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異世界転移者はお尋ね者  作者: ひとつめ帽子
第三章 迷宮を超えて
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アリシエ・オルレアン ⑦

 エルフの少年達が寄ってたかって一人の少年に石を投げつけている。

口々に悪口を言っているようだ。


「この半耳!一族の面汚しめっ!」


「お前なんてエルフなんかじゃないっ!

村から出てけよっ!」


 私はその子供達にゆっくりと近付いていく。


「弱い者イジメは良くないと思うなぁ。

君達、男の子なんだからそんな寄ってたかって一人をイジメるなんてカッコ悪い事しちゃダメだよ」



 私はそう子供達に言うと子供達は「う…っ」と尻すぼみ、私を見る。

次いでまた少年を睨んで「覚えとけよっ!」と捨て台詞を吐いて走り去っていった。

 私は残された少年に近づく。


「大丈夫?ちょっと怪我してるかな。

ほら、見せて」


 私は蹲っている少年の顔をそっと触れてこちらを向かせる。

短い金髪はサラサラと透き通るようで、優しそうな顔つきをしているがまだ大分幼い。

額を切ってしまっているようなので治癒魔法をかける。


「これで良し。

私の名前はヒメノ・スズ。

君の名前は何ていうの?」


 少年は小さく答える。


「レグルス…。

レグルス・クロニカ…」


 少年は消え入りそうな声で答えた。


「レグルス君ね。

カッコイイ名前じゃない。

君も立ち向かえるようにならなきゃね。

男の子は大切な人を守れるようにならなくちゃ」


 私はそう言って少年の額を指でツンっ、と押す。


「それじゃあね。レグルス君」


 私は手を振って背を向ける。

その姿を少年はずっと見つめていた。










 私は目を覚ます。

あれ?何か夢を見ていたような気がする。

頬に触れると一筋の涙に触れる。

なんで、私は泣いているんだろう?


 身体を起こして夢の内容を思い出そうとするが思い出せない。

うーん、なにか大事な夢だったような。

…わからないや。

すると、食堂からベルの音がした。

朝食の合図だっ。

私は着の身着のままで部屋を飛び出した。





「おはようございます。アリシエ様、髪の毛が妖気を放っていますよ」


 私を見てシェリーが言う。

私は慌てて頭に手をやると、ビョンッと跳ねている髪の毛がいく本もあるのに気づく。


「お、おはよう、シェリー。

や、ヤバイかな?」


「まったく、朝食の前に髪くらい梳かして下さい。

本当に、アキト様はアリシエ様のこういう姿も受け入れてくれている事が不思議でなりません」


 そう言ってクシを差し出すシェリー。

私はありがとう、と言ってセッセっと髪を梳かす。


「うぃーす、おはよーっす。

…ん?アーシェ、なんでそんなに必死に髪の毛梳かしてんだ?」


 アキトは私を見ると訝しそうに言う。


「お、おはようアキト。ちょっと髪の毛が乱れてて」


「髪の毛から妖気が放たれていました。

まるでメデューサのように」


 シェリーがフフ、と笑いながら言う。


「誰がメデューサよっ」


 私はそれに反応して手を止めるとまた髪の毛がビョンと跳ねる。

慌てて私はその髪を抑える。


「まったく、貸してみろ」


 そう言ってアキトがクシを手に持つと、ゆっくりと髪を梳かしていく。


「綺麗な髪してんだからもっと丁寧に扱ったほうが良いんじゃないか?」


 アキトはそう言いながら私の髪を大事そうに扱う。

カァッと顔が熱くなるのを感じた。

次の瞬間、頭上からバケツをひっくり返したように水が降ってきた。

ビショビショである。


「これで髪の毛の妖気は収まりました。

お礼は結構ですよ?」


 シェリーは目を閉じたままそう言って朝食を食べ始める。


「俺までずぶ濡れなんだが…」


 アキトは何故だ、という顔をして水をフルフルと払う。


 もはや朝のこういったやり取りは恒例行事である。

エルフの皆も笑いながら私たちを見ている。

水浸しの床は後で三人できちんと綺麗にした。

シェリーが悪いのに、なんで私達まで…。





 私は朝食を終えると服を着替える。

もはや聖騎士ではないので、鎧を身に纏う事はやめた。

しかし、それはそれで防具が無くなってしまった私に、ルシアが淡い青と白の短いローブを渡してくれたのだ。

そのローブは魔力も秘めており、頑丈な上に魔法への耐性があるとか。

ある程度の装備を身につけておかないと、外回りで何かあった時に困るから、との事。

 着替え終えると外に出て外回りをするエルフ達に合流する。

皆弓を持っているが、私は空手だ。

魔法によって光の剣も出せるし、武器は正直必要無くなっている。

マナが今ほどない時はこんな事は絶対に出来なかったが。





 私たちは三人一組になって五組に分かれ、各々探索をする。

森はとても広いが、全てを見て回る訳ではない。

そんな事をしたらいつまで経っても終わらないだろう。

あくまでも森の外へと続く林道に沿って探索をする。

そして森を抜けてから、森の周りをグルリとまわって探索するのだ。

危険は森の中よりも、どちらかと言うと外にある。

それは運悪く、今日も、であった。




「止まって…」


 先頭の男性のエルフ、レオンが鋭く、しかし小さく声をかける。

そしてゆっくりと指差す方向には森に入ろうとしている荷馬車が見えた。

だが、すぐに入る様子はない。

荷馬車から幾人か男達が降りてきて、その後に手足を縛られている女性のエルフが降りてくる。

私は思わず飛び出しそうになるが、それをレオンが止める。

私は何故っ!?という顔をするがレオンは無言で首を振る。


 縛られている女性のエルフに薄汚い男が三人寄ってきて、森を指差して何かを言っている。

あのエルフに中へ入れ、と言っているのだろうか?


 すると、レオンは弓を構えて矢を引き絞る。

隣の若いエルフの女性、ミリアも同じく弓を構えて矢を引く。

あの男達までかなりの距離があるが、放たれた六本の矢は正確に男達を射抜いた。

そう、レオンとミリアは一度に三本づつ矢を放ったのだ。

そしてレオンが私を見て頷く。

私はすぐに詠唱する。


「“光の矢をここに”」


 手を掲げて浮かび上がるのは二十本の光の矢。

荷馬車からゾロゾロと男達が出てくる。

どこから矢が飛んできたのかまだわかっておらず、キョロキョロと辺りを見回している。


「“放て”」


 私が手を振り下ろすと矢は真っ直ぐ飛んでいき、男達の胸に突き刺さっていった。


「アリシエさんはここにいて下さい。

里に身を隠している以上、顔は見られない方がいいでしょう?」


 レオンはそう言うと、縛られた女性のエルフの元へと向かった。

残りの残党も私とミリアが射撃して倒す。


 こんな事が、私達が里に訪れて三週間しか経っていないのに二回もあった。

この結界の仕組みをわかっていない人攫いのゴロツキはエルフがいれば里の中に入れると勘違いしている馬鹿が絶えないらしい。

こういう連中からエルフを奪還する事も見回りの役目でもある。





「あいつらは、どこから来るんですか?

どこかに本拠地があるんでしょう?」


 私は帰りの道中、レオンに問いかける。


「ここにくる連中のほとんどはリーシェリアからだろう。

あそこには奴隷市場もあるから、エルフは高値で売買されてるらしい」


 レオンは苦々しげにそう言う。

私も拳を握り締める。


「こんな事…許せない…」


 聖騎士でいた頃、私は聖教会の指示で動く事がほとんどだった。

それは強力な魔物の討伐や転移者の確保などが主になる。

このようなゴロツキの相手は衛兵達や警備団の役目だった。

しかし、買収されている衛兵や警備団もいる、という事も聞いたことがある。

エールダイトはそのような事は許さなかったが、他の街では割と普通にある事らしい。

世の中は、思っている以上に腐っている。


「あのゴロツキどもをやっつけにはいかないのですか?」


 私は険しい顔をしてレオンに尋ねる。


「そうしたいのは山々さ。

だが、僕らが攻め入る時にこの森が手薄になってはそれも問題だ。

いくらルシア様が守ってる、とは言ってもね。

それに、そうしようとした幾人かが捕らわれた事もある。

存外、相手も手強いようなんだ」


 口惜しそうにそうレオンは言った。

私はそんなレオンを見て、真っ直ぐ前を見つめる。


「ならば、私達があのゴロツキどもを根絶やしにしましょう」


 私は力強くそう言った。

それをレオンが驚いたように見る。


「君達は迷宮を目指すんだろう?

そんな事で騒ぎを起こしては…」


 そう言われて私はレオンを見つめ返す。


「私達もエルフなら、報復としての体裁も整うでしょう?」







「エルフに変化したい…か。

それはまぁ僕も出来るし、君達もできない事はないだろうね。

でも、せっかく人間になれるようになったのに、また練習する事になるよ?」


 私の話しを聞いたルシアはそう答える。


「あのゴロツキどもを野放しには出来ません。

アキト、シェリー、手伝ってくれる?」



 私は二人を見ると、二人は微笑んで頷く。


「エルフのみんなには世話になってるからな。

少しでも恩返しになるなら良いんじゃないか?」


「同感です。

それに、捕らわれて奴隷のように扱うというのは私個人としても許し難いものがあります。

そいつらは全員捻り潰すべきです」


 シェリーの目が闇に染まっている。

流石魔将…時々シェリーは怖い。


「君達が良いならそれでも良いさ。

とは言え、アリシエくん。

君が一番変化の魔法を苦手としてるけれど、大丈夫かい?」


 私はルシアを真っ直ぐ見つめて答える。


「問題ないわ。やってみせる。

“メタモルポセス”ッ!」


 力強く私は唱える。

身体が光り出し、背が少し伸びる。

束ねた髪は解かれセミロング程の長さになった。

耳を触ると長くなっている事がわかる。

アキトとシェリーを見て、どう?と尋ねる。


「見事です。アリシエ様。

では、私も。

“メタモルポセス”!」


 シェリーも唱えると身体が光り出し、一気に身長が伸びる。

顔付きは大人びて、成人女性のそれになる。

髪の毛は栗色から金髪へと変わり、髪型もストレートロングに変わる。

その髪からは長い耳がのぞいている。

そして胸が随分と大きくなっていた。

私は逆に小さくなっていたが…。

シェリーはそれを見てフフン、と笑う。

あとでボコる。


「うわぁ、これで俺が失敗したらすげぇ恥ずかしいんだけど」


 アキトはそう言って一呼吸おく。


「“メタモルポセス”!」


 アキトは気合いを込めて詠唱する。

身体は輝き出し、身長が少しだけ伸びる。

黒い髪が金髪へと変わり、少しだけ髪も伸びた。

優しい顔付きも目付きだけが少し鋭くなっているが、やはり優しそうな雰囲気はそのままだ。

なかなか男前だ。

もともと、私好みの顔つきではあるが、これはこれで…。

ただ、耳が…私やシェリーより少し短い?


「アキト様。それはハーフエルフでは?」


 そうシェリーが突っ込みを入れる。


「あれぇ?ちゃんとやったつもりなんだがな。失敗したか?」


 アキトは恥ずかしそうに耳を弄っている。

そんなアキトにルシアが詰め寄る。


「サエキくん!その姿をどこで見た!?

どうしてその姿を君は知っている!?」


 今までにない剣幕でルシアはアキトを問い詰める。


「え?どこって…なんとなくっていうか、エルフを想像して唱えただけですけど…」


 アキトがルシアの反応に驚きながら答える。

ルシアはソッとアキトから離れ、顔を伏せる。


「…す、すまない。

僕とした事が、取り乱してしまったね。

あまりにも、僕の親友に似ていたから」


 ルシアはそう言って詫びる。


「それにしても、本当に瓜二つだよ。

僕の親友のハーフエルフ、レグルス・クロニカに」


 ルシアはアキトを見つめて懐かしいモノを見るようにそう言った。

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