表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移者はお尋ね者  作者: ひとつめ帽子
第三章 迷宮を超えて
46/55

誓約

「さて!さてさて、それでは話そうか。

私の大好きな、金の話だ。

なぁ、リカルド伯爵。

お前のバカな息子は私と大きな契約を結んだんだ。

それを、今、ここで、履行してもらうぞ」


 スカーレットは随分と豪華な服を見に纏った男、リカルドに言い放つ。

リカルドは小刻みに震えながら口を開く。


「スカーレット様。ご存知でしょう?

もはや我が家に金など」


「無いのか?ならば金以外のもので代用するしかあるまい。

お前が握っている商業全ての利権、それを私が全てもらうという事で手を打っても良い。

当然、そうなればお前の地位も無くなるが」


 その言葉にリカルドは思わず声を上げる。


「我が家に路頭に迷えと仰いますか!?」


「ならば金を出せっ!

無理なら利権と地位は剥奪する。

今すぐ決めろ。

私はあまり気が長い方では無い!」


 もはや二十歳そこそこの女性が出す気迫とは思えない。

その圧にその場にいる全員が押されてしまう。

リカルドの目は泳いでいる。

恐らく、本当に金は無いのだろう。

つまり、その商業における利権を出すしか無いのだが、それは商業からリカルドが手を引く事と同義。

その権限全てをスカーレットに奪われた上で、だ。

それを選択すればもはや商業に関わる事は出来なくなる。

貴族として生きてきた者が地位を失い、かつ既に金は尽きかけている。

ただの民として生きていく事になるが、金のない下民がこの街で生きていく事がどれ程過酷か。この街で生きている者は誰もが知っている。

リカルドは返事が出来ずに下を向く。


「まぁ、金は無いのだろう?

ならば選択の余地は無いな。

沈黙を続けるなら、地位は剥奪し、利権も頂く」


 そう言ってリカルドの肩に手を置くスカーレット。


「今までご苦労だったな。

馬鹿な息子を更生出来なかったお前の責任だ。

受け入れろ」


 そう言って、今度はアーシェとシェリーを見る。


「さて、今度は貴様等の処遇だな。

本来、お前達はこの家の所有物なのだが、馬鹿息子が要らない、と言ったらしいな?」


 スカーレットはクロムウェルを見て問いかける。


「はい、スカーレット様」


 頷くクロムウェル。

そしてスカーレットは銀の扇を閉じて自分の唇に当てて言う。


「で、あるならば売り手の私の元に戻してもらおう。

つまり、お前達の所有権は私にある。

そんなお前達を解放して欲しいと、この少年が訴えかけてきてな?

とある約束をしたのだ」


 そう言って真紅の宝石がはめ込まれたペンダントに手をかざすと、漆黒の首輪が出てくる。

俺はそれを、忘れもしない。


「レグルスとの約束はお前達の解放と、今後貴様等に手出しをしないという条件だ。

代わりに、レグルスがこの首輪をして私の下僕になる事を承諾した」


 それを聞いてアーシェとシェリーが目を見開く。

特にシェリーは俺を非難するような目をしていた。

その首輪はまさしく、服従の首輪であったからだ。


「さて、それではこのエルフの小娘二人は解放しよう。

お前達は好きにすれば良い。

この街を出て行くなり何なり好きにしろ。

代わりに、お前はもらうぞ、レグルス」


 そう言ってスカーレットは首輪を俺に付けた。


「ふむ、似合っておるな。では契約を。

“スカーレット・ヴァンディスを主と認め、レグルス・クロニカを従となる。

この誓約を承諾するか?”」


 俺が口を開きかけた時、大きな声が遮った。


「お待ち下さいっ!

その誓約をする前に、私の提案を聞いて下さい」


 その声を上げたのはアーシェだ。


「私達の目的は攫われたエルフ全員の解放でもあります。

私達だけ解放されても、目的は果たされません」


 スカーレットに近付きながらアーシェは言う。

それをクロムウェルが止めようとするが、スカーレットが手で制する。


「……つまり、レグルスと引き換えに、他のエルフも逃がせと?

欲張りな話だ。

それではレグルス一人では割に合わん」


「でしょうね。

だから、代わりにお金を用意するわ。

アキ……レグルスの解放も含めての額をね。

いくら必要なの?」


 それを聞いて俺は驚く。

俺達はそんなに金は持っていない。

どうやって大金を用意するんだ?

スカーレットもそれを聞いてフッと失笑する。


「話にならんぞ。

エルフ一人でいくらするかわかっているのか?

普段の相場は一人金貨200枚だ。

しかし、今はそこの馬鹿息子のせいでエルフの価値が上がっている。

今では一人金貨500枚はするぞ。

私の知る限り、この街にいるエルフは30人。

つまり、それだけで聖金貨15枚だ。

それにお前達二人と本来下僕になるはずのこのハーフエルフも含まるのだろう?

お前達は聖金貨5枚で売りつけたのだから、同額で追加で聖金貨5枚、合計聖金貨20枚。

更に下僕になる予定のレグルスも解放させろと?

それなら更に聖金貨5枚追加だな」


 スカーレットはアーシェに詰め寄って挑むように言う。

その額に蚊帳の外であるはずのリカルドが口をあんぐりと開けている。

俺一人で聖金貨5枚って、もう相場とか破綻しまくってんだろ。

ボッタクリってレベルじゃねぇぞ。


「合計、聖金貨25枚だ。

それだけあれば街一つ起こす事すら出来る額だ。

それを用意出来るのか?」


 アーシェはスカーレットを睨み返して言い返す。


「出来ます。期限はどのくらい?」


 スカーレットは迷わず返答してきた事が意外だったのか、その目を細めてアーシェを見る。


「……一週間、と言いたいが、額が額だ。

一ヶ月は待ってやる」


 それを聞いてシェリーが唇を噛みしめる。

アーシェを見て、無理です、という顔をする。

しかし、アーシェは口を開く。


「それで構いません。

ただ一つ、確認させて下さい。

スカーレットさん、あなたの噂は聞いています。

なんでも希少な武具のコレクターだとか?」


 それを聞いてスカーレットは眉をひそめる。


「確かに、私は魔装具や宝具を多く所持している。

それには目がないと言っても良い。

それが何だ?」


 それを聞くと、アーシェが頷く。


「私達が迷宮に潜り、そこで手に入る全ての武具、アクセサリー、その他の諸々まで、希少価値のあるものをあなたに独占販売します。

それで、聖金貨25枚に届かせます」


 しばしの沈黙。

しかし、それを聞いてシェリーが納得顔になる。

逆にスカーレットは顔をしかめる。


「お前、自分が何を言ってるのかわかってるのか?

迷宮とはリーシェリアにあるリジェリア迷宮の事だろう?

あそこは未だに中層に入って間もない場所までしか探索は進んでいない。

この街の精鋭でもってしてもそこで止まっているのだ。

仮に中層まで潜れても、魔装具が週に一つ見つかるかどうか。

それでどうやって聖金貨25枚もの価値ある品を一ヶ月で集める?」


 スカーレットは嘲笑いながらそう言うが、今度はシェリーが真面目な顔をして反論する。


「物によりますが、魔装具1つで凡そ金貨50枚から200枚ほどの価値があります。

ましてや宝具となれば一つで聖金貨1枚するものもあるでしょう。

それならば、どうにかなるかもしれません。

きちんと定価で買い取ってもらえれば、ですが」


 逆に挑むようにシェリーは言い放つ。

スカーレットはその話を黙って聞き、ふむ、と一声漏らす。


「……貴様等が本気なのはわかった。

安心しろ、金を値引いたりはしない。

だが、そういう話なら一日で稼ぐ額も定めるぞ。

日に金貨500枚分の価値がある物を揃えろ。

そもそも、そのくらいのペースで手に入れなければ聖金貨25枚など夢のまた夢だ。

ガラクタなど持ってきたら即この約束は破棄する。

それでも良いなら、承諾するが、どうする?」


 アーシェとシェリーは顔を見合わせて頷く。


「それで良いわ。

けれど、こちらも少なからず条件を出させてほしいの。

一つはレグルスを一先ず解放する事。

もう一つは、あなたが言った知り得る限りのエルフ達の保護をお願いしたいわ。

一つ目は迷宮攻略には彼の力は不可欠だし、二つ目は私達が奮闘する一ヶ月でエルフに災難があったとしたら許し難いからよ。

その二つを受け容れるなら、聖金貨25枚に値する物を揃えるわ」


 アーシェは臆せずにそう言う。

スカーレットはそれを聞いて鼻で笑う。


「ッハ!お前等は条件を出せる立場ではないのだぞ?

だが、まぁ、良いさ。

それくらいは飲んでやる。

エルフの保護は少し手間取るかもしれんが、一週間以内には私の屋敷で保護しよう。

レグルスも一旦は返す。

だが、これだけはさせてもらうぞ。

“スレイブ・ジギル”」


 スカーレットは俺の額に人差し指を当てて唱えると、額から燃えるような熱を感じた。


「つっ!何すんだ!?」


 俺は額を抑えるが、すぐにその熱は引いていく。

何だったんだ?今のは……。

だが、アーシェもシェリーが俺の顔、いや、額に目を向けて口を押さえている。

なんだ?何かあるのか?


「念の為の処置だな。

これでレグルスは私の奴隷だ。

もしも逃げようとしたり、契約を反故にふるような真似をしたら、こいつを強制的に私の元に来させて一生奴隷として扱ってやる。

それは他のエルフも同じだ」


 俺は額に手をやるが、特に何も感じない。

だが、アーシェやシェリーの顔付きから、目に見える何かがあるのは確かだ。


「クロムウェル。誓約書を出せ。

念には念を入れる」


 スカーレットがクロムウェルと呼ばれた男の前に手を出すと、クロムウェルが懐から一枚の羊皮紙を取り出す。

スカーレットはそれを受け取り、手でなぞる。


「期限は明日から一ヶ月。

それ以内に聖金貨25枚相当の品物を用意する事。

こちらの条件は日に金貨500枚相当の品を献上する事。

金貨10枚以下の価値のガラクタは取り扱わない事。

それらを満たせなかった場合はレグルスを我が物とし、エルフ達は持ち主に返却させる。

毎日夜の十時に品物の鑑定を私が行う。

偽物が混じっていたり、約束の時間にお前らが現れなかったら、この誓約は無効とし、レグルスもエルフも私が好きに扱わせてもらう。

お前達の条件はレグルスの一時解放。

私が知る限りのエルフを速やかに保護し、私の屋敷で丁重に扱う事。

以上だ。

承諾するならここに手を触れろ」


 一通りスカーレットが口にすると、羊皮紙に文字が浮かび上がる。

それをアーシェに突き出した。

アーシェはそれを受け取り、シェリーと共にじっくりと読む。

しばらく間を開けて、アーシェは頷いた。


「この条件で承諾するわ」


 そう言って羊皮紙に手を当てると、羊皮紙が光り出し、薄い刻印が浮き出てきた。


「これで命の誓約は完了だ。

その内容を破れば命は無い。

違える事のないようにな」


 そう言ってニヤリと笑うスカーレット。


「いやはや、面白い話になった。

どう転んでも私にとってはうまい話よ。

誓約通りに事が運べば魔装具、宝具が数多と手に入り、もしもお前らが守れなければそれはそれでレグルスは手に入る」


 そう言って高笑いをした後、スカーレットはリカルドを見る。


「生憎だが、お前の利権剥奪は変わらんからな。

今日をもってお前は貴族と名乗ることを禁ずる。

明日中に屋敷の荷物をまとめて出て行くが良い。

もはやこの屋敷も私の物になるのだから。

ちょうどエルフの居住する場が必要になるのだし、有難い話だ」


 そう言って次に俺を見た。


「思わぬ展開になったが、これはこれで満足のいく結果と言える。

一先ず、この首輪は外してやる。

だが、また付ける事が出来る日を楽しみにしているさ」


 そう言ってスカーレットは服従の首輪を取り外し、そして真紅のペンダントに仕舞い込んだ。

俺はさっきまで首輪がついていた場所をさすりながらアーシェとシェリーの元に向かう。


「なんだか、とんでもない話だになったが、大丈夫なのか?」


 そう問いかけると、二人は俺を睨んで言い返す。


「あなたが勝手な事を仕出かすからでしょうが!

全く、帰ったら説教なんだから!」


「まったくです。

どんな考えなのか知りませんが、服従の首輪を受け入れるなど論外です。

そのような結論に至った理由をキッチリ聞かせてもらいます。

そしてそれを完膚なきまでに叩きのめしますので、覚悟しておいて下さい」


 えええっ!?

帰りたくねぇ……。


「仲睦まじくしてる所を悪いが、一つ聞かせて欲しいものだな」


 スカーレットは俺達を呆れたように眺めて口を開く。

今のどこが仲睦まじかったんだよ……。


「迷宮には最低四人で入る必要があるが、あと一人、あてはあるのだろうな?」


 それを聞いて、俺たち三人は顔を見合わせて、再度スカーレットを見る。

その反応を見てスカーレットは溜息をつく。


「まさか知らなかったのか?

一人で行って死ぬような愚か者が多すぎたが故に、複数人で挑むよう取り決めてあるのだ。

その最低人数が四人。

四人いればすぐに死ぬ事はそうそう無いからな。

同時に入れる最大人数は八人まで。

多過ぎるのは迷宮が一つのパーティとして認識してくれず、バラける事になるからだ。

それが迷宮の入る条件。

まさか、入る事も出来ずにこの話しが無に帰すなんて、そんな馬鹿らしい結末にはならんだろうな?」


 スカーレットは半ば哀れむような目で見てくる。


「も、もちろん、問題ないわ。

今日中に一人くらい、仲間を見つければ良いんだから」


「そ、そうですね。

一人見つければ、良いんですもの。

どうにかなります。

いえ、どうにかさせます」


「え、ホントに大丈夫かよ?

とりあえず、何とかするけどさ」


 三者三様の言葉で返事をして、俺達は背を向けて玄関へと向かう。


「まぁなんでも良いさ。

ともかく、明日の夜十時に私の屋敷待っている。

お前らが関所に現れたら通すように伝えておくさ。

精々足掻いてみせろ」


 俺たちの背中にスカーレットはそう声を掛けてきた。

俺達は振り返らず、その場を後にする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ