顔を近づけて、
「逃げられるかも」
と言った。俺もハルの耳に口を近づける。内緒話をしているみたいだが、こうでもしないと声が聞き辛いのだ。
「なんで、そんな事言えるんだよ」
「だってほら……、感じない?」
そう言って、ハルは目を閉じた。俺まで目を閉じるのは危ないから、そんなハルとカリーナを両方視界に入れたまま、何か感じないか、五感を研ぎ澄ます。
やっぱり何も解らないじゃないか、そう思った時。
「うああああいいいい」
背後の斜面が、突然ぼこり、と膨らんだ。人の頭程もありそうな岩が、幾つも幾つも転がり落ちてくる。
「来た!!」
「おいおいおい! 何かやべーぞ!?」
急に色づいたハルの声とは対照に、俺の声は半分震えていた。
だって、山の形が変わって行くのだ。さっきまでは滑らかだった稜線が、急にいびつな形になっていく。俺達の何倍もの高さがある杉の木立が、次々と倒れて行く。
しかし、これに慌てているのは、カタリーナも一緒だった。眉間に新たな皺を作り、心の底から不機嫌になった様な顔で、山を睨んでいる。俺達の方に歩いてきた猫、いや、魔獣も、俺達にしっぽを向け、小走りで主人の許へと帰って行った。
この世の終わりかと思える程の低い音が鳴り響く。これは地鳴りだろうか。
やがて、山の中から、一体の人形が姿を表した。……人形だと?
人の形をした土塊は、一度ぐるりと俺達を睨め回すと、大きな体を折り曲げて、俺達のもとへ分厚い手のひらを差し出した。
気付かないうちに膝を振るわせていた俺を、ハルが追い越し様に肩を叩いてせっついた。気付けば、ハルはホウキを握って、もうゴーレムの手のひらへ手を掛けている。
「早く!! ヤマト」
「え? こ、これ、大丈夫なのか?」
「何言ってんの、ヤマト。エメちゃんじゃない」
エメちゃんって……、ああ! 翠のゴーレムか! ぽん、と心の中で手を叩き、分厚い手のひらに上る。
「でも、何で翠のゴーレムがこんな所にいるんだ?」
「解んない。でも、エメちゃんは味方だし。それに、カタリーナさんから逃げるには、これしか無いよ」
そうこう言っている間に、ゴーレムは手のひらを持ち上げ、のっそりと歩き始めていた。山が鳴る。地面が響く。空気が揺れる。地面ではカタリーナが手を振り回し、何か術を掛けたようだった。今までひらりと風を受けなかったマントが、何か別の生き物の様にはためいている。それは、初めて彼女が本気になった証なのかもしれなかった。




