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OverDrivers  作者: jau


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39/41

39話 繋がる星々-5 掠れる空に瞬く光

「了解しました。では、ご武運を。

 ……さて、行くか」


 未だ騒然としたベリオン艦内で、落ち着いた口調の男。

先日の船上でリリアと話した、アムズだった。

通信を終えた彼は隣に立つ男……ヴァイクへと目を向ける。


「ああ。さて、隊長はどこへ居るやら」


 その身には、先日見せていたような滾った緊張感はなかった。

その戦意を表すように。会話を合図に、二人は足早に駆け出していく。


「ドルムとバイソンがやられたらしい。

 俺達ももう、何時狙われるかわかったもんじゃねえな」

「全くだ。もうレクスの野郎に付き合ってやる義理もない。

 さっさと隊長を見つけ出して、お姫様に引き渡して退散と行くか」


 そしてその理由を、口にした言葉が指していた。

彼らの意思は、完全に反逆の方へと向いているようだった。

駆け出した先。一見何もないような壁に、ヴァイクが手を当てる。


「たしか……ここだ」


 その少しの後。ヴァイクの指先によって引き起こされたものだろうか。

小さな音と共に、壁は巧妙に隠されていた切れ目を露にし左右へと開いていく。

隠し扉というわけだった。その先には、暗闇へと続く階段があった。


「おお! からくり屋敷みてえだ、いいなコレ」

「言ってる場合か。こっからが大変なんだ、さっさと隊長を……」


 その機構に謎の感心を見せるアムズにつっこみながら、ヴァイクはその先を見据える。

まず一歩、その階段へと脚を掛けて。


そして。


「おいおい、俺の秘密の隠れ家だぜ。

 勝手に開けてんじゃねえよ」


 暗闇から、響いた声。

その声に心が反応したときには、既に暗闇は赤い光に染まっていた。


「……がうッッ!?」

「ヴァイクっ!?」


 突如上がった相棒の声に、危機を察するアムズ。

その目が捉えたのは、赤い光が……いや。

赤い光を纏った人間が、ヴァイクへ膝蹴りを打ち込んでいた姿だった。

その人影が、倒れたヴァイクを飛び越えて反対側へと着地する。


「おっと、ゲイルチームか。探す手間が省けたぜ」

「……クライス!!」


 胸に刻まれた標章、そして。既知の人物であった彼の名をアムズは叫んで。

ニヤリと不敵に笑いながら、クライスはゆっくりと立ち上がる。

まるでこの邂逅を、喜んでいるかのようだった。


「ようやくの実戦なんだ。瞬殺で終わらせないでくれよ、先輩方?」 


 いや、事実そのようであった。

まるで遊びであるかのように、喜びと好奇心に溢れた瞳がそこにあった。


「ヴァイク、ぼさっとすんな……! 

 クライスだ、ガチでやらねえとマジで死ぬぞ!」

「ぐっ……う……!」


 相方へと声を掛けながら、機械剣を抜いて臨戦体勢へと入るアムズ。

極限まで跳ね上がった緊張は、彼への警戒具合を表しているかのようだった。

その最中にも反対の手で握った拳銃を、直ぐ様クライスへと数発発射する。


「嬉しいね。オレのこと、そんなに買ってくれてたんだ」


 彼はそれに対して身じろぎ一つすることなく、

ひとりでに動いた赤い光が、その光弾を防いでいた。

だが攻勢は終わらない。あるいはそうなると悟っていたか、続けてアムズは突進した。


「そりゃ、その若さであのレクスが贔屓にしてるって聞いてりゃな!

 こうなったのは本当に残念だぜ、クライス!」


 そのまま振り下ろされた機械剣を、クライスは右手に生んだ赤い光の刃で受け止める。

物理的に不利な下側でなお拮抗する刃。それでなお、彼は涼しい顔をアムズへと向けていた。

その最中、更に。回り込んでいたヴァイクが銃を向けていた。


「ずいぶんとその玩具を気に入ってるらしいな、クライス」


 クライスの瞳が動くのとほぼ同時に、その引き金は引かれていた。

阿吽の呼吸か。

言葉もなく飛び退いたアムズ、直後その空間に無数の光弾が叩き込まれる。

赤い光との炸裂が起こり、塞がれた視界の中、しかし。


「ああ。こいつは最高だよ。防衛隊のどの装備よりもタフで、そして強い」


 響いた声は尚も、調子を変えることはなかった。

炸裂光が収まって、しかし代わりに眩い赤い光が目に飛び込む。

それは、障壁どころではない。空気が染められたように、赤い光の空間が現れていた。

そしてそれは、二人の居る範囲まで既に侵食していく。


「ちいっ……! なっ!?」

「ぐあっ!?」


 危機を察して飛び退こうとした二人。だがもう、既に術中に入り込んでしまっていた。

まるで空間に固定されたように、装備が、身体がそこから動かなくなっていた。

赤い光が質量を持って、纏わりついているというように。


「そして何より……俺の考えに追いついてくれる!!

 "Gアーツ・タイプヴァリアブル――"」


 移動も反撃もできなくなった二人に、満足そうに言い放って。

勝ち誇るように、右腕を掲げるクライス。

それは、指揮棒と言えるものでもあった。一呼吸の後、一気にそれを振り下ろす。


「"『テリブルドーン』"ッッ!!」

「ぐああああああああッッ!!!?」

「がああああああああああッッ!!!」


 その瞬間。

彼の腕の動きに従うように、赤い光が一斉に下方向と向かう。

空間と化していた赤い光のその動きは、囚われた彼らを地面へと叩き潰すものだった。

床へと倒れ伏した彼らを一瞥しながら、クライスはまだ雑談のような口調で、続ける。


「皆もひでえよな。

 こんなに凄い装備着て、プリセットしか使わねえんだから。

 ()()()と、せいぜい()だけ。

 あんな使い方じゃ、こいつの5割も引き出せねえよ」 


 この装備には一日の長があるらしいクライス。

そしてこの戦いの結果は、その言葉を証明するかのようなだった。

彼の力は、あるいは戦いの前、アムズが警戒していたように。

他の隊員のそれとも、一線を画すものであると。


「ぐ……くっ、そ……」

「ゲイルチームつってもこんなもんか。あんまし良い実戦にはならなかったな」


 そのまま彼らに近づいたクライスは、今度は左腕を向ける。

言うまでもない。とどめとなる一撃のためだ。左腕が、赤い光を纏っていく。


「それじゃあな、先輩方――」


 その、棒立ちとなった身体へ。

赤い光の迸る赤い左腕へ。


「"怪盗技術(トリックスキル)『六道縛』"!!」

「――"ファイア"」


 突如、正確に左腕に炸裂する光弾が。

そして全身を包む硬質の糸が、その攻撃を中断させた。


「……あ゛!?」


 邪魔された事への、強い怒り。

直後、赤い光がその全身を包む。身を捕らえた糸を焼き切るためのものだった。

この場で初めて見せた感情の変動と共に、クライスはその先へと振り向く。


「赤い光の武器……!! お前がガストチームだな!?」

「ゲイルチームを攻撃するとは……どうなっている?」


 それは二人を救わんとした、この場に鉢合わせたレオとノインの攻撃だった。

ノインが言葉にしたように、状況としては不可思議なものだ。

何故防衛隊同士での戦いが勃発しているのか。

通信もまともに行えない今、何が起きているかもわからない。

だがとにかく。二人は今、ガストチームを敵として定めていた。


「ああ? お遊びのガキと公園の玩具かよ……?」


 一方で。

怒りと共に向けられていたクライスの視線に、失望の色が混じり始める。

それは、彼の戦う理由が故であった。

平時からグローリアの二人の噂は知っていたのだろう。

だがその情報は、彼にとって二人を侮る理由にしかならなかった。


「こりゃ、今度もつまんなそうだな」


 その思いを隠すこと無く、再び殺気を強めていくクライス。


「データ照合。ガスト9、クライス。

 新参の若手だが、極めて高い実力を持つようだ。レオ、気を抜くな」

「ああ……」


 それを迎えながら、しかしレオもノインもまた戦意を強く昂らせていた。

リーンがガストチーム二人を抑えて、更に各地で仲間たちが激闘を繰り広げて。

其の上で、この深くまでたどり着いた自分たち。

何としても、この強敵を超えなければならない。その意義は、分かっていた。


「つまらないか……それはどうかな!? 行くぞ!!」


 その凄まじい気合と共に、レオは飛び出した。

懐の短刀を手に一気に距離を詰めていく後ろで、

ノインは援護となる射撃を繰り返す。


「……」


 その射撃全てを、クライスは赤い光で防いでいく。

攻撃が認識できていれば、到底通るものではないようだ。

二人に向ける表情は、心底つまらなそうなそれのままだった。

その最中、光弾の炸裂に紛れて、レオは一瞬でその背後まで迫る。


「うおおおおおおッッ!!」

 

 素早い身のこなしと共に、レオの短刀による一撃が迫る。

しかしそれに、クライスは光の刃すら構えなかった。


「……くうっ!?」


 彼は赤い光の障壁だけで、それさえも防いでいた。彼自身は微動だにしていない。

つまりはレオのその動作全てが、隙になったという事でもあった。


(まずいっ――)


 彼が危機感を覚えたその時には、既に。


「鬱陶しいっての」

「がふッッッ!!??」

 

 クライスの回し蹴りが、レオの腹部へ叩き込まれていた。

赤い光を伴う強烈な一撃に、その身体は吹き飛ばされてしまう。


「がはあッ……!!」

「レオ!!」


 硬い壁が、それを受け止めて。それも、彼に強いダメージを与えた。

激痛で意識を失いそうになる中、何とか立ち上がろうとする彼に、

ノインは大きな音量で呼びかける。そして今度は彼が飛び出した。


「承認済兵装行使、"レーザーブレード-レベル2-200G"――」 


 左腕から伸びる熱光の刃を携えて。

レオへの攻撃を阻まんと、クライスへと突進するノイン。

そのまま振るった光の刃を、クライスは今度は形成した赤い光の刃で受け止めた。


「……!」


 半ば受け止められることは織り込み済みではあった。

それでもレオを助けるため、カット目的の攻撃なのだから。

だが。受け止めたクライスの様子は、余りにも負担のない軽々としたものだった。

それを見せつけるかのように、脱力したような口調で彼は呟く。


「精霊機甲の武器って、レベル1が警備用。レベル2が暴徒の鎮圧とか、だったか。

 んで、お前が今使えるのがレベル2と。ま、そうだよな。

 公園の警備用に、それ以上を渡すわけない」


 淡々と語られていく最中。

レーザーブレードを受け止める赤い光刃が、更に光を増していく。

それは、あるいは。

 

「……んなおままごとで! オレに勝てるわけねえだろうがッッ!!」


 この退屈さへの、彼の苛つきを示すかのようだった。

一喝と共にクライスは身を回して、大きく赤い光の鞭を振り回す。


「!?」

「ノイン!!」


 それはノインの左腕を大きく弾くだけに足らず、

がら空きになった胴体を、赤い光の鞭が痛烈に打ち抜いた。

砕け散る胸部の装甲。

先のレオを再現するように、そのままノインも壁に叩き付けられた。


「まずいっ、ノインっ……がああッッ!?」


 更なる追撃を許さないためにと、再び立ち上がるレオ。

だが今度は、妨害のための攻撃すら許されなかった。

ノインを打った赤い光の鞭はそのまま翻り、今度はレオの身体を横から叩き付けていた。

吹き飛んでいく彼を一瞥して、クライスはまた呟く。


「あーあ、やっぱつまんねえの。

 鬱陶しいし、さっさと消えてくれよ」


 別方向に吹き飛んだ彼らを面倒くさそうに眺めると。

彼は赤い光の鞭を四散させる。代わりに、その全身を赤い光が包み始めた。

彼自身が赤い光そのものにならんとするかのように、

光は集まり、収束してなお集まっていく。


 左右に分かれた敵。そして輝きの限界へと向かうような光。

その攻撃がどのようなものであるか、察しはついた。


「く、そっ……!!」 


 だが、それから逃れる術はない。それが、直感で分かることだった。


「"Gアーツ・タイプヴァリアブル……『ブラストアーマー』"!!!」


 そして。収束しきった赤い光が、その瞬間、弾けるように爆発した。

一瞬にしてこの空間全てを巻き込む、赤い光。

レオも、ノインも。到底、逃れることはできなかった。


――

 連合勢力たるグローリアにとって、

その戦力というのは、基本的にグローリアを構成する勢力がそれぞれに持つものが主体だ。

フォリナス教団。デゼト商会。精霊法国エシュロン。いずれも、独自の軍や戦力を率いている。

その中でグローリア防衛隊は、数少ないグローリア自体を母体とする戦力だ。

それは純粋な防衛力としての存在でもあり。

外だけでなく、内部へ向けての牽制もその役割の1つだった。

この勢力を繋ぎ止め、あるいは勢力として枠の中に抑え込むものとして。


 それが、グローリアの防衛隊だ。

その意味を。今、彼女たちは強く理解する事となる。


「死ね」

「っ、"39番-2式"っ!」


 甲板に残った、ネルの戦い。その旗色は良いとは、とても言えなかった。

今もそうだ。迫る赤い光を、ネルは眼の前の空間を歪ませて躱す。

矢継ぎ早に襲い来る必殺の攻撃に対して精霊術を唱え、何とか躱し切る。

それが一方的に続いていた。


(これッッ……思ったより、まずいかもッ……!)


 ネルはジストとの協力者でもあった。

グローリアの防衛隊を侮っていたわけではなかった。

だが命のやり取りを行う相手として相見えて、ネルはより一層彼らの強さを感じ取る。

間違いなく。これまで戦ってきたどの相手よりも、ずっと格上の相手だと。


「どうした? 受けるだけか」

「っ!?」


 そして主導権を渡すことなく、歪んだ空間に隠れてレナはネルへと迫る。

ネルが反応したときには、既に白兵戦の間合いに入っていた。

赤い光の鞭を収束させた刃が、振りかぶった腕から伸びる。


「っよ、"49番-11式"っっ!!」


 それが叩き込まれる、ほんの一瞬前。

ネルは精霊術で増大させた跳躍力で、一気に前方に飛んで身を躱した。

距離を離すことも目的であった回避。だが。


「……えっ!?」


 着地した先で振り返って。

そこには、既に赤い光の鞭が迫っていた。

もう、術を唱えることすら許されない距離で。


「っ、ぐううううっ!!!?」


 出来たのは、槍を盾にすることだけだった。

だが当然ながら、術もなく受けきれる重さの一撃ではない。

直撃した光の鞭の力のまま、ネルの体は大きく吹き飛ばされる。


「さ、"39番-反式"っ! あぐうっ!?」


 そのまま、背中側の壁に叩きつけれられたネル。

最中に唱えた精霊術は、その緩和のとなるものか。

骨を砕かんほどの勢いに対して、衝撃はかなり小さく抑えられていた。

だがダメージを無くせたわけではないようで、壁から剥がれたネルは片膝を付いてしまう。

苦悶に満ちた表情は、その具合を表しているようだった。


「見え透いた動きだったな。

 逃げるばかりの相手は狩るのは、容易いことだ」

「うぐっ……」


 再び手元に光を収束させながら、その様子を詰るレナ。

大きく跳躍した先を不意打ちして狙うのは、彼女の目論見通りだったようだ。

そしてとどめを刺さんと示すように、ゆっくりと歩み寄り始める。


「観念しろ。多少は出来るようだが、我々に勝てるはずがない」

「……くっ!! "32番"っっ!!」


 そんな彼女を前にして、しかしまだ、ネルは諦めなかった。

苦痛を覚悟の呼吸で抑え込んで、ネルは今度は逆に一気に飛び込む。

唱えた符牒によって、碧色の光を纏った槍。

鋭く振られていくそれを、レナは赤い光の刃で受け止めていく。


「無駄な頑張りだ。まさかまだ、勝てると想っているのか?」

「あの子が諦めていないもの!

 私だって……折れちゃ居られないわ!」


 魂を突き動かす、信念。

それを表すように、ネルは自らの動きを主体として畳み掛けていく。

迷いも不安も、今は全て心の奥に押し込んでいた。

しかしその全てを、レナは表情を変えることなく受けきって。

それは、残酷なまでの力の差と呼べるものでもあった。


「諦めろ。お前に出来るのは、死ぬことだけだ」


 その連撃の、一瞬の隙を突いて。


「げう゛ッッ!!?」


 ネルの腹部に、彼女の膝が突き刺さっていた。

鋭い一撃は、逆流する胃液とともに激痛を奥底から走らせる。

力を失っていく全身、しかしネルはなんとか後退とよろめきだけで抑え込んで。

だがそのダメージは、深刻という他無かった。

槍を杖に、何とか立てているだけの状態だった。


「っはぁ、はあッッ……!」

「終わらせてやる。消えろ」


 その状態の彼女にも、最早容赦はなかった。

レナの左腕に再び赤い光が纏い、収束していく。

言うまでもない。あの赤い光の奔流の予兆だ。

だがもはや、顔を上げることすら負担になっている身体だ。

ネルに、対抗する術は残っては居なかった。だが。


「調子乗んじゃねーぞッ、レナッ!!」

「っ!?」


 その左腕を、突如背後から掴み上げる人影。

ドルムだ。立ち上がった彼が、その攻撃を阻んでいた。


「ゲイルチームっ……邪魔だ、死にぞこないがッ!」

「ご立派なお前らと違って、何でもやるのがゲイルチーム(おれたち)だ!

 隊長がそうだったようにな!!」


 彼はそのまま羽交い締めにするように、レナの拘束を試みる。

一方でレナも、当然ながらただやられる筈もない。

赤い光により補強された膂力、力強い足取りで彼を引き剥がしに掛かる。


「ならお前たちも、同じように地獄に落ちればいい!」

「ぐあっ!?」


 なんとか食らいついていたドルムだが、

傷ついた身体で、それに抗いきることは出来なかった。

再び吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。だが、まだ終わらなかった。


「"暗殺技術(アサシンスキル)六道縛りくどうばく』"ッ!」

「ぐうっ!?」


 更に畳み掛けるように。

なおもレナの動きを制せんと、カゲツが無数の糸をで彼女を縛り上げていた。


「カゲツさんっ!?」

「ネル殿、諦めてはなりません!

 我々を信じる者、そして我々が信じる者のために!

 彼らの道を切り開くのです!!」

「……っ!!」


 彼からの激励を受けて、ネルも再び立ち上がる。

震える四肢に無理やり力を込めて、駆け出した。

その最中にも視線の先で、レナを捕らえた糸が赤い光に灼かれていく。


「ぬうっ……!?」

「邪魔をするなっ!!」

「ぐおおっ!?」


(っ……!)


 解放された直後、即座に放たれた光の鞭に打たれ、

カゲツもまた吹き飛ばされていく。

だが、ネルはそれに構う余裕がないことも分かっていた。

二人の妨害によって作られたこの僅かな隙が、最後のチャンスであることを。


「"98番"ッ!!」

「がっ!?」


 またも不意打ちの形で、第三の拘束となる精霊術による高重力がレナを襲う。

拘束に成功しているのは、先の二人に重ねたものだからだ。

それもいつまで持つかも分からない。最早躊躇する余裕はなかった。

痛みを塗りつぶすように全身に力を込めて、ネルは彼女の頭上へと飛び上がる。


「"収束、8974677"ッ――!」

「ぐ、ううっ……貴様っ……!!」


 更に、更にその重力を強めていって。

しかしレナは尚もまだ、地に倒れ伏してはいなかった。

直感した。やるしかない。次の一撃で確実に勝利するしかないと。

睨む彼女と、瞳を重ねて。心の中、誰よりも大事なあの子に願った。


(リリア、私に力を貸して!!!)


 重力の収束が高まりきった、その瞬間。

思いを象徴する、その銘を叫んだ。


「"グロウドライブ"ッッ!!!」


 そして自らもその範囲に含めて。

何倍もの重力を伴った急降下で、レナへ槍を突き立てた。


「ぐうううッッ――ッ!?」


 巨大な海上要塞でなお揺らいだかのような凄まじい衝撃が、辺り一面に広がる。

それは自らにも襲いかかったものだ。


 衝撃に閉じた目。それをネルは、ゆっくりと開く。

この一撃が、戦いの終わりを導いたことを信じて。


「……っ――!」


 だが。


「……小癪な真似を……」


 その瞳に。

敵意に満ちた、睨むレナの瞳が重なった。


「がはッッ!?」


 突き立てた槍は、赤い光を纏った両手に受け止められていた。

それを振り払うとほぼ同時、一瞬の内に。

起き上がったレナの右手が、逆にネルの首を掴み上げていた。



――

 一方、船内にて。

何度かの、まさに隠し扉然とした通路を通るマルクト。

そして、ニーコたち一行。

この怪しい道は、とりあえず下方向へ向かっていることだけは理解できた。


「黒幕って言ってもよ、この船に乗ってる奴って話じゃねえのか?」

「ん? ああ、レクスのことか」


 その最中、先のマルクトの発言について問いかけるニーコ。


「まあ、今回の企て自体はそうだろうよ。

 だがそれだけじゃない。俺は、更に裏があると思ってる」

「裏?」

「アスタリトまで巻き込むような大事だ。

 いくらレクスが野心抱えてたつったって、

 あいつの独力だけでここまで持ってこれたはずねえ」

「でもそもそもこれって、アスタリトの人たちも関わってるんじゃないの?」


 彼の、その疑問の始まり。それにアーミィが疑問を重ねていく。

彼女が指すのは、かつてリーンが語っていたアスタリトの転覆を狙う者たちのことだ。

それが答えではないか、という意図の言葉だった。

マルクトは、それにまず頷く。


「そこさ。アスタリトのクーデター派、だっけか。

 そことレクスは直接繋がってるわけじゃなく、

 グローリア側ももっと大物が絡んでる、ってのが俺の推理ってわけさ。

 そうじゃなきゃ、ジスト隊長を飛び越えて動くなんて出来ねえはずだ」


 それは、彼の立場だからこその推理と言えた。

そしてそれは、直接彼のこの行動の説明にもなる。

探すべき仇敵。それを究明するための行動だと。


「っと、ここだな」


 やがて一行は、広い一室へと辿り着く。

薄暗い光が照らす中、中央に柱状の大きな端末が鎮座しているのが見えた。

そこへ、マルクトは歩みを進めていく。


「ここは?」

「名前を付けられるような場所じゃないが、

 言うなれば隠し司令室、ってトコだな。ま、それはどうでもいい」


 そのまま彼は躊躇いなく、端末を操作する。

薄暗い部屋を、点灯した大きなモニターが照らした。

そして尚も、マルクトの動きは衰えない。


「これまでも色々漁ってたが、尻尾は掴めなかった。

 だがこのベリオンの機密区画から……連絡を取ってた可能性はあるはずだ」


 彼の素早い操作に応じて、モニターに滝のように文字が流れていく。

マルクト自身は認識できているのだろう。

だが同じように眺めるニーコもアカリも、全くその意味は掴めなかった。

その最中、彼の指が不意に止まる。


「どうしたの?」

「……これか?」


 アーミィからの呼びかけにも、まっすぐには答えないマルクト。

それだけ、集中しているということだろうか。

1つ区切りのようにキーを押し込んで、画面にその情報が現れる。


「何だこれ? 全然読めねーじゃねーか!」


 画面に映る文字は、しかし完全に文字化けしていた。

何故であるかは、この場所と情報を思えば言うまでもない。


「ま、これぐらいやってくるよな」


 しかしマルクトは、それに戸惑う様子も見せなかった。

彼は懐から、小さな装置を取り出すと端末へと繋げる。


「それは?」

「このために用意しておいてた奴さ。復号化のキーが入ってる。

 こいつを手に入れられたから、俺も動いたってことさ」


 アカリの質問に答えながら、再び嵐のように手先を動かすマルクト。

また洪水のように画面が動いたと思えば、再び止まる。

合図のように、彼は振り返って笑った。


「世紀の発見だ、見逃すなよ?」


 つまりは、確認の準備が整ったということだろう。

場の空気がより一層引き締まる。その中で、余計に緊張するアーミィの姿があった。


「な、なんか私、こないだからそういうのにばっか立ち会ってるようなー!?」

「お嬢様、落ち着いてくださいませ。名誉なことですわ」

「そうですよ。ここで手に入れた情報を、リリア達に持ち帰らないと!」

「そ、そうよね……!」


 そして、画面上に新たな枠が開く。

それは何かの文字起こし、あるいは議事のメモのようなものであった。

箇条書きに、隠された情報が明かされていく。


——

『マゴイ』バルタザール:賢者(マギステル)より連絡

・『精霊外装』試験記録 提出求む

・『G-0』システム及び『G-HX イカロス』実戦使用許可受諾

 『G-HX イカロス』のスペック発揮には『聖体』必須

 デモンストレーション実施前には同化完了することがが望ましい

・『聖体』の行方はグローリア側でも足取り掴めず ベリオン側でも捜索求む

——


「……精霊外装……! 確かレオナが着せられてたやつ!?」

「ええ。私やエレナさんが着用した、デルタアーツが用意していた装備です。

 これを見る限り……試験目的で、彼らに貸し出されていたのでしょうか?」


 文書の中には直接、その正体に迫るものはなく。

だが、見知った単語は確かにあった。

文章の行間を読む形で、アーミィたちはこれまでの戦いへの繋がりを探していく。

その最中。マルクトの目はその見知らぬ単語へと向く。


「しかし……この、『マゴイ』ってのは——」


 その時。


「っ!?」


 暗い室内に大きなモニターの光という、光源を感じにくい状況。

それでも分かった、視界を明確に変えた青い光が奔っていた。

まるで、直ぐそこに雷が落ちたかのように。


「こうして嗅ぎ回る鼠が現れる、か。『()()()()()()』の言った通りね」


(……やべぇッッ!!)

 

 そして、それは()()()()()()という事。

それが分かった瞬間、マルクトは一気に振り返って飛び出していた。


「——"雷霆"ッッ!!!」


 再び、この暗い部屋に稲妻が奔る。今度は明確に一行を狙ったものだった。

この一瞬の動作で、それに最も近い者はマルクトになっていた。

だがそれも意図していたかのように、笑って。

 

「……がああああああああああッッ!!」


 刹那。光の速さで奔った幾つもの稲妻が、彼の体を撃ち抜いていた。


「マルクトさんッ、きゃああ!?」


 貫いた雷は、そのまま中央の端末にも突き刺さった。

それは致命的なダメージを機器に与えたようで、引き起こされた爆風がアカリ達も襲う。

爆煙と埃から顔を守って。

開けていく視界に、()()の姿が映る。

それは、想像した現在の敵……グローリアの防衛隊の姿とは、大きく異なるものであった。


「まあ、いいわ。ここで死んでもらうだけ」


 それはリリアと同程度の背丈、いくつか跳ねた、長い金髪を持つ少女だった。

蒼い稲妻と化した精霊を纏う彼女。

人間ではないことは、すぐに分かった。

背中に伸びる、稲妻を模したような輝く羽がそれを教えていた。

夜の妖魔(ナイトベール)のそれではない。

ここに立つ()()と、よく似た形式のものだった。

そして、今。彼女……ニーコの表情は、驚愕に満たされていた。


「エクレア……? お前、なんでここに……?」 

「こんな所に居たの、ニーコ。

 あの公園で、今も呑気に遊んでるものと思ってたけど」


 その口から呼ばれる、互いの名。

それは彼女たちが、互いに知り合った仲であることを物語る。

だがその雰囲気は、大凡温かなものとは言い難いものであった。

驚くばかりのニーコに対して、

エクレアと呼ばれた妖精の少女は、怒りと侮蔑の視線を返していた。


「あの子の事も忘れたままで。気楽そうでなによりね」

「あん? お前、まだ言ってんのか……!?」


 その視線に込めた憎しみは、続くその会話で更に深まった。

その所以は、二人だけにしか分からないものだった。

だがそれを詮索する余裕もなかった。

高まる敵意を表すように、再び稲妻が迸る。


「……ああ。やっぱり、話すだけ無駄だった」

「エクレアっ、おいっ……!!」


 敵意をむき出しにするエクレアに対して、ニーコはそうではないようだった。

だが否応なく、ニーコも周囲に風を呼び起こし始める。

戦いの始まりを告げるように、それらはだんだんと強まっていった。


「でもまあ、昔馴染みだものね。冥土の土産に教えてあげる」


 暗いこの部屋を全て照らすように、激しく強く瞬く雷。

小さな彼女が隠れてしまうほどに、エクレアの周囲へと迸っていく。


「『マゴイ』を構成する三部門が一つ、『バルタザール』。

 その戦闘部隊・執行者(カルニフェクス)。それが、今の私の立場」


 隠すべきだったその名を口にしたのは、言うまでもない。

この場にいる者、全て殺す。その殺意の、表明だった。

エクレアの手元。稲妻がより一層、強く輝いて。


「"ユプトレガリア——『ケラウノス』"ッッ!!」


 弾けた雷光の、その中で。

稲妻を思わせる煌びやかな意匠の、巨大な槍が握られていた。

直後。稲妻とともにエクレアは急接近する。


「ニーコさんっ!」

「悪い、古いダチなんだ……私にやらせてくれ!!

 マルクトを頼むっ! "スカイエッジ"ッ!!」


 並んでいたアカリ、そして背後のアーミィ達に倒れたマルクトの介抱を任せて。

ニーコは形成した風の刃を握り、同じように飛び出す。

あるいはその胸の内に秘められた所以の、自分がという意思が故だった。

雷撃と暴風、一瞬の間にそれらが重なる。


「エクレア! そろそろ()()()()()っ!」


 先手を取ったのはニーコだった。

纏った暴風ごと、風の刃をエクレアへ向けて叩きつける。

彼女はそれを、雷を纏った槍を構えて迎えた。


「……っ!?」


 ニーコの暴風の一撃は、その構えた槍に安々と防がれる。

その感覚に、ニーコの表情がまた驚きに揺らいだ。


(何だっ、これ……!?)

 

 それは、違和感だった。

かつての友、同族だからこそ分かった。

精霊ではない、何かの感覚。

だが。その正体を悟る間など与えられるはずもなかった。


「お前、何があったんだっ!?」


 ただ言葉だけでそれを尋ねつつ、ニーコは尚も連撃を繰り出していく。

違和感は、危機感でもあった。押し切らねば、どうなるのか。

その嫌な予感を恐れ、そして押し流さんとするための攻勢だった。

だがその全てを、エクレアは巨大な槍を自在に振るって防いでいく。


「……目を覚ませ、だって?」


 そして。

戦槍に、稲妻が迸る。


「そうやってまた……!

 あの子を()()()()()()にして!!」

「あぐうっ!?」


 鍔迫り合いから、一気に振り抜かれる槍。

その体格からは考えられない恐るべき重さの一撃に、ニーコの体が宙に吹き飛ぶ。

尚も攻勢は終わらない。

エクレアは直ぐ様巨大な槍を向け直し、ニーコへと一気に突き出した。


「くうう、ぐうっ!!?」

「15年よ!! それだけ経っても、まだ分からないの!?」


 ニーコは両手に作り出した風の刃で受け止めるが、

エクレアもまた宙に飛び出して、槍を強く突き立てていく。

迸る雷に乗るかのように、それは凄まじい勢いでニーコを襲っていた。

部屋を跳ね回る雷に沿って、ニーコの体が振り回されていく。


「あ、ぐううううっっ……!!」


 ニーコも抵抗していたが、従える風の精霊達はやがて、それに追いつけずに突き放されていく。

やがてその主導権は、完全にエクレアに握られてしまっていた。

そして重力をも力に付ける態勢……ニーコの上を、エクレアが取って。


「あなたが……お前が!! どれだけ酷いことをやってるのか!!」


 その瞳は、ニーコへの怒りで満ちていた。

雷槍が、ニーコを守っていた風の刃を貫く。その瞬間、彼女は落雷と化した。


「思い知れ!! "ジャッジメント・ラミル"ッッ!!!」


 巨大な雷と共に、床へと急降下するエクレア。

まさに雷が落ちたような衝撃が響く。それは、ニーコを貫く戦槍の一撃だった。


「あ、ぐああああああああああああッッ!!!??」


 腹部を貫かれ、更に巨大な稲妻と衝撃に襲われたニーコの悲鳴が響く。


「ぐ、あ……エクレア……」


 それでも、ニーコはまだ意識を掴んでいた。

妖精は人と似た見た目ではあるが、実体は魔物と同様、精霊が集まり形をなしただけのものだ。

その機能まで模しているわけではない。

腹部を貫かれた事は、即座に致命傷になるわけではない。


「まだよ……!!」


 だがそれは、この場においては。ただの利点とは呼べなかった。

衰えぬ怒りと共に、エクレアは突き立てた槍に力を込める。

それに呼応して。稲妻が再び槍へと、そして槍に貫かれたニーコへと奔った。


「あ、ぎゃああああああっ!!?」

「あの時の私とは違うのよ。あなたなんて、もう怖くもない」

「はぐううううっ、あ、がうううううッッ!??」


 あるいは自らも同じ存在であるが故か。

苛むための雷は、しかしニーコに意識を手放すことを許さない具合にされていた。

声を上げて苦しむニーコを見下して、尚もエクレアの怒りは晴れることはない。


「今もあの子たち相手に親分面してるのかしら、ニーコ。

 残念ね、見せて上げたかったわ。

 ()()()を……大事な仲間を『知らない』なんて言って切り捨てた卑怯者の、

 この情けない姿をね!!!」

「あ、ぐううううううううッッ!!」


 その絶えることのない憎しみを。

雷として注ぐかのように、ニーコを痛めつけていくエクレア。

止めどない怒りと憎しみ。その坩堝の中に、完全に捕らえられてしまっていた。


 だが。それに囚われているのは、あるいはエクレアも同じだった。

暴風と迅雷の奔流。

それは確かに、他の者には手を出せないものだった。

だが、それが無ければ。


「"灯籠一刀流奥義『光芒一閃』"ッッ!!」

「っ!?」


 瞬時に放たれた一閃。

不意の攻撃に、エクレアは槍を引きぬいて防ぐことを強いられた。

そして解放されたニーコの身体に、今度は伸びた鎖が巻き付いていく。

アーミィが、その体を変質させたものだった。


「"レギオン・チェーン"っ! レオナ、お願いっ!」

「はっ!」


 目的は言うまでもなく、ニーコを救うためだった。

一気に身体を引っ張り上げると、彼女の小さな身体をレオナが受け止める。

そしてその前に立ちはだかるように、アカリは前に立った。


「アーミィさん、レオナさん。二人を頼みます」

「う、うんっ! ニーコ、大丈夫!?」

「アカリ……アーミィ……」

「すみません、ニーコさん。

 何か事情がお有りの様子ですし、本当は決闘には手出しはしない主義ですが。

 ですが——あなたの言葉は、許せない!!」


 そして。ニーコに代わって、その戦意をむき出しにするアカリ。

突きつけた刃の先で、エクレアもまた強い怒りを彼女へと向けた。

 

「私はニーコに話があるの。邪魔しないで!」

「それだけ大事な相手なら、それだけの言葉があるはずでしょう!

 酷い言葉ばかりをぶつけて、聞き入れて貰えるなどと!

 思い上がらないでくださいっ!」

「うるさいっ! 何も知らないくせにッ、口を出すなッ!!」


 舌戦に、先に怒りを迸らせたのはエクレアだった。

足元に奔る雷。僅かな呼吸の後、一瞬でアカリの直ぐ側まで迫っていた。


「はっ!」


 光のような速さの奇襲。その槍撃を、アカリは受け止めていた。

刃を滑らせて、そして振り払う。次の戦い、その狼煙だった。


「口だけじゃないようね……でも、順番が変わっただけ。

 結果は同じよ!」

「やってみなさい! 負けるものですか!」


――

「はあああああああああああああっ!!」


 リリアの握る剣に、刃に集まる精霊たち。

切先にも溢れるように現れて、彼女の力へと加わっていく。

その軌跡を残して、リリアは一気に駆け出した。


「ルクスドライブ……」


 先に見せた激情から一転して。

マリアンは落ち着いた視線で、リリアの技を見ていた。


「精霊を浄化し、繋ぎ、一撃ごとに力を増す連撃。

 先の戦いで、精霊外装を破った技。ええ、知っているわ」


 静かに零していく言葉。

鎮火していくかのように、その全身に纏っていた赤い光が、色を失い始める。

突然の様子に、駆けるリリアの中にも困惑が生まれた。


(何……!? でも!!)


 だが。今はそれを振り切って、リリアはなおも駆けることを選ぶ。

迷う余裕など、元からありはしないのだから。

力と意志、それを象徴する光を纏って迫るリリア。

それをマリアンは、もう一度だけ一瞥して。


「——その、弱点も!!」


 繋がれた軌跡、その一段目の横薙ぎ。

マリアンはそれを、素早く身を落とすことだけで躱して。

同時に伸ばした脚が、リリアの足取りのその先を妨げるように伸ばされていた。


「……うわっ!?」


 そのまま払われた足元。

抑えられなくなった勢いは、小さなリリアの身体をそのまま投げ飛ばしてしまう。

体勢を崩したリリアに、再び殺意の火の付いた視線が重なった。


「浄化させない、繋がせない。余計な力を与えず、奪わせない。

 その上で、力で当たらない。それさえできれば、ただの児戯」


 グローリア防衛隊。その力を構成するのは、装備だけではない。

精鋭たる彼らの恐るべき技術。それが今、リリアに牙を剥いていた。

再び赤い光刃が、マリアンの右腕に現れる。


「死ねッ!!」

「——ッ!?」


 倒れたリリアへ、迷いなく振り下ろされる刃。

防ぐものは、もうなにも無い。

だが。


「っ!!?」


 その刃が、途中で止められる。

瞬間。その数寸先が空間ごと切り裂かれていた。


「ちっ、腕を持ってくつもりだったが……!」


 空間を裂く、アイリスの一閃。

マリアンはそれを寸の所で躱したのだった。

仇敵たるリリアへの攻撃を邪魔されて、彼女の激情は一気に燃え上がる。


「邪魔だッ!」


 その激情のまま、光刃を鞭へと変えてアイリスへと叩きつける。

床を割る強力な一撃。それをアイリスは身を捩ってなんとか躱す。


「うっ、ぐあッ!?」

「死ねッ!!」


 だが重すぎる一撃の衝撃が、彼女の体勢を突き崩してしまった。

再び振りかぶられる光の鞭。その隙を逃さない、間髪入れない再攻撃だ。

しかし。振りかぶったその先で、光の鞭が突如止まる。


「"ステラワイヤー"ッッ!」

「何っ!? ……貴様あああああああああッッ!!!!」


 既に立ち上がっていたリリアの腕輪から伸びる光が、鞭へと巻き付いて止めていた。

その拘束から逃れるように再び光刃へと戻る鞭。

また狂気的に燃え上がった殺意ごと、リリアへと向ける。

同時にリリアも光の鎖を消して、間髪入れずに打ち込まれたそれを剣で受ける。


「どれだけ!! 私たちのっ!! 邪魔をする気だッ、糞餓鬼が!!」

「うるさいっ! 絶対ッ、負けないッッ、くううっ!!」


 その怒りを顕にするマリアンに、一歩も引くこと無く打ち合うリリア。

だが精霊達の助力は受けているとはいえ、技は止められてしまっている。

その打ち合いは、変わらずマリアンの方に分があった。

なんとか最終段の剛撃を受けるリリアだが、その衝撃に大きく後ずさる。

その体を、アイリスが受け止めた。


「ごめん、ありがと……」

「ちっ……ヒスり散らかしたと思えば突然冷静になったり。厄介な奴だ」


 体勢を整えつつ、再びマリアンへと構える二人。

その最中、アイリスは耳打ちする。


「あいつはお前の手の内を知っている。

 多分、前のリーブルの戦いを分析したんだろう。

 だが……今回から着けたらしいその腕輪の技では、不意が打てた」

「!」

「その腕輪、他の技はないか? 何か、必殺になり得るものが」


 それは、勝利を掴むための会話だった。

既に歩み寄り始めているマリアン。もはや会話の猶予も残されていない。

だが。それに迷う必要はなかった。

腕輪の液晶部に映っていた数字。今、それは0を刻んでいた。


「……ある」


 赤く輝く、災厄の光。

それに呑まれそうになっていても。


「分かった。私が隙を作ってやる。お前はそれをぶち込むことだけ考えろ」


 まだ、終わらない。

繋がる星々、その明星が瞬いた。


——

「ちくしょう……」


 赤い光に侵されて、その機能を失った管制機を前に。

ジェネはただ、自分の無力感に襲われていた。

ぎゅっと拳を握りしめて。しかし怒りですら塗りつぶせない痛みが、そこに走る。


「俺は……何もできねえのか……!?」


 それが、尚更怒りと情けなさを生んだ。

通信も取れず管制機も使えない今、ベリオン内の状況は分からない。

だが何か、強大な困難に仲間たちが直面している。

それだけは分かるからこそ、何もできない自分が腹立たしかった。


「ジェネ……」


 その彼の様子を、隣でじっと見つめて。

ゼニアは、少し目を閉じる。そして、意志を宿して開いて。


「ジェネ、行こう」

「……え?」


 ゼニアが、そのどうにもならない背中を押した。

突然の提案に、しかしジェネも狼狽える。

当然だ。行けるのであれば、迷いなどないのだから。


「でも、俺が行っても……!」

「大丈夫」


 迷うジェネの胸へ、ゼニアが手を当てる。そして目を閉じた。

呼応するように、互いの身体の表面から精霊たちが現れる。

その身体を入れ替わるように、精霊たちが動く。そして。

 

「……!? 何だ、身体が……!?」


 その効果は、すぐに分かった。

ジェネを苛んでいた身体の痛み、それが無でないにせよ、大きく抑えられていた。

理屈は、精霊に詳しいジェネにも分からなかった。

ゼニアのおかげであるのは確かだった。


「ゼニア、今のは……!?」


 だが。

移された痛み。それは、どこへ行ったのか。

それもまた、すぐに分かることになった。


「っ……!」


 一気に顔色を悪くした、ゼニアの姿によって。


「お、おい!? 大丈夫か!?」

「一人でこれに耐えてたんだね、ジェネ……大丈夫。

 半々、だよ」


 この理屈を理解して。

身を案じるジェネに、ゼニアは笑みを返す。

気丈に振る舞う、というよりは。

それこそが、彼の気持ちそのものだった。


「僕が、連れて行く。キミの痛みも、引き受ける。

 だから行こう。皆を助けに」


 もう一度、共に進む背中を押すゼニア。

色んな迷いも、懸念もある。だが。


「……ああ!」


 同じ痛みを抱いたうえで、真っ直ぐに向けたその瞳が。

ジェネに、その全てを取り払う覚悟を決めさせた。

そして、話はその先へと進んでいく。


「ニーコはもう行っちまったよな。じゃあ俺の真詠唱(ソーサリー)で——」

「いや。ジェネは力を温存して」

「え? 他に何かあるのか?」


 次の問題たる、ベリオンへの移動方法。

真っ先に思いついたそれを、しかしゼニアは今度も彼を制した。

当然のように浮かび上がる疑問に、首を縦に振って応える。


「うん」


 ジェネには、伝わっただろうか。

その瞳が、僅かに揺れた事。だがそれも、隠されるように閉じられて。


「……なっ!?」


 何もないように思われたゼニアの背中。

それが内側と置き換わり、展開するような形で広がっていく。

機械的に広がっていくそれらは、やがて。鴉のような漆黒の翼を成していた。


「……!」


 強く、衝撃を受けるジェネ。

それは無論、眼の前の衝撃的な光景にも向いている。

彼にとって翼というものがが、大きな存在であることもあるだろう。

だが、それ以上に。


(この翼、どこかで——)


 その、鴉のような黒い翼には、見覚えがあったこと。

そしてその見覚えとは。

この戦いの始まりでもあった、リリアの村で見た『鉄の悪魔』のそれであったから。


「……」


 ゼニアは、声をかけることはしなかった。

言い繕うことをしていないのか、そもそも無関係であるのか。

それすらもわからない。ただ静かに、ジェネの反応を待っていた。


 仇敵と断ずるか、仲間であると信じるか。

その一瞬の間に、無数の葛藤が生まれて、そして。


 ジェネは、笑った。


「よしっ! 行こうぜ、ゼニアッ!!!」

「……うんっ!!」


 疑う理屈も、信じる理屈も無数に浮かんだ。

だからこそ痛みを共にする彼を、そして同じ思いで居る彼を信じると決めていた。


——

 少し経って。新たな黒い影が、ベリオンへと飛び立つ。


「やれやれ。行ってしまうか」


 海のど真ん中で、それを見上げるものが一人。

どこから出したのだろうか、浮き輪に乗って。

これまたどこから出したのか分からない炭酸飲料を片手に、カタストは呟く。


「せっかくワシが()()だけは避ける道を用意してやったと言うのに。

 まるで飛んで火に入る夏の虫よ。

 だが、仕方あるまい。それが、魂が叫ぶが故であるならば!」


 諦めるように言いながら、カタストは浮き輪の傍らのボタンを押す。

それに反応して、謎の機械が浮き輪から展開される。

もはや理屈も分からないが、それはかき氷を作り上げていた。

更に浮き輪から伸びたアームに飲み物を任せて。

それを手に取り、カタストは笑った。


「つまらぬ結末だけは、見せてくれるなよ」

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