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瑞浪竜二が見慣れない電話番号からの着信に気付いたのは、夜も更けた十一時頃だった。愛する数学から一旦離れて、子機を取る。今日は両親とも帰りが遅いのだ。
「はい、もしもし」
「あ、竜二くん? 夜遅くにごめんね。突然なんだけど、ウチのヤマト、どこにいるか知らない?」
「知らないっすよ。あいつ、どうかしたんですか?」
竜二は子機を持ったまま自室へと向かう。充電ケーブルを持って携帯電話を引っ張り出す。そのまま、翠のアドレスを呼び出し、メール作成画面を開く。
イヤな予感は、すぐに現実の物となった。
「あいつ、こんな時間になっても、帰ってこないのよ。竜二くんの所にいるかもって思ったんだけど、いないんでしょ?」
「はい。放課後から一度も見てないっすね」
「そう……。ありがとう。他を当たってみるわね」
「俺も探してみますね」
「ありがとう。でも、もう夜も遅いし、学生は寝なさい」
「はい。おやすみなさい」
息子がいなくなったと言うのに、ヤマトの母親は微塵も慌てた素振りをしていなかった。
そう言う人なのだ、と竜二は思う。
竜二、翠、そしてヤマトは、かなり長い時間をともに過ごした。もちろんその中で、竜二がヤマトの母親にあう機会も少なからずあった。
小学生時代の竜二とヤマトはいつも傷だらけだった。勉強バカと呼ばれた竜二を、外の世界へ引っ張り出したのはヤマトと翠だった。
少し大きめの怪我をした時は、いつも決まって、翠に小言を言われ、ヤマトの母親に手当をしてもらった。どんな時にも、豪放に笑っている人だった。
あ、そうだ、と竜二は思い出す。千種ちゃんの時もそうだった。竜二もヤマトも翠も、千種ちゃんとはよく一緒に遊んだ。ヤマトの家の近くで遊んだ時は、いつも千種ちゃんがついて来た。あれだけ元気な子だったのに、ヤマトが痣を見つけ、ヤマトの母親が殴り込んだ。いや、暴力は無かったらしいけど、とにかく、その頃の俺は、「凄い人だな」と言う感想を抱いた。今もそれは変わらない。
それからも、竜二は何度と無く、そのような武勇伝を知っていくのだった。今ちょっと思い出すだけでも、幾つもの事を思い出す事が出来る。
全部、竜二に取っては懐かしい想い出だ。
とにかく、ヤマトの母親は凄い人なのだ。そして、ヤマトも面白い奴だ。これは断言出来る。
「多分、魔法絡みなんだろうなあ……」
竜二はそう呟いて、翠へのメールの文面を作った。
魔法は確かに便利だ。けれど、魔法だけでは何も成し遂げる事が出来ない事も、竜二は知っている。だから彼は数学を愛したのだ。魔法をいくら使えても、数学は、動かない。
本当に、自分は周りの人間に恵まれた、と竜二は思う。新しい世界を見られたのも、小さい頃からの友達のおかげなのだ。
「じゃ、いっちょ俺も探しますか」
竜二は肩をぐるりと回した。




