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しかし。
「はッ」
老女が手を一振り。その瞬間、立っていられない程の向かい風が正面から吹いた。
俺はよろめき、そこへやって来た第二陣の風に、膝をつかされた。
「くそ……」
「お前は威勢がいい。ただ、死ぬと解っていてなお、向かってくるのは、賢いやり方ではないな」
そう言って、高らかに老女は笑った。
「ヤマト。あの人はまずい」
ハルの顔からは血の気が引いていた。ただ恐れだけを浮かべた蒼い瞳で、老女、カタリーナを見つめている。
「あの人は、風の魔法使いの中じゃ、一番『強い』魔法使い」
俺に言い聞かせる様に、ハルは淡々と話した。
「あの人がその気になれば、あんたなんて一瞬で殺せる」
「……」
俺は黙ったまま、ハルの言う事を聞いていた。確かに、ユリウスさんもそう言っていた。カタリーナ・クラウゼヴィッツは、恐ろしい魔法使いだと。
でも、だ。
ハルが魔法を使えず、俺も単なる高校生だ。
ハルは間一髪の所で俺を助けてくれた。
なら、俺も本気で何かをすべきなんじゃないか。諦めるのは、卑怯じゃないのか。
「小屋を破られるとは思っていなかったが、楽しませてくれたのだから、まあ良い。用が済んだのだから、私の手間を増やさないでおくれ」
「黙ればあさん」
俺はカタリーナを睨みつけた。
「お前なんだろ」
「ああ、そうだよ」
けろりとした口調とは裏腹に、分厚い瞼の奥の黒い瞳が、俺を串刺しにした。
「私がやったのさ」
「……っ、クソが」
俺は小さく悪態をつき、そのまま走り出そうとした。しかし、またも激しい風が吹き、俺の脚は一歩も進まない。
「私は確かにあいつの魔力を奪った。だが、それを知って、お前らには何も出来んだろうが」
俺には奥歯を噛み締める事しか出来なかった。
その通りだ。信じたく無いけど、解りたくは無いけど、俺は何も出来ない。
大きな力の前に、俺に出来る事は一つも残っていなかった。




