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しばらくすると、男性は両手にマグカップを持って、「お待たせ」と言いながらリビングへとやって来た。俺達の前にココアの入ったカップを置くと、彼は俺達と直角の位置にあるソファーに腰掛けた。
「さて。君、いきなりで悪いけど、名前を聞かせてくれるかな?」
穏やかな声と、優しげな青い目が俺を捉える。俺はその目を吸い込まれる様に見返しながら、答えた。
「春日居大和です」
「ありがとう。僕は、ユリウス・ラインハルト。よろしく」
彼はそう言って軽く頭を下げた。あわてて俺もそれに続く。
「翠ちゃん、彼はこの場にいても大丈夫だと、君は判断したんだね?」
「はい。と言うか、いるべきなので……」
はっきりとは言えないだろう。翠が口ごもる理由が、俺にも十分解った。ハルの異常を知らせたく無いのだ。
「まあ、君がそう言うなら、そう考えたんだだろう。僕は何も言わないよ。
じゃあ、本題に入ろう。仕事の話だったね。魔法使用者組合の武蔵野支部からは何て通知が来てるんだい?」
「仕事内容は囚人の確保だそうです。魔法を犯罪に使って、魔法使用者組合本部の独房に収監されていたんですけど、脱獄したらしいです」
「そうか……」
彼、ユリウスさんはそう呟いて、ゆっくりと首を振った。
「こんな事、君たちがやる義理なんて、無いのにね」
「仕方ないですよ。魔法使いの数は少ないですから、地域的な警察は組織出来ませんし」
「看守はちゃんと見張ってるから、おまんまを食えてるって言うのにね。彼らがここまで追いかけてくれば良いんだ」
「でも、脱獄した囚人は、そんなに強い魔法の使い手でもないらしいですよ。ただ、一般人の方に魔法を使ったから、刑が少し重くなったみたいですが。何か特殊な術を使ったんじゃないかって言われてます」
「部分的に記憶を消す魔法は、使える人が少ないからねえ。刑の方を重くするしか無いんだろうけど、そこすらちゃんと出来ないと、意味が無いね」
知らない言葉がぽんぽん飛び出してくる。頭の中で頑張って漢字変換をし、どうにかこうにか話題について行く。
と、俺が言葉の解明に躍起になっていると、急に。
「ヤマト、本当は魔法使えたり、しない?」
訳の解らない質問が飛んで来た。は?
「何言ってんだ、お前? 十年も一緒だったのに、まさか俺が魔法使えるとでも思ってるのか?」
「んなわけ無いでしょ。使えたら良かったのになあって言う話。うーん、ヤマトは役に立たないか」
俺は何もしていないのに、勝手にぼろくそに言われている。くう、悔しい。
「まあ、魔法が使えないからこそ、出来る事だってあるさ」
ユリウスさんがフォローに回ってくれた。ああ、その優しさが目にしみるぜ。
「それに引き換え、翠ときたらなあ……」
「何よ。私がどう思ったって関係ないじゃん」
「だって、あんな猫一匹にでっかいゴーレム一体で掛かって、結局負けてるじゃん」
「ゴーレムなんて呼び方、許さないから。あの子はエメちゃん。小さい頃からお世話になってるんだから、そんな呼び方しないで。
それに、クラウゼヴィッツのばあさんの猫でしょ? 無駄に気が強いのよ。ばあさんに似て」
俺達の醜い争いを見ていたユリウスさんが、おもむろに口を開いた。
「ヤマト君、これでも翠ちゃんは、土の精霊を使役する魔法使いとして、ちょっとした有名人なんだよ」
「そ、そうなんですか……。じゃあ、なんであんなに簡単にやられたんですか、猫一匹に」
「カタリーナさんは、今でこそ隠居してしまってあまり目立たないけど、若い頃は恐ろしい程凄い魔法を使ってたからなあ。僕の妻が互角だった位かな。とにかく、現役の魔法使いの中じゃ抜きん出てたね。
今じゃ、同じ風魔法使いのハルだって、カタリーナさんには敵わないと思うよ」
遠い目をして、ユリウスさんはそう言った。あれ? ユリウスさんの言葉、ちょっと引っ掛かる。
しかし、翠はどこにも突っ込まず、話を違う所へと持って行く。
「とにかく、私の話はどうでも良いの! 本題に入りましょう。最近仕事が多すぎる事でしたよね、本題は」
「ああ、そうだね」
ユリウスさんは、やはり鷹揚に頷いた。




