1
寒さで目が覚めた。起き抜けの目に、白い吐息がぼんやりと見える。壁にある小さな窓から薄暗く埃っぽい小屋の中へ、筋になって光が差し込んでいる。
「うう、さぶ」
俺はそんな事を呟きながら起き上がって、やっと、事の異常さに気がついた。俺は小屋の中を見渡す。そして、傍らに目を落とし、更にとんでもない物を発見してしまった。
ハルが、隣で寝ていた。
オーケー。少し落ち着こう。深呼吸をして、まずは状況確認だ。
俺は床に寝ていた。それはべつに何の問題でもない。ちょっと背中が痛いけれど、そんな事も些細な問題だ。鞄が二つ、無造作に転がされている。そう、二つだ。ここにいるのは、俺だけじゃないのだ。
問題なのは二つ。俺が訳の解らない小屋に閉じ込められた事、そして。
俺のすぐ隣にハルが寝ていた事だ。まるで幸せな夢でも見ているかの様な、安らかな寝息が聴こえてくる。
「はくちゅっ」
かわいらしいくしゃみが聴こえた。ハルが小さな肩を震わせている。俺は着ていたコートを脱いで、制服を着たままのハルの体に掛けてやった。
ちょっと待て。もしかして、俺はハルと一線を越えちゃったんじゃないだろうか? やばい、それはまずい。ハルは確かに可愛いと思うけど、まだ知り合って幾日もしない人間と共に朝を迎えるとか、俺の性欲は底なし沼だったか……。
しかし、頭が冴えてくるに連れて、それがどんなに馬鹿げた想像だったか、俺は薄々と息づき始めた。つまり、意識が飛ぶ前の記憶が戻って来たのだ。
俺もハルも制服を着たままだった。それが大きな手掛かりだった。さすがにちゃんと自分達の意志で選んだ宿、と言うか小屋なら、コートを着たまま寝るなんて事にはならないだろう。だから、俺達は何者かに意識を飛ばされ、ここへ連れてこられた。
そう考えると、やっぱり、昨日の記憶が謎の穴に吸い込まれた所で途切れているのは、自然だった。あの穴がなんなのかは解らないが、とにかくあれを通ったら俺達はここへ飛ばされていたのだ。
何がなんだかよく解らないが、おそらくそれが正しい。
「嘘だろ……」
俺達を飛ばしたのがあの怪しい男だと言うのは、ほぼ確実だろう。ただ、そんな事が解ってもなんにもならなかった。
俺は魔法使いの存在を知ってしまったが、それを知っているのはハル、翠、そしてユリウスさんだけのはずだ。翠とハルは他人にこういう事を漏らす様には見えないし、ユリウスさんだって、すこし信用は無いけれど、あの場で記憶をいじられたりしなかったのは、そう言う事なんだろう。
じゃあ、ハルはどうなのだ。翠はハルが魔法を失った事を知っているが、それを外へ漏らしたりはしないだろう。ユリウスさんはハルの父親だし、翠とグルになっていたと言う事は、やっぱりこの情報を外へ漏らすとは考え難い。




