20話 忘れるな、彼女も(一応)神である
調子に乗って長くなりました、すみません
あと祝100話目です。
めでたいですね~(´艸`*)
「では本題に入りましょう。話題は逸れましたがミテラさんたちがここにいる理由はまだお話していませんし」
小さく手を合わせたメイトラは優しい笑顔でムートとミテラを見据えるが、その目は笑わず真剣だ。
その雰囲気に押されながらもミテラはぎゅっと手を握り締め、背中に生える蜘蛛の足をムートの肩に乗せる。
「その前にこの子はダメですよ、メイトラ様。ほらレックルちゃん、向こうでダリエラさんが新しいお菓子を貰っていますよ?」
オンブルの言葉でミテラの足元にいたレックルはかけていく。
「・・・そういえばいましたね。すっかり忘れていました。」
「メイトラ様は視野が広いですが、決め手となると時は一方しか見えないようですね。いくら王族と言えど、実力でのし上がった我が主様の足を引っ張らないか心配です」
「オンブルさん・・・・」
レイヌのパーティーでも一番背が高いオンブルをメイトラは睨みつける。
オンブルの言葉はどう解釈しても「お前はレイヌにふさわしくない」としかとれない。
ミテラを挟んでにらみ合う二人だが、すぐにリンが助けに入った。
「またですかお二人とも。またレイヌ様に怒られますよ」
「むしろご褒美ですが・・・・仕方がありませんね。メイトラ様、続きをどうぞ」
「そうですね・・・・オンブルさん、続きは後程」
どうやら女の戦いはそう簡単には終わらないようだ。
先ほどリンが言った通り、メイトラがイビルアル王国から帰郷してから収まりを見せないこの戦い。
もしかしたら終わりなどないのかもしれない。
「ではミテラさん、同時襲撃のところまでは話しましたね。ではなぜ皆さんを王城で匿うように一室に閉じ込めているか。その理由は襲撃者の雇い主です」
「雇い主ですか?」
普通に考えれば権力の強い者による指金だと分かるが、だとしたら何の力も権力もない孤児院をなぜ狙うのか。
ミテラは必死に考えを巡らせても思いつかず、ついムートに視線を泳がす。
メイトラやオンブルが言うように頭がいいのならもしかしたらと思ったのだが、その表情に驚く。
彼は眉をひそめ苦しそうにうつむいていたからだ。
様子のおかしさに気づいたメイトラも彼を見る。
「・・・・もしかして、狙いは俺たちなの?」
ゆっくりと呟く彼の顔は見えないが、その言葉には確信の色が強い。
「まさか。姫殿下、そんなわけがありませんよね」
「ミテラさん、残念ですがムート君は正しいです。襲撃者たちの目的は影響力の強い人たちの殺害だったようですが、その中に数人違う動きをしていた者がいたようです」
「その者たちは他とは違い黒いローブで容姿は分からなかったようですが、身のこなしが段違いだったらしいです。その者たちは各ギルドにも、我が主様の屋敷へもいかず、孤児院を一つ一つ訪れていたようなのです」
「孤児院ですか。ですが私たちの院はお世辞にも裕福とは言えないのですが」
「違うよお母さん。たぶん襲ってきた人たちが欲しかったのって人手じゃないかな」
ムートはそうでしょ?っとメイトラとオンブル、リンと順番に視線を流す。
リンはその理解力の速さに驚いていたが、二人はコクリと頷くだけだ。
二人にとってムートがここまでたどり着くことは想定内なようだ。
「私たちも警邏していた傭兵ギルドの皆さんからお話を聞くまでは襲撃者を捕縛して騒ぎは一旦幕引きだと思っていたのですが、捕えた者に尋問をしたところ彼らは孤児院の事は知らないと言っていました。もちろん嘘の可能性もありましたが、彼らの元締めだという人物の名前を聞いたところ信憑性が増しました」
「《狂獣》という人物にここ辺りはありますか?」
「!?やめてください!」
オンブルが口にした名前を聞いた途端、ミテラはムートに抱き着き声を上げた。
ムートは苦しそうにもがくが一向に力を緩めない彼女にリンは急いでかけよった。
「ミテラさん!ムート君が苦しいそうですよ、手を放して—――」
「この子の前で・・・・いえ、この子たちの前でその名前はやめてください!お願いですから‥…」
一向にムートを開放しないミテラは、最後にぼそりと呟くと背中の蜘蛛の足から出した糸で彼の頭をぐるぐると巻き出す。
「ミテラさん、流石にそれは・・・・」
「こうでもしないといけないんです。この子は強い子なんだと分かりましたがこの話だけは聞かせられません」
「それは子供たちの親が《狂獣》の手下だったからですね。お父様に頼んで当時の資料はすでに拝見させていただきました」
「・・・・そうです。この子たちの親はあの悪魔にそそのかされて許されない犯罪に身を染めました。中にはいまだに捕まらず姿を消した者もいますが、《狂獣》がまだこの帝都にいるということは」
「いるでしょう。その行方不明の親たちも」
いつの間にか立ち上がっていたミテラはちらりと後ろを振り返り勉強している子供たちを見た。
散々大声で話していたのだが、いつの間にか薄っすらと黒い霧が壁のように彼女たちと子供たちの間を仕切り声を遮断している。
「メイトラ様、私はこの国の貴族ではないので詳しい内容は知りませんが《狂獣》とはそこまで恐ろしい者なのですか?」
「当時私は乳飲み子でしたのではっきりと体感したわけではありませんが、曰く、悪意の塊のような男だったと言われています」
メイトラはどこからか紙束を取り出し《狂獣》の犯歴を連ねるが、どれもこれもが耳を覆うほど残忍な物だった。
興味本位、好奇心、そして暇つぶしで人間を弄ぶ。
要約してしまえば一行で済んでしまうが、内容は計り知れない。
口に出すのも嫌だったのか、メイトラは言い終わると深い深いため息を漏らす。
結果的に言えば《獣人族の凶悪犯》という事しかわからず、性別、スキル、名前も姿も不明。
帝国の諜報力が低いのか、それとも《狂獣》の情報操作が上なのか、王族の一員である彼女はパサリと紙束をテーブルに置き、もう一度ため息を吐こうし―――――その動作を止めた。
見ればミテラやリンもとある人物を凝視し、糸で顔をぐるぐる巻きにされたムートは気絶している。
全員の視線の先にいた人物、オンブルの顔はいつも通り不敵な笑みを浮かべているが、可視化できるほどの溢れる魔力が彼女の身体に巻き付き、暴れていた。
「メイトラ様、先ほどの話しは本当ですか?《狂獣》とやらは本当に《禁呪》や《邪法》を使ったのですか?」
名指しされたメイトラの心臓は跳ね上がり、汗が次々と溢れ出る。
やはりレイヌと同郷なだけはあると臆するが、彼女の婚約者はオンブルよりも強い。
ここで挫ければ今後レイヌの隣には立てないと震える手足を無理矢理動かし、正面へと向き直る。
「そ、そうです。た、た、たしかに、《狂獣》は、ゆ、誘拐した民を犠牲に、《禁呪》や、《邪法》を、行使しました」
「そうですか・・・・・これもルルのせいでしょうか、我が主様のようにはいきませんね」
後半の漏らすような言葉を誰も聞き取ることはできなかったが、それでもオンブルが怒りを覚えているのだと理解した。
確かに《禁呪》《邪法》は忌み嫌われる魔法だ。
この二つによってもたらされる恩恵はただの魔法では話にならないほど大きく、誘惑は大きい。
しかしこの二つを成就するためには膨大な量の魂を犠牲としなければならない、そのことから各国でも方法を調べただけで死罪というほど嫌悪されている。
「・・・・やはり無理ですね。どんなに周りから認められても我が主様のように我慢することはできません」
「オンブルさん、何を・・・・!?」
ただならぬオンブルの気配に我に返ったリンがその肩を掴むが、その意味はなく部屋の窓に向けてオンブルは黒い塊を放った。
人一人分は優に飲み込めそうな黒い塊は、窓に当たると当たった場所と共に静かに消えていった。
彼女が何をしたのか理解が遅れたメイトラたちに、ポッカリと開いた壁から流れるヒンヤリとした風が纏い意識を引き上げる。
いつの間にか消えていた子供たちを仕切る壁も無くなり、急に吹き曝しとなった部屋に誰もが言葉が出ない。
「・・・オンちゃん、どうしたの?・・・オンちゃんらしくないけど」
「・・・・・・はっ!?そうです、オンブルさん!いくら私が気に入らないからってこれはやりすぎですよ!」
ダリエラとメイトラ、接する態度は真逆だがオンブルに何かが起きていること理解し警戒する。
比較的温和なリンでさえも持ち運び用の小盾を構えはしないが腕に付けていた。
「申し訳ございません、噂の本人が近くにいたのでつい暴走を。まだまだ我が主様のように感情抑制が上手くいきませんね」
「へ?本人?」
今の攻撃で少しは気が晴れたらしいオンブルは、丸く消え去った壁に向け短剣を向けるが放出していた魔力は収まっている。
オンブルの言っている意味がわからないとメイトラの警戒相手の失った短杖はその先端がフラフラと宙を舞うが、次の瞬間引っ張られるように一ヵ所に固定された。
迅速な動作だったが、それは獲物を見つけた猛獣のように好戦的な行動ではなく、今まさに止めをさされる小動物の抵抗ともいえる、とっさの行動。
「ニヒヒ!バレちったね。噂のレイヌくんとやらと違ってどうにも勇ましいじゃん」
「誰ですか!ここは王城、無許可に入ってきていい場所ではありません!」
壁穴からヌルリと現れた人物にメイトラは声を上げるが、向けた短杖は震える。
発せられた合成したかのような中性的な声質は嫌悪感を掻きむしるような耳障りの悪い音だが、目立つはその姿。
オンブルが出したような黒い靄が無理やり人型を取ったかのような不気味な姿は声質と相まって吐き気を催しそうになる。
「リンさん、ダリエラさん、子供たちを」
「「・・・・・・・・」」
オンブルに名指しされる二人だが、謎の人物に釘付けで動かない。
「二人とも何をしているのですか!!早く行動しなさい!」
「!?・・・《風壁》!」
「せ、聖霊よ、我が盾に力を!」
各自風魔法と精霊魔法を使い防御の姿勢を取るが、謎の人物は室内にははいらずジッとこちらを眺めるだけだ。
「お母さん、何が起きてんの?なんか背中がゾワゾワすんだけど」
「ムート、こっちへ!」
いや、その眺める先が問題だ。
頭部らしき部位の動きでしかわからないが、視線はムートと突然の出来事にキョトンとする子供たちに釘付けだ。
「貴方が《狂獣》という者ですね。先ほどから見ているだけだったので放置していましたが、つい癇癪を起してしまいました。謝罪を」
「おぉ~、正体知っててその態度?前言撤回、君もおもしろいね!興味出てきちゃったよ」
「ちょっと待ってください、あれが《狂獣》?あれが帝都最悪の犯罪者ですか!?」
メイトラの驚きは悲鳴にも近く、短杖は向けたままだがぺたりと床へ座り込んだ。
「オンブルさん、なんで言ってくれなかったんですか。へ、兵を、今すぐ兵を—―――」
「無理ですよ、言ったところで《狂獣》は簡単にこの場に来れることは変わらないんですから。それから城中に何かをしたのか、先ほどから外の音が何も聞こえません」
確かに、オンブルの攻撃は音こそしなかったが外からは十分目立つ光景だったにもかかわらず、近衛兵や騎士どころか使用人さえも来ない。
「ご名答~。全員ゆ~っくりお眠だ、疲れてるのなみんな」
「えぇ、疲れには睡眠が一番ですからね。では貴方も眠りなさい、永遠に」
まるで友人同士のように気楽な会話の直後に《狂獣》の背後から黒い霧が、足元から漆黒の鎖がそれぞれの世界に引きずり込もうと襲い掛かる。
「おっと!あぶないなぁ~。ついつい死んじゃうところだったよ」
しかし《狂獣》に触れることはできない。
鎖も霧も、全てが嘘のように《狂獣》を通り過ぎていった。
「なるほど、スキル不明ですか。確かに何をしたのかはわかりにくい方法ですね」
「あぁ~、エルフのねぇちゃん分かるんだ。厄介だ、めちゃくちゃ厄介だ。今すぐバラバラにして遊びたいけどなぁ、悪いけど時間が無いんだよ」
「《狂獣》の姿が薄く!?オンブルさん、彼を捕まえてください!」
「メイトラさま、手遅れです。今の《狂獣》には誰も手が出せません」
もはや攻撃する意思がないオンブルは椅子を手繰り寄せ《狂獣》に向かい合い座る。
「なぜですか!もう、リンさん、ダリエラさん!」
「申し訳ありません、ここを離れれば子供たちが」
「・・・《風壁》の維持に手間取る。・・・嫌がらせ程度しか攻撃はできない」
「そんな・・・」
「ニシシシ、そこのエルフのねぇちゃんの言う通り何しても無理だからそう悲観すんなよ姫さんよ。それよりも~っと大変なことが起きてるぜ。ま、俺がやったんだけどな」
肩らしき場所を小刻みに震わせて《狂獣》は笑う。
「大変?貴方、何をしたの!」
「言っちゃうか?言っちゃうのか!でもそれじゃ驚きはちっさいよな~。やっぱ最初が肝心だからよ~」
「鬱陶しいですね。とっとと言わないなら早く消えてください。そこまで大事なら耳に届くまで時間はかかりませんから」
「ちっつまんねぇな。張り合いがねぇ、向かってこねぇ、魅力がねぇ!やっぱあのレイヌのガキで遊ぶしかないか?」
「・・・《氷追弾」
一欠けらの氷粒が《風壁》の向こうから放たれ《狂獣》の身体をすり抜ける。
通り過ぎた氷粒はそのまま消えずに舞い戻り、何度も何度も《狂獣》に食いつこうとその影を追い続けている。
「・・・師匠に挑むなら、まず私たちを倒してから。・・・出ないとお話にならない」
「おや、ダリエラさん、私たちは我が主様の前座ですか?ダメですよその位置で満足しては」
「ん~、君も興味そそるけど、まじで時間だ。俺の置き土産楽しんでくれ!じゃーなー」
もはや塊から煙と言えるほど薄くなった《狂獣》は言いたいことを散々喋り慌てて消えていった。
「・・・あれが《狂獣》。・・・はじめて見たけど気持ち悪い人(?)だね」
「私も知識では知っていたのですがあれ程とは。そうだ、リンさん!子供たちとミテラさんは?」
「みなさん気絶しています。どうやら《狂獣》の威圧に耐えられなかったようです」
「・・・無理ない。・・・Sランクの魔物並の気持ち悪さ」
「みなさま随分とゆっくり意見交換していますがいいのですか?あの言葉が本当なら今帝都でなにかが起きているそうですが」
「忘れてました!今すぐ兵を・・・みなさん寝てるんでした!」
「落ち着いてください、メイトラ様は王城の被害確認、リンさんとダリエラさんはその護衛、私は情報収集にいきます」
言うが早し、言い残すと壁穴から飛び出したオンブルは混乱するメイトラに面倒をまかせて王城の壁を駆け登った。
そして王城の天辺、帝都でもっとも高い場所に付きぐるりと周囲を見渡したオンブルの黒髪を、強風が激しく暴れさせる。
「なにやら人の流れが一ヵ所だけおかしいですね。《狂獣》とやらが何をしているのかは知りませんが、魂を弄ぶ愚行、あの者もそれを見逃したルルリアも許しはしませんよ」
隠しもしない怒りを身に宿し、下界に降りた神は再び地上へと戻る。
怒る神はそれこそ厄介、これからどのような被害が出るか、恐ろしいものである。
「ぐボハァァァァっ!・・・・・・人の身であの高さからの着地は無謀でした。でも、ちょっと気持ちいい♡」
・・・・・・案外被害は少ないのかもしれない。
レイヌ 「せっかくの100話。何もせずにバカの変態性を見せつけるのか?」
己龍 「途中で気づきましたけど、つい今話に夢中になりまして(〃▽〃)」
ルル 「久しぶりの(名前だけ)登場なのにいきなり上司から許さない発言された。なにが祝100話ですかーー!」




