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「な、なんだよ。ハル」
「そのホウキ、ちょっと見せて」
ハルがそう言うので、俺は少し訝りながらもホウキを手渡した。ハルはしばらくホウキのあちこちを確かめていたが、やがて「あった」と小さな声で言うと、俺にほうきの柄の尻を見せた。
「これ。ここに、なんか紋章が彫ってあるでしょ?」
光が足りない。俺はほうきの柄の角度を変えたりしながら、どうにか窓から忍び込む光をホウキに当てた。確かに、何かをかたどった様な紋章が見える。なんだろう。軸みたいな物の周りに細かい線がたくさん彫ってあるけど……。
「ああ……、なんか……、微かに見えるな。これ、鳥の羽根か?」
「うん。そうなんだけどさ……」
ハルはそう言うと、「ふうむ……」と顎に手を当てて、考え込んでしまった。この紋章が何か問題なんだろうか。
「これが、どうかしたのか?」
「うん。このホウキ、お母さんのなんだよね……」
ハルは俺の問いに答えながらも、まだホウキのあちこちを見ている。俺はしばらくそうしているハルを眺めていたが、しばらくして事のおかしさに気付いた。
「え? 何でそんな事が解るんだよ?」
もう予想はついていたが、俺は敢えてそう訊いた。なんと言うか、信じられなさすぎて、確認する様な訊き方は出来なかったのだ。
「この羽根の模様、お母さんのサインなの」
「サイン……?」
ハルの言葉をかみしめる様に、俺は繰り返す。サインサイン……、サイン?
「サインって、あのサイン?」
「どのサインか解らないけど、多分そのサインだよ」
どのサインって、こんな状況で三角関数の話をしたりはしないだろ。
「正しくはクレストって言うんだけどね。魔法使いの使う道具を魔法具って言うんだけど、万が一他の魔法使いに盗まれても他の人には使えない様に、自分の事を認識する魔方陣を、魔法具に彫っておくの」
「ああ、なるほど。印鑑みたいな物か。本人確認みたいな感じで」
「そう思っておいてもらえれば良いかな」
「で、何でお前の母親のホウキが、ここにあるんだよ」
「そこなのよね」
ハルはそう言うと、ホウキの柄を折れた方向と逆向きに曲げた。柄の折れ口が一旦隠された形になる。ハルは折れていた部分を覆う様にホウキを握ると、目をとじ、何やら呪文を唱え始めた。
「風よ、風の精霊よ。所有者あずみに代わって……」
そして、ハルの呪文はどんどん不明瞭になって行った。何かぶつぶつ言っているのは解る。が、今何を言っているのかを尋ねて、ハルの集中を乱すのもいけない気がした。俺は突っ立って、その様子を黙って見ている事にした。
まあ、今まで何回か魔法使いの呪文詠唱を見たし、予想はしていたけども。
「我が物となれッ! イーリスッ!!」
やっぱり突然の大声にはびっくりする。俺はびくりと体を震わせ、いかんいかん、と深呼吸をした。




