追憶の姿
あれから何度エルフになろうと変化の魔法を唱えても、俺はハーフエルフの姿にしかならなかった。
とは言え、この里にはハーフエルフがいない訳でもない、という事で妥協する事になる。
俺としては完璧にやっておきたかったが、なんで上手く出来ないかな。
三人の中じゃ俺が最も変化の魔法のレベルも高くなってるのに。
それから一週間、俺達は朝になると変化の魔法を自分にかけて、一日過ごす事になった。
アーシェの言っていた人攫いのゴロツキはそこその腕が立つらしい。
街中で変化を解除したら途端に結界石が反応するので、もし戦闘になれば変化した状態でやり合わなければならない。
それは身体能力が大幅にダウンし、スキルも少なくなり、更には叡眼も使えないという事だ。
完全に縛りプレイである。
この日の狩りもその縛りのままの俺は困難を極めた。
いつもなら生体感知で獲物の場所を特定し、叡眼によっての遠距離補足、そしてカラドリウスの気絶弾で仕留めていた。
その全ては今封じられている。
そんな俺は弓を構えてようやく見つけた獲物の鹿を狙う。
引き絞った矢を放つが、狙いは大きく外れてしまう。
「うーん…こりゃ練習しないと使い物にならんな」
俺がそうボヤいていると、すぐ隣に美少女エルフが顔を覗いてくる。
「アキトさんは弓が苦手なの?」
優しく微笑みながら問いかけてきた。
そのエルフの名はミーシャ。
短いスカートに純白のハイニーソ。絹の淡い緑のシャツを着て深緑のマントを羽織っている。
「使った事がないからな。
でも今の俺のスキルに弓術ってのがあったから、多分練習すれば使えるようになるはずなんだけどさ」
もう一回矢を引き絞ってみる。
「矢を引く方の肩に力が入りすぎて弓を持つ方が疎かになってるかな。
だから弓が垂直になってないのね。
弓は垂直に、そして矢は水平に引いてみて」
俺に密着して指導するミーシャ。
思わず頬が赤らむが、真面目に練習しないと。
言われた通りにしてみると、矢は真っ直ぐに飛んでいく。
俺は驚いた顔をしてミーシャを見るとミーシャはいい感じ、と微笑む。
日本でこんな出来事があればイチコロで俺は落とされてただろうなぁ。
エルフ達は森の中の移動はとても素早く何より静かだ。
元の身体であれば高い身体能力でついていけたが、今のこの体だと皆に追い付くのがやっとである。
息が上がるのも早い。
「くそ…こんなんじゃ戦闘になったらヤバイな…」
変化した状態で身体能力を上げるのは、その身体を鍛えるしかない。
つまり、レベルアップとやらだ。
レベルを上げるのは何も魔物と戦うだけではない。
日常生活でも何かに集中して作業したり、今のように狩りで森を駆け回るだけでも上がりはする。
よって、自分の身体とは思えないような重いこの身体を必死に動かしていく。
と、言っても地球にいた頃の俺はもっと身体能力は壊滅的だったのだが…。
ようやく狩猟と採集にも一段落といった所で俺達は小川の脇で休憩する。
俺は小川の水をガブ飲みして一息つく。
その隣にミーシャがやってくる。
「こんなに疲れてるアキトさんを見るのは初めて。
今日は色々なアキトさんが見れて楽しいわ」
そう言ってクスクスと笑う。
「笑い事じゃねえって。
この身体を使い物にしなきゃ、街で暴れられないからな」
そう言って俺も笑顔を返す。
「アキトさん達はリーシェリアで人攫いをする連中と戦ってくれるって話しなんですよね。
…本当にゴメンナサイ。私達の種族の問題に巻き込んでしまって」
そう言って深々と頭を下げるミーシャ。
「んな事ないって。
むしろ、俺達の方が随分と世話になってるんだ。
ここらでその恩を返しとかないとな」
そう言って俺は立ち上がる。
「今週この身体を鍛え上げて、ゴロツキどもを蹴散らしてくるからさ。
心配しないで待っとけよ」
俺はそう言ってサムズアップする。
「うん、信じてるよ、アキトさん。
それに、弓の上達もたった一日でグングン伸びてる。
走る速度も朝よりドンドン速くなってるし、この調子なら一週間で凄い成長がみられそう」
そう言って、すごいなぁ、と呟く。
「私も、あいつらをとっちめたい。
でも、私の力じゃ全然及ばないのもわかってる…。
エルフは本来、戦う事には向いてない種族なの。
そんな自分がとても悔しいわ。
だから…」
そう言って一呼吸おき、俺を見つめるミーシャ。
「アキトさん。
私の分も…いいえ、私達の思いの分も、あいつらにぶつけてやって欲しい。
どうか私達を、助けて欲しい」
真っ直ぐ俺をみてそう言うミーシャ。
俺は頷いて答える。
「ああ、任せとけ」
それから一週間が経った。
俺達は夜、ルシアの家に集合する。
「さて、一週間の成果を見てみようか」
優しく微笑んでルシアはそう言って、本当に皆よく頑張ったよ、と褒めた。
「ちょっと、皆んなのステータスを確認させてもらっていいか?
戦う時の得手不得手もあるだろうし、お互い何が出来るのか把握しておいた方が良いだろ?」
俺はエルフになっているアーシェとシェリーにそう言うと、二人は頷いた。
俺達は夜になっても変化は解ける事はない。
恐らく、一日と言わず二日くらいなら維持できるだろう。
「皆が確認出来るようにしたいなら、これを使うと良い」
ルシアは机の引き出しから鑑定石を取り出して俺に渡す。
「あれ、ルシアさんは自分の目で見れるのに、こんなの持ってるんですか?」
俺は不思議そうにルシアに尋ねる。
「もらいものなんだけどね。
一応そこそこに高価なものだから、大切にしまって置いたんだ」
俺はそうなんですか、と言いつつ、高価な物、と言われて扱いに気をつけるよう注意する。
「ステータスを見たい人の前に行って、ステータス鑑定、と唱えれば鑑定石に文字が浮かび上がるよ」
ルシアはそう説明する。
「わなりました。
それじゃ、まずはアーシェからだな。
“ステータス鑑定”」
俺がアーシェに向かって唱えると、鑑定石に文字が浮かび上がってくる。
名称:アーシー・エクシエル
種族:エルフ
LV:32
特性:・疾風の加護
体力:1800
マナ:250
筋力:1200
魔力:60
俊敏:3500
耐久:390
所有スキル
・剣士lv.9 ・投擲lv.6 ・格闘lv.6 ・自然治癒lv.5
・剣技 ・格闘技 ・双剣使い ・対話術
「アーシー?ファミリーネームまで一緒にして略せばアーシェだな」
俺が一通り見て感想を述べる。
アーシェは顔を赤くして口を開く。
「だ、だって全然違う名前にしたら誰を呼んでるかわからないじゃない」
そう、変化の後の名前は自分で決めれるのだ。
本来ならば…。
「そんじゃ次はシェリーな」
俺はシェリーの前に立つ。
シェリーは目を閉じてどうぞ、と一言言ってジッと待つ。
「“ステータス鑑定”」
シェリーのステータスが浮かび上がる。
名称:セリー・マルシェ
種族:エルフ
LV:20
特性:・聖なる加護
体力:800
マナ:2150
筋力:150
魔力:4500
俊敏:320
耐久:100
所有スキル
・治癒魔法lv.8 ・補助魔法lv.8 ・水魔法lv.6 ・雷魔法lv.5 ・水属性耐性lv.5 雷属性耐性lv.5 魔力感知lv.2 ・マナ回復lv.4
・水魔法 ・雷魔法
「魔法特化…って感じか。
これだと近接戦は難しそうだな」
俺はステータスを身終えるとシェリーを見てそう声をかける。
「そうですね。
魔力には多少恵まれましたが、他の身体能力は高くありません。
防御面では紙ですね。
代わりに治癒と補助の魔法を主に鍛えました。
後方からの支援として役には立てるかと」
なるほど、そこに力を置いた訳か。
「聖なる加護ってのは何だ?」
「聖教会で長く世話になっていたら目覚めた加護ですね。
治癒魔法の効果をより大きくさせたり、一日に数回だけ物理防御と魔法防御を引き上げる事が出来ます」
へぇ、結構便利。
俺も何かの加護が欲しいな。
「アキトのも見せてもらえる?」
アーシェは鑑定石を持って俺の前に立つ。
「そこそこ頑張ったけど、どんなもんかね」
俺は結果が現れる前に頬をかく。
「“ステータス鑑定”」
アーシェの声が部屋に響く。
俺も浮かび上がる文字を皆んなと一緒に覗き込む。
名称:レグルス・クロニカ
種族:ハーフエルフ
LV:18
特性:・亡失の卵
体力:1650
マナ:1600
筋力:850
魔力:980
俊敏:6800
耐久:350
所有スキル
・弓術lvMAX ・剣術lv.2 ・風魔法lv.4 ・風魔法耐性lv.3 ・回避能力lv.5
・弓使い ・短刀使い ・駿足
「…なんで卵持ってるの?しかも“亡失”?聞いたこともないわ」
アーシェは目を点にして俺を見る。
「ホントだ…。
なんでだろ?
てか、名前もルシアの言ってた名前の通りなのな。
俺はこの人に呪われてるのか?」
俺は眉をひそめてボヤく。
「それにしてもアキト様、この短期間で弓術をMAXまで上げたのですか?
魔物とも戦っていたアーシェ様ならわかりますが、アキト様の上がり方は少々異常ですよ。
レベルも私達より低いのに、身体能力は劣っていません。
というか、俊敏だけえらい事になってます。
卵の影響でしょうか?」
シェリーも不思議そうな顔をする。
「ルシアさんは何か知ってますか?
“亡失の卵”について」
ルシアを見てそう尋ねてみる。
ルシアはうーん、と考え込み、口を開く。
「正直、そんな卵は僕も知らない。
ただ、僕の知っているレグルス・クロニカは英雄の卵を孵化させていた。
彼はもうこの世にはいないけれど、それが関係してるのかもしれない」
ルシアはそう言うと俺をジッと見つめる。
「サエキくん。
君は変化の魔法を限界値まで鍛えていたね?」
「え、えぇ。気づいたら限界値になってましたけど…」
メーティスとの勉強中に変化の魔法がどれだけ鍛えられたか確認したら、lv.MAXと表情されていたのだ。
あれには俺も驚いた。
「…可能性だが、君は変化という領域を超えて、成り代わりという効果をもたらしてるかもしれない。
そこに君の意思はないようだけれど、そうとしか考えられない。
僕が出会った頃のレグルスも弓の扱いにかけては達人と言える少年だったよ。
…英雄になってからは、違ったけれどね」
付け足すようにルシアはそう言った。
「英雄の卵が孵化したら、変わったんですか?」
俺はその付けたしが他人事ではないので聞いてみる。
「英雄になってからの彼は…強くなりすぎた。
僕達の中で、スズを凌駕する存在は彼だけだったよ」
「強いのは良い事じゃないですか。
魔王と戦ったんですよね?強い味方がいた方が心強くないですか?」
俺は純粋に疑問をぶつけてみる。
「…そうだね。強いのは良いこと、かもしれない。
けれど、時と場合によるんだよ、サエキくん。
強すぎる力は何もかもを正当化してしまう。
間違った事すら正しいのだと、突き進めてしまう。
弱さは人生を歩む上で、迷いという選択肢を与えてくれる。
けれど、強さはただ真っすぐに突き進めてしまう。
迷わずに。振り返る事もなく。
それは…ある意味で、とても危険な事なんだ」
ルシアはそう言って、とても真剣な瞳で俺を見てきた。
その気迫に、思わず返す言葉を失う。
「すまないね。少し言葉が過ぎたようだ。
彼の姿を見ているせいか、ついつい昔の事を思い出してしまう。
君は君。彼は彼だ。
何の因果か、君は彼の姿をしているけれど、別段彼の意思がそこにある訳でもなさそうだし。
君は君の道を歩めばいいんだよ。
サエキくん」
そう言ってまたいつもの優しい表情へと戻る。
ただ、そのルシアの言葉は…俺の深い所に響いた感じがした。




