43話 繋がる星々-9 君のその手で全てを救え
背後に迫った、何者かの存在。
(敵——ッ!?)
男の言った言葉の意味はわからない。だが、味方でないことは確かだ。
振り向こうとしたジェネの視界、その答え合わせのように。
その端に、また赤い光が映った。
クライスが操ったそれより、少し明るい色だった。
「どけッ、邪魔だ!!」
「ぐああああッッ!!?」
「ぐおおおッッ!!」
それ以上の行動を許さぬまま。
男の声と共に、突然大きな衝撃波が巻き起こり、
ジェネもレオも、そしてノインも吹き飛ばされてしまう。
丁度、ゼニアだけを残すような形で。
「"聖体"……これがあれば……!!」
そしてそれは、意図した通りなのだろう。
倒れたゼニアを見下して、現れた男はにやりと笑う。
そして、小さな彼の身体を抱え上げた。
「ぐうっ!?……くそっ! 何だ、てめえ!」
一方で。壁に衝突しながらもすぐに立ち上がって、男に啖呵を切るジェネ。
だが。男の視線は一切揺らぐことは無かった。
一切の無反応。それが、ジェネへの態度であった。
その態度が、よりジェネの態度に油を注いでいく。
「てめえッ……!」
「待て、ジェネ」
仲間であるゼニアを奪われた上、この侮辱された態度。
怒りのままに飛び出そうとするジェネを、ノインが制した。
機械の平坦な声でも分かった。その先に強い警戒と、緊張があることが。
そしてその詳細を、彼は続けた。
「間違いない……グローリア防衛隊、現総隊長。ガスト1・レクス。
恐らくは、この企ての首謀者だ」
「何っ……!? あいつが!?」
「……フン。龍人や人間のガキに、ジストが酔狂で残した精霊機甲か。
このようなザマになるから、処分しろと進言してやったというのに」
ノインが、男の素性を口にしたタイミングで。
ようやく目の前の男……レクスも、ジェネたちに視線を向けた。
侮蔑と見下しの込もった、冷たい視線だった。
「てめえか……!! てめえが、全部の黒幕って訳だな!
許さねえ、絶対許さねえぞ!!」
「好都合だ! お前を倒せば、全て終わりというわけだな!!」
一方で。
相手が探し続けた仇敵そのものと知って、ジェネもレオも心は尚更燃え上がる。
怒りのままに叫んで、彼の行いを糾弾して。
しかしそれでも、レクスの瞳は冷めたままだった。
「今は貴様らに構ってやっている暇はないのだ。退け、雑魚共め」
「黙りやがれっ! ゼニアを返せッ、"貫け"ッッ!!」
「"怪盗技術『六道縛』"っ!!」
全く相手にしない彼の様子に、ついに激昂して。
ジェネは精霊たちを呼び寄せて炎の槍を投げ込み、
その動きを縛るための幾つもの硬線が、レオによって放たれる。
しかし。迫るそれらに対して、レクスは微動だにすらしなかった。
そして。それが更に迫った時。彼の身体にまた赤いが宿る。
「邪魔だと言っているだろうが!」
纏った光は、そのまま衝撃波のように動作無く放たれて。
迫った炎の槍、そして糸を簡単に弾き飛ばしてしまう。
寧ろ尚も勢いが消えない衝撃波は、そのまま——
「なっ!? ——げはッッ!!?」
「があッ!!」
反撃として、ジェネたちを襲った。
不意の、しかも重い攻撃だ。
防ぎ切ることは出来ず、再び壁に叩きつけられた。
「ぐ、ううっ……」
「がッ……」
クライスとの戦いによるダメージが消えたはずもない。
今の彼らは、もう限界と言える所に達していた。
「ジェネ、レオ!」
その二人を守るように間に入りながら、左腕の砲撃を繰り返すノイン。
だがそれも、レクスが動作無く浮かび上がらせる赤い光に防がれていく。
「そうだ……これさえ、これさえあれば……!!」
そして最早、レクスはそれに対しての反応すらしていなかった。
腕の中に収めたゼニアに目を向けて、その笑みを深めていく。
「ハア!!」
「——ッ!!」
片腕だけ乱暴に振るって、再び放たれた衝撃波がノインも吹き飛ばした。
その様子さえ彼は一瞥もしないまま、衝撃波を再び、今度は天井へと放つ。
簡単に崩れ落ちたその穴へ、ゼニアを抱いたままレクスは跳び立つ。
「ま、待ちやがれ……!!」
「ゼニアッ……!!」
それを追う力は、もうジェネたちには残っていなかった。
立ち上がる事もできないまま、伸ばした腕。
その先の闇に、ゼニアは連れ去られていく。
——
何段飛ばしかで、折り返しの階段を駆け下りて。
二人の少女は、その先へと急ぐ。
「はあっ、はあっ……!」
リリアもアイリスも、顔色は良くはない。
戦いの中で蓄積したダメージは、今も身体を苛んでいる。
それでも、ともすれば危うさ感じさせる早さで突き進んでいた。
(……マリアンさん……!)
自分たちの居たと思う場所。
先ほど上方から響いた爆音は、彼女の結末を教えているかのようだった。
それが、尚更リリアの脚を走らせる。
彼女に感化されるように、精霊たちもより姿を表してその四肢を支えていた。
「……おい、混じり空っ」
その最中。
並走するアイリスが、不意にリリアに声を掛けた。
「なにっ? っていうか、リリアって呼んでってばっ」
「うるさい。ボクの自由だろうが。
……まともに話せるのは、ここが最後かもしれないから。
一つ聞きたかったことがある。
——お前の剣は、誰かから教わったものか?」
その質問は、リリアにとってはかなり意外に感じるものだった。
これまで一緒に行動した中でも、
アイリスはあまり自分に対しての興味らしい興味は見せていなかった。
そこから突如、リリアを深堀りするための質問が飛んできたのだ。
とはいえ。その返答を断る理由もなかった。
「え? ううん。
エレナに憧れて剣の修行は始めたけど、
別に剣術について描いてるわけでもなかったから。
自然と、こうなった感じかな?」
「生来のものか。……遺伝か?」
「どうだろう、わかんないな。
私孤児だったから、本当のお父さん、お母さんも知らないんだ。
もしかしたら、そういうものなのかも?」
そのままリリアは、続く会話も含めて素直に答える。
前にジストやジェネに語ったように、
ややセンシティブに感じられる生まれの話についても、
リリア自身はそう重いものとは思っていなかったのもある。
口にする最中。リリアは脳内で、また違う人物を思い浮かべた。
(でも、もしかしたら。あの人も……?)
浮かべたのは、リーブルの戦いの戦いの。
夢の中で出会った、自分とよく似た女性のことだった。
自分を導くように技を伝えた、恐らくは、エレナの師匠と思われる彼女。
彼女の存在は今も謎に包まれている。
だが、剣技ということを思うと。何か繋がりがあるように思えてならなかった。
夢の中で見た、エレナの奥義。
それを、自分のものとして容易く落とし込めたことも含めて。
(あの人。お母さんじゃない、っては言ってたけど……
それでもやっぱり、何か繋がりがある人なのかな?)
そうして考え込むリリア。
そして一方のアイリスも、最後の言葉から暫く何かを考えているようだった。
迷っているようでしばらくそのままだったが、やがて、先に口を開いた。
「……ジストのために、ここまで共に戦った礼だ。一つ教えてやる。
お前と、似た剣を振るう奴を知ってる」
「え!?」
「仲間から聞いていないか?
リーブルに現れた、『紅い光の老戦士』の事を」
「ええっ!?」
して。迷った末のその言葉は、驚愕に値するものであった。
リリアが顔を合わせることが無かった、未知の恐るべき強敵として聞いていた戦士。
それへ、不意に自らへの繋がりが生まれたのだ。
そしてそれは、もう一つ更なる繋がりを連想させる。
「でも、それって……!?」
「ああ。ボクの今の仲間……
正確には、より上役にあたる存在だ」
かの戦士が居た場に、
リリアが顔を合わせた夜の妖魔の男やアイリスも居たこと。
その理由を、アイリスは言語化した。
秘匿されていた情報、その開示とも言える発言。小さいものではなかった。
「正直な所、奴についてはボクもあまり知らない。
奴は全く自分のことを喋ろうとしないから。
分かるのは……信じられないほどの強さだけだ」
「……」
「だが。お前が自分の存在を探ろうと思うのなら。
奴が、何か知っているかもしれないな。
会う機会を作ってやれるとまでは行かないが」
それは言葉にした通り、礼として踏み込んだものか、
あるいは、その程度の情報ということなのか。彼女の表情からは伺いしれない。
「……」
いずれにしても、リリアにとっては指針を与えられたようなものだった。
自らを知りたければ、『紅い光の老戦士』に出会え、と。
その時、リリアはふと思い出す。夢の中の、彼女の言葉だった。
(あの人……『紅き死』って、言ってたけど……?)
元より彼女がリリアに与える情報は極めて抽象的だった。
そこから真実を見出すのは容易いことではない。
だが、突如自らに関わる事になった『紅い光の老戦士』。
そこに繋がりや関連性を見出そうとするのは自然だった。
そうリリアが考えていく最中、隣で。
アイリスは、口にせずに考えを重ねる。
(——もっとも。あの気に入りようだ。
いずれ、あの婆の方から近づいてくるかもしれないがな)
実際の所。リリアにとっては初対面の相手ではない。
だが、そこを繋げるヒントについてはアイリスは口にしなかった。
それは意図したものであるのか。
あるいは、出会っていることを知らずにそうしたのかまでは分からなかった。
「……っと!」
しかし。その思考も、突如終わった階段によって中断させられる。
そして、小さな扉だけが二人の前に現れていた。
ここまで他に扉は無かった。マリアンの言った行き先は、ここで違いはなさそうだ。
「ここが……!」
「行くぞ」
「うん!」
そしてもう、躊躇う理由も時間もない。
扉の近くにあった小さな端末へ、マリアンから授けられたカードキーをかざす。
響く小さな音。そして二人は、そのまま鉄製の扉を開いていく。
「わっ!?」
薄暗い階段部分。
そこを、開いた隙間から伸びた碧色の光が照らしていく。
不意の眩さに目を覆うリリア。やがて慣れるとともに、その先を直視する。
「これって……!」
その先は、部屋と呼ぶには余りに大きな空間が広がっていた。
屋内としても、規格外と言えるほどの広さだ。
そして光源の正体も、すぐに明らかになる。
「——精霊機関って、あれのこと!?」
見るまでもなく分かった。部屋の中央。
並の家屋の何倍もある、極めて大きな輝く正方形の物体。
それが、精霊たちの奔流の中心で碧色に輝いていた。
精霊の力により稼働し、力を生み出す精霊機関。
リリアはここに来て、その実物を目の当たりにしたのだった。
「あれがここの精霊機関……
なるほど、もうこのレベルのものが作れるか」
「とにかく、ジストさんを探さなきゃ!
ええと、マリアンさんはたしか精霊機関の上だって……」
今のいち関係は、その巨大な精霊機関のちょうど中心程度の高さだった。
そこから上部を見上げる二人。
して、その発見までに時間はかからなかった。
「……あれか!?」
それは、精霊機関の直上にあった。
極めて重要な心臓部として、見るからに強固な一体感で作られているこの空間において。
妙に異質な材質の、四角い箱のようなものがあった。
明らかに急造、増設感の強いそれが、上部から吊るされていて。
これまた緩そうな支柱や箱を吊るす鎖は、まるで切り離すことを視野に入れているようだった。
「処刑に精霊機関を使うつもり、って言ってたけど……
あの中にジストさんが!?」
「精霊機関には凄まじいエネルギーがある。
部屋ごと叩き落として殺すつもりだったということか……」
それがそのまま、二人をその結論に導いた。
ジストは、あの中に囚われていると。
「急がなきゃっ……わあッ!?」
判断の瞬間、駆け出したリリア。
しかし。突如足元へ飛んできた光線が、それを妨げることになった。
「混じり空っ!?
……あいつらっ!?」
特別強い光源のある部屋だ。
その色は見えづらかったが——確かに、赤色だった。
「フン……鼠共が。
もういい、ジストを先に始末するぞ」
「はっ!」
リリアたちの居る位置よりも、ずっと上の入口から。
バストールたち3人もまた、この空間に現れていた。
位置関係としては、彼らのほうが遥かにジストの部屋に近い。
突如、状況は切羽詰まることになった。
「アイリスさんっ、部屋の中に繋げられる!?」
「駄目だっ!
制御が細かく効かないし位置も分からない、ジストを巻き込むかもしれない!
だから……こっちだ! "エリアルセイバー"っっ!」
リリアからの質問に否定しつつ、アイリスは手早くナイフを振るう。
二つ、空間が開いた。
一つは、正面に例の部屋を捉えた場所。
もう一つは。ジストではなくバストールたちを映し出していた。
「アイリスさんっ!」
「足止めはボクがやる!
混じり空、お前の馬鹿力でジストを解放しろ!」
そして言葉と共に、アイリスは後者の空間へと飛び込んだ。
「はああああああああッッ!!!」
「むっ!?」
即座に閉じる空間。アイリスの雄叫びは、実際に上部の方から聞こえた。
敵のど真ん中となる、極めて危険な場所だった。
半ば捨て身の献身。だが逆に、もう迷うことは許されなかった。
「ーッッ!! アイリスさん、頑張ってッッ!!」
リリアも思い切り叫んで彼女を激励して、
そして開いたもう一つの空間へ飛び込む。
言葉通り巻き込まないように注意したのだろう、
部屋までまだ距離がある中、リリアはもう、ただ一心で駆け出した。
「うおおおあああああああああッッッ!!!」
長い戦いと疾走を繰り返して、身体ももう重くてたまらない。
それでも、リリアはただひた走る。
ここまで、多くの激戦があった。
仲間たちも命を賭して戦い続けた。
全ては、あの部屋に囚われたジストを救い出すためだ。
あと、少し。
「っ、はあっ、はあッ……!!」
そしてリリアは、遂に正面。
すぐ近くへ、その部屋を捉える。
もう迷うこともない。リリアはまた更に近づいて。
その部屋に繋がる階段へと、脚を掛ける。
その、瞬間。
「——きゃッ!?」
まるで半透明の薄壁のような障壁が現れて、リリアを弾き飛ばした。
ジストへの道を阻む、最後の防衛システムなのだろう。
(壁っ……!? どこかで消せないかなっ!?)
それにすぐに思い当たって、辺りを見回すリリア。
マリアンのカードキーは手元にある。
ここに至る道のように、解錠の手段はないか。
それを探すが、しかし辺りにそれらしい端末は見つからない。
そして、それ以上に。
(探してる時間なんて……ないっ!!)
今も、仲間たちは戦っている。
すぐ側でも、アイリスが極めて分の悪い勝負に身を投じている。
もはや時間の猶予など、ありはしない。
ならば。
リリアは後腰の直剣を握って、抜刀する。
彼女の最後の底力を支えるように、現れていく精霊たち。
それを、切っ先で繋いで。
リリアは、再び壁へと駆け出した。
「"ルクスドライブ"!! はあああああああッッ!!!!」
壁の強度もわからない。時間も余力もない。最大を叩きつけるしかない。
駆け出したリリアの剣先、尾を引くように繋がれていく精霊たち。
それに呼応するように、剣は、リリアの全身は輝きを増していく。
その全てを、先ほど吹き飛ばされた半透明の壁に向けて。
「"ルクスドライブ・ノヴァ"ッッ!!」
渾身の回転斬りを、そこに叩き込んだ。
輝く精霊たちとの剛撃。
それは半透明の壁に一瞬にしてヒビを走らせ、次の瞬間粉々に砕いた。
だが、まだ終わらない。
(……まだっ!!)
リリアはその先、最後の障壁たる頑丈そうな扉を見据える。
もう、手段を迷うこともなかった。
その勢いのまま、再び身を回して飛び込む。
「——もう、一発ッッ!!
でやあああああああああああああああッッ!!」
その扉にも、強烈な一撃を叩き込んだリリア。
支柱へのダメージか、一瞬足元の揺れすらも感じる一撃。
分厚い鋼鉄製の扉は、今拉げ、傾き、リリア一人が通れる程度の道を作っていた。
「っ、はぁっ、はあっ……!!」
攻撃が終わり、消えていく精霊たち。
しかしリリアはそこで、全身から力が抜け倒れ込みそうになる。
「くっ、はっ、ううっ……!!」
限界までの消耗、それだけではない。
二度の、繋ぐ光の剛撃。それは今度こそ、容赦なくリリアを襲っていた。
折れそうになる膝を、しかしリリアは渾身で奮い立たせる。
(まだ、駄目っ……!!)
もう、意識すら手放しそうになる中。
リリアは出来うる限りの全力で、しかし痛ましいほどゆっくりに、
部屋の中へと歩みを進める。
そして。
「——っ、リリアッッ!?」
救うと誓ったその人と、視線が重なって。
「……ジストさんっっ!!!」
苦痛で満ちていたリリアの表情。
そこに、感涙と笑みが生まれた。
「なんでここに、どうやって……!?」
ジストの表示には、驚愕ばかりが浮かぶ。
しかしそれ以上に。
見れば分かるリリアの満身創痍に言葉を失った。
「っと、そうだ、まだ……!」
一方で。どうしても気を緩ませたリリアだったが、
まだ終わっていないことを再認識し、涙を拭って再びジストへと近づく。
改めて見れば、彼は十字架に縛られる形で拘束されている。
それを解かなければならない。
「説明は後、早く逃げるよっ……!
ええと、これは……!!」
震える手で、ジストを縛る枷を見る。
グローリアの文明のものと思われる、鉄製の輪だった。
繋ぎ目もよく分からないものだ。
辺りにはやはり、解錠に繋がるような端末もない。
脳裏に浮かぶ選択肢は、やはり力押ししかなかった。
(お願い……もう一度、力を貸して……!!)
震える身体を抱いて、再び精霊たちに祈るリリア。
先ほどの光景からすれば悲しいまでに少ないが、
ゆっくりと精霊たちが姿を表していく。
「リリア……うおッッ!?」
「きゃあっ!!?」
しかしその最中、不意に部屋が大きく揺れる。
それは先の、リリアの一撃どころではないものだった。
まるで、支えの一つが失われたかのような。
そう。
「ぐ……ううっっ……!」
「邪魔をするな」
外で時間稼ぎのために戦っていたアイリス。
彼女は今、足場の端まで追いやられていた。
なんとか義手の右手でぶら下がる状態だが、
つまり今、その役割は果たせなくなっていた。
「残る支柱を狙え。落とせるはずだ」
「はっ!」
バストールの指示のもと、部下の二人が光線を放つ。
そう。この光線によって支柱や吊るす鎖が破壊されていたのだ。
そして今、それを阻む存在はいない。二人は、絶体絶命の中にいた。
「きゃあ!!? 」
更に大きな振動が部屋を襲う。
新たな支柱が壊されたという事だろう。
ずっと囚われていたジストにとって、外の光景はわからない。
だがこの状態から、明らかに危険な状況であることは察していた。
「リリア、一旦離れろっ! ここは危険なんだろう!?」
「駄目だよっ!
ここで辞めたら、ジストさんが死んじゃうよッッ!!」
それでもリリアは、眼の前のジストを縛る枷へと意識を集中する。
当然だった。ジストを生かすための道は、
ここの崩落までに彼を解放するしかないのだから。
力の入らない身体に集中する姿。しかしそれが、尚更ジストの焦燥を呼ぶ。
そして遂には。ジストは、もう一度その言葉を口にした。
「俺のことはいい! お前が生き残れば……!」
「——ッッ!!」
今まで集中していたリリアが、強く反応して顔を上げる。
それは、怒りの色も滲むものだった。
その言葉を否定することこそが、リリアがここに来た理由そのものだった。
「何で……何ですぐ、そう言うの!?
言えばいいじゃないっ、生きたいって!!
誰だって、そう言っていいじゃないっっ!!」
「リリア……!」
それが目的だったとはいえ、ここまでの激戦だ。
何を言えばいいのか考えるような暇はなかった。
それでもリリアは、思いのままをジストに伝えていく。
「リリア……俺は……そうじゃ、ないんだ」
しかし。
ジストはまたも、何かを諦めたかのように返して。
彼女の、その意志に同調しない。
「そんなっ、わあああッッ!?」
更なる反論を口にしようとして、急に浮遊感を感じるリリア。
身体に伝わる感覚で分かった。今度は、明確に落ちている。
支えうるだけの支柱が、壊されきってしまったのだ。
咄嗟の思いでリリアは見上げた先、天井へと左腕を伸ばす。
「……ッ、"燦明"っっ!!」
急いで唱えた言葉。満身創痍の今でも、精霊たちはそれに応えた。
左腕を中心に急速に集まっていく精霊たち。
次の瞬間、その奔流が腕の向く先へと放たれた。
これまでの『燦明』と比べると余りに規模の小さいものであったが、
天井を吹き飛ばすには十分だった。そして尚、リリアは左腕を伸ばしたまま。
「"ステラワイヤー"ッ! ……でやあああああッッ!!」
左腕からその外へと光の鎖を伸ばし。
そして、身体の底力全てをかき集めて右腕でジストを磔にする十字架を掬い取る。
厚い十字架部分を捻り切ることまではできなかったが、
その根本、地面への接合部を剥がすことに成功していた。
「はぁつ、くああああッッ……!!」
そして落ちていく部屋。
伸びた光の鎖にぶら下がる形で、リリアとジストは何とか脱出していた。
しかし吊るされた状態でジストまで抱えるこの状況は、
今のリリアには余りに過酷で重すぎるものだ。
意志、底力、根性。そういったものの全てを駆り出して、リリアは耐えていた。
「リリア、もういい……手を離せ!」
「なんにもよくないッッ!!!
そうじゃない、って何なの、ジストさん!?」
見るだけで伝わるその状態に、重ねて諭すジスト。
しかしそれでも、リリアは諦めようとしなかった。
再び逆に問いかけるそれに、しかしジストは答えようとしない。
「……」
「私はジストさんのこと、全然しらないよっ!
ジストさんがどうしてそう思うのかも知らないよッッ!
……でも!
あなたはずっと、皆のために頑張ってきたんじゃない!
皆を助けてきたんじゃない!!
だったら、なんで貴方が助けられちゃ駄目なのっっ!!?」
「リリア……! 俺は……!」
だが。その僅かな時間さえも、この状況は許さなかった。
再び部屋を照らす光に、赤い光が混じっていた。
「しぶとい奴め……消えてしまえ!!!」
とどめとなる、バストールによる光線が放たれる。
それは直接リリアではなく、光の鎖が絡まる手すりへ向けられていた。
もう、それを防ぐ術もなかった。
「きゃああああああッッ!!!」
「リリアーッッ!!」
支えを失い、今度こそ重力にそって二人の身体が落ちていく。
力尽きたのか、リリアの、ジストを掴んでいた手からも力が消えて。
手足も動かせない中、ジストはただ彼女の名を強く叫ぶ。
(リリア……お前は、きっと世界を救う存在だったはずだ!
こうなるのであれば……俺は、俺はなんのために生きていたんだ!
こうなるのであれば、俺はなんのために!!)
その心も、彼女とその懺悔へと向いていた。
だがその懺悔も、もう届くものはない。
(伝えておくべきだったんだ……俺こそが……)
リリアの身体も、そしてジストの視界も。
巨大な精霊機関、それに従う無数の精霊の奔流の中へと飲み込まれていく——
「——ジストおおおおおおおッッッ!!!!」
もう光に包まれた視界。残った聴覚だけが、それを捉えた。
誰かが、自分の名を呼んでいることだけは分かった。
その声が、続ける。
「君が生きて、君のその手で救うんだっ!!!
その子も、仲間も、世界もっ!!
それが、願いだったろうがッッ! 誰かに託したりするなッッ!!
全て救ってみせろっっ、ジスト!!!!」
(——今の声は……?)
強く聞こえたその声。リリアと共に戦ってきたアイリスの声。
しかしジストは、その主に思い当たることはなかった。
忘れているのか、あるいは。
——ううん。信じるよ。
だが。
記憶でないものが、その声に重ねた何かを思い起こす。
——そんな伝承、関係ないよ。
ボクがそうだったから。
君が、救ってくれたから。
記憶にはないはずの、しかしどこかで聞いた声。
——だからきっと。
君こそが、世界を救う英雄になる——
(——ッッ!!!!!!)
それが、心の中。
彼の魂に、火を付ける。
「——うおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!!!!」
突如、全身に力を漲らせるジスト。
拘束され、衰弱させられていた面影はそこには一切なかった。
そのまま彼は一瞬で、全身の枷を身体の力だけで砕いてしまう。
そして十字架を足場に跳び立って、離れていたリリアを腕に収める。
「ジストさん……!」
「そうだ、リリア……!
誰であっても、何であっても救う……それが、英雄のあるべき姿だったな!!」
精霊機関、精霊とその纏うエネルギーの奔流の中。
猛る彼の意志を表すかのように、ジストの身体が蒼く輝き出した。
そして、それに呼応するように。
力尽きたはずのリリアの周囲にも、再び無数の精霊たちが姿を表していく。
身を包むように、精霊たちは渦を巻き二人を包みこんで。
「俺は……俺も、そうなるんだ!!
英雄に!!!!!!」
——
瞬間。弾けるような音が響いて。
突如、精霊機関を成していた無数の輝く精霊たちが吹き飛ばされる。
「ッッ!? 何っ……!?」
「何が起きた……!?」
人二人を飲み込むだけだったはずの精霊機関の異常。
バストールも狼狽えを隠せずにいた。その、視線の先。
「リリア。よくやった。
そして……ありがとう」
精霊たちが、まるで道を開くように作った、その空間。
そこから。リリアを抱えたジストが、再び姿を表した。
「ふぇ……えっ、ジストさん、それ……!」
そのまま優しく、リリアを床に降ろすジスト。
そこでリリアも、彼の姿の変化に気づく。
彼の身体の所々や髪の先が、精霊を取り込んだかのように黄金に輝いていた。
そう。リリアには、見覚えのある姿だ。
(これって……あの時のジェネみたい……!?)
それはリーブルでの戦い、エリスたちとの決戦の時。
ジェネが見せた、精霊と一体化した姿とよく似ているものだった。
それは、つまり。この姿もまた、リリアの力によって成されたものだろう。
本人が"リリルドライブ"と名付けた、あの力だ。
あるいは、本人はもうそれを悟っているのだろうか。
ジストはただ微笑みだけを返して、そして振り返る。
「休んでいろ。あとは、俺がやる」
そして。
巨大なこの精霊機関部の最下層から、彼は凄まじい勢いで跳躍する。
その先は、言うまでもなくバストールらの居る最上段だった。
「馬鹿な……精霊機関の奔流の中を、無傷で……?」
より近くで、彼の姿を見つめて。
バストールは眼の前の現象を、更に受け入れられずにいた。
見るからに力の漲った彼の姿は、
拘束による衰弱も奔流からのダメージも全く見受けられない。
「バストール、フレア、アンジェ。
お前達の企みも、ここまでだ」
彼らの名を呼びつつ、強く宣言するジスト。
その姿自体が、彼らを威圧さえしていた。
しかしそれを打ち破るかのように、そのうち一人、フレアが動き出す。
「抜かせっ! 貴様の時代は終わったのだ!
"ホロウウィップ"!!」
距離のある所から、赤い光の鞭が伸びていく。
ジストはそれを、動作一つなくただ見つめていた。
次の瞬間には。素早く迫った鞭が、彼の身体と重なる。
「……」
が。
「な……!?」
加わったのは、腕の動き一つだけ。
それだけで、ジストは迫った光の鞭を掴み取っていた。
一切の衝撃も傷もなく。微動だにしないまま、ジストは掌に力を込める。
「装備頼りの単調な攻撃だ。訓練が足りていないぞ、フレア!」
「なっ……うわああああッッ!!?」
そして今度は逆に、掴んだ鞭を強く引いた。
恐るべき膂力によるそれは、
引く、どころではない身体の制御全てを失わせるほどの勢いで、
フレアの身体を大きく自分側へと引き寄せる。
その最中。構えた右手に、リリアのように精霊たちが纏った。
「——はあッッッ!!!」
「ぐああああああああああッッ!!!???」
そして。
飛んできた身体を打ち返すように、ジストは渾身の拳をフレアへと叩き込んだ。
胸中を撃ち抜いた一撃は核たる赤い水晶を、その一撃で粉々にしてしまう。
いや。もはやそれだけでは済まない衝撃が、
そのままアーマースーツさえも砕き吹き飛ばしてしまった。
「おのれっ!!」
恐るべき強さ、一変した状況。
しかしそれでも畳み掛けるように、今度はもう一人、アンジェが光線を放つ。
ジストは、それに避ける様子を見せなかった。
光線が、その体を包み込む。だが。
「……はっ!?」
「自らの攻撃で視線を塞ぐのは初歩の初歩と言える失敗だ。
基礎からやり直すんだな、アンジェ!」
次の瞬間。
光線を打ち破る形で、ジストはその眼前へと姿を表していた。
下に構えた左腕にも、同じ様に精霊たちが宿る。
そしてアンジェがそれに気づいた時には既に、輝く拳が胸部に叩き込まれていた。
「が、ぐああああああッッ!!!???」
直撃した攻撃は、やはり先と同じ結果を産んだ。
一撃の下にアーマースーツも、心臓部の水晶も砕け散っていた。
そして精霊と同じ色に輝くジストの瞳が、今度はバストールを捉える。
「バストール。もう終わりだ。
分かるだろう? お前達に勝ち目はない」
「おのれ、ジスト……!!」
諭すように、投降を勧めるジスト。
もはや誰が見ても分かるほどに、戦力差は明らかだった。
だがそれでも、バストールはそれに応じる様子はない。
「だが最早、誰も隊長を止めることはできん!
そうやって勝ち誇っていればいい!
負けるのは……貴様らだ!」
むしろ戦意さえ滾らせて。
バストールは光の刃を形成し、ジストに突撃する。
「うおおおおおおおおおっ……がッ!?」
だが、最早通る物ではなかった。
間合いに入った瞬間。
疾風の速度で撃ち出されたジストの拳が、
バストールの右腕ごと光の刃の形成器を破壊していた。
そのままジストは、彼の身体を握って捉える。
「ぐ、お……!」
「あの日、お前を思って止めたリリアの拳。
——今、返すぞ!!」
もはや、逃げる方法もなかった。
そのままジストのアッパーが、彼の胴体を撃ち抜いた。
「ぐあああああああああああああッッッ……!!!!」
アーマースーツを砕かれて、宙を舞うバストール。
戦いが決した、瞬間だった。
——
一方で。
「"雷霆"っっ!!」
「ぎょええええええええええッッ!!!?」
またも情けない姿を響かせるバゼル。
先ほどから得物の大剣は、半ばただの盾と化していた。
今回もなんとか撃ち込まれた雷を防いだが、尻もちをついてしまう。
もはや、完全に引け腰になってしまっていた。
「ちょっと! 頼りなさすぎじゃないのっ!?」
「うるせーな!
あんなバケモンに勝てるわきゃねえだろ!!
ちくしょう、さっさと逃げときゃよかった……!」
流石に情けなさ過ぎる戦いぶりに上がる文句に、
バゼルは言い訳もなく弱音を吐く。
そこに、更にマルクトからの応援というか茶化しというか、
そんな言葉も飛ぶ。
「気張れバゼル! お前、ヘタれたら死ぬんだぜ!?」
「知ってるっつうのっ!!
テメー寝っ転がって死にかけてるだけのくせに!
代わりにお前が戦うか、ああ!?
……って、ウギャアアアアアアアッッ!!?」
それへの文句の傍らに。
大剣による防御を抜けた雷が、バゼルの身体に突き刺さり奔る。
再び激しく灼かれるが、それでも彼は立っていた。
その様子を、眼の前のエクレアは忌々しく見つめる。
「馬鹿らしい……せめて真面目にやってくれる?」
「アガガガガ……!」
彼の情けない戦いぶりやふざけた会話、
それに反した無尽蔵の耐久力に、エクレアは苛つきが隠せなくなっていた。
そして今も、眼の前でバゼルの身体は再生していく。
「もういい……! 他からやってやる! "雷霆"っ!!」
それが、エクレアに違う選択肢を取らせる理由になった。
再び稲妻を放つエクレア。
その向き先は、今度はバゼルを迂回してその背後へと向いていた。
「げ、やべっ……!」
「"灯籠一刀流・『激流上り』っ!"」
「っ!?」
しかし。それもまた、彼女の目論見からは外れることになった。
撃ち出された稲妻を弾く、鈍色の刃。
倒れていたアカリが、再びその早さを取り戻していた。
「情けなくて見てはいられませんが……
おかげで少しは、動けるようになりましたよ!」
「鬱陶しい……うわあっ!?」
苦々しくそれを睨んでいたエクレアに、今度は風弾が突き刺さる。
「"ワールブラスト"っ!
あんまり……調子乗んなよっ、エクレアッッ!!」
「ニーコっ……!!」
吹き飛んだエクレアに叫ぶニーコ。
情けない戦いぶりとばかり言われてはいたが、
バゼルの戦いは、二人が回復するだけの時間を稼げていたようだ。
「ああ、もう……! 鬱陶しいったら!!」
圧倒しているはずであるのに、悪化していく状況。
苛立ちと怒りに完全に支配されたエクレア。
大きく飛び立つと、そのフラストレーションをぶつけるように、
槍に巨大な雷を呼び起こしていく。
「全員纏めて、死ねッッ!!」
「や、やばいっ! どうしよ!?」
「く……あんな技まで……!?」
見るからに分かる大技。
アカリやニーコが回復したとはいえ、簡単に対抗策が出せる状況ではない。
雷の勢力に合わせて、膨らんでいく焦燥。
「おい」
そこに。
一閃の、神速が走った。
「——ッッ!? あぐうッ!!?」
「えっ!?」
稲妻よりも、さらに速く。
気がつけば、槍を握っていたエクレアの右腕が真っ二つに切断されていた。
そして妖精を象徴する、稲妻に似た右羽も。
突如光と揚力を失い落ちていくエクレア。
その間に立つように、彼は現れた。
「お前たちが戦っているということは、敵なんだろう。
ガストチーム、ではないようだが。誰だ?」
稲妻すら凌駕する、神速の剣士。
リーンが、そこに立っていた。
「リーンさんっ!?」
「た、助かったぜっ……」
リリアたちの事実上の最高戦力とも言える彼の登場に、
先の比ではないほどに元気付く一行。
何なら、その当人のバゼルに至っては安堵さえしていた。
「くっ、そ……! もう、次から次へと……!」
しかし墜落して、そしてなお。
エクレアは戦意を失うことはなく、再びリーンたちを睨みつける。
現れた役者は、今度は流石に格が違う。明確に、自分が不利になっている。
それでも再び呼び寄せた戦槍を左手で握って、その時だった。
『引け、エクレア』
「……大賢人!?」
耳元に取り付けた、妖精らしくない機械の装置から声が響いて。
驚きながら、彼女はその声に呼び返す。
『お主の力は信用しておる。
だがアスタリトの勇者まで加わったとあれば、流石に相手が悪い。
それにどうやら碌な情報は、もうそこに残ってはおらん。
わざわざ必死になることもない』
装置からは、更にエクレアを諭す言葉が続く。
視線の先。仲間を守ることを優先してか、
リーンは自分から前に進もうとはしていない。
その間に、エクレアは更に装置へと言葉を返した。
「しかし、私は……」
『名乗ったことか? 気にするでない。
まあ、多少文句は出るかもしれんが……
ワシから言わせれば、よい"匂わせ"だったぞ』
「……」
しかし。通信の先の不気味ともいえる言葉を受けて。
エクレアは、ついに返す言葉を失っていた。
本心から納得したというわけではないのだろう。
「……了解しました」
それでも、エクレアは従う言葉を口にした。
そして、呼び出していた戦槍を手放す。
戦槍は雷へと戻り、そして消えていく中、
再びエクレアはリーンたちへ視線を合わせる。
「何のつもりだ?」
「勝負は預けるわ。またね、ニーコ。
……今度こそ、殺すわ」
「……っ!?」
物騒な言葉を残して。
直後、無数の雷が互いの間に降り注いだ。
警戒を強めるリーン。だがエクレアは仕掛けてくることはなく。
雷が収まった時には、その先からも彼女の姿は消えていた。
「目眩ましだったか……まんまと、逃がしたか」
「……エクレア」
最後に言葉を残されたニーコが、哀しそうに彼女を呼ぶ。
その様子に察して、リーンが言葉をかけた。
「知り合いだったか? すまない、腕と羽を斬ってしまったが」
「大丈夫だよ。妖精だし、ほっときゃ治る。
……でも」
それに答えながら。
ニーコの思いは、去ったエクレアへと向いていた。
(エクレア……あいつ、まだあんな事……
もしかして、ほんとはあいつが正しいのか?
私が、本当に忘れちまってるのか……?)
もしくは、彼女が執着しているその存在へと。
それは、自らを疑うほどの悩みとして彼女に種を残すことになった。
「ニーコさん、大丈夫ですか?」
「ああ、うん。ごめんな、助けてくれてありがと、アカリ」
「なー、大丈夫かどうか一番に聞くべき相手が居るんじゃねえのか、嬢ちゃ……ヒエッ!?」
「……なんで貴様がここに居る、人攫い」
「そ、それは色んな事情がございまして……!!
お、おい誰か説明してやってくれ!」
ともかく、落ち着いた状況。
その最中。それに、最初に気づいたのアーミィだった。
「……あれ? バッジからなにか聞こえる?」
ガストチームとの戦いが始まって以降、通信の出来なくなっていたバッジ。
今、そこから再び音が発されていた。
「何?」
「お? 何だそれ?」
そのアーミィの言葉に、同じようにバッジに耳を傾ける一行。
『……聞こえるか。俺だ、ジストだ!!』
それは。この戦いの勝利を伝えるものであった。
——
「……クハハハ……!!!」
いや、違う。
それは、バストールの言い残した言葉にも片鱗があった。
ベリオンの最上層、屋上。
残された最後のガストチーム、レクスは不敵に笑う。
その傍らには、連れ去った筈のゼニアの姿はない。
「この力さえあれば……!
ジストだろうと、アスタリトの勇者だろうと最早恐れるものはない!!」
レクスの着るアーマースーツは、部下のそれと似た意匠だが確かに違いがあるものだ。
その最も大きな違いは、胸部。
心臓部分となる水晶は、赤色ではなく紫色だった。
「バストールは敗れたようだが……もはやどうでもよい!
全て、私の手で始末してくれるわ!!」
高らかに宣言すると共に、彼はその水晶を大きく誇示するように胸と腕を開く。
怪しげに強く輝く水晶。そして、そこからベリオンの上空全てに伝播するように。
中空の不可視の精霊たちが、赤黒い姿へと一斉に姿を変えた。




