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で、秘密を護るとなると、ハルをサポートする為に俺も駆り出されるわけで。
「何で魔法が使えない奴の所ばっかりに、こんなに仕事が来るんだよ」
放課後の教室で帰り支度をしつつ俺がぶつくさ文句を垂れると、翠は残念な人を見る様な目つきで、
「ヤマトに面倒ごとかけるかも知れないって、言ったでしょ?」
と言った。いや、言ってたけどもさ。
「そもそも、いつも、こんなに仕事してたのか?」
「ううん。たまたま重なっちゃっただけだと思うんだけど」
翠はそう言うと、肩をすくめた。
「もうちょっと、他の人が代わってくれても良いと思うんだけどね」
そして、翠は俺に、魔法使いの仕事がどうやって割り振られているかを教えてくれた。
魔法使いは自分たちの存在をひた隠しにする為に、魔法使いの存在がバレる可能性を自分たちで排除している。その事を、こいつらは便宜的に「仕事」と呼んでいるわけだ。
ただ、そう言った仕事で、魔法使い同士が戦う事は少ない。なぜなら、魔法使い自身も自分が魔法使いだとバレる事に得は無いし、多対一の状況になったら、想像もつかないような惨い事になる。やっぱり得が無い。
だから普段は、逃げてしまった魔獣の捕獲や、その他諸々のこまごまとしたトラブルを、近所に住む魔法使い同士で持ち回りで解決しているのだそうだ。
「あんまり他の人に代わってもらいすぎると、それはそれで怪しまれるし」
翠はそう言うと、バシッ、と俺の背中を叩いた。
「痛って!」
「ハルちゃんがあんまり魔法を使えない今、ヤマトが頑張らなきゃ! きりきり働けえ!」
いや、俺だって魔法使えないんだけど。その点に関しちゃ、俺もハルも変わらん気がするのだが。
「ってか、ハルは何してるんだよ」
何であいつじゃなくて、俺がきりきり働かにゃならんのだ。
「ん? クラウゼヴィッツのばあさんに会いに出てったよ、相模湖まで。ばあさん、何か聞きたい事があるんだって」
「ふうん」
魔獣を捕まえさせといて人を呼び出すって、何か釈然としない気もするが、まあ仕方ない。相模湖へは、この街から橙色の電車に乗って一時間とちょっとだ。それだけの距離をいとわずに出てったって事は、ハルにも何か得があったのだろう。
「さ、行くよ」
手提げ鞄をぐるぐると振り回しながら、翠は教室を出て行った。俺はあわててその背中を追った。
翠が向かったのは、学校から駅を破産で向こう側にある住宅街の、洒落た一軒家だった。白い壁に、すこし鋭い三角屋根。二階にはベランダがあり、その隣には出窓も付いている。庭の芝生は刈り揃えられていて、冬なのに荒れた感じがしなかった。手入れが行き届いている。
何の躊躇も無くチャイムを鳴らした翠に、俺は問いかけた。
「おい、誰の家なんだよ、ここ。仕事じゃねえのかよ」
「そもそも、いきなりあんたに出来る事なんてある訳ないでしょうが。まずは色々やる事があるの。
そう言えば、ヤマト、まだ来た事無いんだっけ? ここ」
そして、イヤらしく目を細めた。ああ、それだけで何となく予想がつく。
「そっかあ。ハルちゃんと、仲良くはなったけど、家には来てないのかあ」
「だから、俺とハルがそんなふうに見えるって言うのかよ」
「全っ然。はっきり言うけど、ヤマトとじゃ釣り合ってない」
会話の後の方は、忘れてしまおう。確かにハルは、見た事も無い様な可愛い子だけどさ。「全っ然」なんて、そんな力入れなくても良いじゃないか、と、俺は珍しく傷ついた。
ややあってインターホンから男性の返事があり、俺は翠の後について玄関まで行った。玄関の脇に「Reinhardt」とかかれた表札があり、予想が当たっていた事を俺は知った。
俺達が玄関に付くとすぐ木目の付いた扉が開き、中から赤いセーターを来た、金色の髪の外国人の男性が現れた。年の頃は四十代後半で、大柄な人だ。彼は穏やかな声と流暢な言葉で、
「ああ、翠ちゃんと……、その子は誰だい?」
と問うた。翠は即座に、
「私の幼なじみです。ちょっと面倒な事があって……」
と答える。男性はゆっくりと頷くと、
「まあ、深くは聞かないよ」
と言い、「こんな所じゃなんだから。上がってよ」と言葉を継いだ。翠と俺は履いて来た革靴を脱ぎ、俺はどことなくぎこちない動きで靴を揃えてから、廊下を歩いた。
「おい、あの人、誰なんだ?」
俺は声を潜めて翠に尋ねた。翠はすぐさま、
「ハルのお父さん」
と応えた。また、黙って廊下を進む。
なんと言うか、全てが俺の家と違う。別段取り立てて高価な物も無いのだが、家の外観と、木目が生かされた家の壁、廊下から見えるちょっとした家具など、細かい所まで考えて置かれているのが解った。
ウチはなあ。父親も母親もそこの所適当だったからなあ。同じ家でも、天と地程の差があるぞ。
通された部屋も、暖色系のソファーが背の低い木製の洒落たテーブルを囲んでいる、暖かいリビングだった。俺達は男性の進めに従って、隣り合ってソファーに座った。男性はそれを見届けると、リビングの隣にあるキッチンの方へと立ち、俺達の方を振り向いた。
「暖かい飲み物でもどうだい?」
「いえ、おかまいなく」
と、翠。しかし男性は「寒かっただろうから、ほら。遠慮しないで」と言って、小鍋を火に掛けた。
男性が何かを作る音を、俺達は黙って聞いていた。リビングに通されてしまった手前、きょろきょろ見回すのも、どこか悪い気がした。反面、翠は馴れているのか、椅子に深く腰掛けて、完全にリラックスしていた。




