36話 紅蓮の迷宮 12
データを間違えて消しても挫けませんでした!
今回は第三者視点です!
紅蓮の迷宮の二十五階層、誕生してから誰も足を踏み入れたことのない領域。
この階層を例えるなら水族館、ただし水ではなく触れれば焼け落ちるマグマだが。
地も、壁も、天井もマグマでできたこの階層は歩くだけでも重症を負うが、それだけではなく徘徊する魔物も全て「ランク外」と呼ばれる物ばかり。
この階層を突破するには熱や火に対する耐性スキル、それも熟練度が高く複数を所持していなければならないだろう。
しかしこの世界の平均寿命は短く、その領域まで上り詰める頃にはその者はすでに攻略の前線を脱し隠居いしているだろう。
この世界の住民がここにたどり着くまでただひたすら何も変わらず、今までと同じ光景か繰り返される。
それがいったい何年後か、はたまた何百、何千と年月をかけてかはわからないが、迷宮は牙を研ぎ続けていくだろう・・・・・・と思われていた。
しかし現在、過去見たこともないような変化があちこちで起き始めた。
人間の過去最高到達階層をあっさりと超え、大昔に偶然迷い込んだ魔獣がその終わりを迎えた十五階層も超え、そして今この二十五階層にて暴れる者が全て関わっている。
バァン! パァァァン! Glaaaaaaa!
なにかが破裂する音、本来この階層には聞き覚えのない魔物の怒号。
意思を持たず、ただ命を狩る役目をもつ他の魔物たちは騒ぎを聞きつけ、騒動の中心へと集まるが、その者による攻撃の余波で片っ端から滅んでいく。
「チッ壁が邪魔だ!なぜ「さっかー」をしながら迷路をしなければならないんだ!」
暴れる者、創造主長レイヌは悪態をつきながらも動きは止めず正体不明の魔物を蹴り飛ばしていく。
その後ろには魔物の死体が点々と転がり、どこを通ってきたかありありと見て取れる。
死体はしばらくするとズプリと床や壁に吸い込まれ、掃除の必要も邪魔にもならず非常に便利そうだ。
迷宮は-のリソースの保存場所も兼ねているゆえに、その塊である魔物や感情を持つ生命体の死体、装備品に至るまで全てを吸収し、新たな魔物、環境を維持し続ける。
ただ他の迷宮でもそうだが、吸収には時間がかかり死んでから最低でも30分はそのままの状態でその場に残る。
バシャン! Gaaaaaa!
レイヌの捻りを加えた蹴りを受けた魔物がマグマの壁へと衝突し、周囲に飛び散るが、周囲の温度により瞬時には固まらずに高速移動するレイヌに襲い掛かった。
が、体に触れる前に腕を振り、防具にも服にも焦げの一つも付かない。
「くそ、道を間違えた。脳内地図を見ながらの全力は負担が大きすぎるぞ!」
行き止まりにたどり着くと、二十階層から一度も地へ触れる暇もなく飛ばされ続ける魔物を追い越し、月当たりの壁に足をかけると強く踏み込み、向かってくる魔物を蹴り返す。
双方の速度を考えるとこの一撃で頭部が飛び散ってもおかしくはないのだが、理から逃げ出した魔物には傷も汚れも付かず、ただただ状況に流され続けるしかなかった。
もちろん魔物もただ強制的に飛ばされているわけではない。
時に火を吐き、時に噛みつき、腕を、足を、尾を振り回し、己を害そうとしているレイヌを何度も殺そうとするが、どれも躱され、潰され、受け止められて全てが無駄となり再び飛ばされる。
ドン! パン! GaaAlaaLAAA!
GrooOooo! バチィィィン! パァン!
どれほどの時間が過ぎたのだろう、次第に音が遠ざかっていく。
しかし音は消えても戦闘は終わらない。
今はただの移動中なのだから。
彼と魔物が向かう先は最下層、そこで決着は着く。
そこまでは殴る、蹴る、飛ばすの作業の繰り返しになるだろう。
そしてついに二十五階層から音が消えた。
― 紅蓮の迷宮 三十階層 迷宮主エリア ―
たどり着いたのは紅蓮の迷宮最下層、迷宮の主が住むエリア。
ここは上層とは違い流れるマグマも溶岩が落ちてくる事もなく、洞窟でもない。
下を見れば姿が写るまで磨かれたような石畳、横を見れば不気味だが繊細な彫りが施された柱や、景色が一切見えない大きな窓がいくつも並ぶ。
上を見れば等間隔でぶら下がるシャンデリアから淡い光が降り注ぎ、辺りの視界は確保できる。
「おらぁ、到着だ!」
罠もない、魔物もいない、迷宮主もいない空間に現れたレイヌの後ろから、仲良く二十階層から共に来た魔物が階段を転げ落ちてくる。
計10回目となるこの光景だが今回は様子が違う。
落ちてくる途中の、魔物は傷は一切なく暴れていただけであったが、地面に叩きつけられると「Galo!?」っと苦しそうに呻いた。
「やはりな、最下層だとお前は無敵にはなれないだろ?」
どうやらレイヌは原因が分かっているようだ。
そう、彼はここまでただ魔物をボール代わりに遊んでいたわけではなかった。
確固たる目的にそった行動であり、今その行動が報われる。
「途中でまさかとは思ったが、最下層でダメージが通ったか。なぁ、一応言っておくか?「おかえり、迷宮主」」
その言葉と同時にレイヌの目の前にいままで発動しても意味がなかった《鑑定》が魔物、変わり果てた「迷宮主」の情報を映した。
【《紅蓮の迷宮主》 (元)炎塊暴君竜】 ランク不明
ドラゴンの形はしているがその正体は蠢く炎の塊。
常に高速移動する炎は近づくだけで消し炭と化す。
出てきた結果は間違いなく迷宮主だ。
しかし説明とは違い、目の前の迷宮主は炎のような無形物体ではなく確かな肉体を持っている。
おそらく魔石だけでなく、上層で出会った他の魔物の体を吸収したせいであろう、【炎塊暴君竜】としての能力は大半が失われているが、代わりに吸収した魔物の能力が仕えそうだ。
さらりと説明したが魔石を喰らうことはもちろんだが、魔物が魔物を吸収するという現象もこの世界にはなかったこと。
はたして迷宮内だけなのか、それとも地上でも同じことが起きるのか。
場合によってはレイヌも休暇の代わりなどとは言ってはいれないだろう。
「どれほど喰ったんだ?体だけじゃなく能力まで変質している可能性もあるよな」
初めてのダメージらしいダメージからようやく立ち直った階層主は、二本の脚・・・・いや、すでに三本となった足で立ち上がりなにやら胸を膨らませる。
その間にも階層主の体は次々と変化し、今では鼠のような頭が追加され、羽は一対、羽毛まで生え始め、今は辛うじて元は竜だろうか?と予想するしかないほどの姿となった。
変化により骨が軋み肉が裂ける音が響くが、レイヌは一切臆さずににやりと口角をあげる。
「でもな、どんな能力を持ってようが・・・・・・使う前にやられれば意味ないよな!」
その手には先ほどまで持っていなかった弓が握られ矢を構える。
その間に階層主は準備が終わったのか、四つの手に高密度の魔力が溜まりレイヌに向けられる。
最初に動いたのは階層主、四つの手の平から四色の炎がレイヌに放たれ、すかさず何かを吐き出そうとしているのか三つの頭が後ろへのけ反る。
だがレイヌもわざと攻撃を受けるつもりはない。
放たれた一本の矢は空中で四つに分かれ、襲い掛かる炎に向かっていく。
それぞれの炎を矢が霧散させるが勢いは止まらない。
炎を狙った矢は途中で軌道を変え、四本の腕の付け根へ突き刺さった。
と同時に四つの頭から何かが吐き出さ・・・・・れなかった。
四つの口が漆黒に染まり、いざ来るぞ!という途端に殴られたかのようにガッチンと口が閉じられ飛び出すはずだった何かが口内ではじけた。
その正体はレイヌが放った二本目の矢だ。
最初の一本を放つとタイムラグ無しに放たれた矢は霧散された炎により隠され、気づかぬうちに頭部へと到達していた。
攻撃を無効化された階層主の頭部は竜だけとなり、残りの三つの頭部は口内爆発により爆散し肉片と血液が降り注ぐ。
残った竜の頭部も当然無事なわけはなく、下あごは無くなりドボドボと血液が流れている。
Ga・・A・・Aaa・・・・A!
まともに喋れない階層主はすでに攻撃の手段をいくつも奪われたがそれはレイヌも同じ、彼の足元には木くずと鉄片が散らばっていた。
どうやら先ほどの遠距離攻撃に弓自体が持たなかったようだ。
ベリアルの秘蔵鉱石をふんだんに使った弓二つをダメにしたが、階層主にここまでの痛手を与えたのだから十分見合った犠牲、いやむしろ結果に対して少ない犠牲だ。
「あぁ、そうだよな。このままじゃ終わらないよな」
そうつぶやくレイヌの目の前で階層主はさらなる変化を果たす。
墳血を散らす三つの頭部があった場所からは触手やいくつもの毛の抜けた獣の頭部が生え、矢が刺さる腕はボコボコボコと膨らんでいく。
「お前なら実験台にはもってこいだろ?《合成》《鎖縛封・四素》」
物質や魔法を合成させる《合成魔法》を使い、既存の四つの魔法を《合成》すると階層主の足元から赤・青・茶・緑の色をした四つの鎖が石畳を砕きながら上へと向けて現れ、迷宮主の体を締め上げた。
迷宮主は逃れようと抵抗するがギシギシと鎖が鳴るだけで外れる気配はしない。
果たしてこれがレイヌの試したかったことなのだろうか?
確かに魔法の合成は過去を合わせても成功者は少ないが、別に人目に注意しなくてもよいと思うのだが。
「そんなに暴れるな、下ごしらえは終わりだよ」
どうやらまだ始まってもいないようだ。
何をするかと思いきや両手をダランと垂らし、構えを解く。
一見戦いを諦めたかのような態度だが、その状態で何をするのだろう。
『・・・・私はいつも見つめていた。貴方の傍で見つめていた。無垢なる時も、穢れたときも、常に隣へ佇んだ』
一時の沈黙の後にレイヌは口を開き、なんと《詠唱》を始めた。
レイヌ本人が言ったように《詠唱》とは魔法のイメージをより具体的にするための補助効果でしかなく、魔法を使いこなせれば唱え無くても問題ない。
そしてレイヌは数種類の魔法を高い熟練度で習得している。
《詠唱》の必要はないのだが、それは一般的な魔法の話であることを忘れないで欲しい。
レイヌには彼専用の魔法があることを覚えているだろう?
そう、《神魔法》だ。
この魔法は他と比べいくつもの違いがある。
効果が桁違いであることはもちろん知っているだろうが、魔法発動にも特異性があった。
この《神魔法》を発動するためには発動前に目の前に現れるレイヌにしか見えないモニターから選ぶ必要があった。
イメージと運用する魔力があれば使える一般の魔法とはこの点で大違いだ。
さらに違う点は《詠唱》により威力・効果が上がること。
《神魔法》にいたっては《詠唱》そのものに力が宿り、魔法名のみの場合は最小限の効果しかない。
このことには最初の頃に気づいていたが、最小限でも別次元の威力があったので使用を躊躇っていた。
だがちょうど別空間で被害が漏れにくく人目のない現状を利用して試してみようとしているようだ。
『貴方は気づかないだろう、私がいることを。貴方は気づかないだろう、私が見ていることを』
頭と耳の両方から聞こえるような声を発しながらも《詠唱》は続く。
《鎖縛封・四素》から逃れることができない以上、迷宮主もただ自分が殺されるまでのカウントダウンを聞くしかないだろう。
そもそもどれほど時間がかかるかはわからないが。
すでに勝敗は決したと見てよいだろう。
『貴方の目の前に私は存在し、貴方の後ろに私は・・・・・ゴハッ!』
しかし《詠唱》は中断された。
何故か鎖から抜け出した階層主によって。
今度は自分が飛ばされながらもレイヌは驚愕していた。
なぜ・・・・と。
ちなみにレイヌ達が迷宮内で解体していた理由は吸収される前に素材を回収したかったからです。
吸収されたら魔石しか残らないので。
ピシッ




