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OverDrivers  作者: jau
1章 魔物動乱編

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46話 繋がる星々-12 一番星に想いを懸けて

 彼らの向かう先は、二通りあった。


 レクスの開けた長く遠い大穴の、その先は見えない。

各部の激戦と今暴れまわる魔物によって、

明かりを灯す機能を喪失したのだろう。

見上げる先は、まるで暗黒に繋がっているかのようだった。


「行くぞジェネ! 終わらせるぞ、この戦いを!」

「おおっっ!!」


 その暗闇を貫くように。輝く双星が、駆け上っていく。

精霊たちを纏い、同化したジェネとジストだ。

砕かれた天井、もしくは床を足掛かりに何度も跳躍を繰り返して、

彼らは一点、向かう先の闇だけを見据えていた。


——

 そして、もう一組。


「ガアアアアアッッ、ゲアッッ!!?」


 無数に湧き出る魔物を両断する、神速の刃。

激戦を通して尚衰えることのないその剣閃と共に、リーンは叫ぶ。


「急げっ! 殿は俺がやる!」


 それは全員に対する号令であり、

そして今の状況を説明するものでもあった。


 合流を果たした一行ではあったが、

これまでの激戦により皆、大なり小なり傷を負っている状態だ。

それこそリーンのように獅子奮迅に戦う者も居るが、逆に。


「すまない、カゲツ……ここまで来て、また手を借りる事になるとは」

「貴方の進む道、それを手助けするのが私の使命です。

 それに……これを糧とするためにも、生きなければなりませぬ!」


 それこそレオのように、立つのも精一杯な場合も。


「う……ぐ、う……!」

「ニーコ、しっかりしてっ! 急がないとっ……!」


 あるいはニーコのように、もはや自ら動くことも出来ない場合もあった。

それだけではない。

倒れていた防衛隊の者たち、アムズ、ヴァイク。そしてクライス。

今、アムズとヴァイクの身はノインが、クライスの身はマルクトが抱えていた。

恐らくは強敵であるレクスを前にして、手負いの者を連れる訳にはいかない。

それが、この選択を産んでいた。


「ニーコは私が! "39"番っ!

 さあ、こっちへ! 急いで!」


 ニーコを精霊術で抱えて、ネルが先導していく。

彼女は元々甲板からここに来た身だ。逆にここから外へ繋がる道も知っている。

つまりは、ベリオンからの脱出を目的としたグループという訳だった。


「ひょえええええッッ!!?

 な、何でこんな事ばっかり……!!」

「泣き言を言うな。

 消耗がないのは俺とお前だけだ、死にたくなければ戦え。

 前方は任せるぞ」


 そして。

消去法的に戦闘係となった、情けなく喚くバゼルの尻をまた蹴飛ばして。

向かい来る魔物たちへと更に立ちはだかるリーン。その背中に。


「リーンさんっ!」


 リリア。

ずっと最前線で戦い続けていた彼女も、こちら側に残っていた。

しかしその声には、それに反する思いが滲んでいた。

自分も戦う、と。


(……リリア)


 振り返って、視線を合わせて。

そこでもリーンは、リリアのその思いを感じ取った。

そして。


「後は任せろ。安心しろ、死ぬつもりはない」

「でも……!」

「お前はもう、十分頑張った。遂には、ジストさえ助け出した。

 あとは生き残ることが、お前の使命だ」


 称賛と共にリリアを諭すリーン。

彼女の行いに感嘆したのは、もう何度目だろうかと思いながら。


「リーンさん……」


 それは。あるいは、鏡写しであるかのように。


「さあ、行け!」


 自分もまた、尊敬を抱いているのかもしれないと。

リーンは自分の思いをそう結論づけて、再び剣を構えて跳び出す。

自分が成さねばならない、というよりも。

自分もまた、あのように成すのだという思いで。


——


 あるいは、用意された道よりも打ち破ったほうが早かったのか。

上方へ繋がる穴はどこまでも続き、それを駆け上っていくその最中。


「——なあ、おっさん」


 何かを思うように、ジェネがジストへと話しかける。


「どうした?」

「どんな奴だったんだ? レクスって奴は」

「! ……気になるのか?」


 その問いかけは、ジストにとっても意外なものだった。

少なくともジェネにとっては、これまでの戦いの首謀者たる彼は不倶戴天の仇敵だ。

そんな彼に、まるで理解へと歩み寄るような質問。

ジストが返したのは、その意図への逆質問へとなった。

それに、ジェネも答えていく。


「これまで精霊たちも、色んな人も犠牲にしてきた奴だ。

 そんな大それた事をやった奴がどんな奴で、なんでそんな事をしたのか。

 知っとかねえとなと思ってさ」

「……そうか」


 彼の返答に頷くジスト。

一度、感傷するように視線を正面へと反らして。

ジストはまた口を開く。


「俺とは正反対と言える存在だったな。

 合理主義者で冷静沈着。慎重で計算高い。

 そして良くも悪くも、頭も良く切れる奴だった。

 政治ごとにも強くてな。まあ、悪い噂もそれなりにあったが……

 それでも防衛隊がグローリア内で確固たる存在になったのは、

 レクスのおかげだと俺は思っている」

「なんだよ、べた褒めじゃねえか」

「——俺にとっては、本当にそういう存在だったんだ。

 俺が考えつかないこと、出来ないこと。

 そういう事を出来たのが、あいつだったんだ」


 ジェネが表したように、ジストが口にしたレクスの評はその殆どが称賛だった。

そしてそれは、彼の本心そのものでもあった。


「……正直に、言っておくと。

 奴がこの一連の事件の首謀者であるのは間違いない。

 だが何故、こんな世界を覆すような方策に手を出したのかが分からないままだ」


 あるいは、それが堰を切って。

本心として続くレクスへの思いが、彼の口から語られていく。


「これまで通り、グローリアで策謀を巡らせて続けていれば。

 いずれはトップにも立てただろう男だ。

 ——世界の転覆など、未曾有のリスクのある行為だ。

 生き急ぐような真似を、何故……」


 それは、確かな信頼であったものだった。

ジストにとっても愚行と思っているこの行いに、

彼が重ねられなかった理由でもあり。

そして今、尚もその輪郭を一致させられないものでもあった。

生半可な感情で愚行を犯す、そんな人間ではないと。


「……」


 それを、静かにジェネも聞いていて。

やがて、口を開く。


「……俺は、分かったような気がするけどな」

「何?」


 しかしそれは、ジストが悩むそれに対して答えるものだった。

再び問いただす彼に、ジェネは僅かに目を伏せる。

すぐに、答えを用意出来た理由、それは。


(……だってよ)


 彼がこの旅の中で悩み、苦しんだもの。

そしてこれから目指すと足掻いているもの。


「眩さは……目を塞ぐもんなんだ」

「……!」


 まだ人伝でしか知らないレクスの姿が、どこか。

それと、重なったからだった。


「……でも!」


 だが。その悩みに、苦しみに。

ジェネが見ている答えは、彼と同じ場所にはない。


「それが分かるってだけどな!

 同情なんてしねえし、してやる必要もねえよ、おっさんもな!」

「ジェネ……」


 故にそれが、彼の凶行を許しうる材料になるはずもない。

だから短い言葉だけで表現したそれを、ジェネはそこまでで打ち切った。

そして再び進行方向を見上げる。

気づけばこの縦穴の終わり……光源が、見える所まで到達していた。


「ジェネ! ……来るぞっ!」

「ああっ!!」


 怯みも、躊躇いも。今の二人には全くなかった。

登る勢いは止まることなく、むしろ加速さえして。

近づいてくる縦穴の終わりに、二人はそのまま一斉に縦穴から跳び出した。


「……!」


 滞空時間の中、ジェネは周囲を見回す。

ここは最上階だろうか、だが。

技術の粋たるこの要塞らしくない、ひどく殺風景な空間が広がっていた。

その先に、却って目立つ机が1つ。そしてそこに、人影が重なっていた。


「——フン」


 そして二人の着地と共に。

その人影もまた、立ち上がる。そして視線が重なった。


「……てめえっ!」


 忘れるはずもない。ジェネにとっては、ゼニアを攫った存在。

そしてジストにとっては、良く知る部下。


「来たか、ジスト。——それに、例の龍人か」 


 この長い旅、一連の騒動の首謀者。

レクスが、不敵に笑っていた。

装着するアーマースーツの胸に輝く紫の水晶を、より妖しげに輝かせて。


「てめえ! ゼニアはどこだ!?」


 だが傍らには、攫ったはずのゼニアの姿は無かった。

それに気づいたジェネが、一番に彼に叫び返す。

しかしそれにも、レクスは笑みを崩さなかった。


「どこだと?

 ——ここに居るではないか、『聖体』は!!」


 そのまま歩み寄ると、彼はその紫の水晶を見せつける。

レクスの態度に呼応するように、その輝きが揺らめいて。


「……ゼニアっ!?」

「馬鹿なっ!?」


 その水晶に、閉じ込められているかのように。

瞳を閉じるゼニアの姿が、そこに浮かんでいた。


「ククク……!」


 水晶の大きさも、それを携えるアーマースーツも。

凡そ、ゼニアの全身が収められるような大きさではない。

理外の力によって、それが成されていることが伺えていた。


「てめえっ……!!」


 その様子に激昂するジェネ。

だが、声には確かに躊躇いが浮かぶ。


「『聖体』の身がそんなに大事か? 

 ククク、それは都合が良い……!」


 そう、この状況は。

ゼニアの身を人質にされていると同義であるからだった。

そしてジェネの戸惑いもまた、レクスは見抜いて嗤う。


 そして。


「——ならばまずは、貴様からだ!!」

「……うわあっ!?」


 それを狙った一撃が、開戦の狼煙となった。

レクスの翳した左腕が輝いた瞬間、紫色の光線が放たれる。

ジェネの動揺を狙ったそれは、一瞬にして彼の眼前にまで迫り、だが。


「はあッッ!!」


 それに素早く反応していたジストが割り込み、

精霊の光を纏った短剣を盾に、光線を弾いていた。

長い光線は彼を超える事が出来ず、全て霧散していく。


「おっさんっ!」

「怯むな、ジェネ!

 いずれにせよ、まずは奴を制圧することが必要だ!

 それからあの少年を助け出すぞ!」

「あ、ああっ!!」


 そして彼の動揺を落ち着かせるように、希望へ繋がる声を掛けて。

それから今度は、逆にジストからレクスへと迫っていく。

彼が提示した絶望を打ち破らん、その思いを示すように。


「うおおおおおおおおッッ!!」

「ジストおおおっ!!」


 それに、雄叫びを上げて迎え撃つレクス。

部下たちの用いたそれのように右腕から紫色の光刃を形成して、

迫ったジストを迎撃するように打ち込んだ。

だがそれもまた彼の短剣が受け止めると、更に二度、三度と切り結ばれていく。


「何故だレクスっ! 何故こんな真似をしたっ!

 世界の均衡を壊してまで、何を欲しがったと言うんだっ!!」

「均衡だと? ふん、相変わらず単細胞だな、貴様は。

 ……そんなもの、まやかしに過ぎないというに!」


 激しい問答と剣戟、体術の応酬。

何度目かの時、ジストはその違和感に気づく。


(……これは!?)


 自分でも理解している。

リリアの力で精霊と同化した自分の膂力は規格外なものであると。

だが目の前のレクスは今、対等に渡り合っている。

彼女の異能によって齎されたそれと、同等の力を持っているかのように。


「くっ!」

「フン……!」


 その力を纏った強烈な正拳を繰り出したジスト。

だがそれを躱すと、レクスは伸ばされた腕を掴み返した。

これもまた凄まじい力で、剛力の漲るはずのジストの腕が引き止められる。


「ぐっ!?」

「だからこそ今も確信できる……

 貴様を蹴落としたのは間違いではなかったと!」


 困惑するジストに勝ち誇って、レクスは悪意を込めた笑みを浮かべて。

そこで再び、胸の紫水晶が輝く。

照らされるジスト、だがただの目潰しではなかった。

光の当たった部分から分離するように、精霊たちが浮かび上がって。

そしてその先で、赤黒く変色していく。


「……何っ……!?」

「あれは!?」


 それはまるで、

ゼニアがクライスとの戦いで見せた技の逆順であるかのように。

精霊たちはそのまま、黒い棘のような形へと姿を変えていく。

ジストを囲うように浮かぶその全てが、切っ先を彼に向けていた。


「"コードX『フリクション・オルタ』"。死ねっ、ジスト!!」

「うおおおッッ!?」


 そしてレクスの号令と共に、精霊たちは一斉にジストへと撃ち出される。

収束するような軌道だったったが、

ジストは何とか合間を抜けて、後ろへと飛び退いて避けていた。

だが。


「逃さんっ!」


 更に腕を振るレクス。

それに従うように棘は向きを変え、再びジストへと向かい襲いかかる。

着地の直後だ。ジストの体勢はまだ整っていない。

 

「っ……!」

「おっさん危ねえっ! "撃ち抜け"っ!!」 


 しかし、その後ろから。

反応していたジェネが、幾重もの輝く炎風の熱線を放っていた。

それは迫る精霊の棘へと正確に突き刺さり、次々と撃ち落としていく。


「すまん、助かった!」

「ゼニアの技を……てめえッッ!!」


 そして。

レクスの見せた技がゼニアに連なるものであることに、

ジェネは更に激昂して叫ぶ。

しかし。その激しい怒りを受けて尚、レクスの余裕の表情は変わることはない。


「勘は冴えるようだな、流石は精霊に長けた龍人だ。

 だが……貴様らに待つのは、死のみだ!!」


 強くそう宣言するレクス。

だがジストへの更なる追撃をするでもなく、

彼は屈むと、右手を足元へと伸ばす。

違う、追撃をしない訳では無い。伸ばした右腕が、紫色に輝いて。


「"コードX『ドーンアウト』”!!」


 その掌の先から、床を侵食するように赤黒い光が広がっていく。

それは一瞬のうちにジェネやジストの足元まで広がり、

そして、彼らを包み込むように盛り上がった。


「何いっ!?」

「うわあっ!?」


 漆黒の球体となって、そのままジスト達を包みこんでしまう。

それは檻か、あるいは沼か。

いずれにせよ、囚われた彼らをレクスは嘲笑う。


「そのまま飲み込まれて——むっ!?」


 が、それも長くは続かなかった。

突如漆黒の球体に、輝く横一文字の一閃が走る。

そして更に輝く剣閃が幾つも連なって、そして。


「"『龍王剣』"ッッ!!」


 無数の光に切り刻まれて、遂に漆黒の球体は破られた。

その中から、精霊の光剣を手にしたジェネと短剣を振るったジストが姿を現す。

中の様子は見えなかったが、先の剣閃も彼らによるものだったのだろう。

そして間髪入れずに、ジストは一気にレクスへと踏み込んでいく。


「侮るなっ、レクス! おおおおおっっ!!」

「ぐうっ……!?」


 その勢いと共に振られた短剣を光刃で何とか受けるレクスだったが、

その場で抑えることは出来ず、大きく吹き飛ばされしまう。

衝撃を殺すための意図した受け身ではあったが、強烈な一撃に顔を歪めるレクス。


「理屈は知らんが。

 精霊の力を変質させ、奪っているということか。

 だが既に乗った物理的な力を消すことは出来ないようだな!

 ジェネ! 組み合いは避けろ、強力な一撃でケリをつけるぞ!」

「ああ!!」 

 

 その様子から特性を見抜いて、ジストは戦いの方針を決める。

それに頷いて、ジェネも光剣を手に前に出る。


「……フン!」


 しかし。

着地したそこでレクスが浮かべるのは、またも不気味な笑みだった。


「凄まじい力であるようだが……

 どうやら、限られたものであろうのだろう?」


 そして、次に語るのは。

彼らを支え手助けする、その力への言及だった。


「何!?」

「時間か? それとも力の総量か? いや、それはどうでもよい。

 ……その力が消えた時、その反動がお前達に襲いかかる。

 そうだろう?」

「てめえ!」


 それは、二人の脳裏には確かにあった不安であり。

強大な力を得るこのリリルドライブの、ただ一つ思い当たる弱点。

それを、レクス自身が口にしたこと。

その意味は決して小さくなく、そして確実に状況が不利に傾くものであった。


「リーブルでの戦いは見物させてもらっていた。

 龍人。その後の貴様の、無様な姿もな。

 つまりはそれが、お前たちのタイム・リミットという訳だ!」


 そして再び、レクスの胸部の水晶が妖しく輝く。


「"コードX『コラプション』"!!」


 輝きが床を、天井を照らして。

そこに赤黒い精霊たちが現れ、そしてそれを飲み込むように同化していく。

それは歪み、曲がり、飲み込まれて。その姿を、自在に変えていく。


「うおっ!?」


 あるいは、巨大な障壁に。


「——ゲヤアアアアアアッッ!!」


 あるいは、鋼鉄を纏った巨大な獣のような魔物に。

拉げた瓦礫を先端に取り付けた、長い触手に。

鋼鉄の破片が収束したかのような、棘だらけの球体に。


 言うまでもない。

その全てがジストたちの敵であり、そしてレクスへと至るための障害であった。


「フハハハハハハハッッ!! この力に不可能などない!!」


 壁の向こうから、勝ち誇ったかのように叫ぶレクス。

障壁を通しているのに、その声はやけに近くから聞こえた。

いや、実際にそうなのだ。

彼の声帯からではない。彼が生み出したそれらから、彼の声が発されていた。

不可能はない。その言葉を証明するかのように。


「ギェアアアアア……!!」


 その力を、前にして。

ジェネも、ジストも、ただ押し黙る。


 だが。

諦める訳もなかった。

今、自分たちの身に纏う精霊たち。

それを通して、感じていたから。


 ——リリア。


 脳裏に浮かぶ、少女の笑顔。

希望の象徴とも思える彼女を、すぐ側に感じられたから。


 その形は違えど。

ジェネも、ジストも。彼女の光によって救われている。

呪われた使命、揺らぐ立場での戦いの中、

突如現れた、輝く一番星。

それは愛すべき隣人でもあり、守るべき宝物でもあり、

そして苦しむ人生、暗く見えないその先の。

その、道標にもなった。


 だから。


「……」

「……ふーっ……」


 ジストは、小さく息をつく。

そしてジェネも、呼吸を整えて。


 だから。

彼女の行先は、誰にも阻ませはしない!


「……行くぞっ!!」

「ああっ!!」


 そして。次の瞬間、その目を見開く。

瞳には変わらぬ、いやより強い闘志が燃えていた。

彼らと同化する精霊たちが、強く輝く。


「——ギャベギャアアッッ!!!???」


 一番に二人へと襲いかかっていた巨大な魔物。

それを剛拳が砕き、烈光の剣が引き裂いていた。

一瞬で崩れ去っていく魔物を乗り越え、二人は猛進していく。


「時間稼ぎのつもりか!? そうはさせんぞ、レクス!!」

「ああ! どんだけ作ろうが全部ぶち抜いてやらあッッ!!」


 リリアへの想いと、最高潮に高まった戦意で。

激しく燃える魂そのままに叫び、

二人は向かい来る魔物や触手を打ち倒していく。

悪化したと言える状況の中で、しかしその気迫は先の比ではなかった。


「ククク……! やれるものなら、やってみろ!!」


 それを、障壁を挟んで見下すレクス。

しかしその表情には、変わらず悪意の笑みが浮かんでいた。


——

 最上部、首謀者たるレクスが戦い始めたこと。

しかしそれは、下層部での魔物の発生を沈静化させることはなかった。


「くそっ……!」


 最早何体目かもわからない魔物を下して、リーンは再び走る。

限られた勢力のうち、自分以外の余力の全てを脱出へ……前方へと使わせている。

後方から迫る敵を倒せるのは、殿を務める彼だけだった。

その上で遅れることなく、彼らの後を追っていく。


「おおいッ!?

 闘技場の時どころじゃねえ、こりゃキリがねえぞ!?」

「もうすぐ外です! 頑張ってっ!!」


 その先、一団の前方でまたも泣き言を吐くバゼル。

先にリーンが語ったように、

結局、不死身の再生力を持つ彼が前方側への突破力になっていた。

そんな彼を励ますネル。指さした通路の先には、屋外の光が見えた。


「そ、外だっ……てええ!?」


 そこへ、全員が飛び出して行って。しかし。


「うわあああああああ!!」

「助けてえええええッッ!!」


 鋼鉄の牢獄から抜けて、解放された筈の青空の下は。

耳を劈く、湧き上がる悲鳴に塗れていた。


「ガアアアアアアアアアアアアッッ!!!」


 暴れる魔物もまた、巨大な甲板を埋め尽くすほどの数で。

悲鳴を上げている者たちは、船員としてこの要塞に乗船した者達だろう。

巨大な魔物を打ち倒す力を持たず、ただ逃げ回るばかりだった。


「外にももう、こんなにも!?」

「外に逃げた乗員たちを追って来たのでしょう。

 しかし、これでは……!」


 目的としていた脱出を経て。

しかし状況は良くなったとは、とても言えなかった。

そして殿だったリーンまで出てきて、その状況を理解する。


「どうした!? ——これは!?」

「とにかく戦うしかありませんっ!

 魔物を倒して、襲われている人を助けなければ!」


 この混乱した状況で、しかしアカリは再び踏み込んでいく。

つい先程までは敵だった彼らを思いやる所には、

その彼女の善性が強く出ているものだ。

しかし。この状況でそれは、あまりにか細い灯火でもあった。


「お、おい嬢ちゃん!?」

「覚悟を決めろ。奴らを助けるかどうかは別にして、

 俺達が助かるためにも、戦うしかない」


 そしてリーンも、気持ちは違えどその選択に乗る。

いや、最早血路を切り開く以外に打開の道が見つけられなかった。


「艦首部の精霊の変異反応が薄い。

 純粋に巨大なこの要塞だ。

 その全てを覆い尽くせているわけではないのだろう」

「なるほど……つまり艦首部であれば、囲まれることは防げるか」


 ノインの分析を経て、リーンは頷く。


「艦首を目指せ! 行くぞっ!」


 そして号令を出すと、自分も魔物の跋扈する方へと跳び出していく。

手数が増えたわけではない。もはや見える敵全てを相手にするつもりで、リーンの気迫は研ぎ澄まされていた。


「ガアアアアッ、アアァッッ!?」


 近くの魔物を一刀のもとに両断すると、リーンはなお進む。

迷う暇すら許されない。躊躇いや動揺も見せる余裕はない。

進行方向、見えた魔物を斬って、斬って、斬り崩して。


「——おおおおおおおおおおおッッ!!」


 小さい体格も、もはや関係ない。

巨大な魔物が、彼の剣閃により次々と斬り裂かれていく。


「リーンさん、凄いっ……!」

「バ、バケモンだぜ、あいつもよ……」

「ほんとに頼りになるんだから! さ、急ぎましょ!」


 獅子奮迅の戦いを見せるその背中は、今この状況では余りにも心強い姿だ。

戦慄も生みながらも、その働きもあって彼らは進む道を開くことが出来ていた。

その戦闘に、もう一つ加わる影。

先に飛び出していたアカリが、リーンと歩調を合わせた。


「リーンさんっ!」

「なんとか動けるようだな。後少しだ、踏ん張れ」

「はいっ!」


 ともかく。きわめて厳しい状況ながら、

落伍者もなくここに至ることが出来ていた一行。


(このままなら、何とか……!)


 何とか見いだした細い突破口。

だが、状況はそれを許しはしなかった。


「変異反応……至近、直上!」

「えっ、嘘っ……!?」


 感知した情報から、周囲へ警告を飛ばすノイン。

見上げたすぐ先に、赤黒い精霊たちの大勢力が現れていた。

暗い輝きを増していくそれは、もはや語るまでもない。

魔物が形成され現れる、そのサインだった。


「みんな急いでっ!!」

「きゃあああっっ!!」


 魔物は総じて、巨大な体躯を持つ。

せめて押し潰されることは避けんと、一斉に駆け出していた。


「……ッ!」


 ノインの警告も幸いしてか、

なんとか、その着地点から全員逃れることに成功する。

だが。その先には、とても幸いとは言えない状況が広がっていた。


「——ブオガアアアア!!!」

「ボオオオオオオッッ!!」


 次々と雄叫びを上げる魔物たち。

広範囲に広がった、大勢力の黒い精霊たちによって生み出されたそれは、

数え切れないほどの数の魔物を生み出していた。


「くそっ!」


 今まで道を切り開いていたリーンだが、

この至近距離に現れた大軍勢は、振り切れる数でも距離でもなかった。

再び一団の後方へと身を翻して、魔物を迎え撃つため構える。


「リーンさんっ!」

「先に行けっ!! 全員、突破を優先しろ!」


 リリアの声に短く返す指示。今度もまた、殿として構えていた。

ここは開けている。

狭い通路と違い、全ての魔物が一斉に襲いかかってくるだろう。

それでも彼の戦意は変わらない。

やり通す以外に道はないと、リーンも理解していた。


何より。


(無理も無茶も。

 リリアがこれまで、成し遂げてきた。

 その目の前で、無理だなどと言えるものか!)


 彼もまた、尽きることのない燃える想いを抱いていた。

無数の殺意に晒されようと、吹き消えることのない想いを。

それを胸に、飛び出そうとして。


「下がりな、『閃き星』っ!」

「っ!?」


 視界の外、側面から突如呼びかけられた声。

共に潜入した仲間の声ではない。

だが咄嗟の判断で足を止めた、その瞬間。

四方からの十字砲火が、魔物の群れへと襲いかかった。


「……ギェアアアアアアッッ!!!??」

「ボオオッ……」


 掃射されていく、無数の魔物たち。

言うまでもない、グローリアの超技術による火器のものだ。

そして、それを自在に扱う者と言えば。


「お姫様無事だったかい。安心したよ」

「お、いつの間にか追い抜いてたか? お姫様。

 ……副隊長も、よくご無事で」


 胸に刻まれた、ジストと同じ標章。

同じくここまで逃げ延びてきた、ゲイルチームによるものだった。

とはいえ今立っているのは4人。ドルムと起き上がったバイソン、

そして機関部で出会ったトーマスとボルンだった。


「ドルムさんっ! トーマスさんっ!

 良かった、無事だったのねっ!」

「ヴァイクとアムズも連れてきてくれたかい。ありがとよ」

「死人が出ると面倒が増えるからな、助かった。

 ほら、こいつらも」


 彼らの無事に喜ぶリリアに、逆にその救助を感謝しつつ。

バイソンは視線を動かして、その言葉の対象を指し示す。


「……マリアンさんっ!!」


 それは、武器を持つ今は各員の傍らに置かれていた。

戦いの中で倒れた、ガストチームの者たちだった。

マリアンとレナ、そしてバストールとその部下、3人。

反抗を恐れてか手を縛られたままではあるが、

彼らもまた、生きてここにたどり着く形になっていた。

その中で、意識があるのはマリアンとレナだけ。

リリアをちらと見て、そしてマリアンは自嘲する。


「無様ね。生き残ってしまったなんて」

「お姉様……」

「そんな事言わないでよ、生きててよかった!」


 そんな彼女にも笑いかけて、リリアはその無事を喜んだ。

ジストを助け出せた背景には、間違いなく彼女の献身もあったのだから。


「ビーニャとフェリクスからも連絡あってな。

 ハーリアとエーディも拾ったってよ。

 ……隊長は、今光ってるあそこかね?

 結局、防衛隊は何だかんだ全員生き残ったわけだ」

「……結局、本当に何もかも掴んで見せたのね、あなたは」


 そして見上げた、艦橋最上層。

幾つかの窓から、輝く精霊の光が溢れていた。

誰も、その詳しい状況が分かるわけではないが——

この戦いの最後の決戦が行われていることは、察していた。

しかし。


「——ううん、まだだよ」

「え?」


 リリアは、その言葉に首を横に振る。

そして、続けた。


「ジストさんとジェネ、そして、レクスって人も。

 皆で、帰らなきゃ。何をするにしても、その先だもの」


 それは、持ち続けていた思いの表明でもあった。

先ほど敵意をぶつけたレクスであっても、

あるいはバストールであっても。


 理解するために向き合うこと、それから。


「逃げないって、そういうことだと思うから」


 その断絶になる死を避けるのは、そうした思いが故だった。


「へっ、レクスにすら気回してやるつもりかい、お姫様。

 バストールどころじゃない頑固屋の陰険男だぜ」

「……いや、やってみればいい」


 それを皮肉的に笑ったドルムを、制したのはマリアンだった。

意外な人物からの口出しに驚く彼を押しのけて、

マリアンは改めて、リリアと視線を合わせる。

憎しみに染まっていた瞳は、今はもうなかった。


「マリアンさんっ」

「レクス隊長も、あまりに徹底した人ではあるけれど。

 貴方なら、それも出来るかも知れない。

 私も、そうだったように」

「……うん!」


 それは。

その信じるに値する切欠こそが、自分にあったからだ。

彼女の言葉に、リリアはまた強く頷いた。


「ゴギャアアアアア!!」

「っ!」


 だが、状況はまだ落ち着いたわけではない。

彼らを追うように更に迫る魔物。

リーン再び構えたのを皮切りに、再び戦闘体勢に入っていく。


「おっと、談笑の暇は——」

「おいおい、お祭り騒ぎじゃないか」


 だが。

その魔物へ最初の引き金を引いたのは、

この場に居た、誰でもなかった。


「ギャベッ!?」


 撃ち込まれた光弾によって、魔物の双眸が撃ち抜かれ。

続け様にさらに数発が放たれ、胸部を貫いていた。

やや上方から撃ち下ろされたその元へ、皆振り返る。


「——この勢揃いぶりだ。

 多分、でかい花火を上げたんだろう?

 なあ、お姫様」

「ブレシアさんっ!」


 そこには。

背中のバーニアによって飛行する、ブレシアの姿があった。

リリアに笑い返すと、彼女は下降して着陸して近づく。


「ブレシア、お前……」

「ボロボロだね、マルクト。情けないったら。

 ともかく。バレン島から船を借りてきたよ。

 アスタリトの奴らと協力してね、都合が良いからって武器も返してもらった。

 さっき接舷したよ」

「何!?」


 マルクトを詰りながらも。

彼女は、文字通りの助け舟を持って現れていた。

親指で指さした先には、複数の帆船が浮かぶ。

つまりは、この要塞から脱出するための手段だった。


「艦首に避難してたやつも居たけど……

 そいつらももう救命艇に乗せた。さ、次はあんたたちだよ、急ぎな!」

「た、助かったあ……!」

「なんとか切り抜けられた……ということでしょうか。

 やった……」


 リーンに次いで戦い続けてきたバゼルも、アカリも安堵した声を上げる。

ブレシアが指さした船からは、

更に何人かベリオンに乗りこんでいるのが見えた。

救助、あるいは防衛を目的にしたものだろう。

そのうち数人が、更にリリアたちへと駆け寄ってきた。

装いからアスタリトの兵士であることが伺えて、リーンも逆に歩み寄る。


「リーン殿!」

「すまない、助かった。よく動かしてくれたな」

「攻撃を仕掛けると聞いていたものですから。

 船を借りるところまでは辺境伯の命令でしたし、

 アスタリトとして動いても問題ないかと」

「そうだな。面倒事になるなら、辺境伯に押し付ければいい」


 彼らもまた、

要塞に乗り込んだリーン達を助けるために馳せ参じていた。

冗談を口にするあたり、

リーンもまたこの極限状態での緊張が解けたのだろう。

そんな彼らとすれ違うようにリリア達も船の方へ向かう中。

近寄ったタイミングで、リリアがブレシアに振り向く。


「ブレシアさんっ、まだ乗ってる人たちが……!」

「分かってるよ。私に任せな。

 よし、トーマス、ボルン! 元気そうだね、ついてきな!

 死に損ない共を拾ってやるよ!」


 彼女の言いたいことを察して、そしてブレシアは迷いなく頷いて。

トーマスとボルンを名指しすると、要塞内部の方へと飛び立つ。


「けっ、結局人助け部隊かよ、俺達は!」

「そりゃそうだろ。

 あの英雄ジストの部隊なんだからな!」


 それに悪態をつきながらも、

メンバーの中で消耗が少ないのも自覚しているのだろう、

二人もそれに答えてブレシアへと追従していく。

でもその様子は、どこか嬉しそうに見えた。


「……」


 そんな彼らを、見送って。

いや。見送ったまま、リリアは進むべき方へと振り返らない。

その彼女に、ネルが改めて声を掛ける。


「さあリリア、貴方もっ」


 それは勿論、退避の催促のためであった。

激戦に次ぐ激戦でリリアの状態が限界なのは、言うまでもなく分かることだ。

むしろ優先されてもおかしくない立場ですらある。

そこで。


「ネル姉」


 ゆっくり振り返ったリリア。

その体に、現れる精霊たちが纏わっていく。

その瞳には、彼女を象徴する強い意志がまた宿っていた。


「皆が、無事に逃げられたなら——」


 それは。

戦いから去る者の、目ではなかった。


「私、やっぱりジェネ達の所に行きたい。

 信じてないわけじゃないけど。

 ——心配だし、任せっぱなしも駄目だから!」


 あるいは。先に、マリアンに語ったように。

逃げないことを、彼女は選んだ。


「リリアっ!? そんなっ……」


 だが当然のように、すぐ受け入れられることはなかった。

既に満身創痍といえる彼女を、快く送り出せるはずもない。

それは語りかけたネルもそうであるし、

話を聞いていたリーンもそうだった。


「リリア。奴らの援護なら、俺が——」

「ううん。リーンさんはここに居て。

 まだ魔物が沢山出てきてるから……皆を守って!」

「お前っ……!」


 しかしリリアも意志を曲げずに、

しかもリーンの申し出すら制するような始末だ。

思わず彼も、語気が強まる。当然だ。

その危険な場所に、自ら飛び込むと言っているのだから。


「リーンさん……」


 彼の厳しい表情と、目を合わせて。

リリアは少しだけ言葉を考えて、そしてやめた。

心のままを、口にしていく。


「ジェネも、ジストさんも。

 ずっと一緒に居てくれたし、ずっと助けてくれたから。

 二人とも苦しいことも、辛いこともあるのに……

 それでも一緒に前を見て、戦ってくれてたから!

 だからもし、良くないことがあったとして。

 分からないまま、なくしたくないの!!」

「……」


 言葉を受けて、僅かにリーンの目が見開かれる。

それから、返される言葉はなかった。

リリアの言葉を受け取らなかったわけではない。

返事に詰まっているのか、あるいは。

僅かに下に逸らされた視線が、その複雑な心持ちを示して。


「分かった。私が共に行こう」


 しかし次に響いた声は、リーンのものではなく。

だが確かにその言葉に、心を揺り動かされた故の申し出だった。


「ノインっ!?」


 喉からの発生ではなく、音声として発された言葉。

振り返った先に、ノインが立っていた。


「艦橋最上層に向かうのであれば、飛行で向かうのが最も手早だろう。

 そして私も、現在も飛行機能には支障はない。

 精霊の変異反応も、私であれば察知できる。

 危機が迫ればすぐに撤退できる。

 リリアが一人で向かうよりは、ずっと安全と思われる」

「で、でも……! まだこれだけ魔物が居るのに!」


 そして申し出したことが表すように、

彼はリリアの意志に賛成の立場だった。

彼らを説き伏せるように、理由を繋げていく。

だがネルは、それにも反発していた。


「おい。私もつれてけ、このやろ」


 しかしそこに重ねるように、また声が響く。

そして勝手に乗ったノインの肩口から、顔を出した。

ニーコだ。とはいえ魔物発生の影響か、その顔色は悪いままだ。


「ニーコっ!? 大丈夫なのっ!?」

「飛ぶのはこいつに任せるからさ。

 もし空から襲われても、私が居ればぶっ飛ばすぐらいはできるだろ。

 それにいざとなりゃ、海の上まで風で投げてやるからさ」


 そして彼女もまた、ノインと同じように。

リリアの選択を後押しするような意見を口にしていく。


「……ふうーっ」


 それらを受けて。

ネルは、俯きながら大きく息を吐いた。

色んな言葉を、口にする代わりにそこに乗せて。

そして、次の呼吸の後。

ネルは、強くリリアを抱きしめていた。


「ネル姉……」

「ほんとはね。何もしないでって言いたいよ、リリア。

 貴方がみんなにそう思うように——

 いや、もしかしたらそれよりもずっと。

 貴方がいなくなることが、私は何よりも怖くてたまらない」


 今までにないほどに強く抱きしめられていて。

でもそれこそが、ネルの想いをリリアに伝えていた。

ぎゅっと、リリアも手を回して。ネルは、続ける。


「……でも。分かるもの。

 貴方は、みんなの一番星だもの。

 貴方が照らす光で、貴方が居たことで、

 貴方に救われたことで。

 生きる道が見えるようになった人が、いっぱい居る」

「……」


 そして、ゆっくりそれを解いていって。

涙ぐんだ目でも、ネルはしっかりとリリアを見据えた。

それは、自分の気持ちを固めた証で。


「だから。

 貴方がやるって言ったこと、私は止めない。

 でもどうか、居なくならないで。

 それだけ、約束よ」

「うん。必ず帰ってくるから!」


 そしてリリアもそう答えて、彼女を強く抱き返した。

約束を互いに刻み合うように強く抱いて、

そして決意と共に、手を離した。

もう一度だけ頷いて、リリアは振り返る。

今度は、リーンと目が会った。


「リーンさんっ」

「……お前はこれまで、全てを成し遂げてきた。

 それを、ここで見せてもらってる。

 ——もう、俺から言うことはない。

 成し遂げて戻れ、それだけだ」

「……うんっ!」


 彼ももう、リリアの選択を否定しなかった。

背中を押すように、激励して。

そしてリリアも、強く頷いて返した。

更に振り向いて、ノインとニーコにもまた顔を合わせる。


「……二人もありがとね!

 ごめんね、付き合わせちゃって」

「一蓮托生だ、感謝は必要ない。

 それに。二人のことを案じているのは、私も同じだ。

 ……そして、ゼニアのことも」

「やるなら自分で、ってやつだもんな、リリアは!

 さ、あいつらの様子見に行ってやろうぜ!」


 傷ついた身ではあるが。

それでも二人とも、強くリリアに同調する。

それを示すように強く頷くと、

リリアもニーコと対称になるように、ノインの肩へと乗り上げた。

そしてゆっくりと彼のバーニアに精霊たちが集い、

二人を乗せて、鋼鉄の身体が浮き上がる。


「行くぞ。準備はいいな?」

「うんっ!!」


 力強く答えた、リリアの合図で。

高まる力の音と共に、ノインは一気に艦橋最上階へ向け飛び立つ。


 小さな村を襲った悲劇。

それから始まった、激しく長い戦い。

その最後の場へ、リリアは遂に至ってゆく。

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