6話 神器の暴走
創造神ルルリアが軟禁されている《下界管理・観察室》。
この部屋は通称《コントロール室》とも呼ばれ、文字通り人間などが住む世界の管理と、世界情勢の観察を目的とされる場所である。
ルルリアだけではなく、創造神たちはそれぞれコントロール室を1室与えられ、その誇りと責任を胸に下界を見続けている。
更にもう一つ、創造神にのみ与えられる神器があり、創造神以外の神がその神器に触れることは固く禁じられている。
その神器の名は《宝珠・ファトムゲンマ》。
この神器の力は神羅万象を操り、存在する全ての運命をも思いのままといった、使う者によっては最悪の兵器にも救いの光にもなる、扱いの難しいものだ。
その形は宝珠の名は付いているが決まった形はなく、ある者は本、またある者は湖といった自身にあった形へと変えている。
制作者はもちろん創造神を束ねる神レイヌであり、授ける神の選定から後のメンテナンスまで全てレイヌがしかたなく担当‥…というよりもレイヌにしかできない事なので仕方がない部分もあった。
そしてもちろんルルリアも神器を所有しており、その形は《原初の世界》地球でみられる大型モニターやキーボードなどで決められている。
そして現在、コントロール室にてルルリアは‥‥‥
「どうしよう、どーしよーー!」
絶叫をあげ凄まじい速さでキーボードを操作していた。
一見いつも通りでは?と思う光景だが、今回だけは事情が違い監視役をしていた神たちも慌てて自らの上司へ連絡を取っている。
それだけではなくルルリアの周りに浮かぶ数百に及ぶモニターにも異変が生じ、半分近くの数は画面が黒くなり、残った画面も映像が途切れ途切れになりまともに内容を見ることができない。
「どーしようシュピリ先輩!」
「いいから黙って手を‥‥動かしてる~わね。私はそれに触れないし、わからないんだからどうしようもないわ」
「せんぱーい!」
「黙りなさい!今人員あつめてる~んですから、そっちはそっちで必死になりなさい!」
「すでに必死ですー!」
創造神にしか触れられない神器はこの非常時において厄介な存在となり果てている。
この前代未聞の大問題、神器《宝珠・ファトムゲンマ》の暴走は創造神一柱程度では対処ができず、あらゆる神に助けを求めているが、触れられない為にただ見つめることしかできずにいた。
「…はい、はい、現状の確認ですね。ル~ル~リア様!現在使用不能の機能と可能な機能はなんですか?」
「えっと、下界の様子を写すモニターは3/4が映像途絶、音声は全て沈黙、それから……あ!?《世界の記録》にも異変です!」
「もしもし、現状は最悪です。とてもじゃありませんが私たちには対処できません。上級神、いえ最高神の方々に来ていただきたく—――――「きたよ~」―——ありがとうございます」
シュピリが上司に連絡を取っている最中に、その上司は彼女の前にすでに来ていた。
ボサボサと手入れをしていないであろう短髪、小学生並の低身長に性別不明の姿はシュピリの上司でもある《遊戯の神ヘルメス》。
そのニヘラ~っとした顔とはうらはらに、遊戯の神を束ねる最高神の一柱であると共に神界最高峰の技術者でもある。
「いや~すごい光景だね。レイっちが作り上げた宝珠ってこんなこともできるんだ~」
「あの、ヘルメス様。他の方々は」
「安心しなよ~、連絡は飛ばしたからすぐ来るよ。それにしてもさ~、よく真っ先に僕に報告したね、褒めてあげるよ」
「ではヘルメス様でも」
「うん、無理だね~。細工技術には自信あるんだけどさ~、レイっちってば無から作るからわかんないことも多いんだ~」
それでも「一応試してみるよ~」と言いながら宝珠に近づく彼(彼女?)は、やはり技術者らしく未知の神器にワクワクしながら挑んでいった。
ヘルメスが取り掛かると同時にコントロール室にはいつの間にか数人の男女が集まっており、これもまたいつの間にか用意してあったティーセットにて紅茶を楽しんでいた。
突然の訪問にせわしなく動いていた他の神々は驚き、慌てて跪く姿から察しがつくように、この現れた男女たちはヘルメス同様最高神である。
神界にも階級は存在し、下から亜神(別名天使とも呼ばれる)、下級神、中級神、上級神、そして各分野にての統括責任者である最高神と分けられている。
だがここで勘違いしないで欲しい。
神界には階級は存在するが、上下関係には無いに等しいほど緩い。
シュピリたちのように跪く必要はないのだが、各々が好き好んでこういった行為に及んでいるのだ。
そのような神がこの場に集まっていることからも事の重大さはわかると思う。
「はぁ~、今年の茶葉もおいしいねぇ。《食の世界》がここ数年力を入れてることだけはあるわぁ」
「美しいわ。そう、美しいのよ。この澄み渡った紅色、まるでワタクシの頬のようね」
「ホッホホッ。ヤム=ナハルは砂糖よりも塩をいれたいの」
「それは君だけだよ。それにしてもセレネー、君の肌はそんなに黒かったかい?」
「・・・・黙りなさいカーリー。どうにかこの姿も美しいと思い込もうとしているのよ」
のんびりと会話しているが間違いなく状況は悪い。
傍から見れば「こんな時に・・・・」と憤慨するかもしれないが、周りはそんな様子は見せず立ち上がると再び作業へと戻っていった。
響く怒号と慌ただしい足音が流れる中で浮きだつ空間には誰も近づかず、そこだけ晴れ渡る午後のようにゆっくりとした時間が流れているようだ。
いや、実際に空間が違っている。
なぜか四人の周りにだけ床から草が生え、その場にだけ風が吹き、どこからきているのか室内にもかかわらず暖かな日差しが降り注いでいる。
そんな不思議空間に割って入る神が一柱、ヘルメスだ。
「いや~疲れた。あ、僕にもお茶ちょうだいイザナミ」
「あれま、ヘルメスお疲れだねぇ。はいどうぞ」
「ヘルメス、ワタクシの姿を見て何か言うことはない?」
「ん?笑えていいよね~」
「!?この・・・・!」
「落ち着いてセレネー!ヤムも止めてくれないかな!?」
「ホッホホッ。甲羅が邪魔で手がでませんな」
もう一度言おう、今は重大な問題が起きている最中だ。
それでも騒ぐ彼らに周りは何も言わない。
なぜならそもそもヘルメス以外に解決できるとは期待していないからだ。
彼らが集まった理由は神器の暴走を止めるではなく、この現状を見て出た意見を聞くためとなにか起きた際の対処の為だ。
だから彼らがどんな行動をしていても実際に動く神たちには関係ないのだ。
「いい加減にしないと俺の四腕が黙ってないよ!ヘルメス、《ファトムゲンマ》は治せそうかい?」
「無理だね~。レイっちの力で生み出したものだからさ~、僕をもってしてもお手上げ、だからいじりがいがあるんだけどね~」
「ホッホホッ、ではヘルメスよ、現状は何もわからないということかの?」
「とりあえず修理はレイっち以外は無理、でもこれによる影響はわかったよ」
そう言ったヘルメスはいつもの緩んだ顔を引き締め、垂れた目元も鋭くなった。
普段と違う雰囲気に四人の最高神を含めこの場にいる者はヘルメスを一心に見つめる。
「まずは他世界への影響は無い。ルルリアが管理してるここの並行世界は他世界にも若干関わっているんだけどさ、確認してみたら異変も何もないんだって」
その言葉に全員が顔を見合わせる。
世界を管理する神器の暴走しているにもかかわらず影響がない、そんなことがありえるのか。
そんな疑問が浮かぶがさらにヘルメスは言葉を続ける。
「そして神器の暴走はまだ続くよ。おそらくだけど機能は完全停止、下界を守る壁も修復に行けずに下界は崩壊に進んでいく」
「・・・まずいのう、神器が仕えんのなら生き物たちは」
「次元の狭間に放り出されるねぇ。助け出すまでにどれほどの魂が無事で入れるか、厳重に外側を見張るしかないわぁ」
「最後だけどこれが一番大変だ~。神具の暴走だけど、原因はルルリアじゃない。下界からの干渉で故意に起きたもんだよ」
『!?』
ヘルメスの言葉に全員が口をポカンと開け、もう一度頭の中で反芻する。
故意の暴走。
神器は神にしか扱えず、生き物たちが触れれば力の強さに押しつぶされる。
つまり
「堕神、または朧神が現れたということだ。それもレイヌが作った神器に干渉できる力を持った神が、な」
「「「女王!?」」」
最高神の5人同様にいつの間にか話を聞いていた女王は、ルルリアからキーボードを奪うと自ら操作しだす。
ルルリアはオドオドしながらも女王のサポートに着き新たにキーボードを取り出し操作する。
次々とモニターが消えるがそれでも手は止めずに操作を続ける二柱を周りはただ見つめることしかできない。
そして最後のモニターがレイヌを映した後、プツンと消え下界との接触は一切不能となった。
足は止まり話し声も止み、誰もがレイヌの写っていたモニターを見つめる。
先ほど女王が言っていた《堕神》と《朧神》、この二つの存在は神界に住む者にとって忌む名だ。
《朧神》
これは人間たちが生み出した神だ。
想いという物が集まってできた神であり、その時どのような存在を想ったかによって対処も違う。
慈愛に満ちた神を想うのならば、生み出した種族を守る善なる神が生まれ、悪行を身に宿した神を想うのならば、全てを破壊する悪神となる。
この場合、《朧神》の力は未知数で下界の住人ではどうあっても対処ができないため神が介入する。
そして《堕神》
自己が確立した神が意図して周囲に害をなした存在だ。
《朧神》とは違いハッキリとした意識、己の能力を把握している為にその被害は甚大になる。
その被害は時に下界が滅ぶことがあるほどだ。
そんな存在がいる可能性がある世界に介入ができない。
神界と下界、未曽有の危機が動き始める。
―――― 神様メモ ――――
イザナミ
日本神話において日本の大地を生み出した女神
イザナギの妻であり、自身の死後会いに来たイザナギに腐敗した身体を見られ、恥ずかしさのあまり追いかけまわしたとされる。
ヤム=ナハル
ウガリット神話の海と川を神格化した神
神話では主神に何度も殴打され、女神アナトに殴打され、死んだ後も生き返る対策に死体を檻に入れられた。
カーリー
これは有名、ヒンドゥー教における戦いの女神
血と殺戮の神とも言われ、とある戦いで怒り狂い大地を粉々にしたという。
しかし夫のシヴァが衝撃を和らげるためカーリーの足元に寝ころぶと、うっかり踏んだカーリーは
いわゆる「てへぺろ」をしたという。
なお本作品においてヤム=ナハルは亀の姿、カーリーは男性となっています




