13
「はあっ、はあっ。ッ……。ちょっと休憩させて。良い?」
「おう。少し休もうか」
「だあーっ」
ハルはそのまま、その場へへたり込んだ。
「疲れたぁあ」
「いや、確かに急斜面だけどさ。お前どっか具合悪かったりするんじゃないのか?」
「……ほら。昨日のお昼から何も食べてないしさ。それだけだって」
ハルは空元気を出して、そう言った。確かに何も食べていない。思い出した途端、腹の中が空になった様な感覚が襲って来た。
「確かに。俺も『笹子』のたい焼きから何も食ってないや」
「あーあ。千種ちゃんのとこのかあ」
じとっ、とした目をするハルなのだった。薄い瞼と細い眉をゆがめて、精一杯俺を眇めている。俺はまたもやそれを華麗にスルーして、コートのポケットを探った。お?
「飴入ってたんだけど、いるか?」
おばちゃんみたいだな、と思う。
「いる。ありがと」
飴を差し出すと、ハルは拗ねた様な声でそう答えた。
「なあ、この森ってどれ位続いてるんだ?」
「多分、もうそろそろ抜けられると思うんだけどね……」
ハルはそう言って、斜面の上の方を見やった。杉の森だからだろう。冬なのに葉が残っているから、暗く、上の方がどうなっているかはよく解らなかった。
ハルは飴の包み紙を開けて、飴玉を口の中に放り込んだ。コロコロと口の中で転がしながら、言葉を継ぐ。
「湖のこっち側は町が無いからねえ。この山登りきって、道路に出てからじゃないと相模湖駅には出られないんだよね」
「マジか……」
そう高くは無い山なんだろうが、てっぺんまで登らなくては行けない、と言う事実が、俺の疲れとなって、体を蝕んでいった。
ああ……。帰ったら、千種のところのたい焼きを食いに行こう……。
「よっしゃ! エナジーチャージ、完ッ了っ!」
ハルはいきなり立ち上がると、傍らのホウキを拾い上げた。それを見て俺も立ち上がる。
「もう、大丈夫なのか?」
「うん。もう平気」
なら良かった、の言葉をなぜか飲み込み、俺はハルの手からホウキを取った。
「お前、疲れてんだろ。荷物は俺が持つから」
「えっ? だいじょぶだって」
「良いから」
隠しきれてないぞ、お前。俺は片手に鞄とホウキを持って、斜面を歩き出す。
「ねえ。大丈夫だって」
「いいや。お前、さっきからしんどそうだぞ? 持ってやるって言ってるんだから、素直に持たせとけって」
「うーん、でもさ……」
ハルが何を遠慮しているのか、俺にも解る。解り易い奴なのだ。
「良いから。俺が持ちたいから持ってるんだ。お前も置いてかれない様に登って来いって」
「…………そう。ありがと」
珍しくはっきりしない口調だった。後ろを見なくても、口を尖らせて、俯きながら言ってるんだろう、と言う事がよく解った。




