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帰り道。人通りが増え始めた大通りの歩道を、翠と二人並んで歩く。ビルの影から、沈みかけた太陽がこちらを覗き込んでいた。
「ヤマト」
「ん? なんだ」
「あんた、ラインハルトさんの策にまんまと引っ掛かったでしょ?」
「……? 策ってなんだよ」
俺は至って普通に応えただけだったが、翠は海の様に深いため息を吐くと、首をゆるゆると振った。
「気付かなかったの? ラインハルトさんが、ヤマトから話を聞き出したじゃない。あれ、私と共謀してたから」
「は?」
全く気付かなかった。と、言うか、何でそんな事をしたんだ。
「ヤマト、ハルちゃんが魔法を無くした事くらいしか話してくれないじゃない。こっちはもっと色んな事知りたいのにさ。
でも、ラインハルトさんもそう思ってたから、話を持ちかけたの。どうですかって」
俺は途端にめまいの様な物を覚えて、一瞬顔を覆った。嘘だろ……。
いや、絶対に質の悪い冗談だ。俺はそう信じてる。翠は大事な幼なじみに策を弄するような、下衆の極みじゃないってこと。信じてるけど……。
駅が近付いて、人の数が増え始めた。商店街の飲み屋には、既に人が溢れる程入っていた。
「ちょっと待て、お前の言う策って、いつから始まってたんだ?」
「え? 今日、学校出た所からだけど」
目の前が真っ暗になった、様な気がした。一瞬訪れた暗闇を、徐々に藍色に変わって行く赤い空がぬぐい去って行く。
端的に言えば、自分の騙され易さに驚いた。俺は遠い将来、振り込め詐欺に引っ掛かっちゃうんじゃないだろうか。やだやだ。
「じゃあ、お前とユリウスさんの会話も、あれ全部ねつ造なのか?」
「ううん。元々話し合う予定だったんだけど、今日の昼にハルちゃんの事、ヤマトが話してくれたから、じゃあって事でラインハルトさんにメールした」
まじかよ。
「ヤマト、べらべら喋っちゃったみたいだけど、あれ全部、ラインハルトさんの魔法だから。心を読めるって行ってたけど、それも嘘。魔法使ってたのは、最後のちょっとだけだから。
風の魔法って、ああ言うとき便利なのよね」
つまりユリウスさんは、既に翠から「ハルが魔法を使えなくなった」と言う事を聞いていて、敢えて「心が読める魔法」なんて事を言い出したのだ。なるほど。確かにそんな魔法、ありそうだもんな。
まだ魔法使いの存在を知って二日目の俺は、まんまと引っ掛かってしまったわけだ。
「でもさ、じゃあ、ユリウスさんはどんな魔法使ったんだよ」
「ヤマト、最後、ラインハルトさんにすっごく頼み込まれたでしょ。あれで、『ハルの事、言わなきゃ』って気持ちにさせられたんじゃないの? その時だよ」
「え? それってどういう……」
呆れた様に、翠は溜め息をつき、小さい子を教え諭す様に俺へ応えた。
「だから、物凄く自分が困っているんだ、って言う雰囲気が出る様に、風の魔法で音の伝わり方とかを変えてるんだって。私やハルちゃんには真似出来ないけどね。そのやり方でハルちゃんのお母さんにプロポーズしたみたいだよ。ラインハルトさん曰く、一種の泣き落としみたいな物なんだって」
えええええ。まじかよ。そう驚くのと同時に、俺はユリウスさんの言葉を思い出していた。
「まあ、魔法が使えないからこそ、出来る事だってあるさ」
魔法無しで聞き出してみせろよ……。想いっきり魔法に頼ってんじゃねえか……。
「もしかしてヤマト、女の子の涙とかに弱いタイプ?」
「うるせー」
翠はどこか楽しそうにそう言うと、いつもの様に、手提げ鞄をぐるぐると回した。回るか番を見ながら、俺は失意のどん底にいた。
おっさんの「泣き落とし」に引っ掛かるなんて……。最悪だ……。




