34話 紅蓮の迷宮 10
俺たちは一直線に十九階層への階段まで走る。
来たときは一面マグマで足の踏み場も少なかったが、いまでは冷えて凍り、冷気漂う地面になっている。
俺たちの後ろからは魔物の声がますます大きくなり、うめき声は聴力を奪おうとする攻撃になってきた。
襲い来る炎は威力も回数も共に増え、魔力壁を消し放置した休憩跡地はすでに元のマグマに戻っている。
逃げる前にテントを回収しておいてよかった。
「はぁ、はぁ、後ろどうなってんだ!?」
全力で駆けている為に後ろを振り返る余裕のないディーが最後尾の俺に向かって聞いてくる。
「不安になるだろうから詳しくは言えんが、地獄絵図っと言ったところか」
「全然隠せてねぇよ!」
これでもぼやかしたつもりなんだが。
俺たちは魔力壁に守られているが、後方では氷が水分に変わり、水蒸気爆発のオンパレードが起きている。
ディーたちは攻撃の音だと勘違いしているようだが、もし連鎖爆発していようならパニックになっていただろう。
幸いこの場所はそもそもがこういった現象に対応しておらず、爆発の連鎖は起きていないのが救いだ。
「もう、本体は出てきたのでしょうか?」
「いや、あれ程の攻撃だ。攻撃は通っても本体は通れないだろう」
「・・・リンちゃんは考えすぎ。・・・浅い層でも移動は一階層分しか今までもなかった」
「はぁ、はぁ、だな。いままで、迷宮が溢れた、話は何度も聞いた、けどよ、全部が一層目の、魔物、だけだったぜ」
「このすぐ下なら、一体一体は階層主よりは弱い。あれも攻撃が強い分、防御やらが薄いタイプだろう」
戦闘を走るオンブルに背負われたダリエラは、足元を風で削り、走りやすいように均しながらも会話に参加する。
かなりの量の魔力を使っているがまだ余裕はありそうだ。
彼女もいろいろと成長し・・・・。
ギチギチギチ・・・ミシ・・・
「!?全員喋らずに走ることに集中、本気で走れ!」
嫌な音が耳に響き、前方にいるディーを手で押しながら俺らしくもなく叫んだ。
「待ってくれよ!そんなに押しても速くは」
「いいから走れ!死ぬぞ!」
ディーは振り返り俺の顔を見ると、慌てて速度を上げた。
この後を考えない全力中の全力だ。
それほどまでに俺の表情は鬼気迫るものがあったんだろう。
それも仕方がない。
今俺たちがいる空間に、何かが無理やり入ろうとしているのだから。
あまり危機感がわかない?
ならば言い直そう。
なにかが無理やり異世界に入ろうとしているっと。
さきほどの耳障りな音は時空の壁を無理矢理こじ開けようとしてこの空間が悲鳴をあげた音なのだが、いったい何がこんなことをしているんだ。
世界に侵入できる生命体は存在はするが滅多に現れない。
そして何度も言うが迷宮には俺たち以外生命体はいない。
まさかとは思うが・・・・・いや、ありえない。
だがそんな考えをあざ笑うかのように、この騒動の犯人はとうとう空間を破壊しこの二十階層へと足を踏み入れた。
Gyoooolaaaaaaaaaaa!!Guloaaaaaaaa!
【データがありません】ランク データがありません
ちらりと後ろを見て鑑定した結果は当てにならず、その姿も参考にはならなかった。
空間を壊した犯人はあの魔物で間違いなさそうだが、このわずかな時間で大問題がいくつも起きている。
まず第一に-のリソースの塊であり、魂が無いため成長することができず、神に与えられたこと以上のことができない魔物が時空を歪め破壊したこと。
そして最大の問題点がその魔物本体について。
創造神の長たる俺が、あの魔物を知らないことだ。
どんな世界に存在する物でも必ず姿形はあり、その容姿には最低1柱の神が関わっている。
星なら大地神、獣ならば生命神と獣神というように。
そして統括する立場である創造神にはその情報はすべて集まるため、更にまとめる俺も当然知ることになるが、ここ以外の全ての世界、そして現在調査中だがルルから送られる情報にもこの魔物は記されていない。
俺たちの背後で吠える魔物を例えるならば二息歩行の竜と言ったところだが、細々とした部分により竜とは呼べない。
尻尾は先端が三つに分かれ、それその先端に別々の色の炎が宿り、一対の竜の腕と一対の獣の腕にはそれぞれ武器が握られている。
鱗の隙間からは赤黒い体毛らしきものが生えており、頭部は竜と獅子と鷲の三つ。
まるでいくつもの魔物を無理やり融合させたような、統一感が一切感じられない姿だ。
Giloaaaaaa!Giiaaaaaa!!
ちっ!魔物の咆哮だけで魔法壁外にある氷が砕けた。
《神魔法》という規格外の魔法を持ってはいるが、人間の身で果たして対抗でき
ドサッ ドサッ カランッ
咆哮の直後に俺の前を走るリン、ディー、ダリエラが倒れ、オンブルに背負われていたダリエラは杖を手放しただけで済んだが他二人は走っていたこともあり、ゴロゴロと何度も地に打ち付けられた。
俺もそれなりの速度で走っていたので思わず踏みそうになったが、寸でのところで上へ飛び惨事は免れた。
魔力壁によって攻撃は阻まれているので外傷を受けたわけではないが、《鑑定》をすると《恐慌状態》となっていたので、先ほどの咆哮による恐怖で身動きができなくなったのだろう。
光か水魔法ならば状態異常を打ち消す方法があるが、残念だが今の俺には使えない。
そこで荒療治だが俺の《威圧》で恐怖を上書きした。
これで俺が威圧を解けば恐慌からも回復するだろうと思い試すと、案の定意識を取り戻した。
「?今何が・・・」
「説明は後だ、早く立て!」
戸惑う二人の手を引き立ち上がらせると背を押して再び走り出す。
ちなみにダリエラはまだ気絶している。
どうやら彼女には刺激が強かったようだ。
Guluuuuuuu‥‥Gaaaaaaa!
ほんの僅かに立ち止まっただけで魔物は俺たちに随分と近づいたようだ。
耳が痛くてかなわない。
「あ?あぁ!?なんだよアレ!」
「ば、化物・・・です」
魔物を見たディーとリンが足を止め叫ぶが、そういえばこの二人はハッキリと姿を見てなかったと気づいた。
感想はいいから走れ!っと言う前に、俺たちに向けて特大の炎が吹かれた。
とっさに何重にも魔力壁を張ると、数枚が破かれ、効果を鑑定すると《呪い》や《行動制限》などの異常状態の追加まで含まれているらしい。
こいつはとんだサプライズだな。
「お前たちは先に行け」
魔物に向かい合い自身に強化を施しながら言うと、オンブルを含めた全員から反対された。
「無理だって!あんな化物たとえレイヌさんでも無理だって!」
「そうです!今ならギリギリ逃げきれます、行きましょう!」
「我が主様、今のお身体をお忘れなく」
今度は俺が手を引かれるが、申し訳なく思いつつも振り払い大太刀を抜き構える。
オンブルの言葉が頭によぎった。
確かに今の俺は神ではなく肉体のある生き物だ。
今死んで神界に戻ると、次に世界に降り立つことができるまでどれほどかかるかわからない。
だが、ここであの魔物を倒さないとこいつは必ず地上へ出ていく。
そうなれば被害は甚大だ。
なにせ世界を渡れる可能性があるにも関わらず命も知性もない。
いくつもの世界に混乱がでるだろう。
だからここで倒すしかない!
「初撃二之型《針の目》」
殺傷力を重視した貫通技を魔物に向かって放つ。
前は《死の魔物大行進》の際に使ったが、今度は全力で力を揮った。
前方に展開した魔力壁が全て破壊され、手から離れた《技》は周囲の熱気を巻き込み大きな渦と化し、魔物へと襲い掛かる。
パァァァァァン!
大きな破裂音が響き魔物が後方へと吹き飛ばされると、急な浮遊感に襲われた。
「おぉぉぉぉ!すげぇぇぇ!あんなでっかいのがぶっ飛んだぜ!」
犯人はディーだった。
どうやら今の光景に興奮してはしゃいでいるようだ。
「すごいです!すごすぎます!」
リンも大はしゃぎで飛び上がる勢い、ではなく実際に飛び跳ねているが、ステータスの高さにより2mくらい飛んでいる。
しかし、そんな二人の後ろにいるオンブルは眉を歪め、魔物が飛ばされた方向を見つめている。
かくいう俺もディーに抱えられつつ、視線は真っすぐ同じ方向を向いていた。
俺は貫通技を使ったはずだ。
しかし直撃時の音はパァァン!という破裂音だった。
破裂したということは《技》は貫通しなかったということで、つまりは
Gulalalalalalalala!
魔物の声と同時に俺を揺さぶる動きも止まる。
ディーはピタリと動きを止め、リンは着地に失敗し尻から落ちた。
やはりと呟くオンブルに俺も頷いて相槌をうつ。
そう、魔物はまだ死んでない。
俺の全力の攻撃を受けても、ここまで聞こえる咆哮ができるほど受けたダメージも少ない。
「・・・・・・・・」
俺を落としたディーは何も言わず他と同じように一点を見つめる。
やはり嫌な予感ほど、的中率が高いんだな。
ギリッ
食い縛った歯から漏れたわずかな音が、なぜかやたらと響いた気がした。
ルル「え?なんでエラーなの!?お茶こぼしたから?お菓子の食べカスを1000年間そのままだったから?うわーん!絶対怒られるよー!」




