15話 不透明な敵
誤字脱字、ありましたらすみません。
「あ~、くそ!扱いやすそうなガキだと思ったのによぉ。こいつはとんだ下手打ちだぜ」
《ドブネズミ》はガシガシと頭を掻きむしると、近くに捨てられていた木箱にドカリと腰を下ろす。
傷み切った長い髪が掻くたびに抜け落ち風に舞っていくが、ぶっちゃけ汚いから止めて欲しい。
「いいから《狂獣》の事を話せ。内容によっては報酬の上乗せもありだぞ」
俺の言葉に《ドブネズミ》の瞳はギラリと光った。
「・・・・本当か?おまえら貴族共は息と一緒に嘘が出るから信用できねぇな」
こいつは貴族に恨みでもあるのか?
「何言ってんだこいつ?信用できねぇならなんでこっちと取引しようと思ったんだよ」
「さっきは俺の方が有利だと思ったんだよ。このガキくらいのぼんくらはお優しい奴が多いからな、くそ真面目に口約束でもしっかり守ると踏んでたんだけどなぁ。まさかエルフか?」
「人族だよ。商人の出だから交渉ごとに慣れてただけ、そしてお前は見る目が無かった」
だんだんと《ドブネズミ》は砕けた言葉遣いになってきたが、こうやって相手との距離を詰めるのが男の手口なのだと耳元でこっそりとバリスが忠告してきた。
ディーが親身にならないよう俺が会話の先頭に立ち話すと、《ドブネズミ》ギラついた目に加え、ニタリと口が裂けんばかりにクツクツと笑い出した。
「なるほどな、商人出か。商人は信頼が第一が心情だったか、それならお前だけは信頼してやるよ」
「よく言ったものだな、貴様は過去その信頼できる商人をいったい何十人騙してきた!」
「覚えてねぇな、どいつもこいつも真っ向から裏切ると同じ顔するからよ」
《ドブネズミ》の発言に団長は再び手斧に手をかけるが一瞬止まり、歯を食いしばり震えながら元の位置へと手を下ろした。
彼の発言にバリスとディーも今にでも掴みかかりそうな形相に変わり、ここで俺がいなければすぐさま《ドブネズミ》は肉片となっていただろう。
だが安心はできない、むしろ危険な状況になった。
ここはスラムで奴らのホームグランド、ここででかい騒ぎを起こせばこいつから情報も得られず、《狂獣》の興味を確実に引く。
この興奮状態が続けばこちらを心配そうに遠くから見つめる近衛兵たち、我が家の使用人たちに伝染する
だろう。
そしてその結果、正義信を暴走させた彼らはスラムでの対闇ギルドとの大規模戦闘に踏み切るだろう。
こちらの被害も省みず。
世界滅亡危機の前に無駄な同族争いは避けたいので、《ドブネズミ》には少し痛い目に合ってもらおう。
「こえぇ顔だな、おい。まさか約束を破るわけじゃ‥…ぐぁっ!?」
《ドブネズミ》は手出しできないと調子に乗りこちらを煽りだした直後に、俺は奴の首を掴み、そのまま後方の廃屋の壁へと叩きつけた。
手加減はしているので大事にはなっていないが、いかんせんこちらの背が足りずいまいち恰好がつかないな。
《ドブネズミ》はゲホゲホと咳込みながら必死に俺の手から逃れようと悶えるが、手は緩めない。
「ガッ‥‥カッハ‥‥…や、約束が‥…ちがっ…」
「このままだと団長がキレそうだからな、これぐらいで済むなら安いものだろう?」
頸動脈を緩く抑えていたために《ドブネズミ》の動きは鈍くなり、次第に意識を薄れさせていく。
お灸はこれくらいで十分か。
俺が指の位置と手の力を緩めると、意識の戻った《ドブネズミ》は先ほどとは違い暴れず、無抵抗の意味で両手を見せ大人しくなった。
「なんでそんなキレてんだ…‥‥俺は殺しはしてねぇのによ‥…」
「殺さなければいいわけではない。貴様のせいで一体どれほどの平民が借金奴隷へと落ちたか!」
「俺のところの若手もだ。てめぇに騙されて無茶をやらかしたやつが何人も死んでんだよ。あいつらにも責はあるが、少なくとも直接じゃねぇだけでテメェは殺しをやってんだよ」
団長とバリスは収まってきた怒りを最沸させてきたので、今度は横へと放り投げた。
これ以上煽らせないためだ。
さらに反論しようとする《ドブネズミ》に「これで借り2つだ」と最終通告を出し、さっさと《狂獣》の情報を聞き出す。
「ちっ、わかったわかった。《狂獣》で俺が知ってんのは奴のここでの地位と戦い方、それからここ最近の動きの3つだ」
「ようやく本題になりましたな。こいつは本当に・・・・・」
「団長、静かに。とりあえず順に教えてくれ、まずは地位」
争いの火種が付く前に素早く団長は諫めておく。
黙っていたバリスも口を引き締めているから、こいつも何か言おうとしたな?
「《狂獣》はこのスラムの支配組織ともいわれてる《黒鳶》の副リーダーだ。直属の部下共がいるけどスラムに来た時からのメンバーだけの構成らしくてよ、欠員も増員もないんだと」
「なぁレイヌさん、どこの国でもそうだけどスラムに来てメンバー変わらずとか相当な実力者だぜ」
「おう、そこの兄ちゃんは分かってんな。さっきは副リーダーっつったが、実質トップに君臨してる戦闘集団だ。あそこのリーダーは利用されてるとも思わないでふんぞり返ってるだけの小悪党だから気にしなくていいぜ」
おそらく名実ともにリーダーにならなかった訳は好き勝手動けるためだろう。
団長の言っていたことを思い出しても自分で動くタイプらしいからな。
「《狂獣》の野郎が一声かけりゃぁそこらじゅうの悪党が一斉に動き出すほど、奴は強い。だから俺にとっては目障りなんだけどな」
コミカルな動作でやれやれと首を振る《ドブネズミ》。
小芝居はいいからとっとと話してくれ。
「・・・その目で見んの止めてくれよ。首が疼くぜ。あ~、次は戦い方だがよぉ、ぶっちゃけわからねぇ」
「時間の無駄だったな、取引は無しにした方がいいかな団長、バリス」
「まてまて!そこのゴツイじいさんが言い渋ってたのが理由なんだ。俺が集めた情報じゃ全員がバラバラのこと言っててどれが本当かわからねぇんだ」
バラバラ?どういうことだ?
俺は団長へと向き直り発現の許可を与えると観念したように喋ってくれた。
確かにさっき静かにって言ったが、許可が出るまで本当に黙っているとは‥…真面目だな。
団長が言うには《狂獣》がまだ表世界にいたときから同じように目撃者の証言がバラバラだったらしい。
曰く、土魔法を使い大ぶりな大剣を使っていた
曰く、3種の魔法を使い巧みな罠を張り巡らしていた
曰く、槍や双剣、弓と様々な武器を達人並みに使っていた
他にも目撃談がたくさんあり、統括すると全ての魔法属性が達人並みに使え、全ての武器が達人並みの腕前であり、目にも止まらぬ速さで動くと言ったあまりにもな人物が出来上がったらしい。
当時は近衛部隊長だった団長は幻術ではないかと疑ったが、現場の痕跡を見るに全ての情報が正しく、訳のわからなくなった彼はしばらく休職したのだそうだ。
話したくなかった理由は己の痴態と、帝国の精鋭と言える近衛兵団が全てにおいて後手後手に回った不名誉な事柄だったかららしい。
「よく考えたらレイヌ、お前も同じこと出来るよな?」
「適性があるだけでまだ全ての魔法属性は使えないぞ。武器関係は否定しないが」
「実はレイヌさんと同じ出身とかじゃないですか?隣の大陸ではそれが普通とか」
「どうなのですかなイニスティア殿」
「自分で言うのもなんだが故郷でも俺は異常だったからな。村でも過去海を渡った者がいたなんて話は聞かなかったな」
うん、一応嘘は言ってないぞ?
神界では《創造》が出来るのは俺だけだったし、この世界に今まで依り代は降りたが神自身が降りたことは無いので(この世界の)海も渡ってない。
そういえば言っていなかったが、この大陸に置いて《村》という呼称は首都以外の都市を指し、本来呼ばれるような村や集落は存在しない。
「なぁ次行っていいか?こっちもいろいろあんだが」
「いろいろってなんだよ」
「最初の予定通りだと今頃話も終わってる頃だからな、《狂獣》に自分が目を付けられないように隠れるつもりだったんだろ?」
「分かってて無駄話してんのか?ふざけんなよクソガキ!」
さっきからソワソワと周囲を警戒してれば気づくさ。
それにこいつはスラム事情に詳しく役に立つし、ほぼ確実にこの後殺される。
さっきからだんだんと人の気配が増えてきているからな、例え悪党でも神としては見放したりはしないさ。
「怒るのはいいけどまた無駄話になったぞ」
「そこのジジィと筋肉ダルマのおっさんと同じぐらいむかつくガキだな!!ここ最近の話しは《狂獣》の傍に妙な奴が出入りし始めたのと、何人も奴隷が運び込まれてるってことだよ!」
やけっぱちに放ったその言葉は団長と俺に深々と突き刺さった。
妙な奴、そして奴隷‥…もしかしたらそれはリンを奴隷にした奴隷商なのではないか‥‥‥と。
ディラン 「こいつって悪党悪党言われてるけどひょうきんだよな」
団長 (彼はさっそく騙されておりますな)
バリス (こいつを昇格させるときこれが一番の懸念だったんだよな)
レイヌ (ディー、帰ったら帝都の犯罪史でも読ませるか?)
まず友達になる、は詐欺師の手口でも基礎とも言えるそうです。
皆さんも甘い言葉にご用心を。
ちなみに来週は作者が正月疲れで体調を崩したためお休みです。
ごめんなさ~い!




