10話 ひっそりとした革命
風邪ひきました
皆さんもお気をつけてください
ウルとアース公爵との雑談とは程遠い密談は意外と長引き、二人とも夕方近くに帰っていった。
しかもほぼ同時に子供たちの迎えでミテラさんが来たので、俺は結局子供たちと遊べなかった。
心惜しいが元々使用人たちのリフレッシュも兼ねてのお招きだったので、目的は達成したと飲み込んでおこう。
だがしかし、そんな俺にも納得できない問題があった。
「おい、なんでお前たちの方が懐かれてるんだ」
「んなこと言ってもなぁ」
「・・・私癒し系だから」
俺は不貞腐れながらリビングでだらけるディーとダリエラに愚痴をこぼす。
ギルドでいくつかの依頼を終えた彼らは、帰ってきてすぐに子供たちに囲まれ、俺が閉じこもっている間に人気者となっていた。
帰る際もしきりの二人の名を呼び泣く子もいたというのに、俺に対しては「またな~」程度にしか声をかけてもらえなかった。
「そんなに悔しいのかよ。いいだろ、レイヌさんはほぼ毎日会いに行ってんだぜ。俺たちは依頼受けたり鍛錬したりでたまにしか会えないんだ」
「暇人みたいに言うな。俺の仕事は外に出る内容が多いから寄ることができるんだよ。それから先の問答だが答えは当たり前だ!と言っておこう」
「・・・師匠意外と女々しいね。・・・あ、そういえばギルド長が師匠を探してた。・・・あのままだと家にくるかも」
女々しい言うな!っとツッコミたいが意外な言葉が俺を制した。
バリスが捜している?
おかしいな、迷宮の内容に関しては城から出た後全部(言える範囲だが)話した。
ん~、他に何があるんだ?
俺が思考に更けていると、リンとオンブルが何やら紙の束を抱えてリビングへとやってきた。
なにやら会うのが随分と久しぶりになったが、彼女らはいったい何をしていたんだ?
二人は山積みとなった紙のせいで周りが見えないらしく、この場に俺がいることに気づいていないようだ。
「それにしても随分と集まりましたね、オンブルさん」
「えぇ、これもすべては我が主様の魅力のおかげでしょう」
‥…本当に何をしていたんだ?
俺のおかげと言っているが、どこかで勝手に俺の家名でも使ったのか?
会話の続きが気になったので気配を消し、静かに二人の背後に回る。
もちろんディーとダリエラにはバラさないよう口を閉じてもらった。
「これでIRFの会員は帝都の2/3を超えました。他の都市や国へ移った冒険者の皆を集めたら都市一つ分になりますね」
「ふふふ、その分統率は大変ですが今が頑張りどころです。リンさんも現地会員の副会長なのですから忙しくなりますよ」
ちょっと待て、IRFだと!?
確か《偉大なるレイヌ様ファンクラブ》とか言う神界で発足していたあの変神が多くいた組織だったはず。
なぜこの世界でも同じ組織が形成されている。
少し支線をそらしディーとダリエラを見るが、フルフルと顔を振り自分たちは関わっていないと意思表示をしてくる。
となるとこいつらの仕業か。
「でもよかったんでしょうか。レイヌ様には一切報告しないようにとオンブルさんは言っていましたが、所謂非公認の集いになるのでは?」
「問題ありません。故郷では既に存在する組織ですしそちらは公認されています。新発足というわけではないのですから、それすなわち私たちの行いも認められているものなのです」
「そうなんですね!あ、ディランさんとダリエラさんただいま戻りました」
どさりと紙束を置いたリンはこの場に自分たち以外がいることをようやく理解し挨拶するが、背後にいる俺には気づいていない。
ディーたちは俺の醸し出す雰囲気が不穏なものに変わっていることでぎこちない笑顔での返答しかできない。
「おや、二人とも帰られたのですか。ではこれを下ろすのをてつだってくれますか?」
「あ、あぁ今やるよ」
「・・・最近見ないと思ったけど新しいクランでも作ったの?・・・これ全部メンバー?」
ダリエラは俺をちらりと見て詳しい話を聞こうとしているが、自分たちに被害が出ないようにオンブルたちのヘイトを高めようとしているのが見え見えだ。
「あながち間違いではないですね。そうだ、貴方たちの会員カードも作りましたのでどうぞ」
「お、なんかくれんのか!」
「・・・No.0004?これって四番目ってこと?・・・たしか黒猫亭のユーリちゃんも同じの持ってた」
「あの子も会員ですから。ちなみに私はNo.0002で現在の総員は、え~と・・・・」
「約6万です。気軽に入った方が大半ですが、ナンバーが入ったカードを持っている方は我が主様に心底惚れ込んでいる者たちです。この屋敷の使用人たちも皆ナンバー入りのカードを持っていますよ」
おい、いろいろと初耳な情報がどさっときたぞ!?
つかこの世界に降りて日も浅いのに万単位ですでにいるのか!
「ついでにナンバー会員はみな向上心旺盛です、私直々に鍛え上げた結果様々な技能が上達し――――」
「お前の仕業かーーーー!!!」
つい我慢できずに叫んでしまったが、あの庭師の異変の原因がこいつにあると分かった今大人しくできるはずがない。
「わ、我が主様!?」
「レイヌ様!?いつからそこに?」
「最初からだ。それよりもオンブル、またあの組織を作ったのか。しかもラミス達を勝手に鍛えやがって、覚悟はできてるんだよな?」
「お、お待ちください!これにはいろいろと事情が」
「言ってみろ」
「我が主様の魅力を世界に広めようと、あ、やめ、痛っ、アーーーーーーーー♡」
オンブルが最後まで言い終わらないうちに10連ジャブからの飛び蹴りで窓から放り投げ、地面ごと凍らせてから空間を何重にも隔離した。
これでもあいつは喜んでいるのだから始末に負えない、あいつを反省させるためにはどうしたらいいんだろうか。
一連の動きを目撃していたリンたち三人はひっそりと部屋から出ようとするが逃がさん!
「まぁ待て、三人ともちょっとお茶しようじゃないか。特にリンはな」
「「「・・・はい」」」
とぼとぼ戻ってくると三人はなぜか床へ正座する。
いや、そこまでは怒ってないからと椅子に座るよう促し、お茶ついでに当事者の一人でもあるラミスを呼んだ。
呼び出し用のベルを鳴らすと、ほとんどタイムラグ無しでやってきた彼を見ると嫌でもオンブルの言葉が目に染みる。
「お呼びですかな旦那様」
「赤茶を4人分。それから聞きたいんだが、お前たちは全員オンブルの指導を受けたのか?」
「はい、オンブル様が屋敷にお住まいになられたと同時に手ほどきの方を。最初は警備の者だけだったのですがいつの間にか爺を含めて使用人全員が直接指導を受けました。いやはや、まさかこの年になって屋根から屋根へ飛び移れるようになるとは」
「は!?まさかそれを全員だなんていうつもりじゃ・・・・」
「嘘だろ・・・・もしかして俺ラミスのじいさんに劣るんじゃ」
「足さばきなら私よりも上かもしれません。私も教えを乞うべきなのでしょうか」
「・・・魔法は鍛えないでね?・・・私が劣化キャラになるから」
四者四様の反応だが、残念だディー、体捌きなら恐らくラミスが上だ。
「もはやこのイニスティア家に仕える最低条件がランクAの魔物の単独撃破になりそうですぞ」
「それ使用人に必要ないだろ!」
まさかここまでオンブル革命が浸食していようとは。
「婚約者であられるメイトラ様も、ここ最近は勉学だけでなく弓の鍛錬を成されております。やはり女王陛下のお若かった頃を見ているようで、爺はそれはそれは胸を熱くしております」
「メーーーイ!」
メイにまでその魔の手は迫って—――いや、既に手遅れだった!
「なぁ、レイヌさん」
今からでも俺が介入したいいんじゃないか?
このままラミス達が強くなり続けたら間違いなく帝国の最強部隊になる。
「なぁって」
とにかく最初はメイだ。
彼女の意思を無視したやり方なら一度止めさせてから改めて方針を聞き、それから―――――。
「レイヌさんってば!聞いてんのかよ!」
「!?お、おぁすまん。ちょっと考え事をしていた」
目の前にいつの間にか息がかかる程迫るディーがそこにいた。
俺がようやく彼の顔を見たことで思考の航海から帰還したことが分かると、目の前で流れるような動作で土下座をした。
だから怒ってないってば。
「レイヌさん、頼む!俺を正式にあんたの弟子にしてくれ!」
額を床へと打ち付けるほどの勢いで頭を下げる彼の背中は、なにやら気迫に満ちている。
「かまわないがいいのか?お前の中でなにか譲れない物があったから師弟の関係になりたがらなかったのかと思ったが」
「あぁ、確かに遠慮していた。実家の武術を捨てきれずにズルズルと引きづって、レイヌさんを師匠と呼ぶことも避けてた。一度呼んじまったら、実家を完全に捨てることになるからな」
「ってことは、実家との関係を切ると?」
「俺の使っていたマクリアン流拳闘術じゃどうしても限界がある。そもそも俺の纏いと相性の悪さもあったんだ。ならこれからを生き残るためにも、なにより使用人に負けてる今を打開するためにも、俺をレイヌさんの正式な弟子にしてほしい!」
若干ラミス達を下に見た内容だが、確かに戦闘を専門とし戦いに身を置く冒険者としては、執事やメイドに負けるのが悔しいだろう。
ラミスもその辺りをわかっているようで、ディーの言葉に相槌を打っていた。
何よりディーは本気だ。
今までの自分を捨て去ろうとしてまで強くなりたいと俺を頼ってきたんだ。
ならば俺も甘やかさずに彼に答えなければならない。
創造神の長として
彼らを見守り続けていた神の代表として
今こそ彼に神の試練を与えよう。
ラミス 「今では日用品やカトラリーで戦うこともできますぞ」
メイドA 「執事長は料理や掃除、戦闘まで完璧にこなす、スーパー執事になりたいそうです」
執事A 「我々も見習わなくてはいけませんね!」
レイヌ 「悪魔的な実力は執事にいらないんだよ!」




