12話 静かな怒りの向く先は?
ガチャガチャと防具の擦れる音が周囲に響く。
静かながらも緊張を孕んだ空気に感化され、周りにいる誰も彼もが肩をはって見回している。
そんな中で俺は浮いていないだろうか?
随分と繊維化が進み、軽鎧も肩と腕部分しか残っていない。
色も白を主として所々に金糸のラインが施されるこの防具は、雄々しい装備に身を包んだ帝国兵の中でかなり目立つ。
「ずいぶんと辛らつなお顔ですな。なにか気に障ることでも?」
「あまり突いてやるなよ近衛兵団の第一団長殿。こいつはつい昨日まで弟子候補の頑張りにご満悦だったのを無理矢理戦場へ連れてこられて不満なんだ」
「うるさいぞバリスギルド長。ディーのことは世話になったが、人を指さして笑うんじゃねぇ」
なぜか俺を挟むように隣立つ二人に俺は見上げながら睨む。
一人は知っての通り冒険者ギルド長のバリス、もう一人は俺の3倍はあるかという巨体を持つ老紳士だ。
彼は王族直属の兵である近衛兵団の団長の一人で、その中でも警護を任務とする第一近衛兵団の団長だ。
口元に生える白鬚と、目じりを下げる笑い方、ラミスと似た細い体型で柔和なイメージが湧くが、装備を見ればそのギャップに驚くだろう。
本人同様に巨大な大盾とその背丈をも超える戦斧、身にまとう防具も黒を主とした重鎧であるため、初対面では二度見する人が多そうだ。
戦闘力も高くまさに紳士と言える彼の仕草は、隠れたファンが多いのだそうだ。
「ほうほう、イニスティア様は随分と教育熱心なようで。実はエルフだったりしますかな?」
「こいつは正真正銘の15歳だ、ギルドカードは偽装できねぇから間違いねぇ。やたら多才だし頭がいいからついつい忘れそうになるがな」
「どう反応したらいいかわからないな。それより準備が完了したようだぞ」
そう言った俺たちの前には帝国兵がずらりと10列に並んでいる、しかし・・・・・・。
「今まで逃避してたが言わせてくれ。なんで部隊編成を俺の家でやるんだよ!」
「仕方ないだろう。城でやればなにかあったとすぐバレるし、なにより俺の家から近い」
「酒場みたいに言うな!」
我が家の庭先が、美しかった庭がむさ苦しい騎士たちに穢されていく。
「旦那様ご安心を。後日爺たちが更に美しく手を入れさせていただきます」
「・・・そもそも美しいには程遠かった」
「ダリエラさん、それは言わない方が」
「メイトラ姫の言う通りですよ。レイヌ様のセンスを疑うのですか?」
「そうだよな、俺がおかしかったわけじゃないんだよな!よかっ―――イテッ!!」
「お前たち、後で覚悟しろよ」
フル装備の帝国兵の隣に並ぶ使用人たちから上がる声に反応し、一発殴っておく。
言わなくても分かるが我が家の使用人たちである。
彼らはこれからの行動に必要なので並んでいるのであって、けしてその戦闘力を買われたわけではない・・・・・と思いたい。
列に並んでいたディーを殴り帰ってきた俺をバリスはかわいそうな目で見てくる。
「そろそろ説明の方に移ってもよろしいですかな?」
「だな、お前の趣味が悪いことはここに来た時に十分伝わってるから今更だしな」
「うるせぇな」
誰も彼もバカにして、どこが趣味が悪いだ。
「我が主様、一般的に黒や紫といった暗い色の花や、舌や目といった体の一部に見える植物はキレイとは言えません」
背後に立つオンブルはそういうが、それこそ俺には理解ができない。
あれがどれほど可愛く美しいかを諭そうとしたが、バリスの早くしろと訴える目がうるさいのでやめておこう。
「あ~、一応当事者でもある俺、レイヌ・イニスティア名誉侯爵から今回の目的を伝える」
まず最初に発端を話しておくと、昨夜我が家に侵入者が現れたのが始まりだ。
《脳内地図》にて早期発見はしたが逃げないよう奥に誘い込むために、まず既に寝ていたメイと非戦闘員の使用人を集め守りを固めた。
そして賊が我が家の玄関ホールに足を踏み入れた瞬間に隠れていたオンブルにより捕縛、裏口に回った賊は俺が捕えようとしたのだが、寝ぼけたメイが魔法を叩き込み全員死亡してしまった。
目が覚めたメイと止められなかった使用人たちが涙ながらに謝っていたがそこは割愛させて頂こう。
さて、問題はここからだ。
オンブルが捕えた賊とOHANASIした結果、彼らが闇ギルドのメンバーだということがわかった。
なぜ彼らが俺を狙ったかというと、ランバの洗脳を解き内乱を防いだことが原因だそうだ。
担ぎ上げていた貴族の背後には闇ギルドがいたことがここで判明したが、同時に悪い情報も出てきた。
襲撃は俺の屋敷だけでなく、冒険者や技術、傭兵といった各ギルド長の自宅へも同時進行でそうだ。
確認のために《脳内地図》を帝都全域に広げてみたが、既にギルド長側が勝利したようで争っている様子がない。
そもそもギルドの長がそう簡単にやられるわけがないだろうと一緒にOHANASIをしていたラミスと笑ったものだ。
捕えた闇ギルド員を引きずる光景は目立っていたが、深夜に行われたため関係者以外は眠っているため誰にも見られず王城へと着いた。
しばらくして各ギルド長が部下を伴って闇ギルド員を連れてきたが数人しか生きておらず、その数人も半死半生でまともに話しも聞けなかったようだ。
俺達が持ってきた情報を陛下に伝えるとすぐに行動に移し、ウルが名目上の責任者としてスラム街進行の部隊編成が始まり、翌日の深夜である今こうして出撃準備が整った。
「・・・・・・以上が今回の発端だ。少人数で各ギルド長への襲撃をしたことから、奴らは我々の力を大きく見くびっているだろう。やたら貴族以外の人間を排他的に見てた貴族が情報のやり取りをしていたようだな」
「やれやれ、帝国兵も見くびられたものですな。これではまるで手を下す必要もないと言われていると勘違いしてしまいますな」
団長は表情では笑っているが、目だけはハッキリと怒りの炎で埋め尽くされている。
第一近衛兵団は王族の警護を役目としているから、紳士的な謙虚さはあっても信念を貶されて笑えるほど卑屈さはない。
それは部下である近衛兵たちにも言え、全員が俺たちの方を向きどこかにいる黒幕へと怒りの視線を飛ばす。
「俺のところも同じだな。たった10人の暗殺者で殺せると思ったのか!っと直接闇ギルドの長には体に文句を叩きこんでやる」
この騒ぎは国関係なことだから、本来部外者であるバリスは作戦に加われない。
しかし同じく襲撃を受けた他のギルド長が舐められたことに怒り狂い、今すぐにでも乗り込みそうだったため彼らの代表として多少は理性の効くバリスがこうして部隊を指示する立ち位置についている。
「二人とも落ち着いてくれ、興奮状態の集団を御せる自身はない。え~と、我が家の使用人たちはこの間までスラム街の一部で生活していてあの一帯は俺達より詳しい。彼らもそれなりに戦えるが不安もあるので、警護しながらの戦闘になると覚悟してくれ」
兵は一斉に使用人たちへ向くとそろって頭を下げ協力への感謝を表すが、揃いすぎて護衛役のリンたちが引いている。
「ここでグダグダ喋っていても無駄か。ちょうど時間だしみんないくぞ~」
「ちょっとレイヌさん!?いくら何でも気を抜きすぎなんじゃねぇか?」
「目が血走った野郎に囲まれてこっちも気分が乗らないんだよディー。ウルスラ殿下に闇ギルド本部を探し当てる部隊の指揮をほとんど無理やり押しつけられてただでさえ気落ちしているってのに。俺から戦闘を抜いたら低い身長しか残らないぞ」
「確かにイニスティア様は身長は控えめですが、その優秀な頭脳があるではないですか」
「成人したての奴に全部は任せねぇよ。そのための俺達おっさんの出番だからな」
「おっさんはバリスだけだろ。団長殿はおじ様って感じだ」
俺達のやり取りを見ていた兵たちはため息をつき呆れたりクスクスと笑ったりといい感じに気が抜けてきた。
「さてそれじゃいきますか。事前に言っておいた陣形を保ちつつ建物の間を進んでいくぞ。オンブルとリン、ダリエラはメイを連れて王城で待機、ディーは前衛として部隊に参加、ラミス達は役目を終えたら一目散に王城へ避難してくれ」
「我々近衛兵団は撤退するラミス殿たちを護衛するために途中人数は減るが、他の部隊と合流するまでの辛抱だ。心して行け」
「俺達ギルド側からは参加への感謝としてポーションと解毒薬を各種揃えた。費用は国持ちだから遠慮せづに使ってくれ」
「「「では・・・・・・これより出陣する!!」」」
俺たち三人の号令に全兵士が多しく答えた。
もちろん深夜なので抑え気味に。
締まらねぇな。
バリス 「アンタもおっさんだよな?」
女性兵A 「一緒にしないで!」
女性兵B 「団長はお洒落だし清潔で紳士なんです!」
女性兵C 「野蛮なあなたと一緒にしないでください」
ディラン 「ギルド長・・・・同じ男として同情するぜ」




