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「今の、どう考えてもお母さんのクレストのおかげでしょうが」
「あ……、やっぱり……?」
俺も、何バカな事言ってんだって思ったもん。でも、やっぱりクレストのおかげ、ってだけでは説明のつかない事もある。
「だって俺、この魔法具の適合者になった覚え無いぞ? 何で俺が使った時にも、クレストが反応したんだ?」
「うーん……」
ハルは、顎に手を当てて、考え込んだ時のポーズをとった。しかし、十秒と経たずに、
「よく解んないや」
と言うと、落ちていた鞄を拾い上げ、大きな口の様に開いた壁の穴から、外へと出て行った。俺も後に続く。誰かが監視しているかもしれないのだ。穴を開けたら、早い所外に出るのが得策だろう。
一晩をこの小屋で明かしただけなのに、澄んだ空気は言い様も無く懐かしい。俺は壁の穴を出てから、なんとは無しに小屋の方を振り返った。
いや、こんな事は考えてなかったぞ。
「え?」
「嘘だろ?」
俺とハルの声は、ほぼ同時だった。先に外に出ていたハルも、小屋を振り返って「え」の口をしたまま、固まっていた。
小屋の真後ろは、湖だったのだ。よく晴れた空から湖面に光が降り注ぎ、穏やかな輝きを放っている。左右を見渡すと、遠くには遊覧船が浮かんでいる。対岸には住宅街があり、湖へ下る斜面沿いに、たくさんの家が張り付く様に建っている。
もう一度、反対側を見る。湖畔に立つ小屋には、窓が一つしかついていなかった。窓は湖水とは逆の方を向いており、湖畔の杉林しか内側からは見えなかったわけだ。張ってあった結界は音を通さない物だとハルも言っていたし、湖水が岸へ打ち付ける音も聞こえない。
つまり俺達は、湖のほとりに閉じ込められているなど、気付きようも無かったわけだ。
湖を渡って、冷たい風が吹いてきた。ハルは何やら呪文を唱えると、持っていた鞄をマントへと変えた。糸に魔力が練り込んである、みたいな事を聞かされたけど、多分あれも魔法具なんだろう。コートを着ていなかったハルは、外が余程寒かったのか、コートにぎゅっとくるまりながら、小走りで俺の所へと駆けて来た。
「ここ……、相模湖だよね」
俺が尋ねようとした事を、ハルは先回りして答えた。相模湖……、相模湖?
「いや、解らないけど……。そうなのか?」
「そうだよ!」
身を乗り出すハル。蒼い目も、薄い唇も、少し赤みがかった頬も、全てが間近に迫って来る。目には何かただならぬ感情が浮かんでいて、見つめられるだけで痛みを感じそうだ。俺はじりじりと後ずさりをしながら、いきなり近付いて来たハルの顔から目を逸らした。




