11話 狭めた世界にさよならを (ディラン視点)
俺は、俺の流派に限界を感じていた。
マクリアン流拳闘術。
それは代々受け継いできたマクリアン家の歴史と言っていい。
俺の実家、マクリアン家は《支援国家バンエグサ》でも古くからある武術の名家で、国軍の指揮官を幾人も排出してきた。
もちろん俺もそれを目指し、小さい頃から文字通り粉骨砕身で武を極めてきた。
だがそんな俺を親父は面白くなかったのか、ある日を境に武を禁じた。
理由は分かっている、俺が曲がりなりにも魔法を使えたからだ。
マクリアン流拳闘術は闘気と呼ばれる特殊な力を使った流派であり、威力は絶大。
過去にはドラゴンをも殴ったと眉唾な言い伝えも残っているほどだ。
だがそんな拳闘術にも弱点はある。
それが魔力、魔法との圧倒的な相性の悪さだ。
何故かは知らないが、その証拠に先祖にも魔法を扱える者がいたにもかかわらず流派に反映されていない。
そして俺は魔法を使え、案の定闘気とやらを使えなかった。
そんな俺に親父は失望したんだろう、何度も俺は魔法を流派に組み込もうと進言しても一切取り合わず、結果大喧嘩の末に家出だ。
俺なりの自己流でついには金ランクの冒険者にまで上り詰めたが、底止まり。
頂点ともいえる水晶ランクには及ばなかった。
そんなときにレイヌさんに出会い、俺に足りなかった基礎や身体の使い方を学び、俺は更に成長できたがやはり親父の呪いなのか再び成長は止まった。
動きは良くなった、拳に纏う火も練度を増した、だが頼っていた流派との相性がここで牙をむいてきた。
リーラと一緒に依頼をこなし、実戦をいくら積もうともその先へと行けない。
もどかしい気持ちのままレイヌさんの屋敷で過ごせば、まさか使用人にまで負けてるとは思わなかった。
見ていれば分かる、ラミスのじいさんはあんなにも一つ一つの動きが安定してるし動きも機敏、戦い方次第じゃこっちは手も足も出ないだろう。
他の使用人どももよく見りゃ似たような動きをしてる。
聞けば教えたのはオンブルさんだと。
そしてレイヌさんはオンブルさんよりも強い。
単純な話だが、ならレイヌさんに本格的な師事を貰えば俺は強くなれるんじゃないかと考えた。
だから頭を下げた。
マクリアン流拳闘術も邪魔になるなら捨てる覚悟だった。
だがレイヌさんの口から出たのは予想してなかった言葉だった。
「悪いが今のお前に教えることは無い」
衝撃だった。
これでも俺は金ランクの中でも実力者という自負はある。
一緒に行動している以上、俺の実力が上がるのはレイヌさんにとっていいことだと思っていたんだけど。
「なんでだよ!?俺の覚悟が足んないのか?雑用でもなんでもするから師匠になってくれよ!」
「雑用も何もいらない。わからないか?お前が何を言ってるのか。少なくともその原因をお前が気づかないなら、今後一切指導をするつもりはない」
レイヌさんはそう言って煙草に火をつけるが、さっきまでと違い眉間にしわを寄せて見るからに機嫌が悪い。
俺の言葉で悪くしたようだけど、何が悪かった。
俺の頭が悪いのは俺自身がよくわかっている。
それでも足りない知恵を絞っても理由が思いつかない。
まずい、このままじゃ見捨てられる。
「なんでだ‥‥あんたは強いだろ。レイヌさんがちょっと助言しただけで《美強》もリーラも自力を上げた。なんで俺だけここで終わりなんだよ!あんたが望むなら金だって魔物の素材だって、他にもいろいろと――――」
「黙れ。その続きはよく考えて言うんだな。とはいえ、何を言いたいかは予想は着くが、それを口に出した地点でお前とは一切縁を切る」
「な!?」
「時間なら優にある。誰かに相談してもいいから頭冷やしてもう一度考えろ」
そう言い放つと踵を返してレイヌさんは部屋を出ていった。
桃色の煙が後を引き消えていく。
俺にはそれがまるでレイヌさんとの今の繋がりのように感じた。
「ディランさん、大丈夫ですか?」
後ろからの声に振り向くと《美強》が心配そうに見下ろしている。
どうやらいつの間にか座り込んでいたようだ。
「は、ははは。大丈夫だ!そう、大丈夫だ・・・・」
差し出された手を握り返し立ち上がろうとするが、膝が笑ってうまく立てない。
そこでようやく気付いた。
俺は今崖っぷちにいるんだと。
目も前にあったチャンスを今失いそうになっていると。
「・・・ディー」
「何がダメだったんだろうな。俺とって一番覚悟あるっていう言葉を言ったってのによ・・・」
「・・・多分だけど、私には理由わかる気がする」
「!?本当か!」
リーラの言葉に力が沸き起こった。
そうだ、レイヌさんは誰かに聞けって言ってた。
なら今答えを聞けばすぐにでも。
「・・・だけど言わない」
「はぁ?なんでだよ、全然笑えねぇぞ!」
「・・・想像してる通りならだけど、自分で気づかないと意味がないと思う。・・・ヒントくらいならいいと思うけど」
「わけわかんねぇ。なんだよそれ・・・」
「私も賛成です。若干ですが先ほどのディランさんの言葉、私も気分が悪くなりかけましたから」
「《美強》?」
俺を支える《美強》を見れば、眉間にしわを寄せて顔を背けている。
リーラが持ってきた椅子に座らされるときも気のせいか乱暴な気がした。
「・・・じゃぁヒントは《リンちゃん》かも。・・・リンちゃんの事情は詳しくは知らないけど、ディーの言葉で気分が悪くなったのなら多分」
「なら《ダリエラさん》もヒントですね。私とダリエラさんの違い、それが答えです」
「・・・・・・胸か?」
「「ふんっ!」」
「ぐぼぉぁぁぁ!」
綺麗に鳩尾に決まる二人の拳を最後に俺の記憶は途絶えた。
ぺったんこのリーラと山の《美強》、わかる違いなんてそこしかねぇのに。
つかリーラ・・・お前、意外と動けるんだな・・・・。
気が付けば次の日の朝、俺は部屋のベット・・・・・・ではなく夜のままリビングの床で目が覚めた。
掛けられた薄い毛布がなけなしの優しさのようで泣けてきた。
ダイニングへと向かうが朝と言っても地の刻の(午前)9時らしく、部屋を出ると同時に時計の鐘が鳴っていた。
遅めの朝飯だったけど料理人は俺の分を残していてくれたみたいですぐに出てきた、マジで感謝だ。
食べている最中も昨日の事が頭から離れない。
食い終わってからそのままラミスの爺さんのところまで行き、金を渡すついでに話を聞いてみた。
あ、金の方は別に怪しい理由じゃなくて宿代みたいなもんだ。
「なるほど、あの後そのようなことが。ところで先日メイトラ様がこの爺の為にネクタイをくださいまして――――」
たいした情報もなく一時間近くも姫さん自慢を聞かされた。
ようやく解放されて今度は他の使用人たちに聞いてみたが、誰もしっくりとした話は聞けなくてむしろ雑談に巻き込まれた。
ギルドへ行って依頼を受けるついでに他のやつらにも聞いたり、滅多に話さないギルド長にも話しかけたんだがダメだった。
だが若い奴ほど俺と一緒の反応だったが、ある程度歳がいった奴らはなぜか優しい目で俺を見てきたんだけどこれもヒントなのか?
屋敷に帰ってもすっきりはしない。
そのせいかは知らないけど何度か屋敷の連中の仕事を邪魔になったり、昨日ボコボコにされてどデカい氷の塊で潰されたはずのオンブルさんが飯を食ってる幻覚をみたりと散々だった。
「・・・幻覚じゃない。・・・現実をよく見て、ディー」
それから数日、俺はいろんな奴に聞きまくった。
なんだか俺自身の恥を広めているみたいで最初の内は身内にしか話はしなかったけど、今では近所のおばさんとか警邏していた兵士と傭兵ギルド、いろんな奴に聞きまくり、今ではすっかり有名人にまでなった。
あんま嬉しくねぇけど。
時間が掛かりすぎてレイヌさんの機嫌がますます悪くなるんじゃねぇかと思ったけど、むしろ機嫌が良くなってきたみたいで日に日にメイドが運ぶ書類が増えている。
そんな日の夜、俺は夢を見た。
それは俺と親父、毎日やっていた喧嘩の日々を外から見ている内容だった。
だんだんとヒートアップしていく口論に、見ていた俺の気分は悪くなっていく。
その後しばらくするとウェーブのかかった長い髪をなびかせる獣人が俺たちを諫めに来た。
お袋だ。
更に3人の若い獣人の女と2人の人族の少女に取り囲まれて、俺も親父も小さくなってしょげてる。
「姉貴たちと妹共、か。懐かしいな」
思わずにやけた俺の頭を、いつの間にか移動していたお袋がひっぱたいた。
沁みついた習慣で肩を縮める俺を「しょうがない子ね」とふくれっ面で首根っこを引っ張るお袋に、俺はなぜか「ごめん」と謝って笑った。
目が覚めるといつも通りの景色にいつも通りの窓からの朝日が顔を照らした。
だけど気分はいつもと違い、久しぶりに起きた体勢のまましばらく夢の内容を思い出す。
ずっと忘れていた。
いや、違うな。
思い出さないようにしていた想い。
「俺、なんだかんだ言ってたけど家族が好きだったんだな」
口に出すとすっきりした。
もちろん親父は嫌いだ。
だがあそこにはお袋が、姉貴たちが、妹共がいる。
夢には出てこなかったが道場の師範や兄弟子たち、めちゃくちゃこわい爺ちゃんにいつも笑顔のばあちゃんもいる。
たくさんの大切な家族に、今まで何度も支えてもらった。
"ってことは、実家との関係を切ると?"
レイヌさんの言ったあの言葉に、俺はハッキリとした返事をしてなかったが気持ちは切るつもりだった。
追い詰められていたとはいえ、実家=親父にしか考えが浮かばずにあっさりと切ろうとしたんだ。
「見抜いてたのか?いつから?」
もしあそこでそのまま話が進んだら、取り返しのつかないことになっていたかもしれない。
頭の悪い俺だ、一度出した言葉は守るとか言って意地でも実家と係わろうとしなかっただろうな。
同時に帝都の奴らが暖かい目で見てきた理由もはっきりした。
今思い出せばそんな奴らは全員家族持ちだった。
使用人たちの雑談の内容も全て家族や同じくらい大切な人の話しだった。
最初から答えは周りにあったんだな。
あと《美強》についても悪いことをした。
あの様子から言っておそらく家族を亡くしているんだろう。
そんな奴に家族を切り捨てる発言と同じような事を俺は聞かせたんだな。
俺は普段着に着替えてダイニングに向かう。
この時間だとレイヌさんがいるだろう、今のこの気持ちを伝えたい。
しかし扉を開け見回してもレイヌさんどころか準備をするメイドのねぇちゃんすら見当たらない。
そういえばここに来るまでも誰も会わなかったな。
不審に思いながら屋敷を歩いていくとようやく一人見つけたが様子がおかしい。
何かを両腕に抱え玄関ホールへと走っていく。
俺の部屋とダイニングがあった屋敷東側一階は粗方調べ終えたので後を付けて行く。
するとせわしなく動く使用人になぜかウルスラの皇子様が支持を飛ばしていた。
「どうなってんだ・・・・・・」
「ん?ディーか。ちょうどいい、フル装備をして集合してくれ。ちと荒事になりそうだ」
立ちつくす俺を呼びかけてきたのは階段を降りるレイヌさんだ。
いつもの一見地味だが高級品の作業着ではなく、杖と刀を腰に付ける戦闘準備の整った状態。
「荒事・・・俺も行っていいのか?」
「今は少しでも人手が欲しい。特に実力があって口が堅い奴がな」
「話があったんだけどそれどころじゃないんだよな。わかった、すぐ準備するぜ」
「急いでくれ。っと、それから話は道中で聞くからな。こっちも大事だがお前の話しとやらも俺にとっては大事そうだからな」
・・・・かなわねぇなこの人は。
俺は背を向け走り出し、手を上げて返事をする。
足取りは軽い。
今ならどうな荒事も切り抜けられる気がするからな。
己龍 「風邪でダウン。仕事で精一杯です。おぉ神よ!これは試練なのでしょうか」
レイヌ 「俺は何もしていないが?」
オンブル「私と我が主様のラブストーリーを書かないからですよ」
己龍 「・・・一生書く気はないですけど(汗)」




