35話 紅蓮の迷宮 11
迷宮編、いつまで続くのでしょう?
私にもわかりません!
熱気と土埃で視界は遮られているが、その向こうで魔物が暴れることが地響きによってありありと伝わってくる。
俺は大太刀を鞘に戻し、リンたちに合わせてOFFにしていた《環境適応》を発動させ魔力壁の外へと出た。
通り抜けるために開けた魔力壁の穴を塞ぐと我に返ったリンとディーが俺を連れ戻そうと必死に壁を殴るが、手を傷付けるだけでヒビすら入らない。
「なにやってんだよレイヌさん!戻れよ!今なら逃げきれんだろ!」
「無理だ。さっきまであれは翼も魔力も使わないで追いついたんだぞ?その気になれば一瞬でつかまるだろうな」
「じゃぁ俺もいく!俺だってただ喰われるわけにはいかねぇ、無駄あがきに付き合うぞ!」
俺はそこまでだという意思をこめ、ディーの前に掌を向けると、ついでに破壊された魔力壁を修繕した。
「悪いが無駄あがきじゃない」
「へ?」
「あれには確かに攻撃が通らないようだ。だが俺の攻撃を受けて吹っ飛んでいった」
無傷だった原因はすでにいくつか候補は出ている。
その中でも一番高い可能性を解決するには別に今ここで倒さなくても問題はない。
「ダメージは入らなくても衝撃が入るのなら、勝算はある。けどな・・・・」
「私たちが一緒ではダメですか?」
「お前たちにはまだ早い」
冷たい言い方だが許してくれ。
ご機嫌取りだと思われそうだが、残っていたポーション類はすでにオンブルに全て渡してある。
彼女も合わせて何かあっても地上には帰ることができるだろう。
「あとは任せたぞオンブル、それからそれもな」
彼女の頭上に浮く球状の物体の操作権限をオンブルに移すと、返事も聞かずに走り出す。
いつまでもあの場にいると水掛け論が延々と続きそうだからな。
Glaaaaa!Gyuluuuaaaa!
走る勢いをそのままに、自身の手足に身体強化を集中的にかける。
全身を強化するこの魔法は、効果を限定するとその箇所以外は素の状態になるが、強化部分は通常よりも高い効果がある。
この裏技を知る者はどうやらいないようだが、昔も気づく者は多くはなかったから特に広めようとは思わない。
強化された手足と音速程度の助走を掛け合わせた打撃はさぞ飛ぶだろうと、咆哮をあげ我武者羅に暴れる魔物の懐へと近づき全力で拳を突き出した。
パァァァンっと殴ったようには思えない音を出した攻撃は見事に魔物を飛ばした。
「こういうときは「ホームラン」っと言うべきだったかな?」
この世界に降りてから初めて全力をだしたせいか、思わず独り言が零れる。
もちろんこのままでは終わらない。
かなりの速度で絶賛飛ばされ中を追い越し、地下への階段の正面まで止まる。
そして俺、魔物、地下入口と直線で繋がったところで今度は地下入口へと目掛け蹴り飛ばした。
「「ゴール」。いや、まだ続くから少し違うか」
もしも魔物に意思があるなら今頃は大混乱だろうな。
なにせ痛くもかゆくも無いのに無理やり身体を動かされているのだから。
まぁ魂が無い魔物が意思を持つことなんてないがな。
吸い込まれるように地下入口へと入っていく魔物を見て、また独り言が出てしまった。
どうにも最近は感情が高ぶると呟いてしまう、気をつけよう。
その前に魔物を追いかけなくてはと俺も地下へと降りるが、途中で立ち止まりそっと壁に触れる。
あの魔物が空間を破壊したおかげですんなりと送り返したがこのままにもしておけないよな。
だが空間魔法は修繕には向かず、だからといって神魔法もこの不安定な状況なら使うべきではないだろう。
代わりに魔力壁をこの通路を塞ぐように張り、他の魔物が通らないようにすると再び階段を降りて追いかけた。
――― リングラット・ラブリカ ———
レイヌ様は行ってしまった。
私たちにはどうすることもできないと分かっていても、せめて見送りだけはと思っていたのですが、そんな暇もなく目の前から消えました。
「・・・・・みなさん行きましょう」
「おう」
もはやここに残る意味もないので振り返り上への階段まで走ります。
凍っていた地面も今では溶け、走りやすくなりました。
「意外でしたね」
隣からの声にそちらを見るとダリエラさんを背負ったオンブルさんがこちらを見て微笑んでいます。
このお人は普段大人しくしていればとても綺麗な女性なのですが、突拍子もない行動で台無しなんですよね。
勿体ない。
「何が、ですか?」
「私はてっきりあの場所から動かず我が主様を待とうとするかと思っていたのですが」
「さすがにそこまで考え無しではありませんよ、私も、ディランさんも」
正直に言えばそんな考えも頭の片隅にはあったのですが、私個人ならばともかくパーティーを組んでいる今としてはわがままで周りを危険にさらすような真似はしません。
これでも金ランクですから。
「場合によっては縛ってでも連れて行けるよう用意したのですが」
そう言うとオンブルさんはどこからかずるりと一本の縄を取り出してちらりとディランさんと私を交互に見つめてきました。
ディランさんはなにか思い当たる節があるのか、顔を青くさせて「折檻は嫌だ折檻は嫌だ・・・・」と呟いているのですが、少し気持ち悪いです。
「万が一を考えて地上の騎士の方々に警告をしなければなりませんし、何より・・・・」
「何より?」
「・・・・あの方の期待を裏切りたくありませんから」
私の言葉に反応したディランさんは「そうだなぁ」と共感してくださいますが、まだ顔が青いですよ?
「期待ですか。我が主様は貴方たちにそんなことを言ったのですか?」
「はい、ついさきほど」
思い出すのは飛び出す前のレイヌ様のお言葉。
あの言葉があったからこそ私もディランさんも迷わず即座に逃走の行動がとれたのです。
「ほぉ、あの言葉にそんなそのような意味が?」
オンブルさんはまるで気づかなかったような口ぶりですが、その安堵したような微笑みを見ればわざと聞いてきていることがありありと伝わってきました。
まるで答え合わせをしようとしているような、試されているような、ほんの少しムッとしたことは内緒です。
「あの時レイヌさんは言ったじゃねぇか、「お前たちにはまだ早い」ってよ」
「そうですね、我々は足手まといだと若干遠回しにですが言われてしまいましたね」
「いや、それだけじゃねぇ。「まだ」なんだよ、俺達が足手まといなのは」
そう、レイヌ様は「まだ早い」と言ってくださいました。
今の私たちにはいろいろと足りないものがありますが・・・・・
「・・・今は無理でも先がある。・・・私たちは師匠に期待されてる」
「おや、起きていたのですか?」
「・・・ずっと」
どうやらオンブルさんはダリエラさんに気づいていなかったようです。
レイヌ様が飛び出した時にはすでに眼が開いていたのですが動こうとしなかったので、私もディランもそっとしておいたのですが。
ふふっ、オンブルさんもダリエラさんに気付かないほどレイヌ様の事が心配だったのですね。
「あ~、リーラに言われちまったがそういうこった。あんなこと言われたら大人しく逃げるしかねぇよ」
い、今リーラって、リーラって愛称で呼びました!
「美強?」
「え?あ、そ、そうですね。見下されたわけでも、見放されたわけでもなく「期待」だったからこそできたことです」
危なかったです、今は恋バナに夢中になっている場合ではありません。
それにしても、やはりレイヌ様はお優しく、そして卑怯ですね。
言い回しにしても私たちなら意味をくみ取れると踏んでのことでしょう。
金ランクになると貴族からの依頼も多くなり、交渉するために一言一言注意しての会話なので自然と身に着く力です。
そして仲間に執着しがちなディランさんとオンブルさん、自分で言うのもなんですがレイヌ様に陶酔している私が反発できないよう突き放さない言葉。
ここまでくると卑怯と言いたくもなります。
「・・・・・・・・ありがとうございます」
「ん?オンブルさんなんか言ったか?」
「いいえ、なにも」
「そうか?つかそれよりあの上にあんのなんだ?迷宮にくるときからずっとついてきてんだけど」
ディランさんが指さす先には球体状の良くわからないものが浮いています。
私も気になっていたのですが、誰も何も言わないので私も空気を読んで無視していました。
「我が主様はこれの名称を言わなかったのですからまだ秘密です。そうですね、無事に王都に帰ることができたのならお教えしましょう」
ということは知っているんですね?
オンブルさんとレイヌ様だけの秘密なんですね?
納得できません!
「教えてくれよ。ケチ!」
「ケチでかまいませんが、よそ見していると階段踏み外しますよ?」
「え?」
ガッ ベチン ギャァァァ! ディ、ディー!
どうやら話している間に上への階段に付いていたようです。
ディランさんは警告通りに一段目でこけて激しく顔を段差に打ち付けていました。
ダリエラさんが悲鳴をあげて手を伸ばしますが、背負われているのでその手は空しく空を切ります。
一見まるで吟遊詩人の歌のような光景ですが、実際は転んだ男性と横着している女性なんですよねぇ。
ですが私は空気が読める女です、ダリエラさんが嫉妬しないよう決してディランさんは助けません。
「ちょ、待ってくれ、置いていくなよぉぉぉ!」
ごめんなさいディランさん!私は恋に生きる女性の味方なんです!
こうして私たちは、さっきまで死にかけたとは思えない気楽さで階段を駆け上がりました。
だってレイヌ様ですよ、あの方が負ける姿が思い浮かびません。
出来ないことをずっと考えるより、今できることをやるだけです。
―――― 今回の取得スキル ――――
・瞬動




