23話 触れ始めた真実
地上へ出ると、既にラミス達は奴隷とされた人間たちの手当てを行っていた。
どの人間も大なり小なり治療が必要で、特に男たちの方は手足を切り落とされていたり、もはや使い物にならないほどの損傷を受けている。
一方、女たちは傷自体は少なくポーション1本で事が済みそうだが、精神的にやられてしまった者が多い。
恐らくスラムの住人の慰み者としての日々を過ごすうちに壊れてしまったのだろう。
「胸糞わりぃな。ガキ、遊戯室はここにしかねぇぞ。噂じゃ小さい場所がいくつかあるらしいが、一番でかくて昔っからあるのはここだけだ」
「この部屋の大きさ、玩具の数はここにいる人数に対してあまりにも多い。他にもいるはずだが反応はないとなると」
「旦那様、ここは空気が悪うございます。外の安全は確保いたしましたので皆様もこちらへ」
「・・・だな、おめぇら行くぞ。ここに長居すると芯まで腐っちまう」
ラミスに連れられ歩く道中、目に入るのは様々な拷問器具。
元あった壁を全て壊し、無理やり1フロアを一部屋にしたようだが、鼻を抜けるのは濃厚な血と薬品、そして何かが腐ったような腐敗臭。
特に部屋の片隅には部屋に移り合いなそこそこ立派な鍛冶用の炉があるが、特にそこからの匂いが強そうだ。
外では我が家の使用人たちに手当てをされ、救出された者たちが涙ながらに感謝をしている。
今後彼らの行く末は、今の俺にどうなるかはわからないが、前を向いて生きていけるよう彼らを信じていよう。
「ボス、複数の足音がこっちに向かってるわ。金属音もうるさいくらい」
「もうバレたか。ほとんど無音だったってのに、敏感な奴らだ」
女部下の警告は全員の警戒を強めさせた。
そもそもある意味重要施設であるこの娯楽室がこんなに手薄だった理由は、何を隠そう逃げ惑っていた俺達だ。
ただでさえ入り組んだ地下へ逃げた俺達を捕まえる為に見張りまで駆り出したらしい。
捜索するために人員をつぎ込みすぎじゃないか?
「レイヌさん」
「確認してる。だがこれは・・・・」
《脳内地図》で見ると向かってくる者は分かるが、なにやら見覚えがある。
ガチャガチャと鎧が軋む音が女部下以外の皆にも聞こえ始め、それぞれが武器を構えたがすぐに戦意を解く結果となった。
「くそ、まだついてきやがる!団長よ、さっきから迷わずに走ってるけど出口に向かってんだよな」
「知らん!」
「はぁ!?適当かよ!」
場所はすぐ近くだ。
俺はすぐに駆け出し声の元へとたどり着くと、息も絶え絶えでも怒鳴るバリスと追随する近衛兵団たち。
それから先頭を走る、やたら美しい戦斧をもった団長殿だった。
どうやらいまだ逃げている途中らしく、時折立ち止まり攻防を繰り返している。
幸いここは倉庫街のようで、多少乱暴にしようが倒壊による被害は少なそうだ。
「バリス、団長、こっちだ!」
「あ?・・・レイヌじゃねぇか!おい、こっちだ」
「彼も無事だったか、全員死ぬ気で走れ!」
なんだ?団長の性格が最初と比べ少し野性味あふれる感じになっているが。
まぁいいかと俺はすれ違う形でバリスたちと入れ替わり、襲撃者たちを迎え撃つ。
道中拾った小石を指で弾き一人一人打ち抜いていくが、何発かその身体を突き抜けてその後ろにある建物にぶつかる。
手元の小石がなくなると襲撃者も全員が倒れ、バリスたちの追いかけっこもようやく一旦休止となった。
「終わったか?つかあれだけの数追いかけられてたのによく無事だったな。半数以上がそっち行ったじゃねぇか」
「その通りだ。イニスティア君、良ければ我が部隊の指南役を請け負ってくれないか?」
「そっちもよく無事で・・・・って団長はなんか口調が変わったな」
「こいつは愛用の戦斧持つとこうなるんだよ。元々こうだったってのもあるがな」
「王家に仕えるとなるといろいろ気遣うことも多いのでな」
ガツンと石突で地面をたたく団長はなぜか誇らしそうにニヤリと獰猛そうな笑みを浮かべた。
その手に持った戦斧は団長と身長と同等の大きさがあり、羊のような装飾と赤黒い宝石が目立つ。
そう、これは
「なんとも美しい戦斧だ。団長、貴方は見事なセンスを持っているな」
「嘘だろ!?どう見ても呪われてそうなほど物騒な形じゃねぇか」
バリスよ、なぜお前はこの美しさが理解できないのだ。
「まさかこれの力強さに気づく者がいようとは。イニスティア君、君とは更に仲良くできそうだ」
俺と団長はガシリと握手をする。
同じ美的感覚同士、彼には是非とも亜神にまで上り詰めて欲しいものだ。
「レイヌ、お前こんな欠点があったんだな・・・。それより他のやつらはどうした?」
「今はスラムの《遊戯室》ってところで捕まってた奴らの手当て中だ。全員が違法奴隷だから保護を頼みたいんだが」
「任せていただきたい。国民を守ることこそ兵の役目ですからな」
「ん?口調・・・あぁ、戦斧をしまったのか。あと《ドブネズミ》一味がいるけど争いごとな、行くぞー」
どういうことだと詰め寄ってくる二人には道中で説明すると言い黙らせ、まずはここまで逃げてきた近衛兵たちの手当てをする。
随分と人数が減った近衛兵たちは疲れ果て、渡した水をかぶるように飲み干していく。
しかし、いくらここが犯罪者の巣窟だといっても、このご時世にまだ人間は同族同士で殺し合うんだな。
「なるほど、地下通路か。足元にそんなもんがあったなんてな」
「逃走中ありえない場所から追撃がありましたが、まさか下を移動していたとは」
俺達のこれまでの動きを全員に聞こえるように話しながら《遊戯室》へと向かう。
長期間の逃走で破損した装備や食料を渡したのだが、《紅蓮の迷宮》時に用意した物資を含めてもはやカツカツな状態だ。
早い所《狂獣》を探して解決させたいのだが、《脳内地図》では出会ったことのない個人の特定はできない。
《ドブネズミ》たちもその居場所は知らないらしく、襲撃者を何人か《脳内地図》で追跡しているが俺たちの捜索が優先らしくあちこちに動き回っている。
バリスたちも《狂獣》を倒すという結論に猛反対したが、ディーたちのように説得に応じてくれた。
《鑑定》が使えない今、どちらにしろ《狂獣》は一目会っておかなければならない。
こちらとしてもこの世界を安定させるために、場合によっては申し訳ないが一度死んでもらわなくては。
「それにしても、あの《ドブネズミ》が一緒にいるとは。・・・・大丈夫なのですか、イニスティア殿」
「そのことなんだが、あいつの犯歴をわかる範囲で教えてくれないか?」
「?かまいません。まず初犯は――――」
団長の話してくれた内容は確かに悪質なものだった。
騙し、脅し、被害者からの訴えは多く悲惨なものだったらしい。
「その被害者たちって今は?」
「生活が苦しくなって犯罪者に。多くの人生を狂わせた奴は、到底許せるものでは」
「バリスの意見は?」
「俺んとこもそうだな。チンピラ程度だった奴らも、あいつのせいで借金まみれになってどんどん堕ちていった」
団長の言葉を全て信じるなら確かに《ドブネズミ》は人で遊ぶ悪党と感じるだろう。
だがここまで実際に言葉を交わし、触れた印象では彼には到底そんな悪行に耐えられる精神は持っていない。
バリスの言葉にも疑問が残る。
チンピラの悪行が悪化?
そんなもの人が関わらなくても個人で悪化するときはする。
「あ、あの。イニスティア様、発言をお許しください」
「許可する。なにかあるのか?」
そんなときに一人の近衛兵がおずおずと発言の許しを請いてきた。
「実を申しますと、僕は《ドブネズミ》さんに助けてもらったことがありまして」
「どういうことだ?」
「ふむ、私も知りたいですな。あの《ドブネズミ》に救われた?お前の勘違いではないのか」
「違います!私には年の離れた妹がいるのですが、素行の悪い冒険者たちに暴行を受けそうになったところを助けてもらったことが」
「それは・・・・実際に君は現場を見たのか?」
「はい、当時はそのような犯罪者とは知らず何度も感謝いたしました。母が悪徳商人に騙されたときも、こっそり金銭をいただき難を逃れたことも」
「貴様!それは賄賂では――――」
激昂する団長を遮り俺は考える。
悪徳商人、素行の悪い冒険者、そして金。
「その悪さをした商会名と冒険者の名前を教えてくれないか?」
近衛兵の口から出た名前に、団長とバリスは目をむいて聞き呆ける。
いつの間にか歩みを止め、聞かされた名前を何度も口ずさむ。
「二人とも聞き覚えがあるんだな」
「・・・・その商会ですが、《ドブネズミ》の被害を受けて身を落とした商会です」
「冒険者の方もだ。だがそんなこと、噂でも流れなかったぞ?」
「報復が怖くて誰も言えなかったんです。実際警備兵の詰所へ相談に行っただけで何もかも失った者もいます」
たぶん警備兵の一部が情報を流していたんだろうな。
分け前を貰って。
「警備兵・・・・・まさか・・・」
「団長?どうしたんだ」
「・・・・警備兵の統括責任者ですが、あの人質を捕えたスラムの出入口を管理する家の当主なのです。しかも彼は、王位争いでも初期からの第一皇子派でした」
「バリス、他の皆もここでの会話を外で話すことを禁ずる!・・・団長、話してくれないか」
「子爵。アルフィート子爵です。しかもここ数年は自室へと引きこもり表に顔を出していません」
全ての事件につながる家か。
だが子爵では資金的にも権威的にも黒幕というには力が弱い。
恐らく幹部クラスと言ったところか。
「いい加減ここで立ち止まっても何も進まないか。団長、続きは無事帰ったらだ」
「ですな、我々には荷が重すぎる。全て陛下の采配にお任せしましょう」
「俺なんか一ギルド長なんだぞ?国家レベルのやばい話に巻き込まないでくれよ」
「とにかく話はここで終わりだ。そろそろ着く「こんにちわ~~」!?」
とっさの声に俺は背後を振り向くと同時に正拳突きを放つ。
声をかけてきたその正体の身体を突き破り飛び出した俺の腕には、一切の汚れはない。
「おぉ~、鋭い拳だ。いや、これは楽しいな」
声の主は黒い靄に包まれているように、その姿は見ることができない。
俺には幻覚は通じないから、錯覚ではないだろう。
何よりこいつ、《脳内地図》に何の反応もなく急に出現した。
「どうも~、はじめまして。僕が君たちの探してる《狂獣》くんだよ」
こいつが噂の・・・。
いきなりの事にこの場の俺以外動かない。
違う、よく見れば全員の首に黒い霧上のリングが纏わりついていた。
何をしたのか知るために、使えないと分かっていてもダメもとで発動する《鑑定》する。
―ステータス―
名前
性別
年齢
種族
職業
レベル
HP
MP
攻撃力
防御力
瞬発力
魔力
知識
幸運
スキル
—―――――――――
「・・・・・・は?」
そこに出されたステータスは、今までのように文字化けしたような表示ではなく、何も書かれていない白紙だった。
女部下 「違法奴隷の女の扱いは酷いものよ?例えば····」
ディー 「え?嘘だろ!?やめ、止めてくれー!」
ラミス (ディラン様、貴族の令嬢並みにウブですね)
ヤンチャな人ほどそういった話が苦手ですよねw




