閑話 拳闘士の転機
今回と次回は番外編だよ
本編はちょっとおやすみ
レイヌさんとパーティーを組んで間もないがどんどん強くなっているのがわかる。
強さの変化っていうのは普通自分ではわからねぇもんだが間違いない、俺はかなり強くなっている。
ただこれで油断や慢心は絶対にしねぇ。
この2つで死んでいった連中は腐るほど見てきた。
あぁ、自己紹介がまだだったな。
俺はディラン、元「紅の八塩」のリーダーで現クラン名未定パーティーのメンバーだ。
実家でマクリアン流拳術っていう武術やってるがそこの元後継者でもある。
まぁそこでいろいろあって親父と喧嘩してなぁ、ようは家出して冒険者になったんだが悔しいことにその親父から学んだ武術で金ランクまでになったんだからなんとも言えねぇな。
少し前に前代未聞の魔物行進(あとで死の魔物大行進って名前が付いた)で俺のパーティーが壊滅して、同じ戦闘で壊滅した「月白」のリーラと臨時パーティーを組んで仕事をしようとしてたところでレイヌさんに声をかけられた。
先の戦闘で大活躍だったレイヌさんに最初はやると言ったんだが、レイヌさんの屋敷に行くにつれて仲間たちの顔がちらついてきた。
水晶ランクを目指しともに戦い死んでいった仲間たち、苦楽を共にした仲間たち、あいつらにも将来の目標があった。
大剣使いのやつは金を溜めて騎士団に入ると言っていた。
魔法使いと弓使いは結婚して宿屋をやりたいと言っていた。
短剣使いのやつなんか婚約腕輪まで用意して彼女にいつプロポーズしようか悩んでいた。
そんな奴らは死に、残った俺は迷宮突破の可能性が高い人たちと組もうとしている。
果たしていいのだろうか。
奴らをだしに使ってチャンスを掴もうとしているようで、どうしても俺自身納得ができなくなってきた。
そもそもギルドでクエストを受けようとしていたのもあいつらへの償いの意味もあったのに、即答で返事をしちまったことに後悔する。
屋敷で今後の事を話そうとしたとき、俺はやっぱり・・・と断った。
一度引き受けてこんな土壇場で断るなんて本来どんな仕事でもやっちゃいけねぇことだ。
とくに冒険者なら依頼者をからかったとして厳重な罰が下されることもある。
隣でリーラも同じ理由で断っていた。
「それは解散したクランのことでか?」
どうやらレイヌさんはそれなりに知っていたようだ。
なら話は早いと思ったがレイヌさんはならなおさらパーティーを組もうと言ってきた。
そのときリーラとひと悶着あったが、奴らの名前を後世に残さないかと言われ想いが揺れた。
奴らは俺にとってかけがえのない仲間だった。
それが忘れられて行くなんて、存在がなくなるなんてどうしても嫌だ!
リーラと二人で残された部屋で今後どうするか話し合った。
「今の話どう思った?」
「・・・わからない。・・・でも、彼女たちがいなかったなんてさせたくない」
「それは俺も同じだ。だからパーティーに・・・・レイヌさんのクランに入ろうと思う」
「!?・・・クランに入るの?・・・でも私は・・・・」
「わかってる、仲間は忘れない。だがレイヌさんの言葉はこうも取れる。「俺を利用しろ」ってな」
「・・・利用?」
リーラと俺ではおそらく歴史に名を遺す活躍なんてできないだろう。
だからこそレイヌさんは自分を利用して栄光を掴めと遠回しに言ったんだろう。
寄生するようで褒められることじゃねぇがそれでも奴らの為に遠慮なく利用させてもらおうと二人とも同意で決まった。
なんて思ってたが俺たちは頭数合わせじゃなくて完全に戦闘メンバーに数えられていた。
鍛錬メニューまで作られ、Sランクの魔物とソロで戦わされて(・・・・あの時は本当に死ぬかと思った)、だが確実に強くなっていた。
力は上がっていないのに破壊力が上がり、最初はよくわかってなくて疑問だったが
「殴るときは腕のリーチを考えろ。お前のは「殴る」じゃなくて「叩きつける」だけだからな」
といわれ納得した。
専門分野の話だったからこの言葉で大体は理解できた。
いままでは腕を曲げた状態で殴ってたから十分に力が乗らずにそのまま敵を押し出していたが、距離感を考えて試行錯誤してるとちょうど腕が伸び切ったところで打込んだ打撃は、今までと比べ物にならない威力だった。
この位置を覚える為ひたすらレイヌさんの用意した的を殴り続けたが十回に三回はうまくいかない。
おれの武術はすでに完成したと思っていたがどうやらまだ入り口に立っただけのようだ。
「意外と早く物にし始めたな。じゃぁ次は貫通打撃を覚えてもらおうか。・・・・・ペース早過ぎないか?」
最後なんて言ったかわかんねえがどうやら技を教えてもらえるらしい。
本来技の継承は師範代より上のやつができるはずだがレイヌさんその年でもうそんなレベルなのか?
え?いろいろ混ぜ合わせた我流なの?
俺一番弟子か!やべぇ、うれしいぞ!
その後見せてくれた技がすごかった。
あの硬かった的に風穴があいたんだけど!?
しかも周りにヒビ一つなくポッカリときれいな穴だった。
なんでも力を一点に集中させるとこうなるらしい。
試しにやってもガンって音しかなんねぇしヒビしかはいらなかった。
これは感覚を掴むしかないらしく、その手助けとして手の中指にインクで丸を書かれ、この印で殴るイメージでやるとわかりやすいと助言をもらった。
当面の目標はこの技「点打衝」がいつでもできること、最終目標はレイヌさんが最後に魅せてくれた「無衝波」だ。
あれすげぇよ、手を添えた状態で点打衝打ったぞ。
打込んだ音もあれ打撃音じぇねぇ、爆発音だよ!
全部今の俺の状態で出来る威力らしいから絶対物にしてやる!
今日から実戦での鍛錬らしい。
俺まだ点打衝を物にできてねぇんだけど・・・・。
一日目はあの自惚れ殺しの森での雑魚相手にやったがどうもうまくいかねぇ。
相手は当然動くし、失敗したら雑魚とはいえ死んじまう。
せめて十分な動きができてから実戦したかったと言うと何年かける気だ?といわれた。
たしかに実際に危機がある方が習得は早いのは分かるがスパルタすぎねぇか!?
だが落ち込んでいると二つ目の助言をくれた。
「目の前の敵じゃなくてその向こうの敵を殴れ」
正直意味がわかんない。
だが一度考え出したらあとは鍛錬場と一緒だ。
ただ的が動いて殺しに来るだけと開き直る。
成功率は戻ったが結局助言の意味はわからなかった。
二日目に失敗しちまった。
戦闘中によそ見するとか俺は初心者かよ・・・・。
今朝のレイヌさんとの会話でテンション上がってたと言っても馬鹿だった。
二日目の朝にレイヌさんと二人で話しているとき、言葉遣いを変えないかと言われた。
「い、いや、無理ですよ!レイヌさん貴族ですし水晶ランクですし、なにより俺たちのリーダーじゃないですか!」
「関係ないさ、今は貴族じゃなく冒険者だし、水晶と言っても結局はお前と同じ冒険者だ。それにリーダと言ってもお前の仲間もそんな口調だったか?」
そんなことはねぇけどなんかしつれいじゃねぇかな?
どうしても変えずらいと正直に言ったが
「それに寂しいじゃないか、リンたちは普段通りなのに。俺は仲間外れか?」
・・・・・そこまで言われちゃしかたねぇや!
最初利用しようとか言ってたけどここまで短期間で強くしてもらってもうそんなこと思っちゃいない。
師匠・・・・とは違うな。
だからリーラ、そんなに睨むなよ。
アイデンティティーとかはわからんがとにかく言わないから。
そうだな・・・・仲間、うん仲間だな。
レイヌさんは奴らと同じ、新加入の仲間って感じでいこう。
そう結論だしたら早い、なぜか自然に口調が変わった。
なんだか改めてこのパーティーの一員になったみたいで自然と二人で笑っちまった。
「くだばれよクソ蛙!」
5日目は沼地で蛙相手に拳を振るった。
目の前にいるのはランクAの【鬚蛙】で大きさは俺の大体3倍くらいだ。
こいつは依頼書が出ていて、配下の【多眼蛙】がよく紅蓮の迷宮にある詰所に襲撃を繰り返すらしく国からのクエストだった。
配下蛙どもの数は正直数えたくないほどだが、オンブルとレイヌさんが全部相手してくれるから美強とリーラ、俺の三人でこいつに集中できる。
こいつはめんどくさいことにリーラの風魔法がほとんど効かないし、俺の打撃も分厚い脂肪で効果なし。
点打衝は通じるようだが鬚蛙の鬚が邪魔をしてきてうまく懐に潜り込めねぇ。
幸い特殊な能力は鬚しかねぇけどとにかくタフだし一撃が重い。
どれだけ時間経ったかわかんねぇがこっちも体力の限界だ。
そのとき鬚蛙の向こうで新たに配下蛙が沼から出てきてこっちに来やがった。
オンブルもレイヌさんも場所が離れてて間に合わねぇ!
「くそ!邪魔だ鬚!」
配下蛙を殴ろうとしたが鬚蛙が邪魔をして阻まれたが、そのとき点打衝が自然と出てきた。
さっきから疲れてただ殴るだけだったがなぜできた?
そのときレイヌさんが言ってた「向こうの敵」を思い出し、目の前の鬚じゃなくその向こう側の蛙をイメージして意識せずに殴るとやはり自然にできる!
「ウルァァァァァァ!」
残っていた最後の力を使ってひたすら殴り続けると鬚蛙は苦しみ、ついでに纏った火で腹の粘膜がなくなった。
「今だリーラ!やれ!」
迫りくる鬚すら避ける体力もなくなり後はリーラに任せた。
はは、すげぇな。
リーラのやつ氷魔法使いやがった。
瀕死になった鬚蛙に美強が止めをさしてついでにレイヌさんが蹴り飛ばした。
横になったまま見回すと配下蛙もいなくなりようやく終わったんだと理解できた。
つぅかあの蛙絶対Aランクじゃねぇよ。
あとでギルドに文句言ってやる。
その後俺はレイヌさんに担がれながら詰所で休むために迷宮へと向かうことになった。
ありがてぇな、さすがに野営は無理だわ。
後になって気づいたが最後の攻撃は全て点打衝、つまり成功率10割だ。
俺たちの課題も終わったし後はレイヌさんだけだ。
Sランクとの戦闘は見たかったが今は身体を休める為に我慢しよう。
だが今回の成果で迷宮突破できるかも、からできると確信へ変わった。
待っていてくれよ、俺は絶対に名を遺して死んでいった奴らをずっとこの世界に刻み込んでやるからな。
さて、気づいたかな?
ほんのりと青春臭が漂うことに・・・・




