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異世界転移者はお尋ね者  作者: ひとつめ帽子
第三章 迷宮を超えて
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仲間の在り方

 仄かな灯りを放つ洞窟。

目の前の長い横穴を奥まで目を凝らしても、奥は暗闇に包まれている。

どうやら、俺達のいる場所だけが明るくなっているようだ。


 変化を解いた事で俺の生体感知が問題なく発揮される。

感知出来るだけでその数は何百といそうだ。

そして、ほんの300mほど進んだ先にも生物を感知している。


「事前に話した通りだ。

上層、中層をゆっくり探索するつもりはない。

幻獣召喚“フェンリル”!」


 俺が詠唱するとそこに嵐のような魔力が吹き荒れ、銀色の結晶が集まり出す。

そして形を成すと、そこには巨大な白銀の狼が二匹が現れる。

その狼は二本の鋭い角を持ち、前足と後ろ足にはクリスタルのような結晶が白銀の体毛からのぞいている。

神々しい姿ではあるが、グルルルルという唸り声から威圧を感じる。


「フ、“フェンリル”!?これって……最上位の幻獣の一つじゃないですか!?しかも二匹同時!?」


 リーファがフィンリルの威圧にガタガタ震えながら泣き叫ぶ。


「そんなに恐がるなよ。顔付きは恐いけど、主人思いな可愛い奴等だぞ。

銀の首輪をしてるのがガロウ、金色の首輪をしてるのがコハクだ。

コイツら速すぎて飛び回るとどっちがどっちだかわからなくなるからな。

俺とリーファはコハクに乗るから、ガロウはアーシェ達が乗ってくれ」


 そう言って俺はコハクに飛び乗る。

俺がリーファに手を出すと、コハクは姿勢を低くして乗りやすくする。

コハクはとても賢いのだ。

リーファは震える手を伸ばし、それを掴んで乗せる。

アーシェ達もガロウに飛び乗った。


「リーファ、しっかり掴まってろ。

アーシェっ!手綱は付けてある!

しっかり掴んでないと振り落とされるからな!」


 俺がそう言うとアーシェが首輪から伸びる手綱を握り締める。

後ろに乗ってるシェリーもアーシェに抱きつくようにしがみ付く。

俺の後ろのリーファもガッチリと俺をホールドする。


「俺との意識共有がコイツら出来てるから、どこに向かうべきかは随時指示しておく。どこに向かうかは指示しておく。

敵が出ても戦わなくて良いからな。

そもそも、コイツらを止める事も出来ない筈だ」


 そう言うとアーシェとシェリーは頷く。

リーファは口をあんぐり開けている。


「リーファ、口を閉じてろ。

舌噛むぞ」


 俺なら忠告するとリーファはお口にチャックする。


「そんじゃあいくかっ!

頼むぞ、ガロウッ!コハクッ!

邪魔する奴は蹴散らせっ!雑魚には構わうなっ!」


 俺がそう言うと、二匹が地面を蹴る。

たったひと蹴りで大きく駆け出し、二匹の銀狼は急加速していく。

それはまるで大型二輪車が最高速度で駆け抜けるようだった。

しかもこの銀狼、床だけじゃなく壁まで走る。

まさに縦横無尽の疾走、もとい爆走である。

最初に出た広い空間にはゴブリンやスライム、大きなアリやクモのような魔物もいたが、俺達に反応すら出来ずにいた。

運悪く俺達の進路にいた魔物はフィンリルの体当たりで吹き飛ばされる。

この階、というより、上層程度の魔物であれば、立ち止まる必要すら無いのだ。


 しかし、問題は下の階に降りる階段の探索だ。

場所は常にランダムで形成される為

場所の特定は出来ない。

しかし、その階段付近にはその階の中では強い魔物がいるとの事。

俺は生体感知で少しでも強い気配を探るが、いかんせん数が多い上にどいつもコイツも同じような気配しか出ていない。

僅かでも気配の強い魔物の方へと俺達は駆け回り、ものの二十分程度で階段に到着する。

それまで三十は越える広い空間と、それを繋ぐ複数の横穴がある事から、広さで言えば物凄いと言える。

歩いて攻略に臨めば時間がいくらあっても足りないだろう。


「皆、大丈夫か?

振り落とされたりしてないかが一番心配だが」


 コハクを見れば平然としてるアーシェとシェリーが乗っている。

後ろを見ればリーファは目を回していた。

こりゃ途中で気を失う可能性もあるな。

俺はロープを召喚し、リーファの身体と俺の身体を縛っておいた。


「あ、あう?これ何ですか?」


 リーファが頭を揺らしながら聞いてくる。


「このままじゃ意識失って落っこちそうだからな」


 そう答え、ロープを縛り終える。


「こ、こんなに男の人と密着したのは初めてです……」


 少し顔を赤くしている。


「あぁ、俺は小さい子どもとしか思ってないから安心しろ。

流石に小学生くらいの幼女見ても何も思わねぇよ」


「ヒドッ!?これでも立派なレディなんですよ!?

ショウガクセイがどの程度なのか知りませんが、撤回して下さいっ!」


「まだまだ元気だな。

そんじゃとっとと降りよう」


 リーファを無視して俺が降りるように指示する。


「扱い雑過ぎませんか!?無視しないで下さいっ!」


 リーファは元気に吠える。

さつまきまで目を回してたくせに回復が早いものだ。


 階段を降りて、階層が変わっても景色は変わらず同じ広い洞窟。


「口は閉じてろよ、リーファ。

そんじゃもっかい頼むぜ!」


 俺はコハクの頭を撫でると、呼応するように二匹が雄叫びを上げる。

その気迫は凄まじく、空気が振動するようでビリビリとした揺れすら感じた。

その威圧にやられ、後ろのリーファから力が抜ける。

見ればリーファは白目を向いていた。

アーシェ達は哀れむような眼差しを送ってくる。


 あー、逝ったな。

まぁいいか、縛っておいたし。


 気にせず俺達は突き進む。

また雑魚を蹴散らして。




 ものの三時間程で、俺達は上層の終わりであるボス部屋と呼ばれる扉の前に辿り着いた。

巨大な扉は鉄製で、錆びがいたる所にある事から、かなり古い事を伝えてくる。

ガロウが前足で扉を押すと、ゆっくり扉が開いていく。

ギギギ、と軋むような音と甲高く擦れる金属音を放ちながら扉が開かれていく。

そして現れたのは一際広い大部屋だった。


 ボス部屋。

これは層の変わり目に必ず存在する部屋である。

例え俺達のように雑魚を無視して駆け抜けても、ここでは必ず戦わなくてはならない。

ボスを倒してポータルを出現させ、そうしてようやく中層へと渡れるらしい。


 そんな訳で俺達はゆっくりとその大部屋を歩いていく。

まだこの部屋に生体を感知出来ない。

そして中央まできた時、床に巨大な魔法陣が出来上がる。

そして床から次々と魔物が浮き出てくる。

奥には巨大な二足歩行の雄牛が出てきた。

頭からは巨大な角。

両手には長く大きな一本の大斧。

鼻頭には金色の鼻輪が付いている。

赤い瞳がギラリと光り、大斧を俺達に向け吠える。

途端に周りの短剣や槍を持ったゴブリン、小悪魔のインプ、剣を持ったコボルト、鎧を纏った豚顔のオーク等が押し寄せる。




「数はそこそこ多いな。

まだ迷宮入って何も戦ってないし、そろそろ準備運動でもするか」


 俺が腕まくりをして意気込むが、シェリーがガロウから飛び降りて俺達の前に出る。


「アキト様はリーファ様と縛られているではないですか。

それに、群れをまとめて倒すのは私の方が向いています」


 シェリーは不敵に笑ってそう言った。

道中で意識を戻したリーファがその様子を信じられないと言わんばかりに声を出す。


「み、皆で戦わないんですか?

この数ですよ?」


 リーファは俺やアーシェの顔を見るが俺達は困った顔になる。


「心配には及びません。

アキト様やアリシエ様が出る幕ではありませんから」


 背を向けたままキッパリと言い切るシェリー。


「それじゃ、お願いね、シェリー」


 アーシェはガロウに乗ったままそう言った。


「ここはシェリーに任せれば大丈夫だろ。

でもま、アイツは俺が頂くわ」


 そう言ってカラドリウスを構える。

引き金を引いた瞬間飛び出す赤い閃光。

それは大斧を持つ雄牛、ミノタウルスの頭正確に撃ち抜き吹き飛ばした。


「良いとこ取りとか酷いです、アキト様」


 シェリーはボヤきながら片手を前にかざす。

俺は、大して良いところでもないだろ、と小言を返す。


「面倒なので、一度で片付けます。

“ハイドロス・タイダルウェイブ”」


 シェリーは詠唱し、掲げた腕を振り下ろす。

突如、地面から濁流が吹き上がり、それが集まって大きな津波に変わる。

魔物達の目の前には巨大な津波の壁が出来上がる。

飲み込まれた魔物は跡形もなく粉砕していく。

一斉に退がり始めた魔物達だが、事すでに遅し。

一匹も残す事なく、放たれた津波に飲み込まれた。

残ったのは俺達と濡れた地面だけ。

恐らくいくつかはドロップしたであろうアイテムも全て消え去っていた。


「上層だから別にいいけど、下層からは今の禁止だな」


 良い品まで全部消えちまう。

だが、シェリーの魔法は範囲的モノが多いので、複数を同時に殲滅するのは向いている。


「……あたし、着いてきた意味あるんですかね?」


 リーファは茫然自失である。


「まぁ、戦力としてはアテにはならんな」


「アキトっ、ストレートに言い過ぎ!だ、大丈夫、私達がちゃんと守るから。

戦闘の心配はしないでね!」


 俺の言葉にアリシエは慌ててフォローするも、リーファは肩を落とす。


「結局、私は役立たずで何も出来ない“アイドリー”なんですね……」


 リーファはそう言って唇を噛みしめる。


「……何を落ち込んでいるのですか?」


 そんなリーファに鋭い声を放ったのはシェリーだった。

その冷たい声色にリーファは体を強張らせる。


「この状況になる事はわかりきっていたはずです。

私達は更に下へと潜る事も事前に伝えています。

それを承知で着いてきたのでしょう?」


 シェリーはリーファに近付かながら言う。

アリシエはガロウから飛び降りてシェリーの元へと向かう。


「そ、そんな言い方しなくて良いじゃない。

私達が頼み込んだんだし」


「しかし、リーファは断らなかった。

自分で着いてくる事を決断したのです。

違いますか?リーファ」


 問い詰めるように言うシェリー。

リーファは俯いて何も言えずにいる。


「リーファ、ハッキリと言わせてもらいます。

あなたはどんなパーティを望んでいたのですか?

自分を引き立ててもらえて、失敗しても許してくれて、危険からは守ってくれる。

そこそこ強くて、弱すぎないパーティ。

自分が役に立つ事も出来て、存在を否定されないパーティ。

そんな都合のいいパーティを望んでいたのですか?

命のやり取りをするこの場所で?

甘過ぎるにも程があります」


「シェリー、言い過ぎよ!」


 流石のアーシェもその言葉を黙って聞いてる訳にはいかなくなる。


「この娘は私達と違うわ。

それなのに、そんな言い方……」


「ならば、何故私達とパーティを組んだのですか?」


 アーシェを真っ直ぐに見つめてシェリーは言い返す。


「私達の姿を知ってしまったから、断るに断れなくなった、ですか?

それもあるかもしれませんね。

けれど、それもリーファが選択した事です」


 シェリーはそう言ってアーシェを押し黙らせた。


 俺は考える。

シェリーが何故、ここまで怒るのか。

アーシェの言う通り、俺達とリーファの差は埋めようがない。

けれど、必要な人数を埋める為にリーファとパーティを組んだ。

それは俺達の事情だ。

だから戦力不足であるリーファを俺達が守るのは当然だし、戦力として見ないのも致し方ない。


「泣けば助けてくれると?

俯けば問題は解決すると?

それであなたは強くなるのですか?」


 シェリーはリーファの目の前までくる。


「リーファ。

あなたは、それでいいのですか?

そんな生き方で満足なのですか?」


 その言葉を、俺はどこかで聞いた気がした。

そして、思い当たると俺は納得し、シェリーを止める。


「その辺にしとけ。シェリー。

お前の言いたい事はわかった。

ただ、今はここでどうこう言ってる場合じゃない。

俺達は立ち止まってる場合じゃないからな」


 そしてリーファを俺は見る。

その目には涙を溜めている。

俺はリーファの頭にポンと手を置いた。


「リーファ。

お前が俺達の事をどう思ってるかは知らないが、俺達はお前を仲間だと思っている。

たとえ迷宮でだけの限定的な仲間だとしても、な。

だから見捨てるなんて事は絶対にしない。

魔物からは絶対に守ってやる。

お前が戦えない事も、責めるつもりもない。

でもリーファ、お前は逆に俺達の事をどう思ってるんだ?

シェリーがこんなに怒ってるのはお前を仲間と認めているからだ。

その意味を、よく考えてみてくれ」


 俺は極力優しく諭すように言った。

シェリーはそれを聞いて、リーファをしばし見つめると、またガロウの元へと戻る。

アリシエはリーファに、シェリーには後できつく言っておくからね、ゴメンね、と言ってガロウに飛び乗った。


 俺は未だ俯いてるリーファに声をかける。


「あいつも立ち止まっていた。

長い間な。

それを踏み出したんだ。

そして踏み出した道を今、歩き始めている。」


 俺はシェリーの背を見つめながらそう言った。


「リーファにとって仲間ってのは何なんだ?

そして、何が出来るかじゃなく、何をどうしたいんだ?

その答えをまた聞かせてくれよ」


 俺の言葉をリーファは噛みしめるように聞いていた。

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