18話 実戦旅行2~5日目
二日目の肌寒い明け方前、俺はテント周辺で鍛錬をしていた。
長槍で縦に三連突きの流れで横に一閃を入れ、バックステップをしながら距離を取り弓の弦を弾いた。
気づいたと思うが最初と最後で所持している武器が違う。
これは無限収納を利用した戦闘法で、武器を瞬時に入れ替えて使うのだが今のところ俺にしか使えない。
その理由は前提条件として無限収納を使えることと複数の武器を使えることだ。
別にスキルを持っていなくても使えないこともないがまともに扱えないのでやはり真似はできない。
だが同じ武器を複数持っていれば武器が破壊されても交換までの隙が一瞬なのでそっち方面で役立つだろう。
俺は次々と武器を入れ替え振るい続ける。
剣を払い
槍で突き
弓で射り
斧で割る。
他にも短剣、細剣、鎌など振るっていくがほとんどが一度で壊れていく。
どの武器も現段階作れるもので最高品質だが、俺の力とスキルが高すぎる為そして武器が弱すぎる為出しては壊れ、出しては壊れを繰り返していく。
各20本壊したところで朝鍛錬を終わらせた頃にはすでに朝日が昇り、周りの気温もわずかに上がってきた。
空を舞うスノー・ビーという蜂型魔獣が太陽を反射してキラキラと輝き、まるでこの草原が特別な場所のように思えた。
蜂なのに獣とはこれ如何に。
昔は普通に獣や昆虫と呼ばれていたのに今ではまとめて魔獣と呼ばれているらしく、「魔獣の昆虫型」「魔獣の獣型」と回りくどい。
ちなみに魔獣と魔物の違いは魔石の有無と思考力の有無だ。
魔獣は魔石が無いが素材が魔物より上で考える力があるので種族ごとに凶暴なもの、人間に懐くもの、ひたすら傍観者なものなどいろいろだ。
そして頭もいいので集団戦や罠を使うこともあるので魔物よりも強い。
対して魔物は魔石はあるが思考力がほとんどなく本能でしか動けない。
その代わりに数が多く、親から生まれず-(マイナス)のリソースが集まり湧いてくる。
折れた槍をしまいテントの裏で隠れて見ていたリンとディランのところへ向かうと慌てて身体を小さくして隠れた。
別に怒りはしないんだがな。
「おはよう、そんなところでしゃがみ込むなよ。朝露で下が濡れるぞ」
二人は笑ってごまかしながら出てくるといそいそと焚き木の前に移動をしておしりを火に向けた。
やっぱり濡れたか。
そんな二人に火の番をしていたオンブルが暖かいお茶を渡してオンブルの前に火の番だったダリエラが起きるまでのんびりと過ごし、しばらくするとダリエラが起きてきたので朝食を食べて迷宮方面へと向かう準備をした。
「ふっ!」
襲い掛かる狼型魔物をディランの拳が貫通する。
今のところ成功率は7.5割を維持しているので緊張もほぐれつつあるようだ。
「どうよレイヌさん!また成功だ―――うを!」
「危ない!」
ディー(・・・)が魔物を腕にぶら下げたままこちらへ掲げて油断していると横から飛び出してきた手負いの植物型魔物に襲われたが、間一髪でリンが間に入りカウンターで止めをさした。
戦いになれたディーらしくない行動に注意しようかとも思ったが今は戦闘中、終わってからだ。
「大いなる火よ、わが手に集い敵を燃やせ!〈火球〉!」
ダリエラはオンブルに守られながら火魔法を打とうとするがやはり発動しない。
だが諦めずに挑戦する姿は誰にも馬鹿にされないだろうし誰にもさせない。
狼型は全て撃破、植物型が残り数体となったところで高見の見物をしていたそいつはようやく動き出した。
「GYOGUUUUUUU!」
【毒薔薇人形】ランクA
体長2mほどの植物でできた人形は先端が鞭となっている四本の腕を振り回してこの中で一番防御力の低いダリエラを狙ってきた。
さて、こいつはクエスト対象でリンとオンブルの課題対象だ。
どちらが挑むんだ。
「私が相手だ雑草!」
盾と剣を打ち鳴らしながら叫ぶリンに標的を変えると、人形の頭に咲いた青い薔薇からボフン!と粉が舞い周りへと広がる。
どうやらリンの獲物と決まったようなので他の者に攻撃がいかないよう、防御壁を張り残りの魔物を片付けようとしたが既に終わっていた。
後はいざというときの為にいつでも助けに行けるように見守るに徹することとしよう。
四つの鞭が四方向から一斉にリンを狙うが盾で受け止めずに前へ進みあえて避ける。
確かにあそこで受けたら攻撃が絶えず身動きができなくなるからいい判断だろう。
毒に対しても陛下からもらった指輪で対抗できているので大丈夫だ。
接近戦ならリーチの条件は同じになるので、人形とリンの応酬が激しさを増していく。
リンは攻撃を盾で受け、反らし、時には剣ではじきながら鞭をきりおとそうとする。
しかし鞭には棘が無数についており剣と交わると金属音が空気を震わせた。
互いに傷を多くしながらも一向に進展はなく、このままでは体力差でリンが負けるだろうと判断した時、リンの足を鞭の一本が貫いた。
機動力が半減したリンの勝ち目は一気に少なくなったのでそろそろ行こうかと思ったが、リンが人形に盾で体当たりをしたことにより状況が更に一転する。
大盾の衝撃によろける人形に剣を振り降ろし、見事に薔薇を(・・・)切った。
すると人形はみるみる枯れていき、残ったのは枯れた植物と綺麗な花だけとなり戦闘はリンの勝利で幕を閉じた。
俺がすぐにポーションを降りかけリンのHPが全快したが疲れは癒せないのでこの場で休憩となった。
「よくやったなリン。最後の止めはカウンターじゃなかったが盾を利用した見事な攻撃だ」
「あ、ありがとうございます!」
「・・・それに比べてディーはどうしたの?・・・らしくなかった」
「いや~、ついテンションが高まって。すまん」
「まったくそんなことではファンクラブ1桁ナンバーが泣きますよ!」
実はディーの失敗はある意味俺のせいだったりする。
今朝二人で話していた時に他の皆と同じ話し方にしてくれと頼んだが、俺の方が立場が上だからできないと断られたので「今の俺は貴族でも水晶ランクの冒険者でもない、お前と一緒に戦う仲間だろ」と言うとディランをディーと呼ぶことを条件に交渉は整ったのだが、どうやらそれがうれしかったらしい。
俺もこうやって人と肩を並べることはうれしいがそれが原因で死んだらどうしようもないだろ。
「ディー、どんな状況でも思考は常にクリアにしておけ。せっかく仲が深まったのにすぐに死んだらさすがにくるものがあるぞ」
「す、すまない。そうだよな、死んだあいつらの為にも、レイヌさんたちのためにも俺は絶対に死ぬわけにはいかないんだ。みんな悪い!次からは油断しねぇ!」
「そうだな。少なくとも戦闘で俺より先に死ぬなよ」
「ははは、なに言ってんだレイヌさん。死なねぇよ。どっちもな」
確かにと笑いあう二人をリンたちがほほえましく見ている。
誰かと笑いあい対等に扱ってくれる、長い間憧れたこの関係がせめてこの世界にいる間続けられるよう、俺は改めて崩壊を止めなければと静かに誓った。
―――― クファリク草原~迷宮周辺沼地 5日目 ――――
毒薔薇人形の討伐から3日後、現在俺たちは紅蓮の迷宮から少し離れた沼地で蛙を潰している。
この三日でSを1体、Aを3体討伐しオンブルが課題突破、他の者の課題突破も見えてきた。
リン カウンターのみでAを1体討伐
ディー 貫通打撃の成功率8割
ダリエラ 3つの魔法を無詠唱化、氷魔法がそろそろ発動可能
予定では2周するはずだったが一日の内容が濃いようで1週で全員終わりそうだ。
これまでの彼女たちだったらここまで成長するまでおそらく5~6週はしただろう。
しかし今は俺がいる。
俺がこの場にいるだけで不足していた+のリソースが振りまかれているのでそばにいるだけで成長速度が恐ろしく早くなる。
これはリンたちだけでなく世界中に起きていることだが俺の近くにいればいるほど影響がでているようだ。
「Gugoo、Gugoo!」
「おら!くるぁ!」
「・・・氷よ、我が前に現れ、敵を打ち抜け《氷弾》!・・・うっダメだ、リンさん!」
「まかせてください!こっちに来なさい蛙ども!」
囲まれたディーを助けようとダリエラが氷魔法を打とうとしたが、放たれる前に氷が砕け失敗した。
すぐにリンがディーと蛙型の魔物【鬚蛙】の間に割り込み攻撃を捌いたが、どうしても決定打に欠けるようだ。
蛙は風属性にも打撃にも耐性があるので膠着状態が続いている。
配下である【多眼蛙】も減ってきたのでそろそろ手を出そうかと思ったが今までの戦闘と違う点が出始めた。
「ウルァァァァァァ!」
ディーによる15連打は全て貫通打撃となり纏った火によって蛙の粘液が一部蒸発し、弱点ができた。
「今だリーラ!やれ!」
「ディー!!《氷弾》!《氷弾》!アイスバレェェト!」
振り返り合図を送るディーに蛙の鬚が貫こうと迫り、阻止をしようとダリエラが必死に氷魔法を放とうとする。
そして3度目で現れた氷の塊が蛙の腹を貫いたがまだ終わってはいない、最後の抵抗でディーを押しつぶそうと伸し掛かる。
「やらせませんよ!」
途中、配下の蛙に足止めされたリンが次々と跳ね飛ばしてディーを掴み放り投げると、蛙の体重を利用して真下から心臓を貫いた。だが・・・
「自分の力を考えろ!」
急いで駆け寄りリンが潰れる前に蹴り飛ばし、ようやくこちらの戦闘は終了した。
「いい加減鬱陶しいんですよ!《暴食濃霧》!」
オンブルもリンたちが集中できるようにかなりの数の配下蛙を相手にしていたが深淵魔法で一掃したようだ。
霧に飲まれた配下蛙は跡形もなく消えたから素材は回収できないな。
落ち着いたところで今の戦闘での功績を振り返ってみると
ディー 15連打の全てが貫通打撃
ダリエラ 氷魔法を一度とはいえ無詠唱で発動
リン 【鬚蛙】ランクAをカウンターで止め
ディーは途中でなにかに気づいたようで怒涛の攻めが戦闘での分岐点となった。
ダリエラはディーを守ろうと無我夢中で適正外の魔法が成功、今後もできるかはわからないが無詠唱。
今は魔力切れで倒れている。
リンは最後の判断は減点だがカウンターの成功。
これで予定よりずっと早く課題を終了したことになった。
残りは俺だけだが一人でどうにかできるので今晩中にやっておこう。
「おつかれ、今日はここまでにして迷宮の警備詰所までいこうか」
「もう無理だよ・・・・腕が上がんねぇよ・・・・」
「野営しなくていいからゆっくり休めるぞ?」
「「「早く行こう」」(・・・・ぐっ)」
「ダリエラはわたしが運びます」
全員の賛同もあったところで素材の剥ぎ取りは後日にして今はゆっくりと詰所へと向かった。
俺とオンブル以外は全力を出し切ってフラフラになっていたがもう少しだけがんばってくれ。
――――今回の取得称号――――
見守るお父さん
心配性
――――今回の魔物知識――――
【ヴォジャノーイ】
東欧に伝わる妖精と伝えられ、様々な姿になれると言われています。
蛙はその一部らしいです。
人間を嫌い、襲って奴隷にすると言われていますが、嵐の時に助けてくれる一面もあるらしく、ヴォジャノーイに供物を捧げたりするそうですよ。
以上Wikipediaより抜粋




