FS03 腐っていく王都(メイトラ視点)
タイトル表記を「閑話」か「FS」で悩みましたが、関係性が深いことからこっちにしました。
イビルアル王国・王都スタンエイは自他共に認める学園都市である。
この国の特徴からの呼び名であり、国民からも誇らしいとの意見が出ている。
学ぶことを第一に考え、知識こそが最大の財産であると豪語するイビルアル王国が、歴代の国王によって作り上げてきた王都を堂々と誇れることからも、国民の愛国心が深いことも各国の共通認識だ。
そして「学園都市」という名前の由来にもなり、国王から平民まで特に誇り、大切にしてきた場所が、大陸唯一の大規模学園『エッソン学園』だ。
エッソン学園には7歳から入学ができ、初級科、中級科、上級科と上がっていく。
学部も複数に渡り、年々増減を繰り返しているので事前に問い合わせが必要になるほどだ。
中でも創設当時から存在する『貴族部』『冒険部』『生産部』は人気が高く、入学に身分不要、入学金も安価なことから試験に落ちる者も大勢いる。
その場合は他の学部に応募もできるので諦めて実家に帰る者は意外と少ない。
レイヌの婚約者メイトラ・レイオットも『中級科』に通っており、今年の四月からは『上級科・貴族部』に進学する予定だ。
校則である『身分の誇示や提示を禁ずる』によって様々な人との関りをメイトラは非常に気に入っており、長期休暇時には帰国するか学園の寮に残るか、毎年頭を悩ませたりしていた。
まぁどれほど悩んでいても父親からの「帰って来るよね?帰ってこないなら泣き崩れます」の意味がこもった悲しい脅迫状、もとい家族からの温かみのある手紙によって結局帰国するのだが。
オルバと本部長との会談から時は遡りエッソン学園廊下にて、メイトラの気分は海の底よりも深く下がっており、ひたすら帰りたいと思うようになっていた。
しかし国から国の移動は定期であるためなかなかタイミングが合わない。
「はぁ・・・・」
メイトラは深いため息を吐きながら次の講義に行くために長い廊下を進んでいく。
どんな素材で作られたかは分からないが本来僅かに暖かい床が、今ではとっても冷たく感じる。
ついこの間まで一緒に教室まで向かう学友がすでに国外へ避難したことも要因の一つだろう。
賑やかだった学園は、今では静かで寂しい牢獄となっていた。
「イヒヒヒ、ずいぶんとなが~いため息だねぇ」
「・・・マスカさんですか?お恥ずかしい所をお見せしましたね」
反対側から歩いてきた中級科でクラスメイトのマスカに偶然出会うとメイトラは少しだけ口角を上げたが、漂う雰囲気は変わらず暗いままだ。
「いや~、僕だってため息するんだからお互い様さぁ~。最近は特に・・・・ね」
「そちらもですか」
引きつけるような笑い方や目元を隠すボサボサの髪で、一見何かを企む怪しい人物のように見えるマスカ男子だが、その実は友達思いで気遣い屋であるため、メイトラのように初級科からの付き合いがある人からは信頼されている。
ただし初見からは全力で引かれるが。
「勇者だか何だかしないけどねぇ~、あいつのせいで魔族はみ~んな休学して出てったし、今じゃぁここから逃げようにも出国検査で連れ戻されるからねぇ~」
「このようなことになるなら国に留まっていればよかったです」
「そいつぁ~仕方ないさ。ここまで悪化したのは休みが明けてからだしねぇ」
休暇中に召喚された修一により元々王都全体がピリピリしていたが、数週間前に出された魔族除外令という時代錯誤もはなただしい差別的な法により、不満が爆発寸前にまで膨れ上がっていた。
だが爆発前に修一によって物理的に抑えられ、方向性を失った不満は国からの集団逃亡にまで発展した。
しかしそれさえも修一による「サコク令」で困難となり、もはや王都の治安は現在進行で悪化していく。
さらにメイトラには最悪なことがもう一つあった。
「おまけにあの勇者から「結婚しろ」ですもんねぇ~。婚約者がいるというのに、何を考えてるんだか・・・・」
「言わないでください、思い出しただけで発疹が出ます」
修一がエッソン学園に視察という名の奴隷探しに来た際、運悪く授業中の姿を見られ求婚をしてきたのだ。
すでにレイヌと婚約を結んでいたメイトラが断ると、勇者に逆らうのか!と無理やり連れだされそうになったが、勇者の従者である健治たちによって事なきを得た。
それだけでも十分な常識も礼儀も何もない野蛮人の印象であったが、彼女の目の前で繰り広げられた健治たちの公開処刑ともいうような修一の暴力に、恐怖と嫌悪感がこみ上げ拒否反応まで起こすようになったメイトラ。
「魔族がやってた店も全部閉店したしなぁ~。色々と物価があがってるよぉ。聞いたかい?低品質の赤茶の茶葉が一袋銀貨1枚らしいよ。まだまだ上がりそうだしヤだねぇ~、お気に入りの屋台ももうないよぉ・・・」
「銀貨って・・・学生向けの安価だったはずなのに」
およそ10倍にまで上がった物価に青ざめる。
魔族が営んでいた店が軒並み閉店したため需要と供給が追い付かずに起きた高騰だが、うわさを聞き付けた商人は王都を避けているため今だ上昇中という悪循環に陥っていた。
「そういえばマスカさんはなぜここに?確か魔法学の講義は無いはずですが」
「イヒヒヒ~、警告にきたのさぁ~」
「警告ですか?」
「次の講義はいかないほうがいいよぉ、アウホーイと愉快な仲間たちが退学から復帰して今教室にいるらしいからぁ」
「退学から復帰って・・・何をどうしたらそんなことができるんですか・・・」
アウホーイと呼ばれる少年は所謂腐った貴族の子息であり、いじめや脅し、傲慢な態度を何度注意しても聞かずに繰り返し去年退学となった元生徒である。
「どうやら彼の親が一部の教員たちを脅したらしいよぉ?お仲間もご一緒に既にやりたい放題だってさぁ」
「なぜ理事長は黙認をしているんですか!このままでは内からも外からも腐っていモガモガー!」
あまりの事実に声を荒げるメイトラの口をマスカはすぐに両手で押さえる。
ただでさえ彼女たち以外誰もいない廊下だ、その声は予想以上に響いていた。
「あんまり大声だと聞かれるよぉ!あと黙認じゃないさ、理事長も調査はしてるけどど~しても証拠が出ないんだってさぁ」
「す、すみません・・・・マスカさんのご実家が協力してもですか?」
マスカの実家は情報屋で噂話から大事件まで様々な情報を仕入れている。
先ほどからなぜ知っている?と感じるほどの事実も、彼が学園の内部調査を行い、実家と頻繁に連絡を取り合っているからだ。
「脅されてるって言ったろぉ~。被害者も口を開かないしもう一度退学しようにも、ど~せまた戻ってくるし、脅された教員がいろいろなところで邪魔してるんだってさぁ」
「相も変わらずそちらの方にばかり頭が回る人たちですね・・・脅して操り人形を増やしていっているのですか」
「同感さぁ。とにかく講義は行かない方がいいよ、今日だけじゃなくてねぇ」
「うぅ、アルバへ帰りたいです」
「僕はここが出身だからねぇ、逃げ場があるなら逃げた方がいい」
二人してますます暗くなっていく。
廊下の窓から入る日差しを受けてもそこだけ日陰になっているようだ。
メイトラが逃げて捕まれば確実に修一が出しゃばってくる。
良くて死、悪くて奴隷のギャンブルなど絶対にやりたくはない。
「あっれあれ~?授業中じゃないのかな~?勉強しない子はお姉さんが怒っちゃうぞ~♪」
そんな雰囲気をぶち壊す、無駄に明るい声が聞こえ慌てて振り返るとピンク色のヒラヒラな服を着て大きなヌイグルミを抱きしめる小柄な女性が頬を、膨らませながらこちらに近づいてきていた。
「これはこれは~、水晶ランクの冒険者じゃないかぁ。どうしてここにぃ?」
「あ、キューテさん!お久しぶりです」
「むむむ!誰かと思えばメーメーちゃんにマーちゃんだ!おっひさー☆」
明るいを通り越してうざくなるテンションだが、今はこれほどありがたい存在はいないだろう。
二人の事も職業柄関りが深いため知っている。
「ここに来た理由はねー、変な噂聞いたからアルバに行く前に寄ったのだ!いやー、噂以上にひっどいね☆」
「アルバへ!?でしたら私も連れて行ったください!」
「待ちなメイさ~ん。予約してなければ乗れないよぉ?」
「そうそう!それともメーメ―は自分の為なら他の人が迷惑しようともいいのかなー?」
メイトラは思わぬチャンスに我を忘れてしまったが、マスカとキューテに叱られて戻りたくもない現実に戻り、「申し訳ありません・・・・」と消えそうな声で謝罪した。
「うん!素直に謝れるなら許そう!」
「ですがキューテさん、どうにか彼女だけでも逃がすことはできませんかぁ?貴女が付いていれば道中も安全だから今がチャンスなんだよねぇ~」
「無理!私が乗る便も予約一杯だから☆。でもー、万が一を考えて次の便の予約も取ったんだ。それなら譲れるよ?」
「本当ですか!?」
「キューテちゃんは嘘つかなーい!」
嘘臭いセリフである、一応予約は本当なだけに余計にうざい。
「万が一って貴方ほどの方がですかぁ?」
「なーんか知らないけどさー、勇者ちゃんは冒険者と傭兵が嫌いらしくてね。ゴタゴタがあったらー、と思てね!」
どうやら修一は魔族だけでなくギルドにまで敵意を出しているようだ。
これでは経済だけでなく王都の防衛も悪化するだろう。
何せ魔物や魔忠の専門科たる彼ら、もしくは彼女たちを理由なく害すれば王都からきれいにまとめて居なくなるのだから。
「え~と、では私は次の便で出るとして・・・・キューテさん、お父様に伝言をお願いできますか?」
「ん~だったら僕もいいかなぁ?知り合いに届けたものがあるんだぁ」
「いいよ!二人なら激安にしてあげる!」
やはり冒険者のトップ、そこはきっちりしているようだ。
それぞれの相手への伝言を伝えているとやたら挙動不審な事務員が廊下に顔を出した。
こちらに気づいた事務員はなにやら必死の形相でこちらへやってくる。
ハイヒールで全力疾走とは、どこかこなれた様子がある。
「はぁ、はぁ、メイトラさん・・・す、ぐに・・・」
「まぁまぁ落ち着いて☆。ほらおみずー」
「ありが、とうござ・・・・キューテ様!?」
キューテの存在に驚く事務員だが、どうして驚いたのか。
学園に入る時点で受付をするはずなのだが、彼はどうやって入ったのか・・・・。
「そんなことよりメイトラさん!」
「そんなことって言われちゃった。キューテちゃん悲しい!」
「イヒヒヒヒ~、全然悲しそうには見えないんですけどねぇ」
「メイトラさん!今すぐ理事長室へ隠れてください、勇者が来ます!」
「「「!?(うへー!)」」」
二人は驚きに目を見開き、キューテに関してはあったこともないのに声に出して拒絶する。
「理事長もすでに待っています、すぐに!」
「わ、わかりました!」
(レイヌ様・・・・私は必ず無事で戻ります)
事務員と共に走るメイトラを見つめる残った二人もいそいそと身を隠し始める。
もはや勇者の称号は「威厳や賞賛」の代名詞ではなく、「侮蔑と増悪」の代名詞へと変貌し始めていた。
メイ 「マスカさんはなぜ目元をお隠しに?」
マスカ 「いいだろぉ~?謎めいててさぁ」
キューテ「突然の神風にゃ☆(バサッ!)」
マスカ 「え?う、のわぁぁぁぁぁ!!」(蹲るマスカ)
メイ&キューテ 「・・・・おぉ~」(なぜか感心の吐息)
果たしてマスカ君の素顔とは!




