33話 紅蓮の迷宮 9
遅れてきたG.Wスペシャルの最終日!
いや~、がんばりましたよ。
翌日、俺は押し寄せる胸騒ぎに目を覚ました。
昨日は思考にふけり落ち着かなかったが、それでもこの人間の身体は睡眠を欲していた。
眠気を掃う方法はいくつかあったが、まだ迷宮の先は長い、今無理をして支障が出るより休めるときに休もうとした結果だ。
だが寝起きは悪い。
この胸騒ぎははたして昨日の件が原因だろうか。
今朝までこの重い気分を引きづるのは良くはないが、自身の感情を自由に操れないのは神でも人間でも一緒か。
隣を見るとディーが涎を垂らしながらイビキをかいている、まだまだ起きそうにないな。
時計を見てもまだ早朝、別のテントで寝ている女性陣もまだ寝ているだろう。
昨日は彼らにとってまさに死闘だったからな、急ぐ理由もないし今日一日はゆっくりとしてもらおう。
ディーを起こさぬよう静かにテントから出ると、変わらずの氷景だがゆっくりと溶けてはいる。
強制的に変えられた環境から元に戻ろうとしているのだろう。
俺は久しぶりに薬煙を取り出し火をつける。
辺りが火だらけだったから勝手に燃え尽きてしまうため、ここでは禁煙していたんだが今はその心配もないだろう。
桃色の煙を空中に吐き出すと、白と青の景色に桃が混ざり異物感が際立つ。
まだ朝食には早いが食器だけを並べながら二本目に火をつけたところで女性陣用テントからオンブルが起きてきた。
「おはよう」
「おはようございます、我が主様」
互いに挨拶を済ますと、オンブルはどこからか取り出した皮袋に口をつけ喉を潤す。
そういえばこいつは前から牛乳や山羊乳が好きだったなと変わらぬオンブルに俺もつい笑みを浮かべた。
「どうかなさいましたか?」
「いや、あの報告の後だからな、お前も心配で起きたかと思ったんだが。その様子を見てなんだか俺まで落ち着いてきたよ」
部下がここまで平常心を貫いているんだ、俺ももっとルル達を信頼して任せないといけないよな。
「私が鈍感なだけです。ですがお役に立てたようで光栄です」
久しぶりのオンブルとの普通な会話に心を落ち着けようとする。
だがどうしても胸騒ぎが収まらない。
この感覚はいったい何だ?
人間だけでなく全生命体に与えた危機管理能力、いわゆる野生の勘がこのような感じだったが。
人間になっている今の俺なら使えるであろうが、初めての感覚に戸惑いが顔に出る。
「なにやら難しいお顔をされていますが、どうなさいました?」
「お前は感じないか?なぜか起きてから妙な感覚に支配されてな」
「ご安心を。下界に降りたばかりの神ならば当然の反応です。私も同じ状態ですが、おそらく迷宮内という危険に囲まれた環境だからだと思われます」
確かに、この感覚の出所は昨日現れた次層への入口からやってくる。
この場より更に危険な場所に繋がるゆえの緊張・・・なのだろうか。
《脳内地図》や《気配察知》を使っても、そもそも見た目通り一層一層が繋がっているわけでなくそれぞれ独立した空間だ。
世界が別と言った方がわかりやすいだろうか?
どれほど探ろうとも入り口付近から断絶された階段より下はここからでは影響が全くでない。
それでも何度か探っているのだから俺も諦めが悪いな。
俺はニ本目の薬煙の火を消し《無限収納》へ放り込むと赤茶を入れる為に火を起こす。
オンブルは俺が自ら行動するのが好きなことを知っているので手出しはしてこない。
それからしばらくは二人で話し込んだ。
俺から見たこの世界の現状、オンブルから見たこの世界の現状、互いに見る視点の違いから俺の知らなかった世界の変質までありそれなりに楽しかった。
しかし異変は突然起きる。
オンブルの話が段々と怪しい方向へ流れていく中、謎のうめき声が僅かにだが聞こえてきた。
もちろん今で眠る三人ではなく、腹に響くような重低音のうめきだ。
「我が主様・・・」
「三人を起こしてくれ、「嫌な予感程当たりやすい」という言葉あったが、まさに実現しそうだ」
オンブルはテントへと走り、俺は音の出所を探す。
何が起こるかわからないので展開した魔力壁から出ることは躊躇われる。
《脳内地図》は役に立たないので《身体強化》を聴力に集中発動させ探ると、どうやら次層への入口から響いてくる。
こうしている間にもうめき声はかなりの速さで大きくなり、地を踏みしめる音まで聞こえる。
これは大物が来そうだ。
「待って!待ってくれオンブルさん!そんな持ち上げなくても一人で、ギャァァァァ!」
「何度起しても寝ようとするからです。よくこの状況で二度寝三度寝ができますね」
「・・・ディーは規則正しいから。・・・決まった時間寝ないと後が面倒」
「待ってくださいダリエラさん!まだ寝巻のままです!」
・・・・・緊張感の欠片もねぇな。
ooooooooo‥…
オンブルに放り投げられたディーは、何度目かの謎のうめき声にようやく事態を把握し慌てて立ち上がると武具を装着しだした。
ダリエラも早くテントに戻って着替えろ。
待て待て、ここじゃない、テントで着替えろ!
goooooo‥…oo…g‥‥
全員の準備が出来るまでに手間取ったがまだ何も起こらない。
ただうめき声と足跡は更に大きくなり、音だけなら既に目の前にいてもいいくらいだ。
「なんなんだよ・・・・昨日死ぬ思いしたってのに、朝っぱらからまた死にそうになんのかよ」
「・・・それが迷宮でしょ?」
ダリエラのツッコミは正論だが、確かにうんざりするよな。
こちらも昨日の件で散々悩んでいるというのに。
「何が起きているのでしょう。この声は魔物でしょうか?」
「声は聞こえど姿は見えず、ですか。姿を消すタイプ・・・・ではなさそうです」
「そうだな、基本的に迷宮は下へ行くほど魔物はその階層から移動しにくい。そしてこの階層の魔物は全滅してるから単純に次層からの声が聞こえてるだけだろう」
「そうなのですか?しかし下へ行くほどとは初耳です、どこでお聞きに?」
「・・・・・・・図書館でちょっとな」
リンからの鋭い質問におもわず曖昧な回答で返事をする。
思わず設定の助言をルルしたときのことを思い出し、口を滑らせた。
リンは俺が重要機密まで読める許可証を持っていることを知っているから一応は納得してくれが、最近どうも思ったことが口に出やすいな。
反省しなければ。
「つまり魔物はここに来ないんだろ?なんで完全武装?」
「どうも嫌な予感がしてな。そんなにむくれるなディー、おまえがやっても可愛くない」
この行動が無意味だと拗ねるディーを少しからかいつつも意識は真っすぐに入口へと向いている。
俺の上がってくる可能性は低いという言葉に、せっかくの緊張感を解く三人に少し厳しく注意した。
そもそも迷宮内なんだから常に緊張感を持て。
だが三人が態度を改める前に状況は急変した。
次層の入口から突如灼熱の炎が噴き出し、凍結したマグマが一部元に戻った。
そう、下の層からの攻撃が今こちらへ放たれたのだ。
しかも一晩経ったとはいえ強力な神魔法の影響を一回の攻撃で元に戻されるオマケ付き。
「・・・え?何今の?・・・あそこの氷が全部溶けたよ?」
「なぁレイヌさん」
「なんだ」
「下へ行くほど魔物は上がりにくいんだよな。どれほど信頼できる情報だよ」
「少なくともダリエラのおすすめ料理情報以上の信頼度だ」
「ほぼ正確じゃねぇか」
「あぁ」
「じゃぁさ・・・・・今のなんなんだよ!!」
完全に戦意喪失し恐怖に染まったディーが頭をかかえ絶叫する。
「言えることはただ一つだ」
「それはいったい・・・・」
リンが言い終わる前に、魔力壁を変形させ上層へ戻る階段までのトンネルを作り、今度は俺も大声で叫んだ。
「今すぐに撤退だ!全員なりふり構わず上へ戻れ!」
— 創造神ルルリア管理室 —
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