16話 奇襲、時々人質
作者の体調がマシになったので再開!
「おい、その妙な奴というのはどんな奴だ」
思いがけない情報に、ここにいる全員が反応し《ドブネズミ》を問い詰める。
俺たちの急な態度の変化に《ドブネズミ》はこの場の主導権は握ったと思ってか話を出し渋り始めたが、俺の後ろの三人から(主に団長とバリスだが)可視化できるのではないかというほどの怒気が溢れ出たことにより黙々と話した。
彼が話した特徴はことごとく例の奴隷商と一致していた。
団長はウルが調べていた件がここで絡んでくることに、このまま進軍するべきか悩み始めた。
元々スラムに来た用件は調子に乗った闇ギルドの弱体化と、運が良ければ背後にいる貴族への手がかりをつかめればという内容だった。
ところがどうだ、蓋を開ければスラムの統括と王族が捜している違法奴隷商の影が出始めている。
これは例え近衛兵団が先陣を切っているとはいえ、対応できることではない。
バリスは奴隷商の件は噂程度にしか知らないようだが、団長と俺の顔を見て何を感じたか天を仰いでいる。
ディーについては何も言うまい。
奴隷商の話しはそもそも知らないんだからな。
それぞれの反応を表す中、俺は《ドブネズミ》の放った言葉で気になる部分があった。
「なぁ、お前は今《最近出入りしてる》と言ったな。つまりスラムから出ていくときもあるんだな?」
俺の言葉で団長は閉じていた目を見開き《ドブネズミ》にどうなんだと問い詰める。
彼の方はころころ変わる反応に付いていけないようだが、ここで乗り遅れてはいけないと感じたか、次第に前のめりになってきた。
「間違いねぇよ、あいつは北の門に向かって毎日出入りを繰り返してる。そこで見張りしてる兵士も見て見ぬふりしてたから変装して内部調査に来た兵士かと思ったんだけどよ」
「イニスティア殿、陛下からも軍部からもそのような話は来ておりません。となるとその兵、どこかしらの貴族の息がかかっているかと」
「やることが山積みだが、少なくとも一旦撤退をするべきだ。連れ込まれた奴隷は心配だがこちらもいささか手が足りない」
「国からの依頼で盗賊からの人質奪還に傭兵たちが準備をしてたのを見たことあるけどよ、その時と比べても物資も人員も確かに足りねぇな。俺も撤退に賛同するぜ」
バリスを筆頭に団長も賛同し、俺達はここで撤退するべきと判断した。
話は終わったとこの場の非公式な話し合いは解散し、《ドブネズミ》はいそいそと物陰へと消えていった。
《脳内地図》によれば直ぐそばに地下通路への入口があるので、一応安全にこの場からは出られるだろう
な。
俺達も控えていた近衛兵たちと使用人たちへと撤退の旨を伝え素早く荷をまとめる。
その時ラミスからは俺の行動について散々と苦言を言われたので、今後はラミスを伴ってから行動すると約束したが、本人はまだ納得できないらしい。
「当たり前です。当主が自ら危険な事をするなど、言語道断でございます」
最悪当主が死ぬとお家騒動に繋がるからなぁっと呟いてもそういうことじゃありませんとため息交じりにもう一度苦言を聞かされた。
撤退を始めてしばらく経った頃、誰からともなく不穏な一言が出始めた。
「なぁ、気のせいか?襲撃が少なすぎる気がするんだが・・・・」
その一言を皮切りに「確かに」「私も思ってた」などにわかにざわつき始めた。
そろそろスラムから出るといった場所で気が緩んだのか、ざわつきが次第に大きくなっていく。
「お前たち、まだ敵陣の中だというのに気を緩めるな!」
「ですが団長、実際来た時とは明らかに静かすぎます。なにかが起こっているとしか・・・」
「おい、上を見ろ!」
前方から流れる近衛兵たちの会話を聞いていると、突然叫びにも似た声が響き渡った。
声に釣られて皆が上を思わず向く中、俺は《脳内地図》で確認したことを大声で伝える。
「違う!横だ!」
俺が発したと同時に両サイドの建物から火の手が上がる。
サイドにいた兵は不幸にも直撃し、何人かが火に包まれた。
「襲撃、襲撃!各自迎撃態勢に移り敵を退けろ!」
団長の叫びにあっけに取られていた兵たちはすぐさま盾を構え襲撃者へと切りかかったが、ひらりひらりと紙一重に躱され決定打がない。
一方こちらは次々と犠牲者が出ていく。
被害拡大を恐れ魔法兵を連れてこなかったことが悔やまれる程に、向こう側の魔法攻撃の数が多い。
火、水、土と様々な属性が入り乱れ、張られた魔法障壁のすき間を狙って確実にこちらの人数が減っていく。
「くそ、こいつらさっきまでの雑魚じゃねぇよ!レイヌさん、魔法壁をかけてくれ!」
「ダメだ、通路が狭すぎる。敵味方が入り乱れる今、魔法壁を張ると逆に被害が拡散するぞ!」
さらに言えば俺の攻撃は威力が高すぎて、密集している現状では確実に仲間を巻き込む。
ここで高レベルが裏目になったか。
「団長、バリス!撤退戦に移行しろ!このままだと全滅だ」
「イニスティア殿、これでも我々は王家を守る近衛兵。このようなことでむざむざ引き下がるわけには!」
「相手はスラムでの集団戦に慣れてる、地の利は圧倒的に向こうが上なんだぞ!部下を無駄死にさせるためのプライドならこの場で捨てていけ!」
エリート意識が高かったせいか、襲撃に無理に応じようとする団長を一喝し、俺が代わりに指揮をとることとなった。
「全員応戦は最小限とし、撤退戦に移行!出口はすぐそばだ、全力の撤退に集中しろ!」
「「「「了解です」」」」
言うが早く、負傷者は陣形の内側へと集められ出口へと再び撤退を開始する。
我が家の使用人たちもただ守られているだけではなく、集められた負傷者を背負ったり、俺から渡されたポーションを降りかけ応急処置をしたりとせわしなく協力している。
俺も全ての攻撃に手は回せないが、可能な限り出せる手を出して相手の攻撃を無力化する。
自身の攻撃力のせいで守るしかできない事が歯がゆい。
「みな出口だ!もう少しの辛抱だぞ!」
先頭を走る団長の声に引き締めていた兵たちの顔が少し緩むが、またしても俺たちの行く手を阻む物が—――いや、者が現れた。
俺たちの前には襲撃者たちと同じように真黒なローブに身を包み、性別はおろか種族もわからない。
そんな不気味な人物がいるにも関わらず、俺達はその後方へと視線を奪われた。
「た、助けてくれ・・・・」
「死にたくない、頼むよぉ…」
「ママ・・・・痛いよぉ・・・・」
そこにあったのは磔にされた帝都の住民。
老若男女と一見しただけでは共通点は分からないが、小さな子供までおり、手足を十字架のように組み合わせた丸太に杭で縫い付けられていた。
走っていたはずの俺達は思わず足を止め、その光景を黙って見ているしかなかった。
止まった時間はわずか数秒にも満たない時間だったはずだが兵たちは持っていた剣をだらりと下げ、完全な無抵抗となっていた。
だがそんな俺たちを敵が黙って見ているはずがない。
「―————————《大炎球》」
どこからか聞こえた詠唱は既に終わっており、その結果として《火球》よりも二回りほど大きい炎の球体が上空からいくつも降り注いだ。
照らす灯りが近づき熱が襲うが、誰も反応できずにただただ自らの前方へと視線も心も奪われている。
「《空炎嵐》
幸いにも上空という邪魔なものが無い場所からの攻撃に、俺は天へと人差し指を向け出来るだけ目立つ魔法を放ち双方の視線を集めた。
《大炎球》を巻き込んだ《空炎嵐》の火柱は真っすぐに上空へと延び、まるで何かにぶつかったかのように一定の高さまで届くと、波紋のように空を炎で覆いつくした。
本来対空用の上級火魔法だが、滅多に見れぬ上級魔法と派手さに敵味方問わず全員が上を見上げる。
「予定変更、全員後方へと方向転換!スラムの奥へ目指す!」
俺の声にいち早く我に返ったのは味方ではなく敵の方で、再び攻撃が開始されるが、やはり人質には手出しをしていない。
それぞれの人質の横に立つ黒ローブたちは短剣を人質たちの首元へ突き立てているが動こうとはせず、こちらをジッと見つめるばかりだ。
「何をしてる!上官命令だぞ!」
「!?ぜ、全員後方へ進軍だ!」
一歩遅く我に返った団長は声を張り上げ、警戒するように後方を務めた。
俺は中央から進行方向に向けての先頭へと移動し、《脳内地図》を使いせめて開けた場所まで誘導することとした。
兵を飛び越え移動する際に上空から見た景色は悲惨で、近衛兵の2割は既に息絶え陣形から外れていた。
兵たちも自分の身を守る事に必死で遺体の回収までには手が回らず、通り過ぎる際に目をそらし見ないようにしている。
それにしても襲撃が多すぎていい加減この密集している状況が早くも崩れかけている事をどうにかしないといけない。
スラムは整備の行き届いた平民の生活圏と比べると、朽ちた建物も壊されず、道も整備されずに足場も悪い。
相手には奇襲に持ってこい、こちらは満足に動けない芋虫。
「ディー、こっちにこい!」
俺は中央で使用人たちを守るディーに一声かけ呼び込む。
俺の隣に付き並び走る彼は細かい切り傷が目立ち腕が血まみれだ。
「なんだレイヌさん、問題あったか?」
「これを団長とバリスに届けてくれ、集合予定地点までの即興地図だ。これから三手に分かれて別行動する」
「待ってくれよ!ただでさえ押されてんのに分散したらますます死人が増えるぜ!?」
「ここは狭すぎて近衛兵たちも俺たちも満足に戦えない。分散すれば闘うスペースも取れて襲撃者もそれぞれに合わせて分散する。むしろ同士討ちが起きそうな現状の方が危険だ」
血を拭きとるための布と二枚の羊皮紙をディーに手渡し「頼んだぞ」と背中を押す。
走り戻るディーと入れ替わるように襲ってきた襲撃者の斬撃を受け止め切り返すが、手加減が過ぎて相手は後ろへ飛んで避ける。
「ダンナ様、上です!」
ラミスの叫びに答え、気配のある方向へ《土球》を放つ。
上空では回避できないだろう。
「・・・・そう来たか」
だが目論見は外れ、《土球》は難なく避けられた。
俺に短剣を振り下ろそうとしていた黒ローブは、腕を振り上げた体勢のまま、横へと滑るように避けた。
行き先を見ると奴らの一人が見えない何かを引っ張るような恰好で屋根から見下ろしている。
「―————チッ、しぶといな」
「聞こえてるぞ三流襲撃者!避けるしか能はないのか!」
「―————殺す」
俺の挑発に乗せられて屋根から飛び降りるところを撃ち落としてやろうかと思ったが、狙いを付けている最中にまた横側から襲われ、中途半端な魔法しか放てない。
「どけどけ!レイヌさん、この先にある休憩に使った広場。あそこで別れるだってよ!」
「わかった。ディー、あいつら短剣に何か縫っているぞ。掠り傷も許されないからな」
「おう!」
目的地点まで残り十数メートル。
せめて手土産に相手の力、丸裸にしてやろう。
いままで相手の情報の盗み見みたいでなるべく《鑑定》は使わないようにしていたが、仕方がないか。
だが俺はこの行動をとった直後、いつ以来か後悔を覚えた。
後になってみればこれを早期に発覚した事は幸いだったのだが、この時はただただ現状を荒らす厄介な情報でしかなかった。
【報告】地上にて降臨中のレイヌ神からアクセス申請があります
【報告】本体機能停止中にて提示情報に不備が生じます
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