42話 愛ゆえの恐怖
思っていることがある。
今の俺は、少々人間に甘いのではないかっと。
人間の国へと所属し、人間とばかり関わっている現状を見て、俺自身も否定できない。
俺にとって人間は愛すべき子供達ではあるが、存在する生物の一種であり、他の生物も同じく愛している。
それなのに今は人間の味方ばかりをしている気がするんだ。
確かに人間は俺と女王の姿形をトレースした存在であり、特別感はあるだろうが、それを言うならば昆虫や魚類、植物や動物たちなどは参考も無しに一から考え抜いた者たちだ。
彼らは等しく愛おしい。
彼らに優劣など付けられないはずだ。
ふむ、何の話か分からないと?
つまりだな・・・・・・・
「お前は、どこのストーカーの神だ!ディーを見ろ!あんなに怯えているだろうが!」
「呼びましたか?」
「呼んでない!」
茶々を入れてくるオンブルを追い返し、ギギギギィっとダリエラの頭を鷲掴む手に再び力を込めた。
そう、俺だって人間に怒る(フリ)ことくらいあるんだ!
事の発端はディーの起床から始まった。
「ギャーーーーーー!!」
迷宮内に響く悲鳴、決してかわいい声ではないくあきらかな成人男性の声だった。
リン、オンブル、俺の三人は優雅に朝の赤茶を飲んでいたが、突然の悲鳴に何があったと急いで男性テントへと向かった。
テント内の様子など知ったものか中へ飛び込んでみた光景は・・・・・。
「寝起き怖い目が怖い、寝起き怖い目が怖い、寝起き怖い目が怖い」
「・・・えっと、ディー?・・・私だけど?」
膝を抱え、端の方で掛布団代わりに使っていたタオルに包まるディーと、なぜこんなことに?っと疑問符を大量生産しているダリエラであった。
「お前たち何やってんだ?」
「若い男女が同じテントに、ですか。どうやら襲われたのはディランのようで」
「襲われた!?ダリエラさんにですか!そうなんですか!」
双方今の状態では話になりそうもないのでそれぞれ離し、個別に事情を聞いた。
「ディー、おいディー。聞こえるか?」
「覗いてくる、黒い目が。俺を、俺をジッと覗いてくるんだ・・・・」
「しっかりしろ!」
錯乱しブツブツと呟くディーに、一発バチンとデコピンを食らわせてると、ようやく俺に気づきワンワンと泣き出してしまった。
「レイヌさん、俺怖かった、怖かったよ~!!!」
「お~、よしよし。なんか知らないがとりあえず今は泣け」
大の大人が15歳の青年に縋りつく姿は、傍から見たらなんとも情けなさそうだな。
ディーはしばらく泣き続けたら落ち着いたらしく、涙や鼻水でぐしょぐしょになった俺の軽鎧を見てすまんっとハンカチを差し出してくる。
というか、俺の鎧がほとんど服になっているんだが?
いつの間にか線維化が進んでおり、全体の6割ほどが浸食されている。
おっと、詳細はひと段落すれば調べるとして、とにかく今はディーに集中しよう。
途切れ途切れに話す内容は時系列がバラバラで、何度も聞いて最終的にたどり着いた内容は、
ディー起きる
↓
目の前に自分を覗き込み微動だにしない影が!
↓
あまりの恐怖に取り乱した
うん、原因はダリエラだな。
俺の回答に満足いったようで、しきりにウンウンと腕を組み頷いているが
「さすがに怖くなって錯乱って少し情けなくないか?お前金ランクだろう」
「たとえ金でもお化けはこえぇよ!そんなもんいないってわかってるけど無理なもんは無理!」
そう、この世界には幽霊は所謂伝説や御伽噺などの作り物として語られている。
その流れから、死んだ人間や生物を元に生まれる不死者も存在しない。
昔はいたんだが、話が長くなるからまた今度話そう。
つまりは普通この手の話に怖がるのは小さな子供くらいなもので、現実を見てきたある程度の大人は「え?幽霊?馬鹿言ってないで酒でも飲め!」と酒の肴にもしない。
「そうか・・・・おまえって意外と、でもないか。純粋だったんだな」
「何だか知らねぇけどさ、その優しい目やめてくれねぇか?」
頭を撫でてよしよしと慰めてやろう。
さて、事情はわかった。
後は元凶を潰すだけだ。
「っというわけでダリエラ!今すぐ正座しろ!」
「・・・し、師匠。・・・頭を掴んだら、正座できない」
「心で正座だ、拒否権はない」
ガシリとダリエラの頭を掴んだ俺は数mm床から浮かせて無茶な要求を言い放つ。
自分でも理不尽なことは分かっているぞ?
「ディーを見ろ!あんなに怯えてかわいそうに」
「止めてくれレイヌさん。さすがに恥ずかしくなってきたぜ」
「あんなに泣きじゃくるディーなど、俺は見たこともないぞ!」
「止めてくれーーーー!!」
また泣きそうになっているからからかうのはここまでにしておこうかな。
「で、なんであんなことをした?あぁ、そのままの状態で話せ」
「・・・い、言えない」
ついでだからこのままこの二人を意識させちまおうと思っていたんだが、まさかこいつ、ここまでしといてまだディーへの気持ちがバレてないと思ってんのか!?
ここで驚愕の真実、「寝顔に見惚れてました」なんて言ったら確かに恋心が露見しちまうが、この場で知らないのは本人だけだろう。
あんなに寄り添っていながら誤魔化せている気だったとは・・・・・。
俺はダリエラをそっと降ろし、流石に無理があるぞと伝えようとするが。
「我が主様、あまりこういったデリケートな問題の急展開は避けたほうがよろしいかと」
「ダメか?このままだと最終的にディーがダリエラに刺される光景しか浮かばんが」
「人間の男女の機微とは難しいのです。私もさすがにイラッとくるほどの奥手ですが、ここは慎重に」
「えーと、すみません、私もそう思います」
女性陣二人に反対された。
まさかオンブルが口を出すとは思わなかったが、そうか、人間の恋とはそんなに複雑か。
下手に言葉を持たせたのがいけなかったのか、感情豊かにしたのがいけなかったのか。
想い一つ出せないとはな・・・知識として知ってはいたが、こうして体験すると様々な俺の未熟さが浮き彫りになっていくな。
結局途中で起きたオンブルのセクハラにより事態は有耶無耶になったが、お前が有耶無耶になるなディーよ。
こっちから助けた方がいいんじゃないかな。
いや、手出ししない、だから決死の姿で行く手を阻まなくてもいいんだぞリン?
時計を見るとすでに天の刻3時。
外の天気は分からないが過ごしやすい気温ではあるだろう。
朝の騒動が終わり、迷宮核(偽)と転移陣の調査が終わりとうとう脱出となったわけだが、このままだと駐在騎士共が宴を始めそうだなぁ。
食事と酒、どうやって断ろう。
「いよいよ帰るのか、久しぶりの太陽が待ってるな!」
「ここは光源が少なかったですから、光を体いっぱいに浴びたいですね」
「・・・もう暑いのはいや」
それぞれ地上に向けて期待を膨らませているな。
迷宮の完全攻略という偉業を成し遂げたんだ、待っているのはそれだけじゃないぞ。
今回の収穫は全階層の地図、採取・収穫物、魔物のレポート等が《無減収納》にぎっしり詰まっている。
これを参考に全大陸の迷宮攻略がはかどればいいんだが。
「皇帝陛下直々の依頼ですから、褒美も報酬もすごいことになりそうですね。ここから得て物の売却も考えると、一生贅沢して生きていけるでしょう」
「怖いこと言うなよ」
やばい、金銭についてはすっかり忘れてた。
ただでさえ《死の魔物大行進》と《修行旅行》で得たものの買取額を受け取ってないんだ。
ここでさらに金が入るとまた忙しくなるぞ。
「あぁ、帰りたくない」
「あははは、レイヌさんが子供みてぇなこと言ってるな」
「・・・私は早く帰りたい。・・・たぶんこれだけのことしたからランクも上がる」
はぁ、最後の最後で俺が足止めしちまったか。
わかった、帰るからそんなに押さないでくれ。
「え~と、陣の使い方は~」
「陣の上に載って『帰還』と唱える、だ。」
「なぁ、どうせなら全員で唱えねぇか?どうせ記念だし」
「・・・私は賛成」
満場一致で可決された。
なんというか、お前たち元気いっぱいだな。
そうと決まれば早い、すぐに全員転移陣の上に乗りいつでも準備万端だ。
「さて、帰るか。せ~の!」
『帰還!!』
こうして俺たちは地上へと帰った。
リン 「レイヌ様、ずいぶんとディランさんの味方に付いてましたね」
レイヌ「気持ちは分かるからな、あいつのせいで・・・」
リン 「あぁ~~~(ちらりとオンブツをみつめる)




