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今朝の公園に着くと、ハルは池に渡してある長い橋の欄干に腰掛けて、俺を待っていた。足をぶらぶらとさせながら、暗い夜空を見上げている。もう見慣れて来た黒い三角帽子が夜の暗さの中でも影になっていた。マントの下からは、黒いハイソックスが覗いている。
「よう」
俺が声を掛けると、ハルは空から目を離した。
「遅い!」
ハルの叱責の声が飛ぶ。俺は敢えてそれをスルーして、ハルの許へと近付いた。
「俺もここに着いた事だし、行くか」
「なんで後から来て偉そうなのよ……」
ハルはぶつくさ言いながら、欄干からひょいっ、と飛び降りた。音も無く着地し、「行くわよ」と言って、橋をたもとの方へと歩き始めた。俺もその後へ続く。ハルは携帯電話を取り出すと、誰かと話を始めた。
「あ、みっちゃん? いまどこにいるの? ……。わかった。……。すぐ行く」
通話を終え、携帯電話をしまうと、ハルは少し歩みを早めた。小走りになりながら、ハルは振り返る。
「絶対に、みっちゃんには見られちゃだめよ」
隠れておけ、と言う事だろう。まあ、そのみっちゃんとか言う奴を見てしまったら、今度こそ俺は記憶をなくすんだろうなあ。そう考えると、ぞっとしない。
「了解した」
短く答えたが、ハルは何も言葉を返さなかった。ただ時折立ち止まっては、まるで遠くの音でも聞いているかの様に、目を閉じて風を読んでいた。俺にその行為の意味は全く解らなかったけれど、多分これが風を操る魔法使いのやり方なんだろう。根っこだけ残った魔法の樹から、一生懸命力を絞り出しているに違いない。
しばらく走ると、急にハルは立ち止まった。恐る恐ると言う感じで、道ばたに体を寄せ、曲がり角の向こう側を見ている。
俺には何かが変わった様子も感じられなかったが、ハルは確かに、さっきと比べて慎重になっていた。
ハルの横顔を盗み見る。口はきつく閉じられ、目は俺とは違うどこかを見ている。俺はハルの横へ出ようとしたが、ハルは手の平を俺に向けて、俺を制した。
「あんた、あそこのゴミ箱の影に隠れてなさい」
潜めた声でハルがそう言った。ハルの指差す先には、ゴミを入れておくポリバケツが合った。
「いや、このままここにいれば良いだろ」
「いいから。言う通りにしなさい」
仕方なく、俺は抜き足差し足でゴミ捨て場まで歩いた。ちらりと曲がり角の向こう側が見えて、俺は急いでポリバケツの中に入り、蓋を閉めた。いや、思ったよりやばいよ。
「いや……、中に入れなんて言ってないんだけど……」
ハルの呆れた様な声が聴こえたが、いや、あんな光景見せられたら、ゴミバケツの中にだって隠れたくなるだろう。
俺は、曲がり角の向こう側で、女の子が何かと対峙しているのを見てしまった。女の子の隣には、二階建ての家程もあろうかと言う高さの、人型の何かがのっそりと立っている。やっぱりそいつも俺の方に背を向けて、俺からは見えない何かと対峙していた。
魔獣と聞いていたから少しはビビってたけど、ここまで大事とは思わなかったぞ……。




