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異世界転移者はお尋ね者  作者: ひとつめ帽子
第三章 迷宮を超えて
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シェリー・メイ ④

 迷宮挑戦前夜ーー。



「グガアアアァァ……グガアアアァァ……」


 隣を見れば凄まじいイビキをかくリーファ。

こんな小さな身体なのに、このイビキとは、アンバランスにも程がある。

私はムクリ、と起き上がり、ベッドから降りる。

冷水でもかけてやろうか、とも思ったが、ずっとテーブルで眠る生活を続けていたそうで、疲れも溜まっているのだろう。

グッスリ眠っている姿を見るとそのままにしておこう、と私は思った。

ただし、枕をヨダレまみれにしたのは後で叱りつけよう。

 私はソッと部屋を出て、そのまま外に出る。

今は深夜一時。

夜のエルフの里はとても静かだ。

私は広場のベンチに座り、月を眺める。

リーファが眠る前に聞いたリーファの生い立ちを思い返す。




ホビットは優秀な精霊使いが多い。

優秀でなくとも、ホビットは固有の特性により、精霊術を生まれながらに扱える。

しかし、リーファは精霊を扱う事が全く出来なかったという。

精霊に見放され、次には同世代の者達にも馬鹿にされ続けた。

そんな自分を親ですら、何故お前は精霊を使えないのか、と責め立て、見離される。

居場所を無くしたリーファはせめて魔法は使えるようになりたい、と必死で独学を始める。

森の大図書館にある魔導書を読み漁り、知識をつけた。

記憶力には自信はあったので、様々な魔法と術式を覚えていく。

あとは実際に魔法を扱うだけ、という所まできて大きな壁にぶつかる。

初歩の魔法ですらうまく扱えない自分に気付くのだ。


 ホビット固有の特性でもある精霊術も使えず、魔法も満足に使えない。

そんな自分が嫌で仕方なかったが、里で魔法を何度も練習している時、極大魔法を発動させてしまったのだ。

その瞬間に意識を失ったリーファだったが、気付いた時には森の大半が炎に包まれ包まれていたという。

ホビット族の皆はリーファに怯え、そして此処から出て行くように言い渡された。

リーファはホビットの里を出るしかなく、森の外へと飛び出した。




 道中何度も魔物にも襲われ、死にかけた事もあった。

しかし、瀕死になると魔法は発動し、死にかけの自分は辛うじて生き延びた。

マナが回復するまで意識を失い、また気が付いたら歩き出す。

そうしてやってきたのがこのリーシェリアである。


 曲がりなりにも魔法を扱うリーファは冒険者ギルドに登録し、魔法使いの冒険者となる。

魔法使いは重宝される、という話を聞いて、わずかな希望をそこに抱くが、現実はあまりにも残酷だった。

魔法使いという事で期待をもって誘ってきた者達は、リーファがいざ戦闘になってもまるで役に立たない事がわかると罵詈雑言を浴びせてくる。

自分の居場所を作ることは出来ず、ずっと役立たずと言われ続ける日々。

それがリーファ・コリンウッドのこれまでの生活の全てだった。





 その話しを涙を流しながら一頻り語るとリーファは眠りこけてしまった。

話しを聞いたこちらとしては眠れなくなる重さを感じたが、当の本人が爆睡してる事を見ると、なんだったのか?という気持ちにすらなる。

しかし、このある意味図太いところが無ければ今まで生きては来れなかったのだろう。


「居場所がない……ですか……」


 私はボソリと呟く。

私はこの世界に転移してからは地獄の日々を送ってきた。

それは恐怖と苦痛の日々。

同じように生きる希望を失った転移者と共に、地獄の日々を生き続けた。

そんな地獄でも、死ぬ事はやはり怖かった。

けれど助けはどこにも無い。

そう、私は決めつけていた。


 あの日、アキト様が手を差し伸べてくれたあの日から、何もかもが変わった。

アキト様からすれば、お前が手を伸ばしたから掴んだだけだ、と言っていたが、私からすればやはり手を伸ばしてくれたのはアキト様なのだ。

彼に救われた。

この身体も、心も。

そして、自分の居場所を見つける事が出来た。


 リーファにとって、居場所とはどんなものなのか?

弱い自分を受け入れてくれる場所?

魔法使いとして認めてくれる場所?

ただ、その存在を肯定してくれる場所?

それは本人しかわからないだろう。

そして、何よりリーファが決める事なのだ。


「おや?シェリーくんじゃないか。

こんな遅くに一人でどうしたのかな?」


 一人考え事をしていた私に声をかけてきたのはルシア様だった。

私を見て微笑んで近付いてくる。


「ルシア様。あなたこそ、こんな遅くに何を?」


「結界と魔法陣の確認だよ。

常に万全の状態を維持しておかなくてはいけないからね」


 ルシア様がそう言って私の隣に腰掛ける。


「何やら悩み事かい?

もしかして、アリシエくんとサエキくんの事かな?」


 意地悪く笑うルシア様である。


「違いますよ。あの二人の事は私がとやかく言う事でありませんから」


「アリシエくんは恋敵なのでは?」


「アキト様はアリシエ様を選んだのです。

もとより、私が立ち入る隙は無いでしょう。

それくらいはわかっています。

私は傍にいられればそれだけで良いのです」


 私はキッパリと言い切る。


「そうなのかい?しかし、嫉妬心は隠しきれていないようだけれど?」


「公然とイチャつく二人が悪いのです。お灸を据えているのですよ。

それに、本心から怒ってはいません。

半分は悪ふざけですから」


 私は苦笑いしながらそう言った。

ルシア様はそんな私をジッと見つめている。


「ま、君が言うのならそうなんだろうね。

それで?サエキくん達の事でないなら何を考え込んでいたんだい?」


 私はしばし答えに詰まるが、話すことにした。


「リーファ・コリンウッド についてです。

生い立ちを少し聞きまして」


「へぇ、そうなのかい?

彼女もなかなか幸薄い気配を感じるよ。

魔力が不安定なのも気になるしね」


 ルシア様はサラリとそう言った。


「何故、魔力が不安定な事を知っているのですか?」


「ん?あぁ、僕の天眼は他人のステータスを確認出来るんだ。

リーファくんには悪いけれど、覗き見させてもらった。

あまりにも危険な者なら里に入れる事も考えなくてはいけないからね」


 そう言ってルシア様は優しく微笑んだ。


「彼女、リーファ・コリンウッドの魔力はいくつだと思う?」


 唐突にそんな事を聞いてきた。


「わかりません。しかし、高くはないのでは?」


「魔力85000という数値を叩き出した」


「85000!?」


 私は思わず立ち上がる。


「僕も驚いたよ。筋力や俊敏などは10と少ししか無いからね。

もう一度ステータス鑑定すると、今度は魔力13と出た」


「つまり……どういう事ですか?

彼女の身体に何が?」


 私が問いかけると、ルシアが立ち上がる。

そして召喚魔法にて透明な水槽を作り出す。

そこに水を並々と入れ、落ちてる葉っぱを一枚入れて蓋をする。


「これが普通の人のマナの状態からだね。

魔力とは、この水を動かす力さ」


 そう言ってルシア様が水槽の中の水を操作して回転させる。

葉が勢いよく回っていく。


「この回転する速度が早ければ早いほど魔力が高いという証拠。

そして魔力の動きを止めても、並々となっている水では波は出来ない。

しかし、彼女の身体はこうではない」


 そう言って水槽の水を半分取り出す。

バシャバシャと地面に水を流し、水槽に再度蓋をした。

そして回転を始めると、渦が起きる。


「魔力を行使する状態がこの渦。魔力を止めると……」


 水の流れが急に止まった事で、波が出来上がる。

パシャパシャと水槽の中の水が暴れ出す。


「そして魔力を使い出すとまたその波は大きくなる」


 波は大きくなり、蓋まで届く。


「つまり、彼女は魔力の力とマナが釣り合っていない。

というより、マナの本当の貯蔵量に比べ、実際に使えるマナが少なく、隙間があるんだ。

それが限界である、と身体が勝手に判断している。

そこで膨大な魔力を放とうとするから、身体の中で魔力が暴れまわり、結果魔法がうまく使えない、という事だね」


 そう言って水槽を消し、水が地面へとバシャっと落ちた。


「なぜ……そのような身体に?」


 私は濡れてる地面を見つめてそう問いかける。


「私は同じような人と何度か会ったことがある。

その共通点は一つ。

血縁者に、転移者がいるという事だ」


 その答えに私は目を見開き、ルシアを見る。


「では、リーファは転移者の娘なのですか?」


「いや、両親がそうとは限らない。

もしかしたら祖父や祖母、あるいは曽祖父とかかもしれないし、もっと遡るかもしれない。

そして、血縁者に転移者がいるからと言って、必ずしもそのような身体になる訳じゃない。

そこはやはり、リーファが特異体質であったと言わざるを得ないね」


 私はそれを聞き、そうですか……、と小さく溢す。

まさか私のような転移者の影響がこのような形で現れるとは……。


「治るのですか?その体質とやらは」


「治った人と会ったことはある。

治す、というより、覚醒した、というべきだろうけれど」


 私は首を傾げる。


「覚醒、ですか?」


「つまり、卵を孵化させた、という事だね。

すると、マナが本来の形を取り戻し、魔力も安定する。

そして、膨大な魔力が解き放たれる訳さ」


 卵の孵化が条件なのか。

リーファは卵を持っているのだろうか?

その疑問はルシア様に見透かされていた。


「彼女も持っているよ、英雄の卵をね。

だから、いずれはその魔力は安定するかもしれない」


 そう言ってルシア様はまたベンチに腰掛けた。


「他には方法は無いのですか?」


 私が問いかけると、ルシア様は不思議そうな顔をする。


「何故、君はそこまで彼女に拘るんだい?

君達は限定的な仲間のはずだろう。

そこまで肩入れをする必要は無さそうだけれど」


 その疑問は私自身も感じている。

そこまで気にかける必要は無い。

彼女が今のままでも、私達には関係無い。

けれど、彼女の生い立ちを聞いてしまったからだろうか?

その身動き出来ない姿が。

希望を失いかけてるその在り方が。

自分を嫌いになってしまっている事が。

自分と重なってしまうのだ。


「鏡を見てるような気持ちでしょうか、ね。

寝癖のついてる自分を見て、直したくなるようなものです」


 私が苦笑いしながらそう答えると、ルシア様は優しく微笑んだ。


「他の方法が無いわけではない。

限定的な方法だけれど、ね?」







「なにも、あんなにキツく言わなくても良かったでしょ」


 アリシエ様が私を睨みながら言ってくる。


「事実を伝えたまでです。

あとはリーファがどう答えを出すか、です」


「……シェリーは、どんな答えを期待してしてるの?」


 小さく、アリシエ様は私に問いかける。

私は……。


「願わくば、その手を伸ばしてもらいたい、と。

そうであれば、私はその手を掴みます」


 アキト様が、私にそうしてくれたように。

私の答えに、アリシエ様は驚き、次いで微笑んだ。


 我ながら身勝手な考えだ。

それでも、良い。

それも私が選んだ道だ。

重要なのは選択が正しいか、正しくないかではない。

その選んだ道をどう歩くかが、大事なのだ。

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