44話 繋がる星々-10 悪意を見据えて
深い、森の中。
墓標の並ぶこの場所は、
古くからアトリアの民が死者を悼み、そして祈るための場所である。
「……」
リリアの育て親である義理の祖父、アスラは祈る。
彼らには、膝を折り祈る神はいない。
故に、手の届かぬ事を願う時、現世を離れた隣人たちに祈るのだ。
「ルネ、アランさん。
どうか、リリアを助けて……」
「……」
その隣。アスラの妻、ペティが呼んだ、墓標に刻まれた名。
忘れるはずもない。
それは15年前に喪われた娘と、その配偶者の名だった。
悪夢のような記憶。
例え魔物の発生が収まったとしても、深い心の傷は癒えることはなかった。
そんな日々に、彼女は現れた。
(……)
そんな記憶を、アスラは彼女の隣で想起する。
彼らは。リリアに対して1つ、隠していることがあった。
——
それは、娘夫婦を失ってから数年後。
酷く雨の降る夜のことだった。
「な、何だ!? 大丈夫か、あんた!?」
「まあ……ひどい怪我! 大丈夫!?」
雨とは言えあまりの量に、外出を控えるよう村中に言って回った日。
二人は、軒下で寄りかかる少女を見つけることとなった。
二人の驚愕も、無理はなかった。
彼女には、無数に驚くべき点があったからだ。
「……人間か」
彼女はまるで従えるように、数多くの輝く精霊をその身に纏っていた。
今のリリアよりもまだ幼い程度の少女であるのだが、
その気品も雰囲気も、大凡それには似つかわしくない高貴なものを感じさせる。
だが、それとは対照的に。
その体中は、雨で血を流してもまだ見える幾つもの傷跡が浮かんでいた。
「1つ、妾の頼みを聞いてくれんか」
そして、何より。
その胸に、赤ん坊を抱いていたことだった。
「と、とにかく中に……!!」
「妾の事はいい……この子を頼む……
名を、リリアと言うらしい……
とある人間からその子を託されたのだが……共に逃げるのは、もう叶わぬ……
せめてその子だけでも、逃がしてやりとうてな……」
「……まあっ……!」
差し出された赤ん坊を受けて、ペティはまたも驚く。
赤子もまた、彼女ほど酷くはないにせよ——
呼吸は弱く、弱っているのが見て取れたからだ。
「アスラさん! この子、こんなに弱ってしまって……!
すぐに手当しないとっ!」
「ああ! ペティさん、先に家の中へ!」
一先ずは赤子のために、彼女を抱いて家へと入っていくペティ。
彼女を背後に、アスラはもう一度少女と向き合う。
「さあ、あんたも……!」
「礼を言うぞ、人の子よ……時間がない、すまんが、後を頼む……
これは守りだ、とっておけっ!!」
「なっ!?」
しかし彼女は、直剣を押し付けるように手渡して。
静止を聞くこともなく、彼女はそのまま立ち上がって雨の中へと走り去る。
「ま、待ってくれ!」
それは視界も通らない豪雨の中に行ったと思えば。
まるで翔び立つかのように、輝きは空へと向かっていった。
——
彼女のことをリリアに話さなかったのは、色々な理由があった。
託されたとは言っていたが、精霊を纏わせる姿は共通したものだ。
母親ではないかと連想するのも無理はない。
しかし思い返しても、余りに特異な存在だった。再会も叶うとは限らない。
下手に幼いうちから母親の影を出して、
不安を与えてしまうのもよくないと思っていた。
無論リリアが育ち心も安定した時には、それを明かすつもりでもあった。
(まさか、13でこうなるとは……!)
しかし。
会うことどころか、消息すら掴めなくなった今。
それは罪悪感として、その胸を締め付けていた。
(……頼む。どうかリリアを助けてくれ……!)
そうした、痛ましい雰囲気の中。
「おっと。お墓参りみたいだが、失礼するぜ」
幾つもの重なった足音。
そして掛けられた声が、それを無碍にするように響いた。
振り返るアスラとペティ。
それを迎えたのは、数多くの敵意の視線だった。
「……誰だ!?」
その雰囲気に、20は超えるだろう数。
そしていずれも、鎧や武器を身に着けた姿。
先頭に立つ若い男もそうだ。
背中の巨大な大剣が、戦士であることを物語っていた。
剣呑な様子にアスラは警戒心を大きく高めて、問いかける。
しかし先頭の若い男は、侮るような口調で返す。
「アトリアの村長夫妻ってのは、あんたらだな?」
アスラの問には答えない、逆の問いかけだ。
あるいは言葉に頼る必要など、もとよりないと示すかのように。
「だとしたら、どうする?」
「ちょうど良かった。一緒に来てもらおうか。
それが、俺達の仕事ってわけでね」
それは、言葉通りの穏健な意味な筈もない。
その身を狙いに来た。そういう意味のものだった。
より高まっていく緊張感。
しかしその中でも、アスラは妻を守るように一歩前に出る。
「……こんな田舎の老人を捕らえて、なんの意味がある?
グローリアに身代金でもせびる気か?
だとしたら当ては外れたな。
あの街が惜しむほど、この首は重くないぞ」
「さあな。俺たちは何も聞いちゃいねえ」
答えたのは、先頭の男の更に隣。
この一団の中でもとびきり重く大きな鎧を身につけた男だった。
「だが……俺達に提示されたのは、とんでもねえ報酬だったぜ。
あんたらこそ、本当に思いたるフシもねえのか?」
「何……!?」
その男によって語られたのは、実質的な理由とも言えるもの。
それに怯む様子のなかったアスラが、明確に動揺する。
何故なら。この状況で思い当たるものなど、1つしかなかったからだ。
(まさか、リリアに……!?)
田舎の村であるアトリアだ。
関係の深いものは基本、村に関わる者ばかりだった。
であれば。この不可解な襲撃の所以が、
今行方の知れないリリアにあると考えるのも自然な流れだった。
(リリア……今、お前に何が起きているんだ……!?)
命よりも大切な孫娘への心配で、さらに焦燥していく胸中。
だが状況は、それも許さない場面にあった。
眼の前の戦士たちの剣呑な雰囲気が、それを物語る。
「あんまり手間掛けさせないでよ。
田舎の村で雑魚狩りなんて、私の趣味じゃないんだから」
「……っ!」
選択を強いるように、重装備の男と逆側、軽装の女性が口を開く。
その言葉は、標的が村にも及んでいることを暗に示していた。
言うまでもない。アスラたちの抵抗の意志を折るためのものだ。
同義など、力の前には無力であると示すように。
(……仕方ないか……)
考えても、突破口のある状況ではなかった。
アスラも内心で、その方向へと傾いていくのも無理は無かった。
「……分かった、村には手を——」
そうして、大人しく恭順の意志を示そうとした、その時。
身を差し出すために一歩進んだ後ろ手を、掴む手があった。
「アスラさん、待ってください」
彼の後ろに居るのは、ただ一人。
長き年月を共に生きた相棒たる、妻のペティだった。
「……ペティさん」
焦燥に満ちたアスラの表情に反して。
抱いていないはずもない焦燥、それを塗りつぶすかのように、
彼女の表情は強い意志に満ちていた。
「このような卑劣な手口を使おうとしている者が居るということは。
つまりリリアは、その者と対立しているという事。
そうであれば、リリアは今きっと正しいことをしているはず」
「……!!」
掴んだ手の理由を、そのまま彼女は口にしていく。
そしてそれは、ずっと深いリリアへの信頼であり愛情であった。
行方が分からなくとも、消息も掴めなくとも。
彼女が、間違ったことはしていないはずだと。
自らの命を天秤に掛けてでも、それを信じていた。
「私たちが……その邪魔をするわけには行きません!」
血の繋がらないリリアとも、
しかし確かに通ずる強い意志を灯した瞳。
それは、ある同意を求めていたものだ。
そしてゆっくりと、アスラもそれに頷いた。
「……そうだな。リリアなら、きっとそうだ」
守るように前に立っていたアスラの位置まで、ペティもまた進む。
二人で並んで、今度は明確な反抗の意志を宿した顔で。
再び、一団へと向き合った。
「もし私たちを、リリアを害するために使いたいと言うのなら。
今すぐ舌を噛み切って死にましょう!」
「その通りだ!
何を企んでいるのか知らんが、お前達の言いなりにはならんぞ!
もう老い先の短い命だ! その中でリリアにも出会えた!!
もう悔いなどない、あの子の邪魔はさせん!!!」
これまで掛けられた圧、その全てを跳ね返さんと。
二人は強く叫んで、その意思を示していた。
雰囲気が、再び変わる。より剣呑なものへ進む方向へと。
「だーっ、めんどくせえな……
こいつらの生存がマストオーダーだってのに」
「自害もできないぐらい痛めつけてやりゃいいでしょ。
……ま、加減できるか分かんないけど!」
「おいおい、やり過ぎんなよ」
それは、尚も折れることのない二人を尊重することはなかった。
強者として、弱者を嘲笑うだけがそこにあった。
先頭の隣、軽装の女性が杖を構える。
集う精霊たちと共に、周囲の温度が急にぐっと下がった。
その冷気を携えた精霊が、杖の先へ幾つもの氷塊を生み出していく。
それは、言うまでもなく。アスラたちを害するための武器だった。
「"アイスコメット"!!」
そして叫んだ声に応じ、氷塊が撃ち出される。
20は下らない数の氷塊は、
アスラたちの居場所を埋め尽くすように放たれていた。
回避など、望むべくもない。
「っ!!」
身を守るように、ペティを抱きしめてそれを迎えるアスラ。
抵抗の手段は持ち得ていない。
ただ耐えるために、目を閉じて——
瞼が閉じられる、その寸前に。
紅い光が、その視界へと差し込んだ。
「……っ!?」
至近距離で響く、閃光のような打撃音。
待ち構えていたはずの痛みは来ることはなく。
しかしそれは、命の終わりを意味しているわけでもなかった。
再び二人で、目を開く。そこには。
「——あのお転婆の育て親だ。
どんな破天荒な奴かと思ってたが……」
しゃがれた老婆の声で、二人に声を掛けながら。
古ぼけた服を身に纏った人物が、彼らを守るように眼の前に立っていた。
いや、確かに守っていたのだ。
彼女の眼の前には、二人を襲った氷塊が砕けて散らばっていた。
「こんな塵共に押されちゃ、世話ないね」
その彼女が、顔と視線だけ振り向いて。
三角帽から覗く、紅い瞳と視線が重なる。
そう。村から出たギルダが、今この場に現れていた。
——
「……」
ずっと上のほうで、ジストの雄叫びを聞きながら。
リリアは脱力して、床に身を預けていた。
正しくは、もう力も入らないほどに使い果たしている、というのだが。
そこへ、ゆっくりと近づく影が一つ。
「——混じり空」
「! アイリスさん……」
声を掛けられて、リリアも視線を合わせる。
少し驚いていた。何故なら。
その声色が、これまでよりもずっと柔らかいものだったからだ。
浮かべる笑顔も、これまでの張り詰めたものよりもずっと温和で。
リリアも、ふっと微笑みを返す。
「ジストを助けてくれて、ありがとう」
そして、アイリスは続ける。
その時、分かった。その声も表情も、和やかなだけではない。
どこか、哀しさを含むものだった。
「きっと、今のあいつなら負けはしない。
だから……頼みを重ねるようで悪いが。
どうか、約束は守ってほしい」
「ジストさんに、アイリスさんの事を伝えないようにって?
……どうして?」
それは、少し前に離した約束のことだった。
しかし、それは今になっても納得はできていないものだ。
その理由を再度問いただすリリア。
だが。
「……"エリアルセイバー"っ!」
彼女は、答えなかった。
アイリスはそのまま振り返りつつ、短剣を振るう。
その先にはベリオンの外だろう、海の様子が見えた。
「アイリスさんっ……!
ねえ、なんで!?」
身体を起こすのもやっとのリリアに、それを止める手段はなかった。
重ねられる問いにも答えずに、アイリスは短剣を入れ物にしまう。
そしてリリアのすぐ近くへと置いて、また立ち上がった。
「頼み事ばかりで悪いが。
これを、ジストに返しておいてくれ……じゃあな」
「ま、待ってってば! 私、何も……!」
それが、納得に繋がるわけもない。
その背中に何度も声を重ねていくリリア。
しかし。空間の境目に脚を掛けた時。アイリスは、ようやく振り返る。
「——混じり空」
「!」
だがそれは、リリアの問いに答える物ではないことがすぐに伝わった。
何故なら。その視線と雰囲気が、急変した剣呑なものになっていたからだ。
不意に高まった緊張に言葉を失うリリア。そのまま、アイリスは告げる。
「一つ、助言をしておいてやる。
ボクを仲間だと思うのは、やめておけ。
……そのほうが、お前のためだ」
その言葉を最後に、彼女は開いた空間へと飛び込む。
そして追う間もなく、空間は閉じられてしまった。
(行っちゃった……)
急変した中の、助言という名の絶縁の宣言。
何も、彼女は答えなかった。何も、わからないままだ。
思わず沈み込む気持ち。しかし傷心を待つこと無く、状況は進んでいく。
「——リリア!」
「ジストさん!」
いくつかの足場を繋いで、ジストが再びリリアの元へと降りてきた。
結局のところ。ジストは、アイリスの姿を見ることはない形となった。
そのまま倒れた彼女を介抱するように腕を回しながら、
ジストは状況を伝えていく。
「バストールたちは全員、俺が倒した。
一先ずこの場は安全になったと言えるだろう」
「ほんと? すごい……!」
「ああ。凄まじい力だな、これは。
リーブルでジェネに起きたと聞いたものと、同じものだろうか?」
「うん。あの時も確か……こんな感じだったと思う
……って、あれ?」
精霊と同化している彼の姿を、記憶の中のジェネと重ねる最中。
目の前のジストから、突如精霊たちが分離した。
不思議に思うリリアの姿は、
それが彼女の意図したものではない事を示していた。
「時間か、あるいは戦いが終わったからか……
まだ分からないことの多い技ということか」
「うん、そうかも……あ、そうだ!
ジストさん、身体痛くなったりしてない!?
ジェネ、ものすごい反動が来たって言ってたから」
しかしそれ以上に。
同化が解除されたことで、リリアは更なるジェネの様子をそこに重ねる。
大きな反動を受け、苦しんだジェネの姿を。
当然、それは心配であるのだが。対するジストは、笑って答える。
「そうだな……多少は感じるが、動くのに支障がある程度じゃない。
発している時間が短かったからか、身体の丈夫さの違いか……
まあ、分からんことを言ってもしょうがないか。
ともかく、改めて状況を確認したい。いいか?」
「うん! ……あ、そうだ!」
何かを思いついたように、リリアは胸のバッジを取り外す。
通信機能は戦いの激化——
具体的には、ガストチームと戦い始めてから使えなくなっていた。
それを思い返しての行動だった。
「ジストさん、これに話して!
きっとそっちのほうがすぐ伝わるから」
「それは?」
「カタストさんに作ってもらったの。
離れてても皆と話せるの!」
「カタスト博士? 何故彼が……まあ、それは今はいいか」
星を象るそれを、ジストはこの場になって初めて見ることになった。
リリアの仲間であることを象徴する通信機。
思わぬ名前が出てきたことに驚くジストだが、
グローリアの兵士だけあり、その機能自体には馴染みもあった。
「ともかく、通信機というわけだな。
——俺だ、ジストだ。聞こえるか?」
そのまま躊躇無く語りかけるジスト。
繋がらなかったバッジの先から、今。
『——リーンだ、聞こえるか。無事のようだな、ジスト』
「リーンさんっ!」
『リリアっ、無事ですか!?』
『こっちも何とか大丈夫よ、リリアっ!』
「アカリさんっ、アーミィ!」
真っ先に声を返したのは、リーンだった。
返答は、同時に無事を意味するものでもある。
喜ぶリリアの隣で、ジストは彼が出てきた事自体に驚いていた。
「リーン!? そうか、協力してくれていたのか……
ありがとう。感謝してもしきれないぐらいだ」
『——お前から頼まれたものだと、俺は認識していたんだが。
まあいい。これでリーブルの借りは返したぞ』
強く感謝を伝えるジストに、静かに、事務的なような言葉で返すリーン。
だが彼がこれまで、どういう思いで動いていたかを思えば、
それは照れ隠しのようなものだったのだろう。
「リーンさん、そっちはどんな感じ?」
『色々とあってな。ガストチームは二人倒した。
今はアーミィ、アカリ、ニーコと共にいる。
それと、ゲイルチームの副隊長もだ。
……あと。湧いて出てきたおまけが1人』
「おまけ?」
『リーブルの人攫いの傭兵だ。名前は……何だったか』
『バゼル様だっての!』
「ええ!? なんでえ!?」
とぼけたのか、本当に覚えるに値しないと思っているのか。
そこに割り込んで、その当人の叫び声が入る。
流石にその名前は想像できず、リリアも驚いた。
『知らん。とりあえず、敵ではないらしい。
まあ、それはどうでもいい。そっちは?』
「ああ。バストール……
ガストチームの副隊長含めた3人、俺が鎮圧した。」
「私も一人……そうだっ、マリアンさんっ!!」
そして。目下、最大の敵であったガストチームの状況を共有し合う流れの中で。
リリアは、自分たちをここへ送り出したマリアンの事に気が回った。
「マリアンさん……私たちのために、バストールさんたちと戦ってくれたの!」
「マリアンが!? あいつがバストールに反目するとは……
しかし、バストールがここに来たということは……」
「……」
ジストが口にしたように。
バストールがここへ到達したという事自体が、彼女の辿った運命を表すようであった。
言葉を失い、うつむくリリア。しかし。
『大丈夫。生きてるわ、ガスト3も』
「ネル姉っ!?」
通信機から響いた新たな声が、それを救った。
ネルに続けて、今度はカゲツの声が響く。
『リリア嬢はお気づきになられなかったかもしれませんが。
貴方の明けた大穴のすぐ下に、我々も居合わせましてな。
彼女がとどめを刺されるまえに、乱入して助け出しておりました』
『貴方を追うことを優先してたみたいだったから、
こちらにはあんまり構ってこなかったけど……
だから、貴方も無事で安心したわ。リリア』
「ほんとに! ネル姉たちも無事でよかった!」
失意から一転してのマリアン、
そしてネルたちの無事に、リリアもより明るく喜んだ。
その中でも、相互の連絡は続いていく。
『だからこっちに居るのは、ガスト3のマリアンと6のレナだな。
マリアンはお姫様が、レナは助手先生が倒した。
……音質いいな、この通信機!』
「ドルム、無事だったか!
俺が倒したのはガスト2のバストールに、7のフレアと8のアンジェ。
それと……」
『俺の相手は4番と5番と名乗っていた。
2から8まで倒した、ということになるようだな』
ドルムの言葉に繋げて、
ジスト、リーンも整理するように倒した番号を並べていく。
「ガストチームは1から9までで構成されている。
残るガスト1がレクス。この企みの首謀者だ。
そしてガスト9にクライスという、若いが強力な戦士が居る」
そして、残る標的を整理するジスト。
だが実のところ、その整理にはまだ情報が足りていない。
それを。
「あとはそいつらを……」
『みんな……聞こえるか……!?』
「……ジェネ!?」
声だけでも分かるほどに弱りきったジェネの声が、それを伝えた。
「ジェネっ、どうしたの!?」
「どうした!? 何があった!?」
思いがけぬ彼の様子にリリアもジストも強く動揺し、心配して声を返す。
だが、続くジェネの声は返ってこない。
唯でさえ、この激戦の中だ。
これまで安心と喜びが続いた中で、どうしても嫌な予感が頭をよぎって。
「ジェネっ、ジェネっ!!」
『ジェネ。私が説明する、休んでおけ。
——ノインだ。レオも共にいる。
それとゲイル4、5も。気を失っているが、生体反応は確認できている』
「ノイン!」
して。彼に代わってノインの声が響いた。
機械である彼の声は、何時もと変わらぬ調子だ。
だが傷ついたジェネと共にいる時点で、
声に映らぬだけで彼もまた同じ、大きな傷を負っていることが察せた。
『我々が窮地に陥った際、ジェネとゼニアによる救援を受け、
こちらでガスト9、クライスを撃破した。
だがその後、紫色の水晶を備えるスーツを着用したガスト1に襲われた。
口惜しいが……歯が立たず、ゼニアを攫われてしまった』
「ゼニア?」
「あ、そっか。ジストさん会ってないんだっけ……!
カタスト博士が逃がした、実験体にされてたって男の子だよ。
また会って、一緒に戦ってくれたの!」
『それを、みすみす攫わせてしまった……すまない』
「レオくん!?」
まだゼニアと顔合わせしていなかったジストへの説明の最中。
今度は、レオの声が響いた。彼も例外無く、その傷の程が伺える声だ。
『クライスとの戦いも激戦だった……次の相手は、どうしようもなかった……
紫色の水晶のスーツだったのは覚えてるんだが……』
「クライスの後にレクスとは……いや、生き残っただけでもよくやった!
しかしやつは何故、その少年を?」
『分からない……その男はゼニアのことを『聖体』と言っていたが……』
そして紡がれていくレオの言葉に、その言葉が浮かぶ。
まるで魅入られたかのようにレクスが叫んでいた言葉だった。
そして。
『聖体? 聖体って、さっき見たのに書いてあったような——』
『ええ。確か、何かの本領発揮に必要だとか——』
その言葉を知るものが、この場には居た。
マルクトの手引きで、端末の情報を覗き見た者たちだ。
アーミィが、アカリが次々にそれを口にして行く中。
しかし、その謎は。
『それには、私自ら答えてやろう』
思いがけず、向こうからその正体を表すことになった。
「……レクス!?」
驚きと共に、ジストがその名を叫ぶ。
知っている声であり。そして、この場に現れるはずのない声だった。
ガストチームの隊長であり、黒幕と見なしていた存在。
レクス本人が、通信の中へ現れていた。
『独立した通信にも容易くアクセスできるとはな。
"全てを侵す力"か。なるほど、誇張された表現でもないようだ』
「レクス! 処刑は失敗し、俺はこの通り生きている!
ガストチームも俺達が全て倒した!
何を考えているのかは知らんが、お前の企みもここまでだ!
兵力無く戦うこともできまい!」
何か満足そうに語る彼。
あまりに不可解が続く行動に、ジストはしかし気圧されることなく叫ぶ。
彼が述べていく状況の不利に、しかしレクスは笑った。
『ここまでだと?
何も分かっていないのだな、ジスト』
「何!?」
『貴様が生きていようと。ガストチームの奴らが全て敗れようと。
もはや、私には関係のないことだ。
——この『イカロス』の力さえあれば!!』
それは、狂気さえ感じさせるような叫びと共に。
「っ!?」
「何だっ!!」
この場の空気が、一変した。
(これって……!)
それは、感じた覚えのある感覚だった。
グローリア、そしてリーブルでも。
『うっ……! くああッッ!!』
『ニーコっ!?』
通信機の先で、ニーコの苦しむ声が聞こえた。
それもまた、あの時を映したかのようであった。
そう、であればその次は。
部屋の中央に鎮座する精霊機関、
そこから剥がれるように、赤黒く染まった精霊たちが集まっていく。
「——ギャアアアアアアアアアアアア!!!」
「——ピギャアアアアアアア!!」
そう。記憶と同じ様に。
人間の何倍も巨大な、狼のような魔物が降り立った。
『魔物っ……!』
『こっちにもっ!?』
『くううッ……!?
ジェネ、しっかりしろ! 戦うぞっ!!』
通信からして。
その先の仲間たちも、同じ目に遭っていることがわかった。
そしてそれは、自分たちが居る場所に限ったものではないとも。
「レクス、貴様っ!! まだ部下が中で倒れているんだぞっ!!
それにこの大きさの要塞だ、無数の人間が残っているはずだ!!
全て巻き込むつもりか!? ……それとも、それが目的という訳か!!?」
生命全てを見境無く襲う魔物を放つという事は、
すなわちこの要塞に残る人物全てを殺害するつもりであるという事と同義だ。
到底許すことのできない蛮行に、ジストは激昂してレクスに叫ぶ。
『相変わらず見上げた英雄性だな、ジスト。
だがそれも無意味……いいや、訂正しよう。
この要塞の奴ら、そしてお前たちの無様な死が!
奴らに見せつける、成果の一つとなるのだから!!
クハハハハハハハっっ!!!』
「貴様ッッ……!」
しかしその激昂に付き合うこともなく、レクスはその怒りを嘲笑う。
そして続く高笑い。この行為も、その高笑いも。
もはや止めるものはいないと確信しているかのようだった。
怒りに顔を歪ませるジスト。
「……っ、リリア?」
しかしその手から、無言でバッジが取られる。
言うまでも無く、リリアの仕業だ。
そして抱かれていた姿勢から立ち上がりつつ、口を開く。
「……ねえ」
『何だ、例のガキか』
それは意外にも激化していく状況とは裏腹の、落ち着いた声だった。
意外ではあったが、しかし動揺する理由もなく。
先と変わらない調子で答えるレクス。
『貴様には散々煮え湯を飲まされた。だが、これで——』
しかし、それは。
落ち着いたが故のものでは、勿論無かった。
一度大きく呼吸して、そして。
「——いい加減にしてよ。勝手なことばかり!!」
心全てを満たすような怒りと共に、リリアは通信機に叫んだ。
「間違ってるって分かっても、ずっと怒ってたマリアンさんだって!
きっと私のことが大嫌いだった、バストールさんだって……!!
貴方がこうするって言ったから、何だってやったんじゃない!?
……それを、関係ないなんて!!」
その怒りは、自分だけではない。
今このベリオンに倒れるマリアン、そして最後まで敵対していたバストール。
死力を尽くして戦った彼らへの無礼に、リリアは叫んでいた。
『最早どうでもよいことを、どうでもよいと言っているだけだ。
奴らなどおらずとも、これがあれば出来ぬことなどないのだから!』
「そうやって……無くてもいい、居なくてもいいって勝手に思って!!
精霊たちもっ、いろんな村や人たちもっ!
ジストさんや仲間も踏みつけて来たのね!!
……そして、ゼニアくんもっ!!」
もっと言えば。それは、彼を信じて戦った部下だけのものですらなかった。
これまでの騒動の中で戦い、傷ついてきた者たちは無数に居た。
恐らくは彼の指示によって、グローリアで騒動に巻き込まれた者たち。
その手先となったギャングたち。ゼニアを追った天使たち。
リーブルで敵対した、深い陰謀の中で動いていたエリスやモース、その仲間たち。
巻き込まれた町民たち、彼らを守ろうと戦った騎士や辺境伯たち。
そして旅の始まりとなったアトリアの村人たちに、精霊たち。
まだリリアは知らないが、それに関わるゼニアも。
その全てが、一様に咎がない訳では無い。
それでも。その果てにある思いが、その全てを踏みつけにしたレクスが。
全てを無碍にしてなお笑っていることが、リリアは許せなかった。
その思いのままに叫んだ彼女に、しかしレクスは尚も相対する。
『それがどうした。
これから私が成すことに比べれば、いずれも些事に過ぎん』
「ええ、分かった。
……貴方は、許しちゃいけないって! 絶対、思い通りにはさせない!!」
その言葉は、完全な決別、敵対をリリアに決めさせた。
強く言い放ったその思いに、返っってくる声はない。
それもまた、レクスの意思だと受け取った。
そしてその最中にも、現れた魔物たちはリリアたちへと進み始める。
「シャアアアアアアアアアアアア!!」
「ギャアアアアア!!」
それを、一瞥して。
リリアはバッジを胸につけ直すと、ジストへと振り返る。
「ジストさんっ!」
「ああ。そうだ! 行くぞ、奴を止めるために!
リリア、もう一度頼む!」
ジストもまた、同じように立ち上がって頷いて。
そしてリリアに頼むと、そのまま魔物の迫りくる方へと走り出す。
主語のない言葉であったが、その意図は伝わっていた。
「うんっ! ——"リリルドライブ"!!」
もう一度の呼吸して、そしてリリアは唱える。
再び彼女の周りに湧き上がり、姿を現していく精霊たち。
それは真っ直ぐにジストの方へと伸びていき、再びその肉体を包み、そして。
「はあッッ!!!」
「ピ、ギャアアアアアアアッッ!!?」
精霊との一体化を果たすと共に、
ジストは自身の何倍もある背丈の魔物に、正拳を打ち込んでいた。
隕石の衝突のような重い一撃が、一瞬にして魔物の体を全て破壊していく。
「ギャアッッ、アッ……!!」
その体輝く精霊へと戻っていく最中、ジストは既にもう一体へと目を向けて。
「はあッ!!」
「ガギャ、アアアアッ!!??」
これまた凄まじい踏み込みと共に、輝く右足を魔物へと振り上げた。
腕にも劣らない蹴りの衝撃は、大きく重い魔物の体を紙切れのように吹き飛ばす。
そのまま壁に激突した魔物。
耐えられる衝撃ではなく、その体もまた分解され輝く精霊へ戻っていく。
「掴まれ! まずはここから脱出するぞっ!」
「うん!」
そして休む間もなくジストは再びリリアへと駆け寄って、
その体を背中に担ぎ上げる。
リリアはこれまでの激戦で力を使い果たした。
回復と言える時間も経ってはいない。
二人で移動するのであれば、これが最適解といえた。
「さあ行くぞっ! 奴を止めるんだ!」
「うんっ!!」
そしてこの精霊機関部の最上層へ向け、一気に飛び上がるジスト。
その視界の端にも、次々と魔物たちが生まれていく。
激戦に次ぐ激戦。状況は、最終決戦へと進んでいた。
——
「あ、あんたは……!?」
今。ギルダは得物としている蛇腹剣はなく、杖だけを手にしている。
如何なる技術か。つまりはそれによって、氷塊を全て叩き落としていた。
「知り合いだよ。お前さんたちの育てた、お転婆娘のね」
「リリアの……!?」
ギルダはそのまま、アスラからの問いにも簡潔に答える。
しかし内容としては十分と言えるものでもあった。
この場で、リリアの関係者であることを伝えること。
それだけで、どの立場であるかは明確になる。
そしてそれは先の防御と合わせて、相手にもそれを伝えるものとなった。
「婆さん、加勢ってわけかい?
ご立派だけどね。俺達はギルド『バレンシア』だぜ。
そしてS級パーティ、『赤牙』が俺等さ。『聖剣』のサイ。聞いたことないかい?」
「同じく、『重壁』のバラン」
「『氷妃』のミリエル。邪魔しないでくれる? おばあさん」
予期せぬ敵の登場。
しかしそれでも、彼らは態度を変えることもなかった。
彼らは自らの身分を語って、この威圧を強めていく。
完全に、侮っていると言えた
現れたギルダが老婆であること、そしてただ一人であること。
それは、警戒に値するものではないと彼らに判断させていた。
「何だいそりゃ。お遊戯会でもやってんのか?」
「……は?」
しかしそれを、更に嗤うように。
ギルダは彼らを嘲り笑い飛ばしていた。
ただ一人で、向けられた圧を跳ね除けるかのように。
「あたしから言わせれば。
異名を誇るなんざ、中身のない三下がやることさ。
お前らなんか端から知りもしないが……
どうやら、知る必要もなかったようだね」
続いた言葉も、彼らへの侮辱そのものだった。
今のギルダの瞳には、かつて見せた苛烈な殺気はない。
しかし今はその代わりに、侮蔑と嘲笑の意志が満ちていた。
「婆さん。俺達は優しさで言ってやってんだぜ」
「馬鹿も休み休み言いな。
雑魚共が何の優しさをあたしにくれるってんだい」
「おばあさん、状況が分かってないのかしら?
……あなた、いつ殺されてもおかしくないのよ?」
「殺す? 笑わせんな」
再び彼女を威圧せんと重ねられる言葉。
しかし折れるどころか、ギルダはただ愚弄と侮辱を重ねていく。
それは狙いのあるものか、あるいはただ侮辱しているだけなのか。
「お前らみたいな三下の塵共が、誰を殺せるって言ってんだい」
「婆さん……いい加減にしやがれッ!!」
しかしそれは遂に、サイと名乗った男を激昂させた。
彼は背中の大剣を引き抜くと、
今まで牽制し合っていた間合いを一気に踏み込んでいく。
声高々に語ったあたり、確かに高名な戦士ではあるのだろう。
それを真っ向から辱められた、その怒りが見えた。
「もう容赦しねえぞッ!! "聖剣技・グロウ——」
しかし。
その怒りは、結果として。
「だから、お遊戯会だって言ってんだ。雑魚が」
彼を、死へと誘うこととなった。
後の先、その極地。
ギルダの杖は仕込杖であった正体を表して。
秘められていた極めて純なる刃が、既に振り抜かれていた。
「え——」
誰も目で捉えることの出来なかった、その切っ先が。
刃の長さよりもずっと先にいるはずのサイの構えた大剣、そして。
彼の首を、一閃していた。
「……え?」
眼の前の光景が理解できず、ミリエルが呆けた声を漏らす。
胴体から落ちていくサイの首。
ギルダを除くこの場の誰もが、状況の理解に時間を要した。
そして。
「——さ、サイッ! てめええええええ!!」
ようやくそれを飲み込んだ重武装の戦士、バランが。
仲間を殺された怒りに噴き上がって、続いてギルダへと突撃した。
右手に持った大盾を構え、そして左手に握るメイスを振り上げて。
迫る彼を、ギルダは手早く杖を腰に仕舞って迎える。
「今ので分からないかい。呆れるね」
怒りに震える彼をまた、馬鹿にして。
素手となったギルダの右手が突如、紅い光を宿す。
それは一瞬にして激しく輝き、周囲を紅く照らし始めた。
(……これは!?)
その光景を背中越しに見て、アスラは驚く。
苛烈な輝きの質も、精霊の黄金の光とは異なる紅色も違う。
だが四肢に光を纏うその姿は、どこか本質的に重なって映った。
(まるで……リリアのよう……!)
愛する、孫娘の姿と。
ならば。その先も自然と、予想ができてしまった。
至近距離まで迫ったバランの、巨大なメイスが振り下ろされる。
「死ねえッッ!! っ、なっ……!?」
ギルダはそこへ、紅い光を纏った拳を振り上げて迎え撃っていた。
本来なら無謀としか言いようのないその行為は、しかし。
輝く拳は一瞬にして、メイスを粉々に粉砕してしまっていた。
そして。ギルダの構えた左腕にも、紅い光が宿った。
「死にな」
「ひっ……ぎゃベッッ!!!??」
次の瞬間。反撃となる烈拳が光のような早さで打ち込まれる。
恐るべき光景に大盾を構えたバランだったが、無駄だった。
輝く左腕は大盾を一撃で砕き、そのままバランの顔面を撃ち抜いていた。
首周りごと千切れ、そして吹き飛んでいく体。
重鎧が紙切れであるかように、宙を舞っていた。
「……」
それに目をくれる事も無く、再び視線を一団の方へと向けるギルダ。
空気は完全に変わっていた。だが。
「あ、ああっ……!!
よっ、よくもっ! よくもッッ!!
許さないぞっ、クソババアッッ!!」
一瞬にして仲間を失ったミリエルが吠える。
だがそれは、先の二人のような怒りだけではない。
それは、恐怖を押し流すような狂乱に近いものだった。
彼女は再び杖を構える。今度は、ずっと広い範囲に冷気が満ち始めた。
「"ダイアモンドダスト"ッッ!! 死ねえええええええッッ!」
「お、おおっ……!」
この場の大気すべてが凍っていくような冷気。
先とは比較にならない数の氷塊が生まれていくのが見えた。
それに慄くアスラたちに、しかしギルダは軽く声を掛ける。
「そこに居な。何もさせやしないよ」
そして左腕を、ミリエルの方へ向けて。
再び腕を、紅い光が包んでいく。いや、先程と同じではなかった。
紅い光は先と比にならない程にその輝きを増し、
そして凝縮されるように、渦巻いていく。
「——折角だ。聞かせてやろうか。
この技の銘は、確か……そうだ」
その最中。とぼけたかのように笑って零すギルダ。
しかしそれが、最後の容赦だった。
自分へと撃ち出されていく氷塊を見据えて、そして。
その紅い瞳に、殺意が満ちた。
「"赫焉"!!」
それは、死の宣告そのものだった。
向けた左腕に凝縮された苛烈なる紅い光が、奔流となって放たれた。
冷気の満ちた空間、それを容易に覆い尽くすほどの規模で。
「う、うおおおおっ!!?」
「くううッッ……!!?」
背後のアスラやペティですら身を庇う程の衝撃が、辺りを襲う。
そう。背後ですら、そうなのだ。
奔流の向かう先、正面についてはもはや言うまでもなかった。
撃ち出されていた氷塊は一瞬にて紅い光に砕かれ、灼かれ、消えていく。
「ああ、ああああああああああッッッ!!!」
そしてそれは、その中心にいたミリエルも当然例外ではなかった。
紅い光にすべてを飲み込まれて。
力の激流により、一瞬にしてその肉体は消滅した。
「ぎゃあああああああッッ!!!!」
「うわああああああああッッ!!!」
その余りの規模に、背後に居た一団も巻き込まれていく。
言うまでもなく、紅い光に飲まれた者は例外無く死を迎えていた。
幾つもの命を飲み込んで、ようやく光は収まっていく。
「……言った通りだ。話にもならない、お遊戯会だったね」
この規模の攻撃をしてなお、ギルダは平然としていた。
消耗も迷いも何一つ見受けられない。
違うのは、ただ1つ。その瞳に宿る殺気を、もう隠そうとしていなかった。
「……ひ、ひいいいいッッ!!」
「逃げろッ! 『赤牙』がこんな……勝てるわけないッ……!」
もはや、大勢は決していた。
圧倒という言葉すら生ぬるい程の戦力差。
その殺気に立ち向かう者など、居るはずもなかった。
堰を切ったように、半分ほどになってしまった一団は逃げ出していく。
だが。
「駄目とわかりゃ、尻尾を巻いて逃げ出すかい。呆れたもんだ。
——逃げられるなんて、思い上がりやがって」
ギルダの左腕に、再び紅い光が宿る。
先と同じように、際限無く輝きは増していき、そして。
「"赫焉・閃"!!」
凝縮されていく光が、限界に達したかのように炸裂して。
今度は無数の光線として、紅い光が放たれた。
それは、1つ1つが意志を持っているかのように自在に動き。
「ぎゃああああッッ!!!???」
「ひぎゃあああああッッ!!!!!!」
逃げる者たちを飲み込み、そして消し飛ばしていく。
もはや、逃げ場もなく。
敵対したもの全てが、紅い光に飲み込まれていった。




